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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第89話 アーダの瞬身 ※ 後半 ドミニク視点

「勝負あり!」


 決着は一瞬だった。


 決闘が始まってすぐに、アーダ様とドミニクはすれ違った。そして次の瞬間には、ドミニクがしりもちをつく。次の瞬間には顔面に風弾が浴びせられ、直撃する寸前に霧散した。審判が素早く両者の間に入り、アーダ様の勝利を宣言したのだ。


「ま、まさかそんな・・・」


 カトリンがうめくと同時に、会場内にざわめきが起こった。アーダ様が勝利を宣言された瞬間に、観客席から罵声が寄せられたのだ。


「ふざけるな! なんだか知んねえうちに終わったぞ!」

「金返せ!」

「ずるすんじゃねえぞ!」


 そんな声に、アーダ様は思わず身をすくめてしまう。


 騒いでいるのは、観戦に来た平民と下級生の生徒か。他の面々は信じられないもののようにアーダ様を見ていた。


「ふ、ふざけるなよ! くそが! えこひいきしやがって! 俺はまだやれる! 怪我一つないだろう! こんな雑魚に、俺が負けるわけがないんだよ!」


 ドミニクが唾を飛ばしながら審判に食って掛かった。


「落ち着いて自分の体を見ろ! そんなにボロボロで戦えるものか! それに、気づかないのか!」


 審判の言葉に、ドミニクはそこで初めて自分の体を見回した。


 あの豪華な鎧は、背中から大きなひびが入ってボロボロだ。新品の鎧だろうが、もう見る影もない。


 そして何より・・・。


「君の魔力障壁がもうないだろう! オットーのもだ! もし、アーダ嬢が魔法を反らさなかったら、君の頭はつぶされていたのだぞ!」


 ドミニクははっとした。彼はやっと気づいたのだ。オットーが賭けた魔力障壁も、彼自身の魔力障壁も、なくなってしまったことを!


「ば、馬鹿な! 確かに魔力障壁はあったはずだ! 貴様! 裏切ったのか!」


 ドミニクはオットーを睨むが、彼は青い顔で首を振るだけだった。審判はドミニクを強制的に開始場所に戻すと、アーダ様の勝利を改めて宣言した。


「異議あり!」


 会場内に大声が響いた。連邦の水の巫女、アルセラだ。


 彼女は拡声器を使いながら、会場内に語り掛けた。


「悪ぃが、納得はできねえな。試合が始まったと思ったら勝負が終わってたんだが? なんだ? 審判が八百長でもやったってのか? それに、アーダとやらはドミニクを背中から撃ったように見えんぞ。栄えある王国の戦士が、そんな卑怯なことをすんのかよ!」


 獰猛な声が響いた。こんな時だが、連邦製の拡声器はよく音が響いて高性能だな、と見当はずれのことを考えた。


「ふざけるな! 僕は見たぞ! 会場内の誰もが、だ! アーダ先輩の『瞬身』が、ドミニク先輩を倒したのをな!」


 反論の声は会場内から起こった。


 1年生の、上位クラス。あのファビアン様がアーダ様の勝ちだと叫んだのだ。彼の声を聞いて、1年生たちは口を閉ざした。さすがは公爵家のロレーヌ家。1年生の生徒たちは納得していないながらも、沈黙を選択していた。


「はっ! まあ、東のロレーヌが同じ陣営をかばうのは分かるけどよ。あたし以外にもそう思ってるやつは多いんじゃないか? 試合は無効で、もう一度の戦いを要求するって。なあ!」


 アルセラが振り向くと、会場内のいたるところからブーイングが起こった。おそらく彼らは、ドミニクに大金を賭けた者たちではないだろうか。往生際悪く、再戦を要求したのだ。


 会場内に響く声。あのパフォーマンスを見てドミニクに賭けた人もいるようだから、この反応も仕方のないかもしれない。


「皆の者! 静まれ! 王の御前であらせられるぞ!」


 会場内に大音声が響いた。


 王の側近のハドゥマー様が、拡声器を使って話し出したのだ。


 ハドゥマー様は会場内を一回り見ると、恭しく頭を下げた。


「此度の決闘。大変素晴らしかったと陛下がおっしゃっております。あれぞ、まさに王国の魔法使いの誉れ。この時代に、『瞬身』が見られるとは思わなかったと」


 会場内は静まりかえっていた。


 現国王のカールマンは国民からの人気は厚い。即位して数十年経っているし、闇魔討伐に自らが先頭に立ったという逸話もある。統治も国民目線に立ったものだし、先の反乱では夜を治めるために自らの息子に手を下したという苛烈な面も人気の秘訣だった。


 平和のためなら息子にすら容赦はしない。その一面は多くの国民の心を打ち、絶大に支持されているのだ。


「『瞬身』とは、我ら魔法使いが屈強な戦士に対抗する技の一つ。もうどれだけ昔のことになりましょうや。建国してまだ間もない時代、かの帝国に提案された御前試合で、我々は何度も敗北を喫しておりました」


 ハドゥマー様は語りだした。


「御前試合とは戦士同士が戦う場であり、当国は魔法使いの国。屈強な戦士を数多くそろえていた帝国にはかなわず、数多くの若者が命を落とし続けたと聞いております」


 思い出すかのようにハドゥマー様は瞑目した。


 だけど次の瞬間にはカッと目を見開いた。


「だが、ある時のことです。尊くも、当時の王妹と恋仲に合ったある若い魔法使いが、帝国の戦士を見事に打ち破った。その男は帝国の屈強な戦士の一撃を搔い潜り、素早く背後に回るとその背中に魔法を浴びせた。先ほどの、アーダ嬢のようにね。彼は決して色の濃い魔法使いではありませんでした。しかし、それで十分。その一撃で、魔法使いは見事に帝国の戦士を打倒し、それから王国の反撃は始まったのです」


 会場内は静まりかえっていた。皆、ハドゥマー様の言葉に聞き入っているのだ。


「し、しかし、いかに古くからあるとはいえ背中を打つなどと!」

「あなたにとっても、懐かしい技ではないですか? ユーリヒ公爵」


 アルセラの声を遮ってハドゥマー様が問いかけた。まさかのあの、政敵のユーリヒ公爵に。


「確かに、背中から敵を撃つのは、連邦の巫女にとっては卑怯に見えるのかもしれませんね。どうですかな? ユーリヒ公爵も、背中から敵を狙うのは卑怯なことだと思いますか?」


 問われたユーリヒ公爵は、静かだった。その言葉をかみしめるように、静かな口調でハドゥマー様に答えた。


「確かに。連邦の水の巫女から見ると、納得できないのは無理もない」


 私は顔を曇らせた。でも、希望はあった。だってあの技は・・・。


「ですが、ここ、王国に限ってはそうではない。一瞬にして背に回り込んで打つ『瞬身』のような技は、認められている。むしろ、魔法使いとしてたぐいまれなる研鑽を組んだ証しなのです」


 水の巫女たちが動揺した気配がした。


「『瞬身』は、王国の栄光をつかんだ技にございます。我が始祖ヨーナス・ユーリヒは、あれなる技を持って帝国の屈強な戦士を打倒し、王国を勝利に導いたのに相違ないのですから」


 そう。「瞬身」とは、ユーリヒ公爵家の始祖が使った技だったのだ。公爵が、静かだがどこか誇らしげに微笑んでいるのは気のせいだろうか。ハドゥマー様もちょっと意外そうな顔をしている気がする。


 ユーリヒ公爵が宣言してしばらくすると、会場内に再び歓声が響いた。アルセラもカロライナも、何も言えずに歯噛みしている。王国の貴族ではない彼女たちも、ユーリヒ公爵が先祖の栄光を無視できないのは分かったのだろう。


 陛下とユーリヒ公爵が認めたからには、この戦いの勝者はアーダ様に決まったことになる。観戦客の多くは券を投げ捨てていたが、わずかに大事そうに券を抱きしめている者もいるようだった。


「そ、そんな・・。馬鹿な! 俺はまだやれる! まだやれんだろ! いいぜ! かかって来いよ! 次こそお前を串刺しにしてやる!」

「やめないか!」


 なおも食い下がろうとするドミニクを、審判が有無を言わさぬ口調で怒鳴りつけた。


「君も貴族ならわかるだろう! 貴族なら祖先の功績は何よりも大切なものだと! この決着を否定することは、ユーリヒ家を貶めることになるのだぞ!」


 ドミニクは黙り込んだ。何か言い訳したいが、ユーリヒ公爵を貶められなくて言葉が出てこない様子だった。


「こ、このままでは! 俺は、いやヘッセン家は莫大な借金を背負っちまう! こんな結果、認められるわけはない!」

「これが君たちの秘術だ。今まで勝って、多くの人から金を巻き上げてきたんだろう? 負けたらすべてを失うのが、君たちが定めたルールだ! 君はペナルティを支払わなければならない。君たちが、今まで負かしてきた人と同じようにな!」


 わめくドミニクを、審判が冷めた目で睨んでいた。


 向こうのセコンドも何やらわめき続けているが誰も取り合っていない。どんなにわめいても、セコンドが何を言おうとも、この戦いの結果が覆ることはないのだ。


 試合場にいたアーダ様は、審判に一礼し、そして貴賓室に向かって深くお辞儀した。彼女は顔を上げると、ぎこちない笑顔を浮かべながらこちらに歩み寄ってきた。


 帰ってきたアーダ様を、カトリンは両手を広げて出迎えた。


「すごいじゃないか! うん! まとめるよ! ドミニクの槍を搔い潜って後ろに回っただろ? すれ違いざまに魔力障壁を破壊して、背後から魔法で鎧を破壊。おまけに、ドミニクの顔めがけて風魔法だ! そのまま当てれば倒していたものを、直前で魔力を散らすだなんて! あれならどっちの勝ちかは一目瞭然だね! いや面白かった! 全部君の手のひらの上じゃないか!」

「ええ! 魔法使いが、まさかあんなに簡単に背後を取るなんてね! 背中に回り込んだのって、ビューロウのあれでしょう? それに防御障壁、簡単に無効化してたでしょう! あ! そのために第2騎士団の詰め所に行ったのね! でもあんなこと、できるの?」


 戻ってきたアーダ様に、私たちは大興奮だった。護衛の2人ははしゃぎまわっている。


「えっと・・・。あの・・・。その・・・」


 アーダ様は混乱している。かつてないことをやりぬいたのに、彼女はいつものようにうつむいていた。彼女の頬は、照れているように赤くなっていた。


「アーダ様」


 私が笑みを浮かべながら呼び掛けると、彼女は驚いたように見上げてきた。その顔は、どこか不安そうに見えた。


「おかえりなさい」


 アーダ様はぎこちない笑みを浮かべながら答えてくれた。


「あ、ああ。ただいま」


 私たちはお互いに微笑み合うと、隣あって歩き出した。


 帰りがけに観客席を見上げると、何やら騒がしかった。クラスの面々がいる一角を見ると、みんなアーダ様を讃えているように手を振っていた。


「おお! うちのクラスの面々は相変わらずだねぇ。メリッサは大興奮だし、ギオマーやロータルの奴も喜んでる。ナデナなんて飛び上がってるよ! あ! 珍しいことにエリザベートもうれしそうに手を振ってる! ハイリ―も! コルネリウスは・・・。まあ、あいつはいつも通りだけど」

「うふふ。みんな喜んでくれているみたいね。まあ、魔法使いがどうやって戦士に勝つかを体現したような試合だったし。えっと、私たちは戻っていいんだよね?」


 私が頷こうとした時だった。


「アーダ様。少々お待ちください。陛下がお呼びです。今から、貴賓室までお越しいただけますか」


 闘技場の職員が掛けてきた声に、私たちは顔を見合わせたのだった。



◆◆◆◆


 闘技場の貴賓室に、私たちは招かれた。メインはアーダ様だけど、私たちは護衛としてついてきたのだ。


 やはり陛下の前は緊張する。お姉さまの時はエレオノーラ様がついてきてくれたらしいけど、今は陛下に慣れていた人は誰もいない。エーファは王城に来たのは2回目のはずだし、カトリンもここに来ることはそんなになさそうだ。アーダ様に至っては実家から切り離された立場にあった。


「うむ。揃ったようだな。楽にしてよいぞ」


 頭を下げた私たちに、陛下は鷹揚に言葉をかけた。


「陛下。本日はご機嫌麗しいようで・・・」

「ああ。堅苦しいことはよい。公式の場というわけではないからな。楽にしてよいぞ」


 陛下は軽く手を振った。隣にいたハドゥマー様があきれたように溜息を吐いた。


「いいのよ。そんなに気を張らないで。楽にしなさい、楽に。国王なんて、そんなに大したもんじゃないだから」

「お前・・・。まあ、いい。あまりかしこまってもあれだがな。こいつが言うことではないと思うが」


 学園長の言葉を、陛下がたしなめた。


 さすが学園長というか、なんというか・・・。私たちとしてはいてくれて安心だけど、ざっくばらんな言い方に言葉を失ってしまう。後ろのハドゥマー様も、やれやれといった具合に首を振っているし。


「さて。此度の戦い、実に見事だった。ふふっ。まさか『瞬身』とはな。見られるとは思わなんだし、アダルハードの奴も、な! くっくっく。珍しく興奮しておったわい」

「い、いえ・・・。その・・・。恐れ多いです」


 アーダ様が消え去りそうな声で答えた。この部屋に来てから常に圧倒されている。まあ、国王陛下に学園長に、ハドゥマー様。高貴な人たちに囲まれて委縮するのは分かるけど。


「今回は本当にご苦労だったな。よくぞ、決闘に勝利してくれた。水の巫女どもにも良い牽制になっただろう」


 陛下の言葉に、私はそっとうなずいた。


 やはり、陛下も水の巫女の動きには注意を払っていたらしい。ユーリヒ公爵や彼女たちの行動を阻止するためもあって、この場に来ていただけたのだろう。おそらく、王城から転移してまで。


「だが、連邦の野望をくじいた有能な魔法使いが、いつまでも無所属というわけにはいくまい。その隙を、奴らにつかれんとは限らんからな」

「え、ええ。そうでございますね。カーキー家に戻るわけにもいきませんし」


 私は思わず答えていた。


「そうなのよね。ロレーヌもビューロウもだめ。あなたたち東のところは、炎の巫女と白の剣姫がいる。さらに、アメリーちゃんという炎の星持ちもいるんだから、この上アーダさんまで属しちゃうと、かなりまずいのよ。その、パワーバランス的にね」


 学園長があけすけに言った。隣のハドゥマー様の顔色はますます悪くなっている。


 こほん。


 国王陛下が咳払いをした。アーダ様の目を見ると、静かに語り掛けた。


「本来、お前はビューロウに属するのを希望すると思うが、そういうわけにもいかぬ。そこで、お前はベール家に養女として入ってもらう。ベール家であれば、ユーリヒ家とは言え迂闊に手を出せんからな」


 私は固まった。


 ベール家って、あのフィオナ様やグス様のご実家よね? たしかあの家は侯爵の地位をもらっていると思うけど、ちょっと問題人物過ぎない?


「まあ、お前の不満は分かる。心配するな。お前の仮親はグスではない。ハドゥマーだ。こいつはグスとは違っておかしな性癖もないし、人格的にも問題ない。お前が成人するまでは立派に勤めてくれるだろう」


 ちょっとほっとしてしまった。


 正直、グス様やフィオナ様が仮親になるなら不安しかないんだけど、叔父様や叔母様の信頼が厚いハドゥマー様がいるなら安心できる。アーダ様もそう思ったようで、あからさまに力が抜けたような顔になっていた。


「伯爵令嬢から侯爵令嬢になるのは大変だろうけど、まあアーダさんなら大丈夫でしょう。あ、住んでいるところや従者はそのままでいいけど、週に一度はベール家のタウンハウスに顔を出してね。色々教えることとかあるみたいだし」

「まったく、なぜお前が言うのやら・・・。中央の貴族が東の寮に暮らすのは少々問題があるが、アーダ嬢の特殊性を鑑みるに仕方のないことであろうな。そのあたりはビューロウ子爵令嬢やウォルキン伯爵令嬢がフォローするがよい。ボートカンプ令嬢も、クラスでうまくフォローしてやってくれ。では、もうよいぞ」


 慌てて頭を下げ、退出する私たちに、陛下と学園長が何やら言い合っている声が聞こえた。


 あの2人、年が離れているはずなのに、なんだか仲がよさそうな感じなのよね。


 そんなことを思いながら、私たちは寮への帰路に就くのだった。



※ ドミニク視点


「このクソガキがぁ!! ヘッセン家の名前に泥を塗りやがって!」


 殴られた頬を押さえながら、思わず親父を睨んだ。


 試合の後、俺たちは王都の隠れ家の一つに集まったのだけど、そこで親父の叱責を受けていた。


「なんだその目は! お前のせいでうちは借金だらけだ! てめえ! この落とし前はどうつけてくれるんだ! ああ!」


 親父はすさまじい剣幕で俺を睨んできた。


 こんなふうに殴られたことは初めてではないが、さすがに怒り狂ったこの人を見たことはまれだった。その矛先が、俺に向けられるとは思いもしなかった。


「伯爵。そのくらいにしておけ。今は、そんなことに構っている時間はないぞ」


 部屋に入ってきたのは、あのユーリヒ公爵だった。


 まさかこの方が直々にこの隠れ家に来るとは。フットワークの軽い方という話は聞いていたが。


「し、しかし! ベール家のせいで、我らは!」

「あの技を使われたらどうしようもない。我が家の家伝の技なのだからな」


 ユーリヒ公爵はどっかりとソファーに座った。


「しかし、意外な結果になりましたわね。せっかく、ビューロウの子のパートナーを決戦に引きずり込んだのに、まさかヘッセンの子が敗れてしまうとは」


 いつの間に入ってきたのだろうか。水の巫女のカロライナが困ったような表情を浮かべていた。


「まさか、土質の魔法使いが敗れちまうとはな。ったく、油断しすぎなんだよ。相手は才能のかけらもない、貧弱な魔法使いなのによ」


 アルセラが乱暴なしぐさで頭を掻いた。


 2人の巫女にとって、俺が負けたのは想定外だったようだ。責めるような目で俺を見下していた。


「い、いや、でも、あいつは!」

「お前の言い訳なんて聞きたくねえんだよ! これで計画はおじゃんだ! あの災炎の魔法使いを殺して、白の剣姫とやらを呼び戻すという計画がな!」


 アルセラが冷たい目で俺を睨んできた。


 そう。アメリーを殺し、白の剣姫を王都に呼び戻すのが、俺たちの計画だった。あの剣姫はロレーヌ家とかなり近い立場にあるが、ロレーヌ家の令嬢ですらも御しえない存在なのは調べがついている。妹のアメリーが害されたら、何をおいても戻ってくるということも。


 あのアメリーを殺す第一歩としてアーダを決闘で下すつもりが、最初から計画はくじけてしまった。


「落ち着け。お前たちこそ勝手なことをしておるのは気づいておるよ。幼子を、ひそかにこの国に引き寄せるとはな。ふん。新型の魔道具を使ってまで何をしようというのか・・・。だが、計画に失敗はつきものだ。まだ何も、始まったわけではないのだからな」


 ユーリヒ公爵がぎろりと睨むと、カロライナは静かに口を閉ざした。その様子を見て、アルセラが鼻を鳴らしたようだった。


「まだ、間に合わんわけではない。あの子の副官が力を持つことは分かった。だが、あの小娘はどうかな? 星持ちだとおだてられているが、本当に力があるのかはわからぬ。今なら奴らも油断しておるだろう。そこで命を狙われたら・・。ふふっ。面白いとは思わぬか」


 いつの間にか、ユーリヒ公爵が俺の目の前に立っていた。驚いてのけぞる俺の目を、ユーリヒ公爵が覗き込んだ。


「相手の力を引き出す前に負けるとは想定外だったな。まあいい。役にも立たぬ子どもだが、最後くらいは役に立ってもらうぞ。その命を持って、任を果たすがよい」


 後ろで親父が何か叫んでいるようだが、俺はユーリヒ公爵から目を離せなかった。公爵の目が黒い光を放ったような気がした時、俺の意識は闇に溶けていった・・・。

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