第80話 星持ちを守るものたち ※ セブリアン視点
※ セブリアン視点
アメリーが去った教室は恐慌状態に陥っていた。
「お、おい! 誰だよ! アメリーが偽物かもって言ったのは! あいつ、まさかこんなにやばいとは! 一瞬で教室中が火の魔力で染まっちまった! あんな赤の資質、見たことねえよ!」
「だって、こんなの予想できるわけないじゃない! こんなの、ありえない! 魔法なんて使っていないのになんて威圧感! あんなの、初めて見たわ!」
原因はアメリーが最後に見せた怒りだった。
アメリーが怒りを見せたあの瞬間、赤い魔力が教室に満ちた。それは物理的な力にもなり、彼女の周りの机や椅子をすさまじい勢いで吹き飛ばした。もし近くに人がいたら、その人はただでは済まなかっただろう。
「なんだよ! いつもニコニコしているくせに! あいつ、あんなにやばい魔力を持っていたのか? 星持ちって、あんなにすげえのかよ!」
今更だな、と思った。
アメリーが星持ちだということは周知されていた。あれだけの魔力を持っていることは分かっていたはずだ。いつもはそれを忘れていたのか、怒りを見せたあの瞬間に至って、やっとそのことを理解したようだ。
「しかし・・・」
私は先ほどのアメリーを思い出して顎に手を当てた。
「セブリアン様。どうされましたか」
デメトリオが尋ねてきた。彼も、ハイリ―たちについていきたかっただろうに、こうして私のそばについていてくれた。その律義さに頭が下がる思いがしたが・・・。
私は気になったことを彼に尋ねてみた。
「僕は、故郷で水の巫女を見たことがある。彼女たちの水の資質は素晴らしかった。小さい頃の僕が圧倒される勢いだったが、さっきのアメリー様と比べると、かなり控えめだったと思ったんだ。水の巫女も、王国で言うレベル4以上の資質の持ち主のはず。でも、両者には明確な違いがあるように感じたんだ」
デメトリオは腕を組んで考えこんだ。
「そうですね・・・。おそらくそれは、魔力制御の差、ということではないでしょうか。認めたくないことではありますが」
私はデメトリオを見返した。
「確か、連邦の水の巫女は、魔道具を使って高い資質を制御しているんですよね? でも、この国の星持ちたちは違います。彼らは自ら研鑽を積んで、濃い魔力を操れるようになった。技術が違うんですよ。だから、魔力を隠すのも展開するのも思いのまま。彼らは、水の巫女以上に魔力で威圧する術を持っているということです」
そうか。確かに水の巫女は、指輪やネックレスにつけられた魔石で色の濃い魔力を制御していると聞く。連邦には幾多の遺跡があって、そこから高度な魔道具が発掘されているのだ。魔道具だよりの巫女と、自分で研鑽を積んだ星持ちたちとでは、実力が全然違うのかもしれない。
「おまえら! だまれよ! あのビューロウの雑魚は所詮は子爵だ! ちょっと火の魔力で威圧されたからって、あせんじゃねえ! はったりだ!」
ドミニクが叫ぶが、周りの戸惑いは止まらない。
「で、でも! お前も感じただろう! 星持ちの魔力があんなにやばいとは思わなかった! エリザベート様が抑えないとどうなっていたことか! 今のうち、謝ったほうがいいんじゃないか?」
「だまれっつってんのがわかんねえのか!」
ドミニクが怒鳴るが、クラスメイト達の動揺は収まらない。このクラスにいるのは全員が優秀な魔法使いの卵だ。アメリーの魔力を見れば、彼女が本当に優れていることなど分かってしまう。
「俺の行動はユーリヒ公爵に認められてんだ! お前たちよりも、あのエリザベートよりも上の、ユーリヒ公爵にな! あいつらが何をしようと関係ない! 公爵家の後ろ盾がある俺たちに勝てるはずがないんだ!」
公爵家の後ろ盾があると知って、動揺は収まったかに見えたが・・・。
「はっ! お前、公爵家の後ろ盾があれば安心だと、本気で思っているのかよ? 決闘に爵位が関係あると思っているならおめでたいぜ」
ドミニクを嘲笑したのはヘルムートだった。
「なっ! ふざけんな! お前だって、ユーリヒ公爵側だろう! お前の親父が公爵の護衛になってんの、知ってんだぞ!」
「父上のことは関係ないさ。お前が馬鹿やってるからあざ笑ってやったんだよ。お前、星持ちに喧嘩を売ってただで済むと思ってんのか? あいつは学園長からの信頼も厚く、しかも討伐も順調にこなしている。星持ちとして認められただけの実績を上げてんだよ」
ヘルムートの言葉に、ドミニクは明らかに動揺した様子だった。
「だが! あいつを気に入らねえってやつは多いんだよ! ここに残った奴らだって」
「おっと。勘違いしてもらっては困るな。確かに我らは教室に残ったが、お前の味方というわけではない。あんまり大勢でついて行っても、妹様の邪魔になると思っただけさ」
声を上げたのは、同じクラスのヴィリだった。彼はインゲニアー隊の守り手を担っていた男だ。後ろでカチヤとミーケも冷たい目でドミニクを睨んでいる。
「お前ら! ふざけんなよ!」
「ふざけているのはどっちだ。黙って聞いていれば星持ちを貶めてくれて。お前のような奴に同意するはずがないだろう。お前ら、本当にこの国の貴族か? 星持ちがどれだけ貴重な存在か、知らないとでもいうのか?」
ヴィリの言葉に、ドミニクは押し黙った。そして周りを見回して気づいた。クラスの面々が、彼を非難がましい目で見ていることに!
「お、俺が戦うのはアーダだ! 星持ちじゃない! それにあいつが証明しただろう! 色が濃いほうが強い! あいつは自分で証明したのさ! 色の薄い魔法使いは、決して色の濃い魔法使いに勝てないんだとな!」
つまり、レベル3の資質がある自分は、レベル1か2の資質しか持たないアーダを必ず倒せると言いたいのか。
「お前ら、俺が勝った後でほえ面をかくなよ! その時に謝っても、もう遅せえぞ!」
「はっ! なさけねえのはどっちだよ! アメリーに勝てないと気づくと、次はアーダになら勝てるって言うのかよ! 心配しなくてもお前はアーダにも勝てねえよ。せいぜい、それまで頑張って威勢を張るんだな」
ヘルムートの嘲笑に、ドミニクは今度こそ押し黙った。
「今どんな気分だ? このクラスで優秀だと言われた奴が軒並みアーダに付いてるの、どう思ってんだ? はっ! カジノで財を成したヘッセンの3男は本当に浅はかだな。傘下の貴族におだてられていい気になってたのはお前じゃねえか!」
「だ、黙れ! 俺のほうが強いんだよ! 爵位だって上だ! すぐに証明してやるよ! みんな、俺のほうが強いと思ってるってな!」
ドミニクは叫ぶが、ヘルムートの嘲笑は止まらない。
「まあいいさ。俺も決闘を見させてもらうよ。お前がどんなふうに負けるか、今から楽しみだぜ」
ヘルムートの言葉に、ドミニクは今度こそ何も言い返せないのだった。




