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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第4章 星持ち少女と決闘と
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第78話 魔力障壁の無効化と闘技場での戦い ※ セブリアン視点

※ セブリアン視点


「ばかげています! 確かに成功すれば、あの魔法陣でも相手の魔力を無効化できます! でも、細かい調整が不可欠です! 少しでも波長が違ったらまったく意味のないものになる! 相手の魔力と自分の魔力、それをうまく調整しないと効果を上げることができない。わずかなずれだってゆるされないんですよ?」


 教室に戻る途中も、デメトリオは怒り心頭といった様子だった。こう見えて、デメトリオは優秀な魔法使いだ。私以上に知識のある彼のことだ。多分、魔法学の常識になぞらえればありえない話なのだろう。


「デメトリオ。ちょっと落ち着いて。カトリンが言っているだけなんだから、まだ分からないさ。僕だって信じられない。アーダが、まさかあんな魔法陣を使っているなんてね」


 興奮冷めやらぬ彼を何とか慰めた。


 彼の家、リンクス家はかなり優秀な魔法使いの家系だとされている。数十年前、あのユーリヒ家の派閥からはなれたのも、何やら魔法関連のもめごとが原因ということだが。


「私には信じられない! アーダ嬢がやっていることもそうですし、ダクマー様が戦果を上げていることも、そう! 色の薄い魔法使いが、こんなに活躍するなどとは!」


 デメトリオの主張にそっと苦笑した。


 魔力の素質が高いほうが優秀な魔法使いであるのは、連邦では常識だ。故郷では水の資質が重視され、高いものはかなり優遇される。剣術の腕もあれば、それこそ神殿騎士にだってなれる。まあ、弟は剣の腕の面で駄目だったらしいけど。


「魔力の資質が高いほうが優れているのは、この国でも変わらないんだな。せっかくカトリンに勧めてもらったけど、この本もあんまり信用しないほうがいいのか。なにしろ、数十年前の古い本らしいし」

「あ・・・。い、いえ。バルトルド・ビューロウが書いた『魔術構成の仕組み』は確かにいい本なんです。資質の低い魔法に関すること以外は興味深いことばかりで。実は、図書館で借りなくてもうちにあるんです。カトリン様の手前、ちょっと言えなかったですが」


 デメトリオは申し訳なさそうだった。


 私は今、デメトリオの屋敷の一室を借りているが、図書館に行かなくても彼に相談すればいろんな本を紹介してくれたかもしれない。まあ、この調子だと色の薄い魔法については信頼していないようだけど。


 まだ怒りが収まらないデメトリオを何とか慰めていると、教室の前にたどり着いた。そのときはちょうど、アメリーと数名の女子生徒が教室に入ろうとしているところだった。


「セブリアン様。デメトリオ様も。おはようございます」

「おはようございます。確か今日は、ご家族のお見送りで午前中は休んでいたんですよね」


 アメリーは今日も元気に挨拶してくれた。彼女の隣にいる人物を見て、デメトリオがあからさまに動揺していた。


 私は内心の笑いをこらえながら、話を続けることにした。


「ハイリ―様とナデナ様もご一緒なんですね。ナデナ様のこと、カトリン様が探していましたよ」

「ええ・・・。あいつ、しつこいんだよね。自分が納得するまで聞き出そうとするし。ねえアメリー。なんとかなんない?」


 ナデナは心底めんどくさそうだ。


「あきらめてください。カトリンはいつもそんな感じですから。本人が納得すればすぐに離れると思いますよ」


 朗らかに答えるアメリーに、ナデナは大げさに溜息を吐いた。横のハイリーが静かに笑った気配がした。


 この3人、結構仲が良い。教室で楽しそうに話しているのをよく見かけるのだ。あの旅に、ナデナが付いてこなかったのは少し意外なくらいだったのだ。


「ハイリ―さん。あ、あの・・・」

「あんまり雑談していないで、席に戻りましょうか。先生が来ちゃいますからね。そろそろお昼休みは終わりですから」


 ハイリ―が言うと、2人は席に戻っていく。そんな彼女たちを、デメトリオが未練がましく見つめている。ハイリーはデメトリオの発言を遮ったわけではなさそうだけど、タイミングが悪かったな。


 落ち込む友人の肩を叩き、私たちも席に着くことにしたのだった。



◆◆◆◆


「ああ。今日もあんまり話せないまま終わってしまった」


 デメトリオが嘆いた。


「今日は午前と午後の授業がひっくり返っていたからね。みんな、そのことに気を取られていたのかもしれない。まあ、ハイリーと話すチャンスはまた来るさ」


 教科書をしまいながら、デメトリオを慰めた。


 学園の授業は、午前中は教室での授業があり、午後からはそれぞれが選択した授業を受けているのだが、今日のようにそれが反転することもある。教師の都合とか、いろいろあるようだ。


「うーす。ロータルはいるかぁ」


 教室に入ってきたのはエドウィン先生だった。でもあいにくと、ロータルはもう出て行ってしまった。


 エドウィン先生が周りを見渡し、ロータルがいないことに気づくと頭を掻いた。


「なんだよ。もういねえのかよ。めんどくさそうな仕事、押し付けようと思ったのに。お! 留学生と、リンクスのもいるじゃん! お前らでいいか。ちょっと手伝ってくれ」

「え・・・。あ、はい」


 私たちは顔を見合わせると、仕方ないといった具合に返事をした。この先生、そういうところがあるんだよなぁ。人使いが荒いというか、なんというか・・・。まあ、お手伝いはいろいろ話をするチャンスだし、ちゃんと見返りがあるからいいか。


 教室を出て、廊下を3人で歩く。


「なんだか闘技場でイベントを行うらしくてな。その調整でいろいろ書類をまとめなきゃいけないんだよ。書類を運んだり、いろいろ道具をまとめたりしなきゃいけなくてな。悪いが、付き合ってくれ」


 エドウィン先生が、全然申し訳なさそうじゃなく言った。この先生、生徒をこき使うのにまったくためらいがないんだよなぁ。いつもはアメリーとかが駆り出されているけど、今日はロータルや私たちのほうが都合がいいらしい。


 でも、いい機会だ。せっかくだから、あの事を聞いてみようか。


「先生。魔法で相手の魔力をかき消すなんて、できるんでしょうか」


 私が聞くと、エドウィン先生が面白がるような顔になった。


「ああそうか。留学生はビューロウ隊に属してたんだな。見ての通りさ。俺も最初に聞いていた時は驚いたけどな。お前の見た通りさ。あいつ、すげえことやってんのにケロっとしてるんだよな」


 デメトリオがぎょっとした顔になった。まさかこんなに簡単に肯定されるとは思わなかったのだろう。


「い、いえしかし! こんなの常識外ですよ! 色の薄い魔法で、魔物を簡単に倒すなど!」

「まあ、あいつは規格外ってことだな。知っているか? 魔法陣の展開自体は色が薄いほうが早いんだぜ。資質の補正があるから色の濃いほうが素早く展開できるように見えるが、補正がないと薄い魔力のほうが早いとさ」


 デメトリオは悔しそうだった。確か、デメトリオは風と水と土がレベル3を示していて、彼の家族も相当に資質が高いと聞く。そんな彼にとって色の薄い魔法の優位性は認めがたいことなのかもしれない。


「でもな。素質の補正を上回るのは並大抵じゃない。たいていの人は、一生かかってもそんなことはできない。素質が低い属性は構築スピードも遅いままだ」


 デメトリオは静かに頷いた。


「だが、たまにいるんだよなぁ。資質の補正を上回るほど鍛えたやつが。星持ちだってそうなんだぜ。昔、レベル4の資質を持つ者は魔法が全然使えなかった。ある一定まで魔力制御を鍛える必要があるけど、まあ、その一定ってやつを超えたらレベル3とは比較にならないほどの魔法を使えるんだけどな」


 そうか。アメリーが学園でも重視されているのはそういう事情もあるのか。確かに、アメリーは魔力制御がかなりうまい。それは、色の濃い魔力でもきちんと魔法陣を描けるくらい、鍛えた証しということか。


「資質が高いほうが強いという理屈は分かります。しかし、彼女は! アーダ嬢はレベル1、強い属性でもレベル2の資質でしょう!? それが、資質の高いものを上回るなど!」

「へっ。若えな。世の中にはけっこういるんだぜ? 常識を超えた化け物ってやつがよ。炎の巫女や、白の剣姫がいるだろう? あいつらを倒すのは覚醒する前だったと思うぜ。覚醒した今では、もう手が付けられん」


 デメトリオが歯を食いしばった。


 魔法の資質が高く、常に努力していた彼にとって、色が薄いほうが強いのは認められないのかもしれない。まあ、炎の巫女は資質が高すぎて、学園に来てもしばらくは魔法を使わなかったそうだけど。


「アーダの奴はそれと一緒だ。星持ちと同じか、むしろそれ以上に魔法を使いこなしてやがるのさ。相手の魔力を無効化するのは並大抵じゃない。まあ魔物は魔力の波動が似通っているらしいから、難易度が低くはなるんだけどな」


 エドウィン先生が慰めるが、デメトリオの表情は変わらない。相手の魔力を無効化するのは、相当に難しいことなのだろう。


「過去の偉人の中にもいたっけなぁ。魔力を素早く展開させて、色の濃い魔法使いやすげえ強い戦士を倒した奴が。確か、その子孫は貴族として最高峰まで上り詰めたんじゃなかったっけか? まあ、魔物にできたからと言って人にできるとは限らない。何しろ魔力の波長は一人一人が魔物以上に違ってる。それに合わせて自分の波長も調整しなきゃなんねえし、現実的じゃねえや。授業とかで使われることもないと思うぞ。あれは相手の魔法に加え、教師が使う防御魔法も打ち消さなきゃいけないからな」


 いや、アーダが私たちにそんな危険な技を使うことはないと思う。でもデメトリオは悔しそうにエドウィン先生を睨んだままだった。


 授業では、生徒同士が戦う場合は教師から防御魔法がかけられる。それがあるから、武器を使った戦いでも魔法でも大きな怪我をすることはないのだ。


「でも、まあ。興味はあるよな。アーダのあの技術が人間にどこまで通用するかをさ。だから楽しみではある。あいつの槍技よりも、むしろそっちのほうが興味津々だ」


 エドウィン先生の言葉に真顔になってしまう。なにか、アーダの実力を確かめる機会でもあるのだろうか。


 先生は戸惑う私たちを見てきょとんとしたようだった。でも次の瞬間には気づいて、慌てて説明してくれた。


「そっか。お前たち生徒にはまだ伝えられていなかったな。闘技場での戦いが決まったんだよ。アーダとドミニクがやりあうらしい。なんでも、ユーリヒ公爵からの要請があったらしくてな。あいつらの両親も同意したらしく、戦いが決まったそうだぜ。今回の仕事も、そのためってやつさ」

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