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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第3章 星持ち少女の帰郷
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第63話 戦い終わって

「セブとシグは、小さいころに私の屋敷で過ごしたのよ。でも、あるとき、シグは行方不明になったの。私もセブも探したけど、結局見つからなかった。まさか、こんなところで再会できるとは」


 屋敷に戻り、戦闘後の片づけを眺めながらエリザベート様がそんなことを話してくれた。


「行方不明って・・・。たしかに君の屋敷は広いけど、小さい子供が隠れ続けられるほどではなかったよね? それなのに、彼を見つけることができなかったのかい?」

「ええ。私たちも必死で探したんだけど。見つからなかったわ。シグのお父様がすごく怒っていてね。うちとはもう絶縁みたいになっちゃって。まあ、あの人はシグにすごく期待していたみたいだから、それもしかたのないというか、本当に申し訳なかったのだけど」


 カトリンの言葉に、エリザベート様はうつむいた。


「エリザベート様が小さいころの話ですよね? あの人はレベル4相当の資質があるようですし、親御様たちはさぞかし心配されたことでしょう」


 セブリアン様のご兄弟の話だから、ビレイル連邦出身ってことね。あの国では、水のレベル4は相当優遇されるらしい。他の属性は、かなり冷遇されるらしいけど。


「いえ。私の知るシクストは、星持ちほどの濃い魔力はなかったはず。レベルは多分、3くらいなんじゃないかしら。それに魔法の腕も剣の腕もそれほどではなかった。あの国では、男子でも特技があるとと神殿に推薦されるけど、それからも漏れてしまったようだし。でも今日の彼は・・・」

「ああ。ウェンデル先輩も、学園にいたころは少なくとも星持ちではなかった。もしそうなら、確実にそれをアピールしていたはずだからな」


 メラニー先生も、昔を思い出したようだった。


 あの黒いコートの男は、ウェンデルと言うらしい。王国に属していた時は水魔法の使い手でかなり有名だったようだけど、星持ちのウェンデルという名前は聞いたことがない。


「私がウェンデル先輩と合ったのは、大学に通っていたころだった。彼は私の2つ上の先輩で、そのころから有名だった。水を使った魔法が得意でね。討伐任務でもかなりの成果を上げていたわ」


 メラニー先生はどこかさみしそうだった。


「でも、彼はなかなか学園には認められなかった。優秀な者は大学生のころから学園からお声がかかるのに、それがまるで行われる気配がなかった。2年後輩の私のほうが先に声がかかってね。そのことに、ずいぶんと傷ついている様子だったわ」


 悔いるように下を向くメラニー先生に、何も言えなくなった。優秀だと言われたウェンデルにとって、後輩に追い抜かれてしまったことはかなり屈辱だったのかもしれない。


「今なら、わかる。魔法がうまいだけでは学園の教師には成りえない。最近では、ウルリヒ・ランケルがそうだったけど、高い資質があるだけでは教師になる資格にはならないのよ。たとえ優秀は成績を治めたとしてもね。彼は、そのことを最後まで理解しなかった」


 資質があるだけでは、家柄がいいだけでは教師にはなれないということか。私はゲラルト先生のことを思い浮かべた。確かに彼は、クルーゲの当主の推薦があるとはいえ、家柄もそれほどではないし、魔法の資質も決して高くはないと思う。うまくは言えないけど、ステータスだけを見たら教師になるほどではない気がする。


 でも、実際に接すれば彼を学園が誇る教師だと認めない生徒はいないだろう。それほど、突出した技術を持っている先生なのだ。


「ウェンデルとシクスト、か。確かに2人とも、水の資質は高いけど星持ちと言うほどのことはなかったらしい。そのあたりに、あいつらの秘密がありそうだよね」


 カトリンが暗い目をしながら笑った。


「僕が見たのはシクストという男だけど、彼の魔力を見た感じだとまるでアメリーのようだと思ったよ。でも、話を聞く限り、昔の彼は星持ちではなかった。もしかしたら、連邦の奴らは水の資質を上げる方法を、見つけたのかもしれない」


 誰かがごくりと喉を鳴らした。


 魔法の資質は絶対のものだった。生以来持って生まれた資質は、闇魔法以外はその後も変わることはないのが常識だ。後天的に資質を高められるのなら、それは常識を覆したと言えるかもしれない。


「フェリシアーノを捕らえたんですよね? このことに関して、何か言っていませんでしたか?」

「それが、ね。フェリシアーノに対する尋問は全然進んでいないのよ。彼に話を聞けるのは、少なくとも彼を護送した後ってことになりそうなの」


 エーファの言葉に、驚きを隠せない。なにか、フェリシアーノに尋問できない理由でもあるのだろうか。


 エーファは言いずらそうに、それでも意を決したように説明してくれた。


「今回、襲撃してきた敵には魔法がかけられていたようでね。大きなダメージがあったり、情報を漏らそうとしたりすると、即座に魔法が発動してその者の口を防いじゃうようなのよ。アメリーが気絶させた敵も、ね」


 私は顔を青くした。私が倒した黒づくめは、まさか口封じに殺されてしまったとでもいうのだろうか。道場の前での戦闘もそうだったけど、間接的だけど相手を殺してしまったことに気づいて顔色が悪くなってしまう。


「アメリー・・・」

「大丈夫です。刀を手に取ったときから、敵と戦うのが決まったときから相手の命を奪うかもしれないことは気づいていましたから。でもそれなら、フェリシアーノも危ないのではなくて? 口封じとか、されてしまうのでは?」


 気づかわし気に言葉をかけるエーファに、私は質問を返した。


「あれでいて、コルネリウス様の秘術は優秀でね。相手の自殺を防ぐばかりか、他の水魔法から対象を守る効果があるのよ。でも、フェリシアーノにかかった魔法を解除できるほどの効果はない。彼にかかった術式をしっかり調べる必要があるから、学園に戻るまでは事情聴取はお預けってわけ」


 エーファがいたずらっぽく笑った。


「あの人、リッフェンで増援を呼んだらしく、フェリシアーノはその部隊が護送するらしいのよ。だから、私たちはその部隊が到着するまで待っていればいいってわけ。だから、あと2日は・・・」


 エーファが説明を続けようとしていたその時、私たちのもとにこの領の兵士が駆け寄ってきた。


「お話し中、失礼します! グレーテ様の部隊が戻りました! 至急、応接間までお越しください」



◆◆◆◆


 応接間に入ると、さっそくグレーテがこちらに合図を送った。後ろにはシンザンもいて、こちらに軽く頭を下げた。2人とも服は汚れているけど、大きな怪我はないようだった。


 こちらは両親に私と、報告を聞くメンバーがそろっている。


「ブルーノ様。お待たせしました。任務の報告をさせていただきます」


 グレーテは父に一礼すると、今回の成果を報告してくれた。グレーテたちはシンザンの術を使い、地域に潜む黒づくめやべリアンたちの捜索に当たっていたらしい。


「敵の拠点らしき場所を見つけ、我々で踏み込みました。相手はかなりの手練れでしたが、我々のほうが勝っていたようで、討伐には成功しました。ですが、捕虜を捕らえることができず・・・」


 グレーテたちに怪我がないようで安心したけど、やっぱり捕虜を捕らえることはできなかったようだった。


「厄介でしたな。敵を捕らえるまで追い詰めると、そのまま死んでしまったのです。中には我々を巻き込んで自爆しようとする者もいる始末・・・。敵の拠点はほどんど制しましたが、情報を得ることはできませなんだ」


 シンザンが悔しそうに語っていた。


「実は、べリアンはこっちに現れたんです。闇魔法で操られたらしく、こちらに襲い掛かってきて・・・。でも、アーダ様が闇魔法を使って彼を助けてくれたんです」


 私はシンザンたちを安心させるように、こちらの事情を話したのだった。



◆◆◆◆


「な、なんと! そんなことがあったのですね! まさか、イーダ様が残したあの魔法を短期間で習得できる者がいるとは・・・」

「ええ。でもさすがグレーテとシンザンね。この領に巣くうビレイル連邦の手の者を、確実に返り討ちにしてくれたなんて・・・」


 話を聞くと、どうやらグレーテたちのところもかなり激しい戦闘になったようだった。だけど、地の利はこちらにある。相手の抵抗は激しくとも、この地から黒ずくめたちを倒すことに成功したらしい。


「こちらには、ポリツァイ家の誇る猟犬もついていましたからな。敵の潜伏場所を調べるのは難しいことではありませなんだ。しかし、まだ油断はできませぬ。我々は引き続き、領内の敵をせん滅する任につきます。お嬢様方にはご迷惑をおかけしますが・・・」

「あなたたちも疲れているでしょうけど、もうひと頑張りしてほしいわ。その、疲れているところ悪いんだけどね」


 母が申し訳なさそうに言うが、グレーテたちは首を振った。


「短い付き合いですが、べリアンたちが気のいい奴らということは察しております。私たちの仲間に手を出したこと、後悔させてやりますよ」


 にやりと笑うグレーテ。一方で、シンザンはどこか心配そうだった。


「敵をせん滅するのには異論はないが、べリアンは少し心配ですな。まあ、任務が明けたら様子を見にいくか。後遺症など、なければよいが・・・」


 心配そうに語るシンザンにちょっとだけ安心してしまう。彼が心配するということは、それだけ他の護衛とよい関係が築かれているということだから。


 そんなシンザンを見て、母が声をかけた。


「シンザン。この任務が終わったら頼みたいことがあります。あなたの妹にもね。だから、必ず怪我無くここに戻ってきなさい。いいですわね」

「もちろんです。このシンザン、拾ってもらった恩は忘れませぬ。必ずこの任務を成功させ、次の任務もこなして見せますから」


 そういえば、両親はメラニー先生たちと何やら話していたから、シンザンたちに頼みというのはそのことかもしれない。


 シンザンが丁寧に頭を下げるのを見ながら、私はそんなことを思うのだった。

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