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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第2章 星持ち少女と学園の仲間たち
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第41話 野望の終わりと暗躍する影 ※ 後半 ???視点

 回収部隊がゴブリンシャーマンの死骸を片付ける傍ら、私はエリザベート様と対峙していた。何やら話があるらしく、あの後すぐに呼び出されたんだけど。


 エリザベート様は沈黙したかと思いきや、頭を深く下げた。クラスのトップのいきなりの行動に、私のほうが戸惑ってしまう。


「エ、エリザベート様! 頭を上げてください! 私なんかに、そんなのダメですよ!」

「いいえ。無理を言うのだから、これくらいは当然のこと。アメリー、お願いがあります。あなたはこの春にビューロウに帰るそうですが、それに私も同行させてもらえないかしら」


 真剣な顔で頼み込まれ、私は口ごもってしまう。


「私はヴァッサー家の跡を継ぐ者として、強くならなければならない。今日までもずっと修行を続けたけど、駄目だった。技術で敵を翻弄できるアーダと違い、私には敵を仕留めることを期待されているのに・・・」


 ちょっとだけ納得してしまった。アーダ様は資質が低く、魔力障壁を持つ魔物を簡単に倒せるほどの腕はない。狙いが良かったり弱点に当てたりで倒せているが、私のように高い威力で相手を倒すことはできない。 でも、パーティーの役に立っていないかというとそうではない。彼女は技術を駆使して私をサポートしてくれている。私が思う存分に戦えているのは、彼女がいてくれてこそなのだ。


「私は水魔法がレベル3だけど、それでも魔力障壁を持つ魔物を一撃で倒せたことはほとんどない。今日だって、ハイオーガを倒したのはエーファとコルネリウスで、私は相手に傷一つ与えられなかった。アーダが、見事に援護してくれたというのに」


 エリザベート様が、自分の資質まで明かしてくれたことに驚いた。貴族は、あまり自分の資質を言及しないものだから。予測ができていても、自分から明らかにすることはあまりないと言える。


「ビューロウに行っても何も見つからないかもしれない。バルトルド様は北に行ってしまったし、相談することもできない。でもビューロウは魔力制御を鍛えていると聞く。もしかしたら、私の腕を上げるためのヒントが得られるかもしれない」


 私はエリザベート様の必死な顔にごくりと喉を鳴らした。


 エリザベート様が、クラスのためにいつも力を尽くしてくれていることは知っている。予想外の魔物が現れた時もすぐに情報を共有してくれたし、生徒同士がもめた時も話し合う場を作ってくれた。私に対しても、子爵だからと侮ることはなかったのだけど・・・。


「姉たちが活躍しているとはいえ、ビューロウは普通ですよ。行ってもあまり、参考になることはないかもしれません」

「いいえ。それはない。バルトルド様の提唱されている魔法理論は興味深いものだったし、今のビューロウには傑出した魔法使いを2人も輩出したという実績がある。それに、あなたよ」


 エリザベート様が真剣に私を見つめた。


「あなたは入学前に星持ちとして認められた。暴走が多く、育成が難しいと言われた火で、魔法家でもないにもかかわらず、よ。傑出した魔法使いを次々と育て上げるビューロウには何か秘密がある。あなた本人は、気づいていないとしてもね」


 エリザベート様は再び頭を下げた。


「貴族家として、秘術が秘匿すべきものだというのもわかっている。西の貴族には教えられないと、東の貴族は協力できないと言うのも。でも、私はどんな小さなことでもヒントが欲しい。このままでは、王国はビレイル連邦に押されるかもしれないから」


 私はぎょっとした。


「ビレイル連邦、ですか?」

「そう。おそらくだけど、今回の魔物増加の原因はビレイル連邦の仕業よ。あの国は虎視眈々と王国を狙っている。かの帝国からかなりの魔法使いが亡命したというし、召喚魔法を使える魔物を作り出したとしても不思議ではない」


 エリザベート様は断言した。


 もしかしたら、エリザベート様には根拠があるのかもしれない。ビレイル連邦が、私たち王国を侵略しようとしている根拠が。


 私は思案した。西のヴァッサー家は、私たち東にとってあまり友好的な相手とは言えなかった。もしかしたら、エリザベート様を招くのに反発があるかもしれない。


 でもーー。いつもクラスのために力を注ぎ、一生懸命力を尽くしてくれている彼女を、私は見捨てることなどできなかった。


「わかりました。私の両親に確認を取ってみます。あんまり見るものはないかもしれないですけどね」


 私が頬を掻くと、エリザベート様は嬉しそうに微笑んだのだった。



◆◆◆◆


 学園に戻ると、学園中の生徒から声をかけられた。私たちの部隊がゴブリンシャーマンを仕留めたのは伝わっているらしく、称賛を持って迎えられたのだ。


 学園長室に行く前に教室に戻ると、クラスメイトから喜びの声がかけられた。ニナ様やエーファは嬉しそうだし、アーダ様も戸惑いながらも、話しかけてくる生徒たちに答えていた。称賛してくれるクラスメイトに笑顔を振りまいていると、エリザベート様がロータル様に話しかける声が聞こえてきた。


「ロータル。悪いけど、この春はちょっと行きたいところがある。学園のことは任せていいかしら?」

「俺はこの冬に帰らせてもらったからな。学園は任せておけ。まあ、お前らが召喚魔法を使える魔物は倒してくれたようだし、大丈夫だろう。で、どこに行くんだ?」


 エリザベート様はちらりと私を見ると、そっと報告した。


「ビューロウへ。まだ向こうの当主代理の許可は得ていないけど、もし応じてくれるなら、参加させてもらおうかと思うの」


 教室がどよめいた。クラスの女王様の彼女が、東で田舎のビューロウに来るだなんて、みんな予想だにしないことだったのだろう。


「ビューロウか。東の田舎に、ビューロウの本家のお前が行くとはな。まあ、多少は接待してくれるだろうけどな。フェリシアーノの野郎のこともあるし、護衛は任せとけ」


 ヘルムート様の言葉に驚いた。私は彼が来るのは想定していなかったのだから。


「ヘルムート。護衛ならカトリンがいるし、大丈夫よ。あなたはビューロウからの許可を得ていないし、許可はもらえないでしょうから」


 ヘルムート様は、エリザベート様の言葉を驚いた目で見返した。


「俺はノード家の後継だぞ! 少なくとも、それに近い立場はある!」

「だから、何? あなた、アメリーの友人というわけではないし、あれだけ子爵だと侮ったあなたが、ビューロウの許可を得られるわけはないでしょう?」


 心底不思議そうに言うエリザベート様に、ヘルムート様は絶句した。


「学園の授業で学んだでしょう? 移動はともかくとして、貴族が他の貴族の領地で過ごすにはその土地の領主の許可が必要だと。ビューロウを侵略するわけではあるまいし、今からあなたが許可を得られる可能性は低いと思うけど?」


 笑い出したのはコルネリウス様だった。


「はははは! お前が子爵家のアメリーを侮っているのはこのクラスの奴らならみんな知っている。侮られ、蔑まれることが分かっているのに許可なんて出るわけがないだろう! アメリーが許しても領主が許さんだろうさ! これは爵位なんて関係がない、貴族の権利なのだからな!」

「いや貴方も許可は下りていないんですけどね。気づいているか知りませんが」


 ハイリー様の冷静な突込みにも動じず、コルネリウス様は笑い続けている。


「ビ、ビューロウ・・・」

「無理ですよ。正直、ヘルムート様がうちの民と問題を起こさないという自信はありませんし、私からは許可を出せません。その、同じ陣営の貴族というわけでもありませんし。父にもうまい言い訳はできないでしょうから」


 悔し気に睨みつけてくるけど、どんなに恨まれても許可を出す気はない。この方がうちの領民を害しないという保証はない。領主一家として、絶対に許可を出せる相手ではないのだ。


「好感度が足りないってやつだな。お前はビューロウを、子爵を侮り続けた。そればかりか、エリザベートの考えを最後まで理解しようとしなかった。そんな奴が、相手にかばってもらえるわけないだろう」


 あきれたように言うロータル様を、ヘルムート様は唇を震わせながら睨みつけた。


 エリザベート様が溜息を吐いた。


「あなたは気づいていなかったようだけど、高位貴族だからってただ矜持を持っているだけでは務まらない。上に立つ者には上に立つ者なりの責任というものがあると思う。今はいないけど、エレオノーラ様にはその気概があった。短い間だけど、彼女を見て何も思わなかった?」


 ヘルムート様はうろたえたように目線を泳がせた。


「あなたはヴァッサー家とともに歩みたいようだけど、私たちとともに歩むなら、上位貴族として心得を持つことは最低限よ。悪いけど、今までの貴方からはそれが感じられない」


 顔色を青くするヘルムート様に、それでもエリザベート様は優しく声をかけた。


「ヘルムート。あなたがまだ我が家の、ヴァッサー家の旗下でいたいというのなら、まずはきちんと命を果たせることを証明することから始めなさい。あなたに命令します。私が帰ってくるまでに、あなたはあの黒い魔道具のことをを調べなさい。ちゃんと誰に聞いたか、報告すること。それなしに、私の力になれるとは思わないことね」


 ヘルムート様は茫然としている。おそらくだけど、エリザベート様はこのままだとヘルムート様がヴァッサー家に取り立てることはないと示したのではないだろうか。そのことが、鈍い私でも読み取れた。


 おそらくだけど、クラスメイトのほとんどが気付いたはずだ。ヘルムート様はヴァッサー家に取り入ろうとしていたが、それは本当に厳しい道のりになっているのだと。


 自ヘルムート・ノードの野望は、おそらくかなえられることはないのだろうと――。



※ ??? 視点


「ぐはっ!」


 暗い部屋に打撃音が響いた。


 頬を打ち抜かれたフェリシアーノは唇から血を流し、それでもすぐに姿勢を戻してあの方の前に直立不動になった。


 ため息を吐くあの方に、冷や汗が流れた。


「2回・・・。そう2回だ。お前は高々学生の小娘を屠るのに、2回も失敗した。ヤーコプと並ぶ世紀の大犯罪者という触れ込みだが、この程度なのか」


 思わずあの方をにらみつけたフェリシアーノだが、あの方の側近に即座に殴り倒された。


「なあ、フェリシアーノよ。ポリツァイの犬どもからお前を助けたのは私たちだ。なのになんというざまだ。あの小娘ども、ますます調子に乗っているではないか」


 言われて、頭を下げてしまう。あの冷たい目がこちらに向かってこないのに、少しだけほっとしてしまう。


「他人事ではないぞ、ウェンデル。貴様も、フェリシアーノについていながらなんというざまだ。この愚か者を補佐するのがお前の役目だというのに」


 睨まれて、反射的に姿勢を正した。


「学園から追放されたお前をせっかく助けてやったというのに、何の役にも立たぬ。これでは何のためにお前を救ったのやら。お前の力を認めなかった学園の教師どもに、目にものを見せてやるのではなかったのか」


 思わずにらみつけると、あの方は心底うれしそうに笑った。


「そうだ! その憎悪だ! 忘れるなよ! お前に与えられた屈辱を! その暗き水がある限り、お前は折れぬ! 王国の醜き犯罪者どもに、思い知らせてやるのだぞ!」


 笑い声が響く部屋に、静かな声が響き渡った。


「清浄なる流れの君。少しよろしいでしょうか」


 この方の話を遮るのか。


 この男がいくらあの方のお気に入りとはいえ、命知らずにもほどがある!


「あの小娘は、春になると愚かにも自領に戻るとの話を聞きました。そこに、チャンスはあります。護衛がつくとは言え、そのタイミングで狙えば彼らごときとはいえ任を果たせるのではないでしょうか。例の、学園から離れることはヤツの守りをなくすことにもなるのですから」

 

 あの方はしばし考え込んだ。


「もちろん、それだけでは奴の命を奪うことはできないでしょう。ですので、どうか私に命を下してほしいのです。信徒どもを率い、あの星持ちの小娘を殺せとの、命令を!」


 小僧は左右の色の違う瞳を輝かせた。


「私があなたに与することになってずいぶんと時が経ちました。あなたは私に非常に心を尽くしてくれましたが、私はまだあなたに何も返しておりませぬ。ですので、王国の次代を担うあの小娘の首を取りたいのです。どうか、私に機会を。あなた様のお役に立てるという栄誉を与えてください」


 こいつ! 若輩者のくせに、私たちを率いようとでもいうのか!


 しかし、部屋の中にあの方の笑い声が響いた。恭しく頭を下げる小僧を見て、心底おかしそうに笑ったのだ!


「いいだろう。大事の前の小事ではあるが、あの小娘が生きたままというのは気に入らぬ。あれが生きている限り、北の情勢を動かすことはできぬのでな」


 あの方は笑みを浮かべているのだろう。見るものすべてを不安にさせるような笑みを浮かべ、こちらを嬉しそうにねめつけているのだ!


「よかろう! お前に命ずる。春が深まり、新たな学びが始まる前に、殺せ。あの小娘の首を取って王国の者どもに目にものを見せてくれるのだ!」


 あの方の宣言に、私たちは歯を食いしばりながら頭を下げたのだった。

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