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星持ちの少女は赤の秘剣で夢を断つ  作者: 小谷草
第2章 星持ち少女と学園の仲間たち
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第34話 旅行の予定と討伐任務

「ふふふ。彼女らしいなぁ。やっぱりロジーネは元気というか、なんというか・・・。向こうでも元気にやっているんだね」

「なんか心配していたこっちが馬鹿らしくなるわね。のんびり楽しく過ごしてるのが伝わってくるんですけど」

「ロジーネちゃんらしいというかなんというか・・・。彼女も向こうでハイデマリー様からあの魔法を学んでいたのは意外でしたけど」


 教室で、私はエーファとカトリンで集まって1枚の手紙を見つめていた。友人のロジーネから私たち三人あてに送られた手紙で、そこには元気に過ごしていることが書かれていた。戦闘に巻き込まれて大変かと思いきや、彼女が向こうで楽しく過ごしているのが伝わってくる。


「えっと。ロジーネさんって、夏までこのクラスにいた方ですよね? 私は一言二言しか話したことはないですけど、1年生なのに向こうに行くなんて、やっぱり優秀な人だったんですか?」


 同席してくれたアーダ様に聞かれて、私たちは顔を見合わせた。


「優秀・・・ではあるんだろうね。何しろこのクラスで唯一出征したんだから。それも、フランメ家から是非にと請われてね」

「そうね。本人はのほほんとしていて一緒にいると癒されたのよね。でも優秀かと言われると、う~ん。あんまり真剣に勉強とかするタイプじゃなかったしなぁ」


 カトリンもエーファも悩まし気だった。まあ、その気持ちはわからないでもないけれど・・・。


「出征するまでこの4人で討伐することが多かったんですけどね。うん。カトリンと役割がかぶっていましたが、交代交代で守り手をやってたんです。そしたらすごかったですよね」

「そうだね。悔しいけど、守り手としての腕は段違いだった。自分とは違うことを痛感させられたし、いろいろ勉強になったなぁ。本人、何にも考えてないみたいだったけどね」


 私たちは彼女を思い出して笑った。彼女はこのクラスにいたが、北への出征が認められたのはおそらくフランメ家に請われたからだけじゃない。彼女だけが、このクラスで水準を超えられたからなのだろう。


 彼女だけは、姉たちと一緒に戦っても活躍できる実力を、備えていたのだから。


「そうですよね。何にも考えていないようなのに、守り手としては従兄に匹敵するくらい優秀でした。そして強運が過ぎるというか、幸運が向こうから転がり込んでくる感じだったんです」


 私は必死に彼女について説明したけど、伝わったかどうか・・・。でもアーダ様は納得したように何度もうなずいた。


「冒険者の中でもうわさになってたんだ。今年の一年にはすごい娘がいるって。最初はアメリーのことかと思ったが、聞こえてくる人物像に違和感があった。そうか、あれはロジーネ様のことを言っていたのか・・・」


 アーダ様のつぶやきに、寂しさが私の胸を過ぎった。彼女とまた学生生活を送ることはないだろう。彼女は大学への進学はしないだろうから。


「あの子、私の領地に来てみたいって言ってくれたんですよね。だから、本当ならこの春とかに来てもらおうかと思ってたんですよね。今なら向こうも過ごしやすいでしょうし」


 私がため息交じりに言うと、カトリンがいたずらを思いついたような顔になった。


「いいじゃないか! せっかくアメリーが準備してくれてることだし、次の長期休みはみんなでビューロウ領に行くというのはどうだい? みんなで記念に絵をかいてもらったりしてロジーネに送ってやるんだ! あいつ、なんだかんだうらやましがって、卒業後に来てくれるかもしれないよ」

「こらカトリン! アメリーの都合もあるんだし、ね! 私たちは一応伯爵家なんだから、受け入れるアメリーも大変なんだから!」


 エーファがたしなめるが、カトリンは自信満々に反論した。


「ふっふっふ。ビューロウは僕らを受け入れるだけの下地はあるはずだよね? だって、ロレーヌ家とへリング家、それにウィント家の子息を迎えたのはたった1年前の夏じゃないか! 上位貴族がこぞって満足したの、僕だって知ってるんだからな!」


 まあ、この前の夏にエレオノーラ様達が遊びに来てくれたの、結構有名な話だからね。あの夏はみんな楽しそうで、夏を満喫してたんだよね。まあ、最後に闇魔に襲われるっていうイベントもあったんだけど。


「えっと、今は祖父や叔父夫婦がいないし、両親がなんていうかはわからないですよ?」

「ふっ。北での戦闘が始まって、残された僕たちの役割は分かってるよね? 社交さ! 主力がいない間、僕ら居残り組が他領との関係を深める必要があるんだ。だから、僕たちが春休みを利用してビューロウ領に行っても不思議じゃないということさ!」


 私の反論は、カトリンにあっという間に叩き潰された。


「これはもう止まらないわよね。うん。カトリンの暴走を止めるために私も行くわ。今を時めくビューロウに行くと言えば、うちも反対はしないでしょうし」


 エーファが溜息を吐いた。そんな私たち三人を、アーダ様がまぶしそうな目で見つめていた。


「友人たちで旅行か。なんかいいなぁ。お土産話、期待していますね」

「何言っているんだ! アーダ君! 君も来るんだよ! アメリーの相棒の君が来ないんじゃあ始まらないだろう? ふっふっふ。戦いが始まったからっておとなしくしていると思うなよ! この春はビューロウで遊び倒してやる!」


 何かやる気を出したカトリンに思わずため息を吐いた。


 まあ、カトリンや私はこの冬は王都で討伐任務に当たっていたから、これくらいのわがままは許されるのかもしれない。


「ふっ。暢気なものだな。あの大犯罪者に狙われているというのに」


 水を差すようなことを言ったのはコルネリウス様だった。ハイリ―様の咎めるような目を気にすることもなく、彼は私たちへの非難を続けた。


「学園が、お前の討伐任務に神経を注いでいるのは気が付いているだろう? いつ襲われるかわからないのに、旅行を楽しもうなどとはな」

「はっ! 襲撃を恐れて旅行を取りやめたなんて、それこそ貴族の名が廃るってもんだ! 狙われてるのに、戦時中なのに平気で旅行を楽しんでこそ、貴族としての矜持が誇れるってもんさ!」


 カトリンの返事に、あのコルネリウス様も思わず口ごもった。カトリンの返事にもっともだと思ったのかもしれない。


「えっと、コルネリウス様達第3騎士団がひそかに私たちを護衛してくれているのはありがたく思っていますが、襲撃されたからと言って引きこもっているのは相手の思うつぼかもしれません。もちろん学園長にも確認しますが、許可だけは申請しようかなと」


 私がそう言うと、コルネリウス様は不機嫌そうに押し黙った。


 さらに言葉を重ねようとしたとき、教室の扉が静かに開けられた。息を切らして入ってきたのは、担任のハンネス先生だった。


「ああ。アメリーさん。やっぱりいらしたんですね。毎度のことですが、緊急の討伐任務が寄せられました。申し訳ないですが、学園長室まで来てもらえませんか?」



◆◆◆◆


 南の森でオークが発見された。数は少なくとも10体ほどで、練度もかなり高そうだった。オークとはいえ、討伐経験の少ない生徒には任せられない案件らしい。


「すみません。前に討伐に行ったばかりなのにすぐにお願いすることになって。オークどものくせに、魔鉄の武具を装備しているんです。古びてはいたものの、あの高級素材の武具を使っているだなんて」


 ハンネス先生の言うところでは、冒険者が重装備のオークを見かけてあわててギルドに連絡したとのことだ。さすがに魔鉄の武具を装備した魔物には、一般の冒険者には荷が重い。高位の冒険者はあいにくと別の任務に出ていて、学園にお鉢が回ってきたそうだ。


「魔鉄の武具を装備したオーク、か。武具は、冒険者から奪ったのか、あるいは・・・。かなり難敵だな」


 アーダ様が暗い表情でつぶやいた。


 装備を固めた魔物は危険度が跳ね上がる。強い武具を持つということは、おそらく冒険者から奪ったものだと思うし、強い武具を持つ冒険者を返り討ちにしたとあれば、その腕も相当なものだ。


「今回は私の部隊が討伐に当たる。お前たちはあくまで援護だ。何、ゲラルトも来てくれるんだから万が一のことは起こらないさ。だが、油断せずよく周りを見るんだぞ」


 出発に際してメラニー先生がそう説明してくれた。その言葉に、ちょっとほっとした。やはりフル装備の魔物相手に向かっていくのは抵抗があった。


「せ、先輩! マジっすか! なんかこの部隊で僕だけ見劣りしてません?」

「落ち着け! 大丈夫だ! お前だって教師に選ばれたんだから自信を持っていい!」


 ためらうエドウィン先生を、ガスパー先生がなだめている。後ろにいる山賊みたいな髭のゲラルト先生は落ち着いて自分の装備を点検していた。


「なにこれ、教師たちのドリームチーム? 守り手の山賊先生でしょ? 攻め手兼癒し手のエドウィン先生に、攻撃主のガスパー先生とメラニー先生? いや私たちの出番、なくない?」

「多分ですけど、私たちに部隊としての戦果は期待されてないと思いますよ。あくまで予備選力で主力は先生たち。その戦いぶりを見て学べってことだと思います」


 私がそう言うと、ニナ様がごくりと喉を鳴らした。そして真剣なまなざしで教師たちの部隊確認している。


「お前たち! 油断しすぎるなよ! そっちの部隊が戦いに巻き込まれる可能性があるんだからな!」


 メラニー先生の言葉に身が引き締まる思いがした。


 そうよね。私たちに声がかかったのは、いざというとき動ける部隊だからという理由もあるかもしれない。戦況をよく観察し、余計なことをせずに、本当に必要な時だけ援護する。意外とこれを実現できる部隊ってないのだ。


「あなたたち! 十分に気を付けるのよ! 魔物は教師

たちが倒すからって、巻き込まれないとも限らないんですからね!」


 学園長の言葉にうなずきながら、私たちは馬車へと乗り込むのだった。

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