緋色の手記
強い後悔を胸に
いつも通りの日常。
いつまでも続くはずだった日常。
あたしが一番大切にしていた筈だった。
あたしが一番守るべきモノだった。
それなのに、あたしが壊してしまった。
自惚れていた。
あたしは強いから全部守れるなんて、どの口が言えたものか。
ラーナの方が、あたしの何倍も強い。
腕力じゃない。暴力なんかじゃない。そんな強さ、誰だって持っている。
あの娘の強さは、自分を曲げない強さ。
曲がったことが大嫌いで、他人のことでも自分の事のように本気で考えられる。
あたしは、そこまで他人に優しくなれなかった。
だから、その強さを獲たくて、仲良くしてたんだ……。
ラーナが思う程にあたしは、そんなに強い人間じゃないんだ。
そのくせ、あたしなんかに憧れてくれて……。
あたしは何をしていたんだ。
悔しさと、無力さで胸が締め付けられる。
親友が、ラーナが赤に染まっていく。翡翠のように綺麗な緑の髪が、どす黒い赤に染まっていく。
周囲には血の匂い。
「どうしてっ」
叫んでいる筈なのに。声が出なかった。
いつも通りの日常の筈だった。
イジメられてた女の子を見かけて、飛び出して。
いつも通りにやっつけて、ラーナがまたあたしの事をキラキラした目で「やっぱりアズマちゃんはカッコいい!」なんて、そんな事を言われて終わる筈だった。
あたしが、最後の最後で気を抜かなければ。
イジメっ子の一人が鈍器を持っていた。
後ろを向いていたあたしは、その鈍器があたし目掛けて振り下ろされている事に気付けなかった。
だけど対面して会話をしていたラーナは真っ先に気付いて……
本当に、本当に……他人を思いやる強さを持ったアイツらしい庇い方をして……
助けを呼ばなきゃ。早く。動け。
あたし以外を殴ったショックなのか、ソイツはラーナが動かなくなったのを見て、走って逃げていった。
あたししか居ないんだ。頼るな。
ラーナなら、こんな場面に出会したら、すぐに助けを呼んでる筈だ。
わかっているのに、身体が強張って……
初めての恐怖を覚えた。
ううん、あたしは臆病だ。怖いものは多分人より多い。
だけど、持ち前の負けず嫌いな性格で、それを乗り越えてこれただけだ。
「やだよ……こんな事で、どうして」
意味の為さない言葉の羅列だけが、口から溢れる。
違うだろ。しっかりしろ。樋木アズマ。
頭ではわかっている。だけど、身体が動かない。
あたしに出来たのは、倒れて動かないラーナを強く抱きしめる事だけだった。
懺悔として、あたしはこの手記を残す。
弱いあたしが、ラーナに甘えてこの罪を忘れないように。
そして、何よりもこの罪を抱えて、強くなれるように。
もう二度と失うものか。もう二度と……こんな思いしてたまるか。




