閑話 捻くれ王子の奮闘記 その③
閑話その①です。
ユリウス君シリーズ第3弾、お楽しみくださいませ。
m(*_ _)m
〜 ユーフェミア王国王都 ブリガント王立学園 〜
《ユリウス第3王子視点》
「おい、お前ら。何してるんだ?」
面倒な場面に遭遇したもんだ。
目の前に広がる光景に、オレは思わず口を出しちまった。
雨が地面を打つ昼下がり。
午後の課目の無いオレは、屋根付きの渡り廊下の先の、図書館を目指して歩いていた。
本校舎から渡り廊下に差し掛かり、雨の音に紛れて聴こえる人の声に振り向いたところ。
図書館側からは見えるが、本校舎側からは見えない屋根の下で、1人の生徒が6人の生徒に囲まれ、殴る蹴るの暴行を受けていた。
少し前まではよく観た光景。
身分の高い貴族子弟の鬱憤晴らし。
平民出の生徒への、私刑。
或いは貴族に対して、よっぽどな無礼を働いたのかもしれない。
或いはお互いに合意の下での、正当な闘いなのかもしれない。
だがこの状況は……
オレが掛けた声に、暴行を加えていた生徒達は、一斉に肩を震わせて、跳ねるように此方を振り向く。
「もう一度訊く。お前らは、何をしてるんだ?」
彼等は一様に顔を青くしたが、オレの正体に気付いた途端に、その顔に安堵の色を浮かべる。
「こ、これはこれは!ユリウス第3王子殿下ではありませんか。ご機嫌麗しく……」
オレに対して、慇懃に礼を取る生徒達。
知った顔も、いくつか居るな。
今オレに挨拶してきたのは、確か伯爵家の三男だったか。
「質問に答えろ。何をしてるんだ?」
三度訊ねる。
オレの重ねての質問に一瞬たじろぐも、三男坊は諂った笑みを顔に貼り付けながら、口を開く。
「いえいえ、お気になさらずとも。只今この無礼な平民に、身の程というものを教育しているだけでございますよ。」
「この平民は、図書館の蔵書を持ち出したのです。それも治癒魔法の研究書という、穢らわしい平民の手で触れることすらおこがましい貴重な本をです。」
「平民の分際で貴重な魔法書に触れ、あまつさえ持ち出そうとするなど言語道断と注意したところ、事もあろうにこの平民は、私に対して反抗してきたものですからねぇ。」
長ぇよ。
しかしそうか。
「その本とやらを見せてみろ。」
暴行を受けていた男子生徒は、蹲ったまま顔だけ上げて、話すオレ達を睨み付けている。
へえ。
根性ありそうだな。
「はっ。こちらにございます。」
三男坊が仲間から受け取った本を、恭しく差し出してくる。
ふん、既に取り上げていたんだな。
オレはタイトルを確認し、ペラペラと中身を確認し、そして最後に巻末を確認する。
「ふむ。しっかりと正規の手続きを経て、貸し出されているようだが?」
確認したのは、巻末に添付されている貸し出しカードだ。
そこには今日の日付けと、恐らくは暴行を受けていた生徒の物であろう名前が、しっかりと記載されている。
そう訊ねたオレに、三男坊は嘲りを含んだ笑みを浮かべながら。
「そのようですねぇ。そしてその平民は、私に対して『正当な権利だ』と反抗してきたのです!」
一瞬頭の中が真っ白になる。
は?
何言ってんだ、コイツ?
「国の宝であるこの学園の、図書館に納められた貴重な本を護ろうとした、この私に対して反抗したのです!伯爵家に連なる、この私にですぞ!?」
あーそう。
要するに、歯向かわれてムカついたからリンチしたってことかよ。
「これは正当な裁きなのです!たかが平民の分際で、貴き身分である私に不敬にも手向かったのですからね!」
…………なんつーか、恥ずかしいっ!?
ちょっと前までは、オレもこっち側の、しかも親玉だったかと思うと余計に!!
オレ自身がこんな理不尽を振り撒いて歩いていたんだと思うと、もう……穴があったら入りたい気分だ。
オレは、妄想で過去のオレをボコボコに殴りつつ。
三男坊を無視して、未だ倒れてこちらを睨んでいる生徒に歩み寄る。
その生徒の名前が、カードに書かれていた物なら……
「立て、【マルコー】。ユリウス=ユーフェミア第3王子の名に於いて、この一件オレが預かる。」
マルコーの手を掴んで、半ば無理矢理立たせる。
背後では三男坊達が浮かれている気配がするが、今は無視だ。
きっとオレからも、マルコーに制裁を加えるとでも思っているんだろうなぁ。
そしてそれは、目の前のマルコーも同じだろう。
憤怒の込もった目でオレを睨みながら、その傷付けられた身体を震わせている。
それを見て、ついつい笑みを浮かべながら、オレは口を開く。
「この一件、道理はマルコーに有る。この学園の生徒である以上、図書館での本の貸与を受ける行為は、正当な権利の行使だ。」
その宣言で、場の空気が凍り付いたように固まった。
オレは両者を視界に収めるよう向き直る。
見れば全員、呆気に取られた顔をしてやがる。
オレは気にせずに、言葉を続ける。
「そしてマルコーは、正規の手続きに基いてこの書物の貸与を受けている。そこに咎められる要素は、何ひとつ存在しない。」
口を開けてオレを見上げるマルコー。
オレはそれにひとつ頷き、三男坊達に顔を向ける。
「よって、先のお前の物言いは、まったくの見当違いだ。更に、この学園に通う者は皆、等しく同じ生徒だ。マルコーも、オレすらも変わらない。学生憲章にも『身分の貴賎無く研鑽せよ』と記載されている。理不尽に対して、正当な権利を主張しただけのマルコーが不敬を働いたとは、学園の敷地内では断ずることはできんぞ。」
三男坊はオレの言葉を聴いて、憤りに顔を紅潮させる。
「つまりだ。先程のお前らの行為は、何ひとつ正当性の無い、ただの暴力行為だということになる。この王子であるオレが証人として、学園教諭へと報告しよう。そしてその上でだが、マルコーにはこの理不尽に対して、大いに反抗する権利が有る。望むなら、決闘の立ち会いを務めるが?」
両者を見据え、言葉を投げ掛ける。
マルコーは何も言えずにただ立ち尽くしている。
一方の三男坊達は、一転して顔を青くさせて狼狽えている。
そして三男坊が、悲壮感に暮れた顔をして、地面に膝を着き頭を下げる。
「ど、どうかご容赦を!ほんの出来心でした!もう二度とこのような無体はしません故、何卒、報告だけはっ……!」
悔しさの滲む声音で、そう絞り出す三男坊。
マルコーを見ると、怒りに肩を震わせながらも、深く溜息をついて首を横に小さく振った。
オレはそんな彼に苦笑しつつ、宣言する。
「ならば二度とマルコーに近付くな。もしコイツに何か有れば、その時は伯爵からの叱責を受けることになるぞ。」
そう脅しつけると三男坊達は、目に涙まで浮かべながら必死に謝り、風のように去って行った。
オレはそんな連中の背中にかつての自身を重ね見て、思わず溜息を漏らす。
ほんとオレって、下らねぇことやってたんだなぁ。
自身を省みながらマルコーに向き直ると、身体中の痛みのせいか、緊張の糸が切れたのか。
「お、おい!?大丈夫か!!??」
マルコーは意識を失い、倒れてしまった。
〜 医務室 〜
空が茜色に染まり始めている。
あの後オレは、気を失ったマルコーを医務室へと運び込んだ。
養護教諭を手伝って身体中の傷をポーションで癒し、そのまま意識の戻らないコイツの付き添いを頼まれ、了承した。
午後の授業は全て終わった頃だ。
ミハエル達は既に自主訓練を終えて帰路に着いている頃だろう。
「うぅ…………」
そんなことを考えながら読者をしていると、小さな呻き声を耳が拾う。
読んでいた本から視線を動かすと、マルコーが身動ぎをし、ゆっくりと瞼を開いた。
「おう、大丈夫かよ?まだ痛むか?」
視線を天井に彷徨わせるマルコーに、声を掛ける。
マルコーは突然掛けられた言葉に身を震わせながら、恐る恐るオレに振り向く。
「あんたは……ここは……?」
「此処は学園の医務室だ。あの後気を失ったお前を、オレが此処まで連れて来た。それで、身体はどうだ?」
周囲をキョロキョロと見回し、段々と現状を認識してきたのか、ゆっくりと身体を起こすマルコー。
手を繰り返し握り込み、身体中をペタペタと触って、傷の確認をしている。
「痛く……ない?傷が……?」
「それなら養護教諭が治した。治癒魔法とポーションも使ったからな。傷は完治してるだろ。」
「ぽーしょん……」
呆けたような顔をして、オレの言葉を反芻する。
そして、戸惑ったように口を開く。
「俺、金なんて無い……」
「……は?」
一瞬何を言ったのか分からなかった。
そうか。
コイツ医務室使ったことないんだな。
「心配すんな。訓練中の怪我は無償で治療してもらえる。オレとの訓練で無茶して怪我をした、って言ってあるからよ。まあだいぶ怪しまれたけど、それで押し通したぜ。」
あの養護教諭め。
絶対オレが痛め付けたと思ってるんだろうなぁ。
まあそれも今更か。
「そうか……分かった。」
マルコーは、どうやら現状を把握できたらしい。
治療費の心配が先に来る辺り、何やら事情が有りそうだけどな。
「それで、あんたはどうして……?」
疑問の矛先がオレへと向く。
まあ、当然だよな。
縁もゆかりも無いんだから。
「付き添いだ。教諭は忙しいらしくてな。傷は完治したけど、意識が戻るまで観ててくれって仰せでな。」
肩を竦めて答えを返す。
そして、今まで読んでいた本を閉じて、マルコーに差し出す。
「ほらよ。お前が借りた本だ。立って歩けるか?」
本を受け取ったマルコーに手を貸して、ベッドから立ち上がらせる。
まだちょっとフラついてんな。
「荷物を取りに戻らなきゃな。肩貸してやるから、教室教えろよ。」
そう言って肩を貸すために近付くと、戸惑いがちに動きを止められる。
「どうして……王子のあんたが、どうして俺なんかを……?」
「そりゃどんな意味でだ?アイツらから守ったことか?それとも、こうしてお前に付き添ってることか?」
なんだよ?
王子のオレが人助けしちゃいけないのかよ?
「両方だ。たかが平民の俺を、どうして助けた?何を考えている?」
ふむ。
どうやら警戒されてるみたいだな。
ミハエル達と付き合い始めて、以前よりはだいぶ俺への風当たりは柔らかくなったと思う。
でも、まだまだオレのしてきた事への悪評は根強く残っていて、未だにオレは学園生にとっては恐怖の対象だ。
オレはいつか仲間に、ミハエルに言った言葉を、もう一度口にする。
「オレはそういう身分だの家だのには、もう拘らない。この学園では、オレはただのユリウスだ。」
笑ってみせる。
飾る必要は無い。
だって今のオレは、どこまで行っても、ただのユリウスなんだから。
「打ち明けると、オレはお前を気に入ったんだ。アイツらに囲まれながらも、歯向かう意志を捨ててなかった。王子であるオレを気にも掛けず、怒りを向けてきた。そんなお前に、オレの仲間になって欲しい。」
今のオレには、仲間と呼べるヤツらが居る。
ミハエルという弱気な騎士見習い。
ミカエラというお転婆な魔法使い。
モリナというおっとりした魔法使い。
オレも含め、どいつもこいつもまだ未熟もいいとこだけど、忌憚なく言葉を交わし、剣を打ち合い、真っ向からぶつかれる、そんな仲間達。
友と呼んでも、良いかもしれない。
身分なんて関係ない。
いつかアイツが言ったように、腹の底から笑い合い、怒鳴り合える、そんな連中だ。
そんなことを、照れ臭くも話して聴かせる。
「そんなオレ達の仲間に……友に、お前もならないか?弱気、じゃじゃ馬、のんびり屋……そこにお前っていう、ド根性が加わる。面白くねぇか?」
自然と口が笑みを浮かべる。
楽しそうだろう?
「あんたは……さしずめ傲慢ってとこか?」
「おう。良く言われるな、そりゃ。上等だ。」
マルコーも苦笑気味だな。
「それで、どうだよ?治癒魔法の本を借りてたってこたぁ、僧侶見習いなんだろ?パーティーとしても申し分無いだろ?」
仮にパーティーをこれで組むとすれば。
前衛にミハエル。
前、中衛にオレ。
後衛にミカエラ、モリナ、マルコー。
ちっとばかし尖ってるが、それなりにバランスは取れている筈だ。
マルコーが治癒と支援をしてくれるなら、安全性も格段に上がる。
「…………なあ。」
あん?
なんだよ、そんな変なもの見る目でこっち見やがって。
「どうした?」
訊ねると、徐に指を差してくる。
だが、その目はオレを見ていないようだが……?
「あんたの言う仲間って奴ら……それって、そこで頭を出してる3人のことか?」
あ?
オレは、そんなまさかと思いながら、ゆっくりと後ろ――医務室の扉の方を振り向く。
そこには。
「あ、あははは。ユリウスが医務室に居るって聞いて、心配で見に来たんだけど……」
「何よ、ピンピンしてるじゃないの。ま、私じゃなくて2人が心配してたから、不承不承来てやったわよ。」
「ミカちゃん、それだと自分が心配してたって言ってるみたいだよぉ?」
つい今しがた語って聴かせていた3人が、頭の分だけ開けた扉の隙間から顔を連ねて覗き込んでいた。
「お、お前ら!?いつからそこに……!?」
マジかよ!?
っていうかなんで居るんだよ!?
「え、えーと……『そんなオレ達の仲間に……』って辺りかな……?」
「そうよ!アンタ、一体誰がじゃじゃ馬なのよ!?言ってみなさいよ!!」
「うわわわっ!?ミカちゃん、頭の上で暴れないでよぉー!?」
最悪だぁ!?
あんな恥ずかしい話を聴かれてただとぉ!?
「う、嬉しいよ。僕も……ユリウスのことは友達だと思ってるから。」
「私のんびり屋じゃないですよぉ〜!ユリウスくんヒドイですよぉ〜!」
「ほら!誰がじゃじゃ馬か言ってみなさいよ!?」
う……
ううぅ…………
「う、うるっせえなぁ!?言うな!忘れろ!!さっき聴いたことは全部忘れろお!!そしてじゃじゃ馬はお前に決まってんだろーがミカエラぁ!!!」
「んな!?だ、誰がじゃじゃ馬よ!?そう言うアンタは傲慢でイイカッコしいで偏屈じゃないのよ!!」
「誰が偏屈だこら!?ってかイイカッコしいってなんだよ!?いつそんなことしたってんだよ!!??」
「そんなのいつもじゃない!この前だって気取ってあんな高いお店で恩着せがましくケーキなんか奢っちゃって!あんなにお土産買ったなら少しくらい分けてくれたって良いじゃないのよ!?」
「なんで奢ってやった上に土産まで持たせなきゃならねえんだよ!?っていうか話変わってんじゃねぇか!?」
んっとにこの跳ねっ返りは……!
どんだけケーキ好きなんだっつーの!?
「ぷっ……!ふふ、はははははっ……!!」
あん?
なんだこら?
マルコーてめぇ、何笑ってんだよ!?
「はははっ!本当に、あんたら仲が良いんだな……!」
なっ!?
「だ、誰がこんな傲慢男と仲が良いのよ!?」
「あんだとこらこのじゃじゃ馬!!?」
「なによ偏屈っ!!」
「なんだよお転婆っ!!」
ほんっとに、コイツだきゃあ……!
「面白いな、あんたら。あんたらと連るむのは、居心地が良さそうだ。」
その言葉を、オレはすぐには理解できなかった。
その言葉で騒ぎが鎮まり、たっぷりと時間を置いてから、言われたその意味が、段々と染み込んでくる。
「待てよマルコー。それって……?」
「ああ。僧侶見習いマルコー。あんたらの一党に加えてほしい。構わないか?」
改めて打診される。
その言葉は、オレが望んでいた言葉で。
「あ、ああ!魔法剣士ユリウス。お前を歓迎するぞ。」
「僕は騎士見習いミハエル。よろしくね、マルコー。」
「ふん!魔法使いのミカエラよ!足を引っ張ったら承知しないわよ!?」
「ま、魔法使いのモリナですぅ。よろしくお願いするよぉ。」
それぞれと握手を交わすマルコー。
今の騒ぎのせいですっかり打ち解けた様子で、微かな笑みを浮かべている。
オレの顔にも、思わず笑みが浮かぶのを自覚する。
「ようやく、パーティーらしくなってきたな。これからの訓練はより厳しくしてかねぇとな。」
「なによ、偉そうに。今日サボったクセにさぁ?」
「あんだとこら!?」
「なによ仕切りたがり!!」
「も、もぉ〜!2人ともぉ、ここ医務室なんだよぉ〜!?」
喧喧囂囂な大騒ぎは、その後養護教諭が怒鳴り込んで来るまで続いた。
でも、まあ。
こういうのは、悪くないもんだな。
見てろよマナカ。
条件まで、あと1人だぞ。
絶対に、最高の仲間を集めて、お前の所に行くからな。
って、マルコーにミハエルは何意気投合して2人揃って溜息ついてんだよ!?
いい加減このじゃじゃ馬を止めてくれよ!!??
さて、始まりました閑話ラッシュ。
読者の皆様は、誰のサイドストーリーを読みたいのでしょうか?
もし希望がありましたら、感想でお知らせくださればご紹介できるかもしれませんよ!
あんまり多かったら分かりませんが(笑)
現在はあと3つ、構想を練っております。
どうぞ、お楽しみに!
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
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