第十四話 この力は、誰かを護るために。
〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 六合邸 庭園 〜
佇む相手を見据え、呼吸を整える。
その鋭い爪牙も勿論だが、真に脅威なのは、その敏捷性。
此方が一手を繰り出す間に二手、三手と差し込んでくるその迅さ。
そして鋭さ。
獣の本能に近い研ぎ澄まされた勘の後押しも加え、有効打を与えるのが非常に困難だ。
「これでまだLv35とか、末恐ろしいにも程がある、ってな!!」
繰り出される拳を外から叩き落とし、弾かれるようにその手で裏拳を叩き込む。
しかし、穿つのは残像。
一瞬で背後に回り込まれ、左右の爪での連撃が降り注ぐ。
「ちょっ!?本気で殺しに来てないか、ヴァン!?」
相対する男、一番最近配下に加わった人狼皇の爪牙から、前転して潜り抜ける。
即座に感知スキルを全開にして、動きを把握。
次は……左か!
振り向くと同時に振り下ろされる右の爪撃。
俺はリーチに勝る脚を使い、ヴァンの前脚の膝を蹴り込み、ストッピングを仕掛ける。
膝への蹴撃により出足を挫かれ、手打ちとなった右の手首を、左手で絡め取るように引き込みつつ脱力した右手で肩を打ち抜く。
左手により伸ばされた右腕の起点を打ち抜かれたことにより、ヴァンの右肩が脱臼する。
「ぐっ……!流石は、我が主ですな!」
まだ逃がさんよ!
更に掴んでいる右腕を持ち上げ、ブラインドにしつつ左手の行動を阻害。
伸びきった右の脇腹に至近距離からの捻り込む中段の回し蹴りを見舞う。
「がふっ!?」
しかも、爪先を肝臓に抉り込むように放った蹴りだ。
呼吸も苦しいだろうよ。
「それまでじゃ!!」
おっと。
ここでシュラの号令が掛かったか。
「順調に成長してるみたいだな。その調子で頼むぞ?」
「御意に。我が主に恥じぬよう、精進致します。」
特にお前にはダンジョンひとつ任せて、苦労させてるからな。
今度何か、褒美みたいなもんでも用意してみるか。
「次の相手は、フリオールじゃ!」
「うむ、往くぞマナカ!」
ヴァンが退がり、フリオールが立ち上がる。
フリオールのスタイルは、長剣での近距離戦に魔法を織り交ぜた魔法戦士タイプだったな。
血筋の恩恵か扱える属性も豊富であり、剣の腕も此処に来てからメキメキと上げている。
「穿て!【炎の剛槍】!」
っておい!?
開幕から殺意高過ぎないか!?
炎の槍の数も、最初は3本までしか出せなかったのに、今では同時に8本だ。
「んなろっ!」
接近戦に持ち込むべく、飛来する槍を掻い潜り前へと躱す。
熱っちいな!?
「そこっ!」
掻い潜った先には、待ち構え剣を振り下ろそうとするフリオール。
やるね。
敢えて槍衾に隙間を空けて、避難先を誘導したか。
躱し辛い袈裟斬りを、急制動を掛けて踏み止まることで空振りさせる。
そして振り終わりに合わせて再び前進。
手首を返して逆袈裟に斬り返そうとするのを、肘を押さえて止めてやる。
その隙を――――
「どわっ!?」
あっぶねえ!?
押さえた左腕を目隠しに、右手で短剣の突きって!?
しかも普通に顔狙ってきやがったよ!
堪らず距離を離す。
くっそー。
予備武器かと思ってたら、バッチリ二刀流に昇華してんじゃん。
しかも直剣の長短二刀流って……ユ〇様スタイル!?
やべぇカッコイイ!!
「むう。不意打ちならば或いはと思ったが……」
「いや、その不意打ち成功してたら死んでるからね!?」
はい、不思議そうに首を傾げるな!
そりゃ頭刺されたら流石に魔族でも死ぬだろ!?
「ったく……いつの間にそんな技術を……」
「なに、お前が留守の間に鍛えたまでよ。因みにこの短剣、杖の役目も果たしていてな?」
そう言って短剣の切っ先を俺に向けるフリオール。
俺は猛烈な嫌な予感に身を委ね、咄嗟に横っ飛びに回避行動を取る。
「【石の礫弾】!」
飛び退いた地面を穿つ数多の礫弾。
危ねぇなおい!?
「こら、避けるな!当たらんではないか!」
当たりたくないから避けてるんだよ!?
「こんの、お転婆姫め……!!」
こりゃあ意地張ってちゃ足を掬われるな。
俺は両手に絞って結界を展開する。
みんな大好きマ〇ロスさんの、ピン〇イントバリアだよ!
イメージって、大事だよね!
「ふっ!!」
息吹を鋭く吐き、脱力と共に重心を落とす。
膝抜きと同時に足は前へ。
古流剣術の縮地法、ボクシングのダッキング、中国拳法の闖歩を捏ねくり合わせた、似非雷〇ステップで距離を詰める。
技術的には似てるけど、どれも要が異なるから良いとこ取りしてみたよ。
俺みたいな格闘戦主体だと、如何に間合いを詰めるかが課題だからね。
アークデーモンの高い身体能力と、【身体操作】スキル様様です。
俺の急接近に対して、フリオールが選択したのは魔法による迎撃だった。
風の刃を複数放ち、接近を阻もうとしてくる。
しかし俺の魔力感知能力により、見え難い風の刃もモロ分かりだ。
俺は両手に纏わせた結界を振るい、風の刃を打ち落としながら尚も進む。
「くっ!?」
魔法は通じないと判断したのか、短剣をチラつかせ牽制しつつ、長剣で横薙ぎの一閃を放つフリオール。
俺はその剣閃の軌道上に、結界を纏った拳を斜めに置き、弾くでも止めるでもなく、滑らせて去なす。
続く短剣の突きは、更に腰を落として掻い潜り、身体が伸び上がる力も利用してピンポイント〇リアパンチでの肝臓打ち。
「がはっ!?」
革鎧の上からでも効くだろ?
これで拳に引きまで併せちゃうと内臓まで壊しかねないし、打ち抜いたら打ち抜いたで、外傷が酷くなるからね。
当てて停めれば、弾き飛ばすだけで済む。
「それまでじゃ!」
有効打一打でストップか。
まあ、ヴァンとフリオールじゃあ、耐久力も違うしな。
「んー、出来れば無詠唱とまでいかなくても、詠唱短縮か、破棄出来ないか?」
「げほっ……!い、一応修練は積んでいるのだが、なかなか……だな。」
「そっか。じゃあもっと、兎に角イメージあるのみだな。魔法の瞬発力が上がれば、今の二刀流も併せてかなり磐石な戦法だよ。」
実際攻め難かったからなぁ。
もうちょいだから、頑張れよ。
「次はレティシアじゃ!鍛錬の成果を示すがよい!」
「はい!お願いします!!」
いやいや。
みんな腕上げ過ぎでしょ。
ちょっと前までは、魔法無しでも全然行けたのになぁ。
まあ、強くなるのは良いことかな。
さあ、来るが良い一番弟子よ!!
レティシアは純粋な剣士だったのだが、我が家のメンツの入れ知恵で、格闘技術まで盛り込んだ複合剣術とでも言うべきスタイルに成っている。
剣はイチが、打撃はシュラがと、二大戦闘狂が教えたせいで、かなりの完成度に練り上げてきてるから、油断は禁物だ。
特にイチ譲りの脱力からの一閃。
あれは危険極まりない。
出し惜しみせずに、最初から両拳には結界を纏っておく。
お互いに土俵は近距離。
示し合わせたかのように間合いが急激に詰まる。
「えやっ!」
流れるような剣閃の壁を、時に躱し、時に去なして剣を振るえるスペースを削る。
ここまではいつも通りだ。
徐々に剣を振るうスピードも上がってくるし、躱した所にサイドキックやら膝蹴りやらが飛んでくる。
んじゃあ、そろそろ結界以外も解禁していこうかね。
拳に集めていた結界を腕へと移し、手甲のように構築し直す。
これで、拳と掌は無防備な状態だ。
その状態で、再び剣閃の嵐に突入する。
先程までと同じように、振るわれる剣を払い、躱し……避けたところを狙った膝蹴りに、掌を合わせる。
「きゃっ!?」
瞬間、掌に集めておいた風の魔力が解放され、薙ぎ倒さんとする膝を逆に弾き返す。
片膝を大きく後ろに弾かれたレティシアは、それでも体勢を崩すまいと軸足を後ろに蹴り、身体を起こそうとする。
しかし、俺はその動きの隙に潜り込み、追い縋り、腰を一気に落として重心を移動させ、踏み込みと共にその反発力を身体の捻りによって掌に伝える。
ダメ押しとばかりにその掌にも風魔法を圧縮し、身体から伝わった勁力と共に解放する。
牽制打は無しだけど、なんちゃって猛虎硬把山だ!
「ぐっ……きゃあああっ!!??」
腹部に突き込まれた掌に集約された勁力と風魔法により、レティシアは大きく吹き飛ばされる。
2転、3転と転がり、アネモネが空かさず庇って受け止める。
「それまで!まだまだ、魔法戦闘への対処が甘いのう。」
まあ、軍や騎士団では、魔法使いは魔法に専念するもんだし、そこは慣れだわな。
「でもまあ、普通に魔法使わされたし、確実に上達してるよ。最終目標は、イチ直伝の剣閃を、どんな体勢からでも力まずに繰り出せるようになることかな。」
「は、はい!頑張ります!」
うむ。
元気で大変よろしい!
「さて、次は誰が出ようかのう?」
「では、僭越ながらあっしが。」
ここからがマジで本番なんだよなぁ。
レティシアの次に挑んで来るのは、イチ。
魔人の強靭な肉体に神速の剣技を併せ持つ、ある意味では最強の物理攻撃特化型。
剣や刀に於いては、仲間の誰よりも巧く、鋭い。
俺は身体に沿って全面に結界を纏うように張り巡らせる。
勿論、対物理に特化させてだ。
「それでは頭、参りやす……!」
俺のなんちゃってとは違う、本物のスキルに昇華された縮地。
10メートルは離れていた距離が、一気に詰まる。
と同時に、白木の鞘から抜き放たれる銀色の閃光。
俺は纏った結界を頼りに、それでも刃筋を立てられないように細心の注意を払いながら受け流し、それと同時に踏み込んで、二の太刀を継がせないよう即座に反撃に移る。
踏み込んだ足に重心を移し、その重心移動に身体を追随させる。
たたんだ肘をそっと突き出し、力みはせず、飽くまで脱力を意識する。
「シィあっ!!」
うっそん!?
剣が間に合わないからって、頂肘に柄頭を合わせてくるとかアホかっ!?
あ゛あ゛あ゛あ゛!?
雷神拳があっ!ファニーボーンがああっ!!
結界ごと押し込むとかお前バカじゃねえの!?
そしてその反発をも利用して、再びイチに距離を取られてしまう。
左腕が痺れて使えなくなってしまい、俺も下がって距離を置く。
下がりながら足で領域指定しながら土魔法を発動する。
俺が足を離した傍から次々と生えてくる土の槍が、イチに迫る。
「ふんっ!」
自然体から振るわれるイチの刀にそれらは容易く斬り飛ばされるが、俺は指を鳴らして、つい先日開発した【風の円月刃】を20個生成し、即座に放つ。
飛び散る数多の土塊に隠れながら、視認しにくい風魔法で出来たチャクラムが、様々な軌道でイチに襲い掛かる。
それでも。
イチはすべてのチャクラムを斬り落とし、弾き飛ばし、尚且つ間合いを詰めてみせる。
「くっそ、可愛げの無い……!」
思わず舌打ちし、未だ痺れの取れていない左腕を結界で厚く包み、念動も使って無理矢理に曲げる。
間一髪で、イチの振るう凶刃が、俺の左腕に止められる。
「可愛げじゃあ、護りたいモンも護れやしないでしょうや!」
「そりゃその通り、だっ!」
太刀の停まったこの隙を逃すのは不味い。
俺はイチの内膝を刈り払うように下段蹴りを放ち、それを嫌い足を引く彼に更に追い縋る。
構えをオーソドックスからスイッチし、利き手の右でリードストレート、更に引いてからの眼球打ちの鞭打、それも躱されれば返しての小手打ち。
打点を散らし、イチの意識を撹乱する。
所詮は憧れのカンフーマスターの真似事だが、【格闘術】スキルの上位化した【拳の理】によって補正され、鞭のように脱力から放たれる鞭打は、イチの剣閃にも引けを取らない。
さあ、更にテンポ上げるぞ?
拳や掌、指での乱打に加え、次々とステップを踏む足の踏み込みを起点にして魔法を発動していく。
【高速思考】スキルが良い仕事をしてくれるね。
死角から迫る火球や、音と光も厄介な雷撃、足元が突如隆起したり陥没したり……
左腕の痺れもようやく収まって、イチの肩や肘を的確に狙って打撃を加え、太刀を振るう隙すら与えない。
「ぬ、ぐ、あ、あああああっ!!」
不意に拳に伝わる感触が変化する。
重い、パンパンに詰まった砂袋を叩くような、硬い感触。
固有スキルの【金剛】を使ったか!
【金剛】は、その身体を鋼のように変える【身体硬化】スキルとは異なり、あらゆる衝撃・ダメージを無効化して吸収し、己の力へと変換する型破りなスキルだ。
まあ、変換した力を使えるのは、次に放つ一撃のみだが。
俺は反撃に備えて間合いを離そうとする――――が、動けない!?
見ると、イチの眼が金色に光っている。
まずっ!?
ここで固有スキルの【神通力】だと!?
【神通力】は、俺が多様する念動とは違い、空間に干渉するスキルだ。
恐らく俺の周囲の空間を固定して、身動きを封じたんだろう。
まずいまずいまずい!!
考えろ、俺!
イチが次に放つのは、威力も速度も最高の一撃に違いないだろう。
それを身動きを封じられていても防ぐ方法……
ただの結界では力不足だし、土魔法で壁を創ってもそれすら斬り裂かれるだろう。
「くっそ……っ!!」
咄嗟に閃きをイメージとして強化、錬成する。
間に合え!!
「ぜああああっ!!!」
まさに、神速。
振るう手すら視認出来ないほどの速度で、その白刃が振るわれる。
高速思考により引き伸ばされた知覚ですらも、捉えるのが困難なほどだ。
だがしかし、その刃はギリギリで俺には届かなかった。
「これは……!?」
なんとか間に合ったか。
イチの刀を受け止めたのは、結界でも土魔法でもない、水魔法。
俺の目前に浮かんだ、1つのバスケットボール大の水の球だ。
「馬鹿なっ!?ただの水に、止められる筈が!?」
ただの水じゃないんだよなぁ、これが。
この水球には、想像を絶するほどの圧力が掛かっている。
球の中心に向かって水を生成し続けた上で形をこの大きさに保っているんだ。
数トン程度の圧力じゃないよ。
イチの愛刀は、その極限の水圧に絡め取られて、水球の中ほどで押さえ付けられている。
程なくして、固有スキルの【神通力】の効力が切れ、俺の身体に自由が戻る。
「さて、まだやるか?」
その莫大な質量の込められた水球をぶつけても良いし、発射口を付与してウォーターカッターみたいに放っても良いだろう。
いずれにせよ、深海よりも重い圧力を持つ水の猛威は、イチに多大なダメージを与え得るはずだ。
「いえ、参りやした。流石でやす。」
ふう。
途中ヒヤッとしたが、なんとか勝てたか。
最近頻繁に森やダンジョンに行ってるから、かなり腕を上げてるとは思っていたけど……案の定だったよ。
「今度専用の魔法鞄と、予備の武器を用意するよ。武器さえ有れば、結果は判らなかったからな。」
「へい!ありがたく!」
まったく、頼もしい限りだよ、イチ。
「惜しかったのう、イチよ。仇は儂が取ってやるのじゃ。」
次はシュラか。
シュラもなぁ……
ただでさえ恵まれた鬼人の身体能力と闘争本能に、技術まで追い付いてきたもんだから、最近手に負えなくなってきてるんだよなぁ。
しかも膂力バ火力で、結界とか普通に貫通してくるし。
アザミとも手合わせしてるせいで、魔法とか殴って散らすコツまで覚えやがった。
正直言って闘いたくない。
「そろそろ俺も疲れたかなぁ……?」
「嘘を吐くでないわ。まだ魔力もそこまで減っておらぬし、そんな柔な体力しとらんじゃろうが。」
ちっ。
戦線離脱は認められずか。
しゃあない、来いや!
「往くぞ!!」
既にその両拳には魔力が集束されている。
その膂力も相俟って、掠っただけでも大ダメージ必至だ。
シュラに教えたのは、オーソドックスなキックボクシングスタイルだ。
フルコンタクト空手の経験を元に、より実戦的に改良(改悪?)し、禁じ手である急所打ちや肘打ちなども組み合わせてある。
勿論顔面打ちだってあるよ。
だから、むっちゃ怖い!!
序盤はお互いジャブからの間合いの奪い合い。
互いの繰り出す拳を首を振って避け、時に払い、仕掛ける瞬間を探り合う。
徐々に攻防のスピードも上がり、視線や肩、足でのフェイントを織り交ぜながら、目まぐるしく立ち位置を換える。
「ぬんっ!」
出足を止めるローキックからほぼ同時に左のリードストレートで距離を詰めてくるシュラ。
対する俺は結界を纏った脛受けで迎撃し、右肘から先を回転させるようにして左ストレートに絡め、内側に逸らす。
この時腕同士を接触させたままにして、シュラが次撃のために身体を捻るのを阻害する。
しかしシュラは流れに逆らわずに更に身体を回転させ、膂力に任せて俺の手を振りほどきながら、背面から肘を突き出してくる。
俺は手を振られたことにより、一瞬の無防備を晒している。
咄嗟に払われた腕に身体を追わせ、両手を地に着け上半身を深く沈める。
自身にも掛かっている回転運動をそのまま活かし、地を這う姿勢からの変則の後ろ回し蹴りを放つ。
「ぐっ!?なんじゃそれはっ!?」
予想外の軌道でまさかの正面から襲い来る俺の踵を両手でガードし、転がるように距離を離すシュラ。
「今のは躰道っていう空手がベースになった武術の身体操作だよ。カポエイラにも似てるけど、身体の軸を変化させることで、躱すと攻めるを同時に行う技術に特化してるんだ。」
俺も身体を起こして、再び間合いを測る。
「なるほどのう。体軸の変化か……武術という物は奥が深いのう。」
まあ俺はまともに習ったのは空手くらいで、他は全部見様見真似のごった煮の寄せ鍋状態だけどな!
さて、講釈ついでにもうひとつ見せてやろう。
軽快にフットワークを刻むシュラを見据え、腰を深く沈めて身体を捻る。
左に大きく捻った身体を、左足の強い踏み込みで一気に解き放つ。
「のわっ!!??」
5メートルはあった筈の彼我の距離が一瞬で殺され、捻りの解放と共に矢のように伸ばされた右の拳がシュラを襲う。
顔を狙った拳を両腕を立てて辛うじて防ぐが、俺の攻撃はまだ終わらない。
防がれた右手を即座にたたみ、地に力強く着いた右足と同時に、ガードの空いた水月(鳩尾)に頂肘を落とすように突き刺す。
「ぬぐっ……!」
打撃の方向に沿った勁力により身体が浮くシュラ。
逃さぬようシュラの右手首を取り、自身は急速に左回転を描いて左足を踏み込み、腕を掬われているガラ空きの右脇腹に肩と背中からぶち当たる、鉄山靠。
「がっふ……っ!?」
瞬間の3連撃。
間合いを殺す箭疾歩からの打突は防げたが、シュラにはまだ連絡技――コンビネーションの引き出しが足りない。
キックボクシングには無い拳法の動きだが、一度観て、身に受けてみれば、少なからず引き出しを増やすキッカケにはなるだろう。
「ゲホッゴホッ……!やられたのじゃ……なんじゃ今の動きは……」
流石にタフだな。
でもまあ、今のは技を見せるために敢えて体術のみでの攻撃だったからなぁ。
実戦であれば、拳に常に魔法を纏わせたりすればそれだけで威力も桁違いになるし。
「ちゃんと見えたか?シュラはまだ、どうしても単発になりがちだからな。コンビネーションも、これから覚えてみるといいよ。」
近付いて手を貸し、起こしてやる。
「ぬう。分かったのじゃ……」
そう落ち込むなって。
だいぶ粗が取れた、洗練された闘法になってきてるからさ。
あと残るは……
「アネモネ達はどうする?久し振りにやってみる?」
残る仲間達――アネモネ、アザミ、マナエに声を掛ける。
「あたしはいいかなぁ。模擬戦より、魔法のコツを教えてよ、お兄ちゃん!」
マナエは最近、アザミに魔法を習っている。
まあ、ステータスが俺の下位互換であっても、俺のものに準拠するなら、魔法の適性は間違いなく有る筈だしな。
今度ちゃんと観てやるか。
「アザミも大丈夫です、マナカ様。アザミの牙は、マナカ様に向ける物ではありませんから。」
うん、アザミはそう言いそうな気はしてたよ。
でもまあ、現在のアザミの力は知りたくもあるから、今度2人きりの時にでも、俺の稽古とでも言って付き合ってもらおう。
「私も遠慮します、マスター。それに、そろそろお昼の時間です。本日の鍛錬は、ここまででよろしいのではないでしょうか?」
もうそんな時間だったか。
みんなと立て続けに手合わせするのなんて、久し振りだったからなぁ。
つい時間を忘れていたみたいだ。
「それもそうだな。それじゃまた今度、忙しくない時にでも、俺の成長具合を観てくれな。」
ご飯を意識したら腹も減ってきちゃったし、アネモネの言う通りに、今日はここまでにしておこう。
大切な人達を護るためには、どうしても力は要る。
金銭然り、また武力も然りだ。
俺自身の成長無くしては、俺の望みも願いも叶えられない。
特に現在は、俺という命には、沢山の人達の命も懸かっているからね。
大丈夫さ。
外の魔物や悪人だって、シュラの拳やイチの斬撃に比べれば、全然怖くなんかないもん!
アネモネの攻撃を超える恐怖なんて、在る筈がないもんな!!
「マスター?今何か、私に対して失礼なことを考えませんでしたか?」
「イイエ!?トクニハナニモ!!??」
段々と読心術にも磨きが掛かってきているみたいで、焦っちまうぜ……!
これスキルに昇華されたりしないよな……?
まあ、何はともあれだ。
今日のこの後から明日一日は、休息日にしてあるんだ。
引き続きの孤児の保護と移民集め、それから新たに虐げられる亜人達の保護のために、たっぷり英気を養わないとな。
よーし、のんびりするぞー!!
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今話にて、五章完結でございます。
今章は如何だったでしょうか?
是非、ご意見・ご感想をお寄せ下さいませ。
ページ下部の☆にて、評価もお待ちしております。
ブクマもしていただけると嬉しいです!
さて、次話からは間章となります。
登場人物紹介に始まり、サイドストーリーとして様々なキャラクターの閑話を、しばらくお届けする予定です。
「アイツどーなった!?」
「あの子今何してるの?」
などございましたら、是非感想にてお聞かせ下さい。
もしかしたら、間章で活躍が観られるかもしれませんよ?
(*´艸`*)
これからも、主人公共々、応援よろしくお願い申し上げます。
テケリ・リ




