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ダンジョンだからって戦わなきゃいけない決まりはないと思う  作者: テケリ・リ
五章 冒険者パーティー【揺籃の守り人】
89/225

第十二話 その望みのままに。

昨日は更新できず、申し訳ありませんでした。


急な体調不良にて、一日中ダウンしておりました。(´Д`;)


読者の皆様も、体調管理にはくれぐれもお気を付けくださいませ。


m(*._.)m



〜 ダンジョン【惑わしの揺籃】 捕虜収容施設 〜



「アグネス、お邪魔しても大丈夫かな?」


過去にフリオールも滞在したVIPルームの扉をノックして、部屋の主に確認を取る。


すると、部屋の奥の方からパタパタと足音が近付いて来て、向こうから扉を開けてくれる。


「マナカ様!ようやく来てくださいましたのね。」


扉を自ら開けて招き入れてくれたアグネスは、居住まいを正して、綺麗なお辞儀を魅せてくれる。


「お邪魔するよ。その後どうかな?不便なこととかは無い?」


部屋の中に置かれた茶飲みテーブルへと2人で歩き、俺はいつものティーセットを取り出してテーブルに支度する。


「ええ。皆様には本当に良くして頂いておりますし、お食事もどれも大変美味ですわ。お父様の元へ帰るのが、嫌になるほどですのよ。」


そりゃそりゃ。


「過分なお褒めの言葉を頂戴し、恐悦至極に存じまする。」


冗談混じりに、そんな仰々しい物言いで返すと、鈴を転がすようにコロコロと笑う。


「まあ。なんですの、それは。貴方様には、そのような態度は似合わなくてよ?」


「うん、知ってるよ。」


2人で顔を見合わせ、笑い合う。

紅茶のカップを手に取り、アネモネが淹れてくれたお茶を楽しむ。


そんな穏やかな空気が流れる部屋だったが、不意に、アグネスの表情が曇る。


「このお部屋とも、あの街とも、皆さんとも……じきにお別れしなければならないのですね……」


どうやら、俺が何を話に来たのか、薄々には察していたようだ。


「そうなるかな。俺達の準備はもう出来てて、あとは外からの連絡待ちなんだよ。それも、近日中には来ると思う。」


俺達との別れを惜しんでくれるのは、正直嬉しい。


だけど、帰れる家が在るのなら、まずは帰るべきだ。


家柄のしっかりとした貴族なら尚更に。


両親を、安心させてやってほしい。


「そうですわよね。お父様もお母様も、きっと心配して下さっているでしょうから。幸いにも、この身は未だ純潔を保てておりますし……」


相変わらず、彼女の生家であるドットハイマー子爵家から、公に捜索願は出されていない。


これは、拐かされた娘という醜聞による、影響力の低下を防ぐためだろう。


仮に彼女が無事に帰還したとしても、誘拐の事実が漏れると、彼女は既に傷物というレッテルを貼られてしまう。


そうなれば、政略結婚によって、上級貴族との繋がりを得ることは非常に難しくなる。


貴族社会に於いて醜聞――噂とは、それだけ恐れられるものなのだ。


「いっそのこと……マナカ様に傷物にしていただこうかしら?」


ぶほっ!!??


「ちょっ!?何言ってんだよ!?」


危ねぇ!

鼻から紅茶がでるとこだったわ!?


「だって、このまま家に戻ったとしても、きっとお父様によって、親しくもない殿方と結婚する羽目になるだけですわ。それが上級貴族の相手となるか、我が家と同列の下級貴族相手となるかの、そんな違いだけですもの。」


いや、だからってなあ……


「我が身が清廉であろうがなかろうが、どの道わたくしの自由に出来るわけではありませんわ。それでしたらいっそ今の内に、好いた殿方へこの身を捧げても、よろしいのではなくて?」


おいおい。

そんなやけっぱちになるなよ。


「アグネス。自暴自棄になっちゃダメだ。俺を好いてくれるのは、正直嬉しいよ。でもそれは、たまたま俺が君を窮地から救ったからっていうのも、少なからず関係している筈だよ。」


あれだ。

囚われの姫を救った白馬の王子様的な。


いや、誰が王子様だよ。


「落ち着いて、ようく考えるんだ。先ず優先すべきは何なのか?それは、心配するご両親に、無事な姿を見せることだろ?その上で、真剣にお願いしてみるといい。見ず知らずの人には嫁ぎたくないって。なんせこの国の第1王女が既に独立出来ちゃってるんだ。やってやれないことは、無いんじゃないかな?」


それでも。


「だからさ。自分がどうしたいか、どう在りたいのかを、よく考えてごらんよ。一時の感情で衝動に身を任せるのは、そりゃあ良い思い出にもなるだろうけど。俺はアグネスにはそういうんじゃなくて、自分のやりたいことを頑張って、そしていつものように微笑んで(わらって)いてほしいな。」


我ながら酷いことを言っている自覚はあるけど、それでも俺は、この辛い目に遭った少女に、自暴自棄になってほしくない。


「お家のための道具である貴族の娘に、酷なことを仰るのですね……貴方様はわたくしに、お父様に逆らえと、そう仰るのですか……?」


形だけ観れば、そうなるだろう。


貴族家の者にとっては、当主の命令は絶対だからな。


「俺は、アグネスのしたいことを応援する。父親の説得にだって、力を貸すよ。これはきっと、俺の我儘だからね。折角知り合った人が自分を封じ込めて、望んでもいないことをさせられるのは、我慢ならないんだよ。」


だから、出来る限りのことはしよう。


アグネスが変わらずに微笑んで(わらって)居られるように。


彼女の笑顔が、曇らないように。


「……分かりましたわ。わたくし、お父様と先ず話し合ってみます。それでも、どうしようもない時は……どうか、お助けくださいませね?」


「ああ。約束するよ。」


俺とアグネスのお茶会は、その後は和やかに続いた。


その中で確信したのは、彼女が外の世界に、限り無く強い憧れを持っていることと、一所懸命に生きる人達に対して、分け隔て無く慈しみの心を向けていること。


そんな彼女のしたいことなら、俺はきっと、全力で応援することができるだろう。


彼女がこれから、どんな選択をするのか。


今から、楽しみでならない。




〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃(ウィール・クレイドル)】 〜



「あぁん!どのお家も素敵過ぎて、迷っちゃうわぁん♪」


「焦らなくても良いから、ゆっくり決めてくれよ。なんなら、新しく希望の家を創ることだってできるぞ?」


アグネスとのお茶会の後、俺は街に来ていた。


目的は、早々と移住して来たコルソンことコリーちゃん一家の家探しを手伝うためだ。


無理をしてウチの街のギルドに異動して来てくれることへの、お礼も兼ねている。


「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません……」


うん、だからさ。

クローディアさんもそんな恐縮しないでほしいな。


「やっぱりオススメとなると、此処らの商店街の近所か、ギルド近場の中央区辺りになるかなぁ。立地とかで他に希望は有るか?」


コリーちゃんに訊ねると、その肩に座らせた愛娘のクロエを撫でながら。


「そうねぇ。アタシとしては、クロエちゃんが伸び伸び育ってくれればいいのよん。マナカきゅんのお家みたいに、広いお庭があると、嬉しいわん♪」


ふむ。

そうすると、あんまり都心というのもよろしくないかな?


ギルド付近や商店街付近だと、建物が密集しているから、庭付きの広い家となると難しくなるからな。


そうなると……


「教会の近くなんてどうだ?彼処らならまだ入居者も埋まってない筈だし、追々、子供達に簡単な学問を教えていく予定もあるから。孤児院の子供達とも遊べるだろうし、どうかな?」


教会周辺であれば、建物もそこまで密集していない。


長閑な街並みになっているから、生活するにも適しているだろう。


「あら、学舎みたいな物かしらん?家庭のある子供達でも、学べるのん?」


「まあ、託児所のようなイメージかな。子供達は、簡単な読み書きや計算を教えてもらえて、友達も出来る。親は、子供達を預けている間は仕事に専念できるって形にする予定だよ。1人親世帯なんかでも、これなら働けるだろ?」


学校と保育所の間の子って感じだな。


勿論、それ以上のちゃんとした教育機関の創立だって、一応予定してはいる。

まあ、それにはまだまだクリアしないといけない課題が山積みだけどね。


「素敵ですね。そうなれば、多くの女性達も、希望を持てますね。」


女性であるクローディアさんの目線からも、どうやらこの制度は肯定的に見てもらえたようだ。


「あら、クローディア?アナタは無理に働かなくてもいいのよん?アタシがしっかりと働いて、護るからねん♪」


「貴方……」


はいはい。

真っ昼間からごちそうさまです。


そんな夫婦のイチャイチャを見せ付けられつつ、物件の選定を進めて行く。


最終的には、俺が提案した教会付近の土地を気に入ってくれたようで、そこに建つ一軒家を少し改造することになった。


「それじゃ、ちょっと離れててくれよー?」


俺はダンジョンメニューを操作して、改築を始める。


庭を広く、柵で囲んで思い切り遊べるように。


身体の大きなコリーちゃんにも不便が無いよう、内装に余裕を持たせ、家族の団欒がしやすいよう開放的なデザインにする。


子供が増えることも想定して部屋数にも余裕を持たせ、客間や書斎など、家でも仕事が捗るよう、固有のスペースも創る。


よし。

これなら2世帯……仮に3世帯になったとしても、余裕を持って暮らせるだろう。


「どうかな?コンセプトは、孫の世代までも温かく団欒を……ってとこだな。子供が増えても大丈夫なように、二階建ての広い家にしてみたよ。」


目の前で建物がひとりでに形を変えていく光景は、やはり見慣れないものだったようだ。


コリーちゃんを始め、クローディアさんも娘のクロエも、口を開いて固まっている。


「ま、マナカきゅん……本当に、こんな立派な家を貰っちゃっていいのん?」


おいおい。

今更何を遠慮してるんだよ?


「当たり前だろ?俺達に力を貸してくれるだけでなく、こうして移住までして来てくれたんだから。俺からの感謝の気持ちと思って、受け取ってくれよ。」


実際コリーちゃんには無理をさせている自覚はあるしね。

そのお礼とすれば、決して高い贈り物ってわけでもなかろうよ。


建物の中も観てもらう。


大柄なコリーちゃんでも無理なく寛げる広い空間や、将来子供部屋としても使える部屋など、ひとつひとつ説明して回る。


「家具なんかは、職人街にも店が出始めてるから、そっちも見てみるといいよ。どうしても欲しい物が有れば、また俺が創ってもいいしさ。」


どうやら、俺の創った家は気に入ってもらえたようだ。


クロエも興味津々な様子で、あっちこっちの部屋を覗き回っている。


「こんなに素敵なお家を創ってもらっちゃって……マナカきゅん、本当にありがとねん♡アタシ、これからも頑張るわん♪」


「本当にありがとうございます、マナカさん。」


夫婦揃ってお礼をされるが、照れくさいことこの上ない。


「気にしないで。これは、俺からの感謝の気持ちだからさ。引越しの祝いは、また別途計画してるからな?」


茶化すように、誤魔化すように。


俺は2人の視線から逃げるように、クロエを庭に連れ出して、遊び始めた。


この街には、まだまだ住人が足りない。


孤児の保護も、移民団とは別途の募集も、まだ始まったばかりだ。


将来的には、コリーちゃん一家のような、優しい住民が沢山笑顔で過ごす、そんな街を目指したい。


人種差別も無く、子供達が笑顔で暮らせる街。


そんな夢のような光景を、実現させたい。


だから。


「コリーちゃんには、これからも沢山苦労を掛けると思う。クローディアさんやクロエにも、迷惑が掛かるかもしれない。それでも、これからも、力を貸してくれないかな?」


コリーちゃん一家の新居から出る際に、そんなことを訊いてみた。


それに対して、返ってきたのは。


「もうっ!マナカきゅんったら余所余所しいわねん!アタシはマナカきゅんの夢に賛同したのよん?もちろん、全力で力になるわん♡」


「クロエのような子供達の笑顔のためなら、苦労だなんて思いませんよ。私も及ばずながら、夫を支えていきますね。」


猛烈な漢女(おとめ)のハグと、美しい聖女のような微笑み。


俺はベアハッグや鯖折りもかくやといった逞しい腕から必死に抜け出して、また祝いの席を設けることを伝えてから、その場を後にした。


去り際に、親子3人乗っても大丈夫な、白いベンチタイプの大きなブランコを創って置きながら。




空を駆ける。


ダンジョン内の擬似的な空が、茜色に染まり始めている。


眼下に広がる真新しい街並みに、チラホラと住人の姿が行き来する。


より良く発展させたい。


もっと賑やかに、華やかにしたい。


そんな想いと共に、念話を相棒に繋ぐ。


『アネモネ。次の目標を決めたよ。』


俺の働きかけで、既に下地は出来ているだろう。


『はい、マスター。次は如何なされますか?』


頼りになる参謀から、頭の中に返事が届く。


無謀かもしれないけど、やってみなければ分からない。


出来る限りのことをして、やりたいことをやり通すだけだ。


『亜人達も集めよう。獣人やエルフ、ドワーフ、蜥蜴人(リザードマン)も妖精族も、言葉を交わせる色々な種族が、分け隔て無く笑顔で居られる。そんな街を目指そう。』


実際、ユーフェミア王国には差別意識は無い。


しかし、国の方針と個人の思惑は、また別だ。


領によっては明確に差別している場所も在るし、人間よりも動物や魔物に近い姿に忌避感を覚える人も、少なくないだろう。


他国では奴隷として狩られる場合だってある。


そんなイザコザなんかとは無縁な街に、これからしていきたい。


『…………大変な困難が予想されます。よろしいのですか?』


アネモネから、俺を気遣う言葉が返される。


でもそんなのは今更で。


転生した時に誓った『胸を張って生き抜き、死ぬ』ためには、やりたいことをやり通すだけの覚悟と力が要ることだって、承知している。


でも、俺はその力を得られた。


そして、仲間にも恵まれている。


『上等だよ。暫くは、引き続き孤児と移民を集めることにして、それと並行して、各種族についての情報を集めよう。無理矢理じゃあ意味がないし、問題の在る所から、順に当たって行きたいと思ってる。ホントに頼りきりで申し訳無いけど、力を貸してほしい。』


夕焼けに朱く染まる街並みを見下ろして、これからの展望に思いを馳せる。


その街並みに、様々な種族の者達が行き交い、談笑する光景を幻視する。


『かしこまりました。私は、マスターのお望みのためでしたら何も問題御座いません。夕餉の際にでも、皆にも話されると良いでしょう。』


『ああ。アネモネ、いつもいつも、本当にありがとう。』


そんな心強い言葉をくれるアネモネに、俺は深く感謝する。


仲間達は、どんな反応をくれるだろうか?


フリオールなんかには、また呆れられるかもな。


それでも、なんだかんだで力を貸してくれる気もするのは、信頼関係が出来上がった証なのかな?


『それじゃ、そろそろ帰るよ。なかなかノンビリは出来ないけど、一家団欒は大切だもんね。』


『はい、マスター。美味しいお食事を用意して、お待ちしておりますね。』


夕焼け空と共に暮れる街。


俺が創って、俺達で育てている、みんなの街。


そんな街を後にして、俺はノンビリと、帰路に着いた。




なんだか、特に動きもなく、長閑な光景を描くのも、やはりそれなりに難しいものですね。


真日さんも、折角のほのぼの回だというのにあちこち動き回っております。


いや、もっとほのぼのしてくれて良いんですよ?



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