第六話 何があっても、どんなことをしても。
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どうぞ、よろしくお願いします。
※注意※
今回のお話は、中々に胸糞悪いと思います。
お心構えを、お願い致します。
m(*._.)m
〜 ユーフェミア王国 ケイルーンの町 孤児達の小屋 〜
孤児達の穏やかな寝息が立つテントを出て、町を眺める。
正直、俺のハラワタは煮えくり返っている。
何者かに暴行を受けた少年を治療し、孤児達の元へと連れ帰って来た時は、モーラ以外の子供はみんな寝ていた。
モーラは不安に押し潰されそうになりながらも、一所懸命に弟達に毛布を掛けてやったり、グズる子をあやしてやったりしていたそうだ。
俺と少年が帰るとすぐさまテントから飛び出して来て、俺が抱えていた少年に「お兄ちゃん!」と縋り付いた。
俺は怪我はもう治ったことと、今は魔法で眠らせているだけだからと安心するよう伝えて、モーラと一緒にテントに入った。
少年を横たわらせて毛布を掛けてやり、他の子達の肌けた毛布も直してやったりしていると、モーラは緊張の糸が切れたのか、兄と呼んだ少年の傍らで眠ってしまった。
心配掛けてごめんな。
不安で、心細かったよな。
俺はモーラにも毛布を掛けてやり、起こさないようにそっと、外へ出た。
これでこの孤児グループの子供達は、お姉ちゃんと呼ばれる1人以外は此処に集まった。
出来れば早急にお姉ちゃんも探し出して保護したいが、如何せん俺はその子の外見特徴を知らない。
聞き出そうにも起こすのも偲びないので、今はアザミとシュラが上手いこと、情報を持ち帰ることを期待して待つのみだ。
「クソが。」
思わず毒を吐く。
長閑な町だと思っていたが、一皮剥けばこれかよ。
少年が倒れていた路地裏は、表通りからは決して見えない場所だった。
周囲に人気も店も無かったことから、態々そこに連れ込んで暴行したことが判る。
明らかに手馴れている。
衝動的に殴り倒したとかじゃあ、決してないだろう。
いや、もしかしたら有るかもだけど、態々2本も奥に入った場所だ。
前者の可能性の方が高い。
『アザミ、シュラ。首尾はどうだ?』
苛立ちながら、仲間に念話を飛ばして状況を訊く。
『主様よ、頭を冷やせと、儂は言ったのじゃがなぁ?』
先ず返ってきたのは、そんな呆れたようなシュラの声。
『冷えてたよ、ついさっきまでな。んで、今また煮え立ってるところだ。』
負け惜しみするように、そんな言い訳を返してやる。
『やれやれ。主様は家族と童のこととなると、ほんに沸点が低くなるのう。』
『シュラ、戯れはその辺りで。マナカ様、必要な情報は一通り揃いました。お急ぎであれば、このまま報告しましょうか?』
アザミも念話に混ざってくる。
どうやら俺の頼んだお使いもまとめて済ませてくれたようだな。
『いや、情報が揃ったなら直接聴こう。こっちに合流してくれ。』
俺は念話を終え、テントの入口からそっと中を覗き見る。
うん、みんなぐっすり眠ってるな。
仲間を待つこと数分。
良く見知った反応が2つ此方に向かって来ているのを、感知スキルが拾う。
帰って来たか。
「お待たせしました、マ……クレイ様。」
「待たせたのう。子らはどうしたのじゃ?」
「今はテントの中でみんな寝てるよ。さっきの少年以外はみんな風呂に入って飯も食ったから、満腹で疲労がどっと出たんだろ。」
俺は2人を出迎え、早速成果を訊く。
「それで。あの子を暴行した奴については、何か判ったのか?」
そんな俺に対し、直接依頼したシュラではなく、アザミが答えた。
「どうやら、点と点が繋がったようです。聴き込み等の結果、その少年を害した者は、クレイ様が追っている者の手先のようでした。」
まあ、街までいかないくらいの町だし、広さと人口からして、黒幕が被るのも分からないでもないな。
「まず、少年を襲った人物は、この町周辺を縄張りとする人攫い達です。対象は主に女性で、少女も含みます。獣人等の、俗に亜人と呼ばれる者達は、特に積極的に狙っているようですね。」
「なるほど。で、そいつらの元締めが、例の商人か。」
頭の中で相関図を描き出す。
俺達が追っている例の商人とは、先日討伐した盗賊団と取り引きをしていた、裏の商人のことである。
盗賊団を引き渡す前に尋問し、取り引き先やらなにやら、色々と情報を引き出しておいたのだ。
そもそもあの【黒縄蛇】だかっていう盗賊団も、謎が多い奴らだったからな。
まるで国軍の動きを知っているかのように隙間を突いて襲撃を繰り返していたし、盗賊のクセにやけに統率の取れた動きや、巧妙に消された足取り。
何より目を引いたのは、他の都市や町村に轟く悪名が、ここら一帯ではかなり下火だったこと。
他領のギルドでは手配書が出回っているのに、この町近隣では不自然にそれが少ない。
絶対何か有るべ、と襲撃してみたら、やはりビンゴだった。
アジトを襲撃したその日の数日後には、その裏の商人と取り引きの予定があったらしい。
このことから考えられるのは、その商人がかなりやり手で盗賊団を抱き込んでいることと、それより上位の町の権力者……或いはもっと上の存在が絡んでいる可能性だ。
アネモネの能力で遡って調べてみれば、襲われたのは他領の商隊や旅人、冒険者ばかりで、こっちの領の関係者への襲撃はほぼ無いという事実。
これ絶対黒幕居るよね?
軍の動きを知り尽くし、打ち捨てられ余人には知られていない廃砦を根城にし、的確な戦略で他領関係者ばかりを襲い、取り引き相手の商人が出入りしている。
明らかに町か領の有力者が絡んでいる。
と、そこまでの結論に至った俺は、アザミにこの町で情報収集をさせていたという訳だ。
その調査で裏を取ったら、なんとあの子に暴行した奴らに繋がった、と。
ってか、その商人……人身売買まで請け負ってるのかよ。
そういや捕らえた女も順に売ってるって幹部の野郎が言ってたな。
「あの少年はどうして暴行されたんだ?別に関わりを持ってた訳じゃないんだろ?」
気になってたことを訊いてみると、アザミは何故か言い淀む。
言って良いかどうか悩んでいるような感じだ。
そんなアザミに業を煮やしたのか、シュラが後を引き継いだ。
「冷静に聴くのじゃぞ、主様よ。あの童は、連れ合いを守ろうとしてそ奴らに逆らったのじゃ。故に、ああなった。」
は?
ちょっと待てよ。
それじゃあ……
「……一緒に食糧を集めていた少女が、狙われたそうです。その少年は彼らに抵抗し、暴行されました。そして……」
「女の子は、連れ去られたって事だな?」
説明を補足したアザミに、問い質す。
「……はい。抱えて連れ去られる少女を見たと、複数の目撃者が居ました。暴行を受けた少年と、よく共に行動していた少女だ、とも。」
巫山戯やがって。
目撃者だ?
見てたなら助けろよ。
我が身可愛さに見て見ぬふりしてたんだろうがよ。
「女の子の特徴は?連中のアジトは?」
「女子の外見はよう分からんのじゃ。身体の割に大きな、まんととやらを、頭まですっぽり被っておるらしくてのう。」
「拠点はこの町の北部、娼館の集まる区域です。」
「商人との繋がりの証拠は?」
「申し訳ありません。まだ、そこまでは……」
「いや、いい。どうせ潰すんだ。潰してから探そう。今日中に裏まで辿り着くぞ。」
道端で、ボロボロになっても必死に物乞いをしていたモーラの姿が脳裏に浮かぶ。
兄や姉が働いていてもそれでもと、泣き言も言わずに自ら食い扶持を稼ごうとしていた。
ガリガリの身体に、ボロボロの衣服を纏って、靴さえ履かずに。
クソが。
どうしていつも、身勝手な大人のせいで割を喰うのは子供なんだ?
その上どうして、あの子達が二度も家族を失わなきゃならない?
上等だよクソッタレが。
たとえ木っ端な下部組織だろうが、ソイツら唆して甘い汁吸ってるクソ野郎まで、絶対に辿り着いてやる。
俺はテントに戻り、子供達全員に睡眠魔法を少し強めに掛ける。
これで俺が解除するまでは、夢の中だ。
続けてテントを結界で包み込む。
普段の倍以上の強度を持たせ、悪意を感知し守護者を召喚する罠も仕込む。
「行くぞタマモ、ウズメ。次にこの子達が起きた時は、家族が全員笑顔になる時だ。」
俺はウズメを抱え、タマモと共にケイルーンの空へと舞い上がった。
《※※※視点》
どうしてこんな事になっちゃったんだろう……
アタシはいつも通りに、家族が食べる物を集めに、ラッカ兄さんと町中へ出掛けていただけなのに。
『男のガキには用はねぇ。俺らが欲しいのは、そこの兎のメスガキだけだからよぉ。』
アタシはいつもマントを被って物乞いしていた。
病気で見せられないって言い張れば、可哀想って大人達は多めに物をくれたし、何よりこの耳と尻尾を隠していたかったから。
アタシは兎の獣人一家の一人娘だ。
両親は旅をして歌を唄ってお金を稼ぐ、吟遊詩人だった。
アタシは父さんの歌と母さんのリュートが大好きだった。
いつでもあちこちの町を旅して、時には野営もしてた。
そんな野営をしていたある日、アタシ達は盗賊に襲われた。
父さんが盾になって、アタシは母さんに手を引かれて逃げた。
でも、大きな川で追い付かれて。
母さんは大事なリュートをアタシに抱かせると、川に突き落とした。
アタシは必死に、浮かぶリュートにしがみついて、流されて行った。
父さんと母さんがどうなったのかは分からない。
それから岸に流れ着いて、兎に角歩いた。
母さんの大事なリュートは、重かったから捨ててしまった。
そうして歩いてたら冒険者達に拾われて、一緒に町を目指した。
でもその日の晩にたまたま起きたアタシは、冒険者達の話す声を聴いてしまった。
兎獣人なら高く売れるって、そう言ってた。
アタシは野営地で頭を隠せる大きなマントを盗んで、そこからコッソリ逃げ出した。
それからは止まらずに、お日様で辛うじて方角を確かめながらずっと歩いた。
頭は盗んだマントでずっと隠してた。
耳も尻尾も隠していれば、人間と変わりないから。
そうして、この町に辿り着いた。
そこで出会ったのが、ラッカ兄さんやモーラ達……アタシの新しい家族。
その日からは、昼間はマントを被ってラッカ兄さんと物乞いをし、夜はボロボロの小屋でマントを弟達に掛けてやって、みんなでひと塊になって眠った。
マントを外すのは小屋だけだったのに。
どこで兎獣人だとバレたんだろう。
マントを被っていたのに、大きい怖い男達に囲まれて、連れて行かれそうになった。
『エリザを離せよ!!』
そんなアタシを、ラッカ兄さんが守ろうとしてくれた。
アタシを捕まえた男の腕にしがみついて、噛み付いた。
男達は怒って、ラッカ兄さんとアタシを路地裏まで連れ込んで、それで……
アタシの目の前で、ラッカ兄さんは男達から酷い暴力を受けた。
最後には頭から血を流して、ぐったりして動かなくなった。
アタシはただ怖くて、ラッカ兄さんが酷いことされてても泣くことも出来なくて。
『おい、人がこっちに来る。そろそろ戻るぞ!』
動かなくなったラッカ兄さんに手を伸ばしたけど、そのまま抱えられて、ここまで連れて来られた。
アタシ、これからどうなっちゃうのかな……
怖いよ……
ラッカ兄さん……モーラ……みんな……
「おうなんだよ?随分大人しいじゃねえか?」
顔を膝に埋めてたアタシに、男の声が降ってくる。
でもしょうがないじゃない。
アタシには何もできない。
こんな小さな身体で、大きな男達に敵うわけがない。
「あん時は、俺のマントを盗むくらいお転婆だったのによぉ?」
「!!??」
思わず顔を上げる。
そこに居たのは、あの日アタシを拾った、アタシがマントを盗んで逃げ出した時の……あの時の冒険者だった。
「てめぇのおかげで、あの夜は寒かったぜぇ?風邪でも引いたらどうしてくれんだ、ああん?!」
ガチャンッと、アタシを閉じ込めている牢屋の鉄の棒を蹴る男。
「ギャハハハ!おめぇがその程度で風邪引くタマかよ!?」
こいつもその時居た冒険者だ。
こんな、人さらいが冒険者だなんて……!
悔しくて、歯を食いしばっても涙が出てくる。
あの時だけでも、こんな大人を信じたアタシ自身に腹が立つ。
「おうおう、良い顔すんじゃねえの。でもよぉ、泣いたくらいじゃ俺の腹の虫は収まんねぇぞ?」
「おい、一応商品だぞ?あんまり手荒なことすんなよ?」
「何言ってやがる!俺のマントを着けてたおかげで、あん時のガキだって判ったんじゃねぇか。だったら、俺のおかげってことだろぉ?!」
それでか。
このマントをずっと使ってたせいで、バレたんだ。
つまり、アタシのせいでラッカ兄さんは……
「って訳でよぉ。おめぇが売りモンになるかどうか、俺がたっぷり調べてやるよぉ!」
「出た出た……ほんとおめぇは変態だなぁ。そんなチンチクリンに良くおっ勃つもんだわ。」
なに?
なにをされるの!?
いやだよ!
怖いよ!!
「誰か……ラッカ兄さ………!」
ああ、そうだった。
ラッカ兄さんはコイツらにやられてしまった。
アタシの、せいで……
生きてるかなぁ……
死んじゃってないよねぇ……?
涙で前が見えない。
でも、いいや。
怖い男の顔が、見えなくなったから。
「父さん、母さん……みんな……」
男が牢屋の扉を開けて、中に入って来たみたいだ。
アタシには、顔を逸らして、何も見ないようにすることしかできない。
「そうそう、いい子にしてろよぉ?そうすりゃ、せめて気持ち良くしてやるからよぉ!」
ゲラゲラと笑いながら、アタシに近付いて来る。
アタシのすぐそばに立って、何かカチャカチャと音を鳴らしている。
「俺をコケにしやがった、おめぇが悪いんだからなぁ?」
男の手がアタシの髪の毛を掴んだ。
「ひうっ!?」
痛い!怖い!
でも、その時。
「あんだてめぇらあぶらっ!?」
「てめぇこのやろうぶおあっ!!?」
「てめぇらこんなことしてタダでえぶしっ!!??」
部屋の外かな……
沢山の男の人の大声が聴こえてきた。
それと、色んな物が壊れるような大きな音も。
その音と声は、どんどんこっちに近付いて来るみたいだった。
「あんだぁ?おい、ちょっと様子見てこいや。」
アタシの髪の毛を掴んだままの男の声。
「はあ!?俺かよ!?ったく、しょうがねぇなあぎゃあっ!!??」
それに答えた男の声は、ものすごい音に邪魔されて、最後まで聴こえなかった。
代わりに聴こえてきたのは。
「居たな、モーラの姉ちゃん!救けに――――」
大きな違う声。
だけど、今までに聴いていた男の人の声より、ずっと優しい声だった。
でも、その声は途中で止まって……
「おい、そこのゴリラ野郎。モーラの姉ちゃんに何してやがんだ?」
同じ声の筈なのに。
とても、とても冷たくて、凍えそうになるような声。
「な、なんなんだ、てめぇは!!??俺らに襲撃なんぞしやがって、どういうつもりだこらっ!?」
い、いたいっ!!
アタシの髪が強く引っ張られる。
痛いよ、ヤダよ……!
たすけてよぉ……!!
「うるっせぇ!!その子に酷ぇことしやがって、兄ちゃんにも怪我させやがって……生きて此処から出られると思うなよこのクソ野郎があああっ!!!」
痛いのを我慢するアタシの耳に聴こえてきたのは、そんなとびきり大きな声と、大きな音と、アタシの髪を掴んだ男の、泣いて喚くような大きな声だった。
自分の書いた話の展開に、耐えられない……!
ほのぼのしてよぉ、真日さぁん……
.˚‧(´ฅωฅ`)·˚.




