第一話 こんな所に置いたままにしとくから、悪用される。
遅くなりました。
本日より、五章の始まりでございます。
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〜 ユーフェミア王国 とある山中の廃砦 〜
「そんでよう!そん時のアイツらの面ときたらよぉ!!」
「ぎゃはははは!!んだよ、それ!?なっさけねぇ!!」
打ち捨てられた廃砦に、野卑た笑い声が響く。
元は王国の領土を護るために建てられたその砦は既に朽ち果て、隙間風が遠慮なく吹き込む荒れ様だが、笑う彼らにとっては、絶好の隠れ家であった。
「これで今月何箇所だったっけな?」
「今月だけで6箇所だよ!お頭様様だぜ!」
「おうよ!今のお頭になってから、負け無しの失敗無しだ!商品の捌き方も足が付かねぇから、安心だしよお!!」
「あー、そういや仕入れがじきに来るんだったか?そんじゃ今の内に楽しまなきゃなあ!?」
商品、仕入れ……
隠語だろうか。
とても商人の類には見えそうもない、粗雑さが目立つ簡素な平民の衣服。
その傍らには、脱いだ使い古された皮鎧や簡単な造りの金属鎧が、乱雑に置かれている。
錆や刃毀れの目立つ刀剣、粗末な弓矢、手斧や長槍など……
どう観ても堅気ではない武装集団である。
「バカおめぇ、今夜はお頭が楽しむ日だろうがよ。戦利品に手を付けるのは、お頭からって掟だろ。」
「おっと、そうだったそうだった!いやあ、でもちゃんと俺らにもお零れをくれるんだから、ホント良いお頭に巡り会えたもんだぜ。」
「違ぇねえ!」
「今回は6人も女を攫えたからな!お頭のお気に入りさえ出なきゃ、今までの収穫と併せて選り取りみどりだぜ!!」
再び上がる笑い声。
その開けた大部屋には、総勢で100人程の男達が、思い思いに酒を酌み交わし、粗末な料理を口に放り、戦勝と収穫に思いを馳せていた。
所変わって廃砦の2階奥。
そこには、男達の中でも幹部クラスの者が屯する部屋が在った。
「そんで?今回の収穫はどうだったよ?」
「まずまずの実入りだな。捕らえた女が6人に、食糧、武器防具、金目の物……仕入れの裏商人に換金させりゃ、向こう3ヶ月は安泰だぞ。」
「俺らの報酬はどうなる?」
「それもお頭と交渉済みだ。俺ら幹部には、今までのお気に入りから1人ずつくれるってよ。売るなり使うなり、育てるなり好きにして良いってことだ。」
「そりゃ豪気だ!」
「お頭のお気に入りは別格揃いだからな!」
どうやらここでも、男達が戦利品の皮算用をしているようだった。
幹部達は10人。
大部屋で犇めいていた男達とは、衣服も、装備も、口にしている酒や食糧までも、雲泥の差であった。
「しっかしお頭も、何処であんな裏商人と繋ぎを得たんだか。」
「そもそもお頭が不思議だろ?的確な戦術と言い、国軍の配置も熟知してることと言い、一体前は、何処で何をしてたんだろうな?」
「おい、詮索は掟破りだぞ。お頭の耳に入ったら、殺されるぞ?」
「おっと!悪ぃ悪ぃ。今のは聴かなかったことにしてくれや。」
「ったく。口が軽いと早死にするぞ?」
「だから悪かったって。」
そう言いつつ笑い合い、酒や肴に舌鼓を打ち談笑する幹部達。
時刻はまだ宵の口。
彼等の酒宴は、まだまだこれからのようだ。
廃砦の最上階、最奥の部屋。
元は砦の指揮官の個室であろう広い部屋には、1人の男の姿。
均一に鍛え上げられた無駄の無い肢体には、研ぎ澄まされた刃のような鋭い雰囲気を纏っている。
そんな男は、部屋の壁の一面に向いていた。
そこには、今回の襲撃の戦利品――鎖に繋がれた女達が6人、並べられ、一糸纏わぬ姿で座らされて居た。
女達と言っても、上は妙齢の色香に溢れた美女から、下は10歳程のあどけない少女まで、その身形も年齢も種族も多様だ。
女達は一様に憔悴し切っている。
彼女達は、この廃砦を根城にする盗賊団【黒縄蛇】に襲われた商隊の者や、その護衛に就いていた冒険者達であった。
何れも家族や仲間を殺され、この廃砦へと連れて来られたのである。
抗う意思が既に挫かれてしまっているのも、無理のないことであった。
「人間が3、獣人が2、それにエルフが1か……エルフがこの辺に居るのは珍しい。俺もまだエルフのコレクションは持ってなかったしな。」
そう言って、1人の女に近付く男。
手に持った鞭の柄で、女の顎を持ち上げ、顔を上げさせる。
その整った人形のような美貌を嫌悪に歪め、男を睨み付けるエルフの女。
「くくっ、良いな。気が強い方が調教のしがいがあって楽しいからな。精々良い声で鳴くことだ。」
愉悦に満ちた歪んだ笑みを口元に湛え、男はエルフの女から離れる。
「先ずは身を綺麗にしてやろう。それから、たっぷりと味わい尽くしてやる。おい。」
そう言って室内の一角に向き、声を掛ける。
そこには、首輪を嵌められた十数人の女達が、衣服としての意味を為していない透けた薄布を身に纏って、湯を用意して待機していた。
彼女らの瞳には光は無く、身綺麗で健康そうに見えるものの、生気が感じられない。
彼女達は、度重なる男の調教によって、ただ従順に命令に従うよう教育された、奴隷であった。
奴隷の女達が湯と布を持って、新たな奴隷候補の女達へと近付いて行く。
彼女達の主が楽しむ前に、この捕らえられた女達の身を清めるためだ。
湯を湿らせた布で、囚われの女達がその身体を拭かれていく。
抵抗しようにも、四肢を繋いだ鎖に阻まれ、数人掛かりで抑えられ。
顔、胸、下腹、股間と、隅から隅まで丁寧に、執拗に清められてしまう。
一人一人丁寧に、時間を掛けて、その作業は続けられた。
〜 廃砦外 森の木陰 〜
「以上が、内部の様子です。見張りは各所に2名ずつ。地下牢には、残りの女性達が監禁されて居ます。男性の虜囚は居ませんでした。先程見張り番の交代が行われましたので、暫くは動かないかと。」
「ありがとう、アザ……タマモ。偵察お疲れ様。」
俺達の待つ場所へと戻り、固有スキル【変幻】を解いたアザミ――タマモが、蝙蝠からいつもの美しい獣人の姿に戻る。
「それで主様……クレイよ、どう攻めるのじゃ?」
もう1人の仲間であるシュラ――ウズメが、今後の動きを確認してくる。
「最優先は首領の部屋だな。暗闇に乗じて踏み込む。先ずは見張りを消して、雑魚を結界で封じ込めて無力化する。そこで別れて、ウズメは地下牢に向かい女性達を解放して待機。タマモは幹部連中を抑えてくれ。俺は首領を生け捕りにしたら合流するよ。幹部も出来れば生け捕りにしてくれ。情報を聴き出したい。」
ざっと頭の中でシュミレーションして、救出作戦を2人に伝える。
まさか、俺達が襲撃を計画していた盗賊団が、その当日にお仕事をするとは思わなかったなぁ。
当初の計画は白紙となり、新たに捕らえられて来た女性達も視野に入れた計画を練り直す。
聞けば新たな女性達は手篭めにされる間際だという話だ。
多少手荒くとも、急いで助けてやらないといけない。
「正面からは俺とウズメが。タマモは窓から直接幹部の部屋に。女性達を確保するまでは、絶対にバレるなよ?」
「うむ、承知したのじゃ。」
「分かりました、マ……クレイ様。」
うん、まだ偽名に慣れないよな。
俺もです。
先だって冒険者に成ってから、活動中は偽名で呼び合うこと、主従ではなく仲間として接することを徹底しようとしているが、なかなか慣れませんがな。
既に2週間程経っていても、未だに普段通りに呼びそうになる。
「よし、先ずは外の見張りだな。」
そう言ってから、俺の持つ感知スキルを総動員し、全力で探査する。
砦内部に固まって存在する反応が4つ。
1つは雑魚達。
こいつらが一番多く、広い大部屋に固まっている。
1つは幹部達か。
2階に10人の反応が固まっている。
1つは地下だな。
これが捕らえられている残りの女性達と、その見張り番だろう。
そして残る1つが、最上階の3階、一番奥だ。
俺はそれらを一旦意識から外し、砦の外周のみの反応へと切り替える。
2人1組になって、止まっている者や、歩いて巡回をしている者も居る。
砦の外周の見張り番は、全部で24名か。
それらの探査結果を元に、魔力を練り上げる。
付与する属性は、土と風。
親指程の礫弾に風を纏わせ、それを24個宙に浮かべ。
「全部同時に仕留めるぞ。【追尾小弾頭】!」
一斉に空へと射出した。
撃ち出された礫弾は一気に上空へと昇り、拡散。
探査で得た見張り番達の頭上から、真っ直ぐに撃ち込まれる。
頭蓋を砕き貫いたそれらは勢いを失い、それぞれの身体の内部で停まった。
同時に感知能力から生命反応が消える。
「よし、見張りは終わった。行くぞ!」
俺は2人に声を掛け、廃砦へと乗り込んだのだ。
《ウズメ(シュラ)視点》
鮮やかなものじゃのう。
主様――クレイの固有魔法により、見張りに出ていた盗賊共24人は同時に消され、儂らは砦の内部への潜入に成功した。
儂の感知能力には、入ってすぐの広い空間に100人程の反応が引っ掛かる。
そこへ今度は、睡眠魔法をぶち込み、問答無用で無力化する。
盗賊風情が主様――クレイの魔法に抵抗など出来るはずもなく、皆一様に、異変を感じることも出来ずに眠らされたわ。
更には広間の出入口と窓を総て結界で塞いで、封印してしもうた。
これで雑魚の乱入は防げるじゃろうの。
「ウズメ、地下は向こうだ。気を付けろよ?」
そう言ってクレイが指し示す方には、地下へと続く階段が在る。
斯様な雑魚共相手じゃのに、心配してくれるのかえ?
まったく、過保護な主様じゃのう。
「任せておくのじゃ。退屈せぬよう、早う迎えに来るのじゃぞ?」
そう言って心配性な主と別れて、地下へと下って行く。
地下1階に降り立った儂は、再び感知スキルを使用する。
地下の空間の一番奥に、固まるようにして集まっている……15人の反応。
その手前に、3人程が固まって止まっている。
耳を澄ますと、微かに反響した男の声が聴こえる。
「ついてねぇよなぁ。上じゃ戦勝の宴だぜ?そんな時に牢屋番なんてよぉ。」
「しょうがねぇだろ?順番なんだからよ。」
「そうそう。ボヤくと余計惨めだぜ?」
どうやら手前の3人が、見張り番で間違いなさそうじゃな。
儂は迅速に事を為すべく、体内で魔力を循環させて身体能力を底上げする。
そして、階段の物陰から一気に躍り出る。
「うるせぇなかぺっ!?」
「ぎゃっ!!??」
「うがっ!?」
話に夢中じゃった男達は、儂の襲撃に気付く間も無く首を折られ、殴り飛ばされ、肺腑を踏み抜かれ、沈黙する。
そのままあの世で談笑しておれ。
そして、男共の持ち物を漁り、牢屋の物らしき鍵束を見付けると、奥へと足を進める。
そこには、牢に押し込められ、身を寄せ合うようにして固まっている15人の女子達が居った。
「心配せんでも良いのじゃ。儂は冒険者のシュ……ウズメじゃ。お主らを此処から救い出しに来たのじゃ。」
言いながら、鍵穴に合う鍵を探す。
ガチャリ、と金属の乾いた音を立て、牢の扉が開かれ、儂は中へと入る。
女子達は儂を見上げはしたものの、すぐに動こうとはしなかった。
《タマモ(アザミ)視点》
マナカ――クレイ様達と外で別れて、私は再び蝙蝠へと【変幻】して、砦の2階にある幹部達の集まる部屋の窓へと辿り着きました。
外の見張りは既にクレイ様によって討ち取られています。
有り体に言って、素敵でした。
ただの一度の魔法の発動で、音も無く24人もの見張りを抹殺したのです。
流石はマナ……クレイ様です!
そしてアザミ……いいえ、冒険者の活動中はタマモでした。
タマモは、幹部達を召し捕るよう命じられ、この部屋へと直接赴いたのです。
部屋の中では、相変わらず10人の男達が、酒を酌み交わしながら話に花を咲かせています。
さて、どうしたものでしょうか。
タマモには、クレイ様のような柔軟性に富んだ魔法は使えません。
一挙に突入して制圧しても良いのですが、それでは戦闘音で首領に気付かれる恐れがあります。
ふむ。
ここは、再びスキルの出番ですね。
先ずは部屋の外の壁に取り付き、【変幻】を解きます。
そして土魔法を静かに掛け、窓の脇に足場を創りました。
中の幹部達に気付いた様子はありませんね。
足場に降り立ち、再び【変幻】スキルを使用。
変化するのは、主のダンジョンの海原で、その歌を以て状態異常を仕掛けてきた魔物――マーメイド。
……胸を覆う物が無いじゃないですか!?
長い髪で辛うじて隠れていますが、今が夜で良かったです。
ああ、恥ずかしい……
マーメイドの【歌唱魔法】という固有スキルを使用する。
歌声に様々な支援効果を乗せるスキルです。
歌声自体は部屋の中に届く程度の大きさに絞り、睡眠の効果を乗せて流し込みます。
1人、また1人と、部屋の中の男達が眠りに誘われ、机に突っ伏したり、床に転がったり。
「んだあ?やけに眠いぜ……それに、歌声……?」
様子を伺っていると、1人の男が頭を振って立ち上がりました。
不味い。
どうやら抵抗されたようです。
すぐさま【変幻】を解いて、部屋へと飛び込みます。
「んなっ!?お、おんな?!」
驚きに声を上げる男。
ですが、それ以上喋らせません!
着地と同時に掌に雷属性の魔力を湛え、男に肉薄。
心臓付近の胸に掌を押し当てて、魔力を解放します。
「あがっ!?――――」
電流によるショック状態となり、男は気絶しました。
部屋を見回します。
歌声で眠った男が9人と、倒した男。
幹部クラスの男達の無力化に、成功しました。
懐から魔法鞄を取り出し、ロープを用意します。
手早くロープで男達全員を拘束し、大声を上げないよう、室内に在ったベッドのシーツを切り裂いて、口に噛ませて猿轡にします。
これであとは、首領の男と周囲の女性達。
それと、地下の女性達の救出ですね。
マナカ……クレイ様はきっとご無事でしょうが、シュラ――ウズメは大丈夫でしょうか……?
《クレイ(真日)視点》
さて、雑魚共の封印は完了。
シュラ――ウズメも地下へと向かわせた。
地下の見張りはどうせ雑魚だろうから、ウズメが手加減する必要も無い。
幹部達は出来れば生け捕りにして、情報を得たいからタマモ――アザミに任せたし、問題ないだろう。
俺は、足音を立てないために飛行魔法を使って、砦の最上階を目指す。
途中2階で、幹部達の集まる反応を拾ったが、タマモの反応が部屋に飛び込んだのを確認したので、そのまま通り過ぎる。
3階。
通路の一番奥に、首領と女性達が居る部屋が在る。
その途上に2つの反応があるな。
首領の守護役ってところか?
扉の両脇に控えて居るようだ。
俺は感知スキルをフルに使って、空間を把握。
結界をピンポイントに張り、2人の守護をその内側に閉じ込める。
続けて風魔法で結界内部の酸素を抜く。
遮音効果のある結界の内側で、2人が藻掻き苦しみ、やがて窒息して動きを停めた。
俺はそのまま進み、結界を解いて2人を廊下に横たわらせる。
さっきもだけど……
犯罪者相手とはいえ、人の命を奪うのは、やっぱり慣れないな。
仲間達には甘いと言われるかもしれないが、魔物を殺すことにようやく慣れてきたばかりだからなぁ。
楽しむのは勿論ダメだろうけど、こうやっていちいち感傷に浸る必要が無くなるのは、一体いつになることやら。
頭を振って無理矢理思考を切り替える。
俺の感傷は後回しだ。
早く女性達を助けてやらないと!
再び感知スキルを使用すると、1つの反応に、引き摺られるようにしてついて行く反応が見えた。
そのまま部屋の奥へと、突き飛ばされた?放り投げられた?
そこにもうひとつの反応が、重なるように……
「――――!!」
躊躇なんか要らない。
問答無用で扉を蹴破る。
扉の破片と破砕音が室内に撒き散らされ、俺はそれに紛れて部屋へと突入する。
部屋の奥――ベッドの上には、組み伏せられ暴れる女性と、突然の騒音にこちらを驚愕の眼差しで振り返る男の姿。
即座に結界を展開。
男の目に見える部分――両腕を結界で包み込み、そのまま念動で結界を動かしてベッドから引き摺り降ろす。
続けて両脚も結界で固定し、床に磔にする。
「がはっ!?な、なんだ貴様は!?俺を誰だと思ってやがる!?」
喚く男に近付いて、俺は気絶する位の力加減で男の腹を踏み抜く。
「ぐぶっ!!??」
男はくぐもった声を上げて、そのまま白目を向いて意識を失った。
「下衆野郎の名前なんざ、知りたくもねぇよ。」
こうして、俺は盗賊団の首領を無力化することに成功した。
『アザ……タマモ。こっちは終わった。女性達の保護を手伝ってくれ。ウズメはそのまま女性達の守護を頼む。こっちが片付き次第、迎えに行く。』
念話で仲間2人に指示を飛ばして、俺は室内に居る女性達へと、向き直った。
第五章突入しましたね。
真日さんの冒険者ライフが開幕です。
え?
ほのぼのどこ行ったって?
ほのぼのするために頑張ってるんです!
頑張れ、真日さん!




