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閑話 一番弟子の日常。

閑話その②です。


お楽しみください。


評価、感想、ブクマを、いつでもお待ちしております。


よろしくお願いします。




〜 ダンジョン都市【幸福の揺籃(ウィール・クレイドル)】 〜


《レティシア視点》



「「「「レティシア隊長、おはようございます!」」」」


「おはようございます、皆さん!」


朝街に出勤して、先ずは兵舎へと顔を出します。


これから朝礼を行って、各々巡回へ行ったり、訓練をしたりと、それぞれの任に就くのです。


「それでは、それぞれの報告をお願いします」


朝礼では、各部署からの報告を先ず受け取ります。


部署は全部で4つ在ります。


【警邏部】……都市の警邏を担当する部署。


【調練部】……兵達の訓練を統括する部署。


【警備部】……都市内の重要箇所の警備を担当する部署。


【調査部】……住人からの情報を精査したり、行政府と連携して情報収集を行う部署。


「警邏部より報告です。都市内での目立った問題は今のところ有りません。直近での大きな事件は、酒場での酔った客同士の諍いのみです」


治安が良いことは何より大事です!

酔っ払いの方には厳重注意をしたとのことですし、大きな問題は無いですね!


「調練部より、隊長との手合わせを望む声が多数挙がっております。お時間の合う時にでも、稽古を付けていただければ、と」


またですか!?


4日に一度は練兵場で一緒に鍛錬してる筈ですが、まだ足りないのでしょうか……?


それとも、私が女だから、過小評価されているのですかね?


ここは威厳を示すためにも、マナカ殿の稽古の成果を見せ付けてやりましょう!


「警備部です。都市入場ゲート、迷宮入場ゲート、大聖堂、政庁舎、図書館、医療院、兵舎、何れも問題有りません。市民も重要性への理解を示しているようです」


この警備部は、都市の重要施設の警備員を派遣しています。

まあ、門番みたいなモノですね。


そして問題も無いようで、何よりですね!


「調査部です。市民には今のところ、特に不満や不安は無い様子です。都市内の各施設の利用法にも慣れたようで、快適に暮らせているとの声が多数です。ただ、やはり外界との接点が少ないせいか、金銭や物の巡りの悪さを訴える者が、少なからず居るようです」


そこは難しい問題ですね。


この都市はかなり特殊な立ち位置です。


下手に隙を見せれば、あっという間に利益は搾り取られてしまうでしょう。


それだけ、この都市を……いいえ、この迷宮を狙う輩は多く、また性質(タチ)が悪いのです。


「報告は以上ですね?先ず調練部ですが、これからは3日に一度は顔を出すようにしましょう。兵達のローテーションの調整は任せますね」


「はっ!ありがとうございます!皆、喜びます!!」


「その他の部署も、大きな問題が無いことは喜ばしいことです。


ですがこれより先、まだ住民は増え続けます。

王国は第2弾の移民計画を遂行中ですし、迷宮の主であるマナカ殿も人口を増やすために動いていらっしゃいます。


また、冒険者ギルドの誘致も決定した以上、我々の責務は日々重くなっているということを、自覚してください。


既に私から兵員の増加も依頼してあります。

殿下やマナカ殿がどのようなお考えかは分かりかねますが、きっと良くしてくださるでしょう。


ただしそれまでは、我ら100名のみで、この都市の治安を守らねばなりません。

みなさん、どうか力を合わせて、協力してこの街を護りましょう!」


「「「「はっ!!」」」」


良い返事です!

みなさん、今日も気合いは充分みたいですね!


「では、朝礼を解散します!各員、持ち場へ着いてください!」


「「「「喜んで!!」」」」


あの……前から気になってたんですけど、その「喜んで!」っていう返事は何なんですか?


しかも気合いの篭った声の割には、顔はニコニコしてて、正直不気味なんですけど……




〜 兵舎 練兵場 〜



朝礼を終え、早速練兵場へと来ました。


訓練の予定になっている兵達は、既に場内で素振りを始めています。


「レティシア隊長が見えたぞ!総員整列!!」


いえあの、態々訓練の手を止めなくても良いのですが……


「隊長!稽古の日数を増やして下さると聞きました!ありがとうございます!!」


「「「「ありがとうございます!!」」」」


「は、はい。これからは3日に一度顔を出すようにします。ローテーションの調整も頼んでありますので、これで全員と稽古ができると思いますよ」


途端に上がる歓声。


稽古と言っても、単に手合わせをして所感を伝えているだけなのですが……


まあ、喜んでいるようなら良いのでしょう。


「今日は、20人程ですか。では、早速始めましょう。先ずは1対1から。それを終えたら5人組です!」


私の前に兵達が整然と1列に並びます。


「では、いつも通り体力の続く限り掛かって来てください!」


「「「「おおっ!!!」」」」


それから午前の間は、ひたすらに部下達と打ち合い続けました。


気合いの入った兵になると、5回は列に戻って来ますね。

日々の鍛錬を欠かしていないのでしょう。

徐々に、全体のレベルも上がってきているように感じます。


5人組との打ち合いでは、連携が上手になってましたね。


誰と組んでも訓練通りの動きが出来なくては、意味が有りませんからね。


その調子で励んでください!




~ 執務室 ~



午後は書類仕事を熟します。

具体的には、朝礼での報告の詳細や、細々とした事柄の報告書ですね。


会計報告や予算案、備品の在庫報告に補充申請、新たな備品購入の稟議書など、積まれた書類を読んでは署名し、読んでは押印し……


正直書類仕事は好きではありませんね。

さっさと片付けて、次へ行くとしましょう。


2時間ほど掛けて書類の牙城を攻略し、その書類の束を部下に預けます。


「では、私は一旦帰宅して小休止の後、市街の視察へ向かいます。今日の巡回当番は支度をしておいてください」


そう伝え、執務室奥に設えられた仮眠室へと入り、鍵を掛けます。

仮眠室の片隅にはマナカ殿のご自宅へと繋がっている転移魔法陣が在るので、無関係な者の侵入を防ぐためには、戸締りは欠かせません。


半ば押し掛ける形で住まわせていただいているのですから、ご迷惑は掛けられませんからね。




~ 六合邸 庭園 ~



なんとかお茶の時間に間に合いましたね!


「あ!おかえり、レティシアお姉ちゃん!」


マナカ殿の妹御である、マナエ殿が、庭園のティーテーブルの支度を整えています。

どうやら、まだ他の皆さんは戻られていないようですね。


「ただ今戻りました。今日は皆さん揃われるのですか?」


「んーと、お兄ちゃんはアザミお姉ちゃんとシュラと一緒にコリーちゃんの所だし、イチは森の魔物の間引きに行ってるから、来れないみたい」


そういえば、今日は各地の迷宮の情報収集をすると仰っていましたね。

孤児の保護や、王国外からの移民の受け入れのために、懸命に動いておられます。


イチ殿は森ですか。

一度私も同行させてもらいたいものですね。

フリオール殿下は、もう嫌だと仰っていましたが……何か有ったのでしょうか?


おや、ちょうどフリオール殿下が戻られたようですね。

殿下の執務室に繋がっている魔法陣が起動し、光を放ち始めました。


「ふう。なんとか間に合ったな」


「フリオールお姉ちゃんおかえりー!」


「殿下、お疲れ様です」


殿下のマナエ殿への溺愛ぶりはかなりのものです。

勿論、その手作りお菓子ともなれば何を置いても手に入れようとされるでしょう。


一度、仕事が片付かずにお茶の時間に遅れ、お菓子が残っていないことを知った時などは、これ以上無いほどの絶望したお顔をされておりましたね。


その後、マナカ殿がちゃんと取って置いて下さり、すぐに満面の笑みに変わりましたけど。


「本日はこれでお揃いのようですね。マナエ、お菓子を皆様にお配りしてください」


アネモネ殿がワゴンにティーセットとお菓子を載せてテラスへといらっしゃいました。


今日のお菓子はフィナンシェというそうです。

ふわふわでしっとりとした生地から、香ばしい濃厚なバターの香りが立ち昇り、鼻腔を擽ります。


「うむ!やはりマナエのお菓子は最高だな。我はこのために生きていると言っても、最早過言ではないぞ」


いえ、殿下。

どうか過言にしておいてください。


穏やかな陽の光の中で、色とりどりの花に囲まれた午後のティータイム。


マナカ殿の提案で始まったとお聞きしましたが、この穏やかな空気を一度味わってしまうと、確かに毎日開きたくなりますね。


私も、この時間が大好きです!


「さて、それでは私は街の視察に行って参ります。アネモネ殿、マナエ殿、ごちそうさまでした」


この挨拶も、この家に来て教わったことですね。

『いただきます』と『ごちそうさま』。

神だけでなく、私達の糧となった命への、そしてそれを用意してくれた人へと捧げる、感謝の言葉。

マナカ殿の故郷での風習ということですが、とても良い習慣だと思います。


「行ってらっしゃいませ。どうぞお気を付けて」


「何か有れば報告してくれ。頼んだぞ」


「いってらっしゃーい♪」


美味しいお茶に美味しいお菓子。

私の気力は充分に満たされました!


では、本日最後の仕事、巡回へと参りましょう!




~ ダンジョン都市【幸福の揺籃(ウィール・クレイドル)】 ~



街は今日も穏やかな風が吹き、良い天気です。

まるで本物のような空に、太陽、流れる雲まで全て、マナカ殿の迷宮の主としての権能だとお聞きしました。


まったく驚きです。

流石はマナカ殿です!


さて、それでは視察を始めましょう。

都市内の各所の警備に就いている兵達の様子を、順に視ていきます。


医療院に来たついでに、少しお見舞いもしていきましょう。


「あら、レティシアじゃない。今日もお見舞いに来てくれたの?」


「こんにちは、シェリーさん。ダージルさんのお加減は如何ですか?」


私に声を掛けてきた女性は、Aランク冒険者パーティー【火竜の逆鱗】メンバーの、シェリーさんです。


「もうすっかり元気よ。身体が鈍ってしょうがないって、目を離すとすぐに病室から逃げ出すのよ」


彼女達は、マナカ殿に招待され、この迷宮に挑んだのですが、途中で脱出。

リーダーのダージルさんが瀕死の重傷を負いました。


最初の内は迷宮の収容施設で安静にしていたのですが、他のメンバーの皆さんが完癒されたことで、都市の医療院へと移ったそうです。


「マナカさんには本当に助けられたわね。迷宮の造りは性格悪過ぎだけどね!」


あはは……

それについては私も擁護できそうにないですね。

すみません、マナカ殿。


「3日後には退院して良いそうだから、また改めてお礼に伺うわ。彼にそう伝えてくれる?」


「おお!それはおめでとうございます!承知しました。マナカ殿に伝えますね!」


いよいよダージル殿も退院ですか。

マナカ殿も喜びそうですね。

忘れずに伝えましょう。


さて、各所を見て回りましたが、特に問題も無さそうですね。

街の住民の方達も、此処での生活にだいぶ慣れた様子です。


明るい表情で街を行き交う人々を見ていると、もっと頑張ろうという気持ちになります。

私達が、この人達の笑顔を護るのですからね。


それでは、執務室に戻って報告書と日報を仕上げてしまいましょう。


夕食までには皆さんも帰って来るでしょうし、森に出てみたいということも話さねばなりませんからね。

もうひと頑張りです!




~ 六合邸 庭園 ~



「はあっ!!」


脱力した自然体から剣を振るう。

教えの通り、腕ではなく身体で振った剣は、空気を切り裂いて剣閃を引く。


「良い感じですね、レティシア嬢。だいぶスムーズに振れるようになってやすよ」


イチ殿がそう言って褒めてくださります。

剣技の極意とも言える技法を惜しみなく私に伝え、こうしていつも指導もしてくださいます。

レベル以上に、剣術の腕が上がったことを実感できます。


「あとは、一撃で終わらずに繋げることを意識しやしょう。脱力の極意は、意識と身体のズレを無くすことにありやす。こう、グッと行ったらスパンッ、グググッと行ったらスパパパンッてぇ、感じです」


「グッと行ったらスパンッ、グググッと行ったらスパパパンッ……ですね!」


ふむ。

身体が動けば剣も振れるということでしょう。


脱力状態から足を運び、鞘に入った剣を構えるイチ殿に近付く。


グググッと行ったら、スパパパンッ!!


「うおっ!?」


慌てたように私の剣を防いだイチ殿。

で、できました!?


「まさか一発で出来ちまうとは思いやせんでしたぜ。流石はレティシア嬢です」


「なるほど。マナカ殿が運足に重きを置いているのが解った気がします!こういうことだったのですね!」


剣が身体の一部と錯覚しそうなほど、自然に振れました。

鋭さも、自分が振るったとは思えないほどでした。


足を運べば身体が動く。

身体が動けば剣が振るわれる。

意識は常に相手の死角へ向かい、そこへ踏み込むことができれば……


「これだけ振れりゃあ、頭からも一本取れるんじゃないですねぇ。明日が楽しみですぜ」


「はい!イチ殿、ありがとうございます!」


今から朝の鍛錬が待ち遠しいです!


でもその前に夕食です。

お風呂を先にいただいて、汗を流しておきましょう。


ふふふっ!

マナカ殿の驚く顔が、目に浮かびますね!




~ 翌朝 六合邸 庭園 ~



「わきゃああああああああっ!!!???」


マナカ殿の結界魔法に阻まれ、私の剣はその身に届かずに、弾き飛ばされてしまいました。


ですが、マナカ殿は驚いた顔で。


「マジか。一瞬イチの剣戟かと思ったぞ……」


やりました!

遂に、マナカ殿に魔法を使わせることに成功しましたよ!!


「どうでしたか、マナカ殿!?」


「ああ、大したもんだ。まだ暫くは魔法無しで抑えられると思ってたんだけどな……レティシアさん、たくさん頑張ったんだね」


そう言ってマナカ殿は、私の頭を撫でて下さいました。


えへへ……!

マナカ殿に褒めてもらえました!


ようやく一歩進んだ感じです!

次の目標は、掠るだけでも良いから、一撃入れることですね!


頑張りますよ!!


今日は好い日になりそうですね!

張り切って、兵達の元へと行きましょう!




兵士A「なあ、今日なんか、レティシア隊長機嫌良くないか?」


兵士B「ああ、なんでも師匠との手合わせで、遂に魔法を使わせることができたらしいぞ?」


兵士C「マジか?ってか、魔法を使わせたって、それじゃ今まではどうやって戦ってたんだ?」


兵士B「素手らしい」


兵士AC「……は?」


兵士B「いやだから、師匠は素手だけで滅茶苦茶強いらしいんだよ。隊長もいつもあしらわれてたらしいぞ?」


兵士A「マジかよ……俺達が束になっても敵わない【剣姫】レティシアを、素手って……」


兵士C「信じられねぇ……バケモンじゃねぇか……」


兵士B「因みにその師匠ってのは、どうやら迷宮の主のマナカ殿らしい」


兵士A「はあっ!!??」


兵士C「マナカ殿って、あの亜人の美女達を引き連れた、あの?!フリオール殿下とも仲が良いっていう?!」


兵士B「そうだな、そのマナカ殿だな。因みに協会のマリーアンナさんとも仲が良いらしい」


兵士C「なんだとっ!?」


兵士A「マリーアンナちゃんまで……ぐぎぎぎぎ……」


兵士B「でもよぉ、ご機嫌なレティシア隊長って……めちゃ可愛いな」


兵士A「それな!」


兵士C「見てるこっちも幸せになるわ」


兵士B「でも隊長をそうしたのはマナカ殿……と」


兵士AC「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ…………」


兵士B(やべえ、こいつらおもしろ!お前らが頑張ったって、マナカ殿に敵うはずねぇだろうに)


兵士A「おし!特訓だ!!」


兵士C「おう!俺たちの【剣姫】をあんなスケコマシに任せる訳にはいかねぇぜ!!」


兵士B(なにが俺たちの、だバカ共が。俺は実際に会ったから知ってるが、あれは完全に女性の方から惚れてるんだよ。お前らなんか眼中ねぇよ。ま、言わねぇけどな!)


兵士AC「うおおおおおおおおっ!!!」



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