閑話 捻くれ王子の奮闘記 その②
閑話その①です。
捻くれ王子こと、ユリウスくんが友達作りに励んでいるお話ですね。
お楽しみください。
※ユリウスの一人称を『俺』から『オレ』に、ミハエルの一人称を『俺』から『僕』に変更しました。
以前投稿分については、時間がある時に修正します。
ご承知おきください。
良ければ、感想、評価、ブクマをお待ちしております。
よろしくお願いします。
m(*_ _)m
〜 ユーフェミア王国 王都ユーフェミア ブリガント王立学園 〜
《ユリウス第3王子視点》
思い返せば、オレはいつも誰かと比較されていた。
それはウィリアム兄上だったり、セイロン兄上であったり、フリオール姉上であったり……
若かりし頃の父上と比べられたこともあったな。
『ウィリアム王太子殿下は文武共に右に立つ者など居ないと評判ですぞ』
ああ、知ってるよ。
幼少の頃だが、ウィリアム兄上には剣の稽古を付けて貰ったこともある。
俺と4つしか違わないのに、剣を掠らせることすら出来なかったな。
そんな兄上に憧れていたのは事実だ。
『セイロン殿下は14歳の折には、学園のどの教師も唸らせるほどの論文を発表されましたぞ』
それも知ってるよ。
セイロン兄上は、その論文を以てこの学園を卒業したんだから。
ひとつ下の俺は座学で分からないことがあると、セイロン兄上をよく頼ったもんだ。
『フリオール王女殿下が、隣国の侵攻を食い止めたらしいぞ?!』
『なんでも、13という寡兵で、数千にも及ぶ敵軍を足止めしたそうだ!』
天下の【姫将軍】、フリオール姉上の勇名は、瞬く間に王都を駆け巡ったな。
16という若さで軍功を挙げ、王家所領のひとつを拝領して、オレ達兄弟の誰よりも早く、独立してみせた。
それらに比べて、オレはどこまでも平凡だった。
武では長兄に遠く及ばず、知では次兄の影も踏めず、評判では姉上から叱咤を受け続けた。
まあ、今にして思えば、姉上の叱咤激励は、至極当たり前のことだったんだけどな。
王家の人間としての誇り、自覚、責任。
この学園に来てから早々にオレが放棄したモノを、あの正しく誇り高い姉上が、見過ごせる筈が無いよな。
それに反発して意固地になっていたから、オレの周囲には、上辺だけ取り繕ってオレの身分に縋るヤツらと、オレの気に触らないように怯えて避けるヤツらしか居なくなった。
それでもいい、どうでもいいと、オレは思っていたんだ。
誰かと比べるしかしないヤツらなんか、どうでもいいって、そう思っていた――――
「――――子?王子……?大丈夫ですか……?」
目を開けると、そこは見慣れた、学園の教室だった。
どうやら授業の途中で居眠りをしてしまったらしい。
机に突っ伏していた身体を緩慢に起こし、頭を掻きながら欠伸をひとつ。
「なにか、悪い夢でも観たんですか……?」
あん?
何言ってんだこいつ?
そう思いつつも、欠伸で滲んだ涙を拭おうと顔に手をやると、濡れている……?
それは頬を伝い、オレの手を濡らす。
「なみだ……?」
欠伸で滲んだにしては多過ぎる、手を濡らした涙を、暫し眺める。
泣いていたのか、オレは。
朧気に残る、夢の中で。
苦しんでいたんだな、オレは。
「な、なんでもない。ちょっと昔の夢を観ただけだ。それで、何か用でもあったのか?」
時刻は既に放課後。
教室に残っている生徒は既に疎らだ。
そんな中で、居眠りしていたオレが起きるのを、律儀に待っていたソイツ――ミハエルに訊ねる。
「うん……は、はい!今日も妹達と、修練場で自主訓練をするつもりだったので、王子も良かったらと……」
ミハエルは、名誉騎士を父に持つ平民の子だ。
将来まともに暮らせるよう父親が無理をして、双子の妹と共にこの学園に入学させたという。
『友達を作れ。身分なんて関係ない、本音で馬鹿言い合える友達を、支え合える仲間を、5人作ってその時連れて来い。それがお前の、本当の力に、本当の強さになるからよ』
あの魔族の男の声が、脳裏に蘇る。
オレはオレだと。
オレ自身がどう成りたいんだと。
初めて王子としてではなく、【ユリウス】という1人の人間を見据えて掛けられた言葉。
「ああ、オレも参加するぜ。それと、王子呼びも敬語も要らねえって言ったろ?何べん言やぁ、分かるんだよ……」
オレは席を立ち、帰り支度を整えながら、溜息混じりに毒づく。
「はい……う、うん、ごめん……どうしても、畏れ多くて……僕みたいな平民が、王子……ユリウスと気軽に話すなんてさ」
「言ったろ?オレはそういう身分だの家だのに拘るのは、もう止めたんだ。城に居ない今は、オレはただのユリウスだ。お前と同じ3回生の、同級生のユリウスだ、ってな?」
そう言いつつ、学園指定の鞄を肩に掛け、机に立て掛けた剣を手に取る。
そして未だにモジモジしているミハエルの肩に、手の甲をコツリと当てる。
「おら、行こうぜ?早く行かねえと、またミカエラの雷が降ってきちまう」
「う、うん!なんていうか……ごめんね。遠慮の無い妹で……」
「気にすんなよ。もう慣れちまった」
軽口を叩きながら、笑いながら。
オレはミハエルと並んで、修練場を目指し歩いて行った。
〜 修練場 〜
「おっそいわよ2人とも!!鐘が鳴ってからどんだけ経ってると思ってるのよ!?」
うん、雷が降ってるな。
「わりぃ、居眠りしてた。ミハエルはオレが起きるのを待っててくれたんだよ」
下手に誤魔化そうとすると、コイツは余計怒るからな。
これも、ここ最近で学んだ事だ。
そう謝りながら鞄を置き、剣を訓練用の物に替える。
「いいご身分ね?どうせお兄さんが王位を継ぐから、自分は適当で良いとか思ってるんじゃないの?」
「み、ミカちゃん!言い過ぎだよぉ〜!?」
相変わらず賑やかな奴だな、ミカエラは。
モリナの苦労が偲ばれるぜ。
「はいはい、オレが悪かったよ。居眠りしちまったのは偶々だっての。おら、そんなことより始めるぞ」
「遅れて来たくせに仕切るんじゃないわよ!今日こそは1発当てて、ミドガーチェリーのフルーツタルトを奢らせてやるからね!」
そう息を巻いて杖を構えるミカエラ。
信じられねえよな。
コイツがあのミハエルの双子の妹だなんて。
気が強くて、跳ねっ返りで、恐れ知らず。
初対面の時なんかは、兄のミハエルを守るためとはいえ、王族である俺に正面切って罵声を浴びせたほどだ。
気弱な兄のミハエルとは、正反対な性格をしている。
そんなミカエラが魔力を練り上げ、初級火魔法の【火炎球】を放ってくる――――
――――ってバカヤロウッ!?
鞄を燃やす気か!?
慌てて魔力を練り上げ、壁をイメージする。
透明で厚みのある、強固な壁。
あの男――マナカが王城での別れ際に、やっつけ仕事のようにだが、ひとつだけ教えてくれた魔法。
結界を張る魔法だ。
燃え盛る火の玉はその壁に阻まれて、壁の向こう側で爆発した。
爆炎と砂埃の晴れた先には、頬をむくれさせるミカエラの姿が見える。
「ちょっと!?訓練で結界はズルいわよ!?」
「アホかお前は!?今のは防がなきゃ、オレらの鞄が燃えちまうじゃねえか!?」
まったくとんでもないじゃじゃ馬だ。
一応お前の兄貴も居たんだぞ!?
マナカが教えてくれた結界魔法は、術式だの詠唱だのの過程を全部すっ飛ばした代物だった。
兎に角ひたすらイメージしろ。
そう言って城を去って行ったアイツの言葉に従い、最初の頃は、硝子窓を何度もイメージして、魔力を何度も練った。
その内、本物の硝子窓に手を当てて魔力を這わせてみると、魔力の質がなんとなく硝子っぽく変質したのに気が付いた。
イメージってのはこういう事かと、その感覚を忘れないように何度も何度もイメージを繰り返して、魔力を練り上げた。
そうして、最近になってようやく、硝子の板のような結界を張ることが出来るようになったんだ。
「相変わらず凄いですぅ〜。結界魔法は上級の筈なのに、それを無詠唱でなんてぇ……」
そんなことをモリナが呟く。
モリナは商人の娘だったな。
ある程度成功した商人が、箔付のためにこの学園に子供を入れるのは、そう珍しいもんじゃない。
実際モリナの父親は、そのつもりで入学させたらしいしな。
だが、モリナには魔法の素養も有った。
だから彼女も、経営学や地政学の他にも、魔法学を学んでいる。
いや、多分この魔法は人間用じゃないぞ?
魔力に長けた、アイツのような魔族が扱う魔法だ。
イメージだけで魔法を発動させるなんて、どんな魔法書にも載って無いからな。
多分オレらが習っている魔法ってのは、そういう魔族共を真似して、尚且つ人間が使い易いように改造したモノだろう。
敢えて言うなら、アイツら魔族が使うのは【魔術】だ。
元々ヤツらが豊富に持っている魔力を、活用する【術】。
それを模倣し、理論立てて、法則に落としこんで、ようやく使えるようになったのが、オレ達人間が使う【魔法】なんだろう。
教えられて、使えるようになった今はハッキリと分かる。
こと魔力の扱いに関しては、あのマナカって魔族の男は間違い無く化け物だ。
結界ひとつのイメージを掴むのに、オレがどんだけ苦労したと思うよ?
それを火だの水だの土だの風だの、全部イメージ通りに魔力で再現するなんざ、そりゃあ短命な人間には無茶ってもんだ。
「ったく、待ても出来ない猪娘め。言っとくが、鞄が燃えたら財布も燃えカスなんだからな?ケーキ奢ってやれねえぞ?」
「うっ……!わ、分かったわよ、悪かったわよ!だからさっさと支度しなさいよ!?」
地団駄踏んで悔しがってやがる。
よし、先ずはオレが1本先取だな。
「何よその勝ち誇った顔はっ!?」
おっと、顔に出てたか。
「なんでもねえよ。それじゃいつも通り、オレが間合いを詰めたら勝ちで良いな?」
「来なさい!今日こそそのムカつく顔に1発ぶち込んでやるんだから!!」
いや、顔に喰らったら死んじまうだろ!?
「ミカ、それじゃユリウスが死んじゃうよ……?」
「そうだよミカちゃん!それは流石にマズイよぉ〜!」
いいぞ。
お前らちゃんとミカエラの手綱を引いててくれよ?
マジでやりかねないからな!?
「むぅ〜っ!もうっ!ミハエルもモリナもどっちの味方なのよぉ!?」
「常識の味方なんだろうよ。おら、行くぞ?」
そう言って剣を抜き、ミカエラに向けて走り出す。
「わわっ!?いきなり始めるんじゃないわよ!!この……!」
おうおう、慌てて詠唱してやがる。
ミカエラの適性は確か、火、風、土だったか。
貴族でも3属性は優秀と言われている中で、平民の彼女が3属性に適性が有ると聞いた時は、耳を疑ったもんだ。
おっと!
詠唱が終わったみたいだな。
火、風、土の3属性の中で、最も詠唱が短く、瞬発力が有るのは……
「喰らいなさい!【風の刃】!!」
やっぱり風属性で来たか。
しかも風魔法は、風なだけに見え難いのだ。
風で出来た刃が、縦向きなのか横向きなのか、どんな形をしているのかを瞬時に見極めないと、回避は難しい。
「こんのっ!」
だから、敢えて避けずに防御する。
剣を斜めに構え、剣の腹に手を添えて盾のように翳す。
「んぐっ!!」
剣に重たい衝撃が走る。
オレの持つ剣に風の刃が当たり、金属がぶつかり合うような音が響く。
なんとか初弾は防いだ。
だがミカエラは既に次の詠唱に入っているし、オレは突進を停められてしまっている。
「させるかよっ!」
すぐさま地を蹴り、ミカエラの利き腕とは逆の、オレから見て右側へと走る。
これで魔法を放つには、身体を回転させてオレを捉えるためにワンクッションの余裕が出来る。
「小賢しいわね!?【石の礫弾】!!」
ミカエラがオレを視界に捉え直し、十数個の石礫を射出する。
それもキッチリ、オレの進路を塞ぐようにしてだ。
未だ使えるのは初級魔法のみと聞いているが、それを補って余り有る魔法戦闘のセンスだな。
でもよ。
「甘いぜ!」
ミカエラならそのくらいしてくるのは、オレだって折り込み済みだ。
オレは迂回していた身体に急制動を掛け、一転して真っ直ぐにミカエラへと突進する。
「なんですって!?」
ミカエラめ、驚いてるな。
彼女が放った礫弾は標的を見失い、誰も居ない地面を抉るばかりだ。
「終わりだっ!」
一気に踏み込んで、上段から剣を振り下ろす。
勿論寸止めはするけどな?
「させないよ!!」
「なんだとっ!?」
これで勝負が決まると確信して振り下ろした剣は、割り込んだミハエルの片手に装備された、ラウンドシールドに阻まれた。
そのまま盾を滑らせて、オレの体勢を崩そうとしてきやがる。
「このっ!?」
慌ててバックステップで距離を取り、双子と対峙する。
「おいこら!2対1は流石に卑怯じゃねえか!?」
すかさず抗議の声を上げた。
だが、ミカエラのヤツは勝ち誇った顔で。
「何言ってんのよ!戦場で魔法使いが単独で行動するわけないでしょ!伏兵に気付かないアンタが悪いのよ!!」
なんて、抜かしやがった。
そしてオレの剣を防いだミハエルはというと。
「ごめんねユリウス。訓練とはいえ、確かにミカの言う通りだと思うんだ。だから、ミカは僕が守るよ!」
……っのヤロウ!
いいぜ。
そっちがその気だってんなら……
「おいモリナ、オレと組め!勝ったらお前にだけ、ミドガーチェリーのフルーツタルトを奢ってやるぞ!」
「ほんとぉ!?分かったよぉ〜!ごめんね、ミカちゃん!」
よし、こっちも魔法使いをゲットだ。
因みにミドガーチェリーとは、最近評判の新しい菓子屋の名前で、王都の若い女子連中の間で話題沸騰中らしい。
中でも一番人気のフルーツタルトは、絶品なんだとか。
「ちょっとモリナ!?くっ……!卑怯よユリウス!?私にも奢りなさいよ!!」
いやお前、そっちかよ!?
「流石ユリウス……なんて鮮やかな調略なんだ!」
お前ら兄妹も大概めんどくせえな!?
まあいい。
内容はどうあれ、これで2対2の対等だ。
一気に蹴散らしてやるよ!!
〜 王都ユーフェミア 学業特区 〜
「あーん!また負けたぁ!!」
放課後の、まだ夕方にはならないほどの時刻。
王都の学園周辺の、主に学生を対象とした店が軒を連ねる区画――通称学業特区に、ミカエラの悔しそうな声が響く。
「やっぱりユリウスは強いね。魔法無しなのに、防ぐので精一杯だったよ」
「いや、あれはモリナが的確に援護してくれたからだな。そうじゃなきゃ、あそこまで大胆には攻められなかったぞ?」
並んで歩きながら、オレはミハエルと先程の模擬戦の反省中だ。
それを聞いたモリナは、モジモジしながら話に参加してくる。
「そ、そうかなぁ。ユリウスくんの動きが速いから、下手な所に撃っちゃうと却って邪魔になると思ったから……」
「いや、集団戦ならあれが正解だぞ。前衛と後衛の役割ってもんがある。あの場合は、如何に相手の魔法使いの妨害をするかってのが大事だろ?」
実際モリナは、発動の速い魔法を多用して、徹底してミカエラを狙っていた。
そのせいでミカエラは集中しきれず、何度も詠唱を中断されてはやり直してたからな。
そのおかげで、オレはミハエルに集中できて、その防御を突破して本陣――ミカエラの所に辿り着いたんだ。
「ホントよ!この!モリナの裏切り者ー!!」
「わわわっ!?ごめんってば、ミカちゃ〜ん!?」
功労者であるモリナが敗軍の将に襲われているが、まあこの2人のイチャつきはいつものことだから、気にしないでいいな。
「おい、何処に行くんだよ?みんなこっちに来い」
イチャイチャする女子2人を眺めていたら、危うく目的地を過ぎてしまうところだった。
3人を呼び止めて、オレは1軒の店の戸を開き、中へ入る。
「えっと……ユリウス、此処は……?」
恐る恐るオレの後に続いたミハエルが、遠慮がちに訊ねてくる。
女子2人は店の内部をしきりに眺めていた。
「想定外だったとはいえ、今日の訓練は有意義だったからな。礼として奢ってやるよ。ミドガーチェリーは、賭けの対象だからまた今度な」
此処は、上流階級の中でも知る人ぞ知る菓子の名店だ。
ミカエラがあまりにもミドガーチェリーミドガーチェリーと五月蝿かったので、オレの専属侍従長に訊ねてみたら、それよりも、と此処を勧められたのだ。
侍従長も女性らしいところがあったようで、当然のようにミドガーチェリーのことは把握していたけど、此処は王城の料理長が絶賛していたほどで、頼み込んで教えて貰ったという穴場なのだ。
「おい、キョロキョロすんな恥ずかしい。さっさと座るぞ」
3人を先導して店内奥へと足を踏み入れ、丁度4人掛けの席が在ったのでさっさと座る。
おい?
どうしてミハエルが隣じゃないんだ?
テーブルに着いたオレの隣には、何故かミカエラが。
更に何故か、正面はモリナだ。
ミハエルはどういう訳か、オレの斜向かいにちょこんと座っている。
「……普通男女別れて座らないか?」
「何言ってんのよ。こういう時は、男が女をエスコートするもんでしょ?」
至極当然の疑問だったよな?
だがオレの放った疑問は、隣に座ったじゃじゃ馬に一蹴されてしまった。
まあいいか。
今日はオレが奢るって言い出したんだしな。
「ゆ、ユリウス王子殿下!?こ、このような店に御足労いただいて……!!」
注文を聞きに来たウェイトレス――この店の娘か?――が、オレを見て驚き、畏まってしまった。
ああ、いいからそういうの。
「オレのことは気にするな。ただの学生の客だ。この店のお勧めのケーキと紅茶を、4人分頼む」
「か、かしこまりました!?」
逃げるようにして注文を伝えに戻るウェイトレス。
「今のは、王子様が来て畏れ多いのか、それとも第3王子の評判を怖がったのか、どっちなのかしらね?」
それを溜息と共に見送ったオレに、ミカエラが意地の悪い顔で茶々を入れてくる。
「どっちでもいいっての。王子だとしてもオレには何の権限も無いし、悪評はそれこそオレの自業自得だ。甘んじて受ける覚悟は、もう出来てるしな」
頬杖を突いて、指先で店のメニュー表を弄る。
こういう落ち着いた店に来たのは初めてだから、手持ち無沙汰だな。
「なによ、張り合いないわね。これじゃ、私がイヤミな女みたいじゃないの」
いや、事実だろ?
嫌味で言ったんだろうがよ。
「お前みたいに、歯に衣着せずに文句を言ってくれる奴が、近くに居てくれたら良かったのにな……」
「え…………?」
思わず口を突いて出た言葉にハッとする。
ちょっと待て?
オレは今、一体何を口走ったんだ!?
「なっ!?なに言ってんのよ急に……!もうっ……調子狂っちゃうじゃない……」
おいバカやめろ!?
頬を紅らめて視線を逸らすな!?
「ユリウス……ミカはやめといた方が良いんじゃないかな……?」
「ちょっとミハエル!?それ、どーいうことよっ!?」
「わわわっ!?み、ミカちゃん落ち着いてぇ〜!?」
ちょっ!?ミハエルまで……!?
「か、勘違いするなよ!?オレはただ、馬鹿な行動を諌めるって意味で……!!」
「お待たせしました!当店のイチオシメニューの、季節のフルーツ盛り合わせタルトでございます!紅茶はエスピリス産の高級茶葉を――――」
ウェイトレスの説明は、正直耳に入って来なかった。
折角の料理長絶賛のフルーツタルトも、きっと良い茶葉を使っていたであろう紅茶も、混乱してしまったせいで味なんか全然分からなかった。
オレがそんなことになっているというのに、ミハエルは兎も角、ミカエラもモリナも呑気に舌鼓を打ちやがって……
癪だったから、3人の前でこれ見よがしに、持ち帰りのケーキを沢山買ってやった。
ふん!
精々悔しがれ!
…………こんなに買ってしまって、どうしよう。
ついムキになったが、1人でこの量のケーキは消費しきれねぇ……
……偶には、父上や母上に土産を渡すのも良いか。
マギーやミケも喜ぶだろう。
セイロン兄上は……紅茶と合う物なら食べそうだな。
あとは、あの店を紹介してくれた侍従長にでも持たせるか。
礼だとでも言えば、受け取るだろ。
ミカ「ちょっと見た!?あの勝ち誇ったようにケーキを大量に買う時のあの顔!?」
モリ「うん。してやったり、って顔だったねぇ〜」
ミカ「ほんっと、性格悪いわねあの性悪王子!!」
モリ「ちょっ、声が大きいよミカちゃ〜ん」
ミカ「ミハエルもそう思うでしょ!?」
ミハ「え?あ……う、うん……どうなんだろうね?」
ミカ「もう!なによ、聞いてなかったの!?ホントに、アンタってば戦ってないと気が抜けてるんだから!」
ミハ「あはは……ごめんごめん」
モリ「でもぉ〜、すっごい美味しかったよねぇ、あそこのケーキ。私、あんなに美味しいケーキ初めてだったよぉ〜」
ミカ「それは……そうね。私も初めてだったわ。ユリウスのヤツ、良くあんな隠れた名店を知ってたわよね?」
モリ「ほんとほんとぉ〜!ああ見えてぇ、意外と甘党男子なのかなぁ?」
ミハ「なんでも、ミカがあんまりケーキケーキ言うから、侍従長さんに訊いたらしいよ?そしたら、料理長お勧めのあのお店を教えてもらったらしいんだ」
モリ「え〜?ミハエルくん、それいつ聞いたのぉ?」
ミハ「別れる前にね。高そうだったのに、本当にご馳走になって良かったのか聞いたら、そう答えたんだよ。ミドガーチェリーとは違うけど、これで少しはミカエラの気も済むだろうって」
モリ「気が済むどころか、大満足だよぉ〜!ねぇ、ミカちゃん?…………ミカちゃん?」
ミハ「ミカ?どうかしたの?」
ミカ「……あぇっ!?そそ、そうね!そういうことなら、少しは大目に見てあげようかな?!あははは……!」
ミカ(え?それって、つまり私のためにってことなの!?なになに!?どういうことなのよー?!)




