戦争の為の人形
惑星系の外の空白地、漂流物等の比較的少ない闇の中に約十万隻の戦闘艦が浮かんでいた。
これはグード人の持つ母星の防衛戦力を除いたほぼ全てと言っていいい。
「これだけの数が集まったのは久しぶりだな」
「母星の位置が知られる危険が起きたのは、百年以上前ですからね」
「ふむ、各艦のリンク状態はどうか?」
「問題ありません。末端の船まで全艦繋がっております」
「惑星系の周辺宙域に敵影はあるか?」
「いいえ、偵察艦によるスキャンでは地球及び他の異星人の船は発見されませんでした。企業の報告にあったように単独の偵察隊及び探索船、もしくは漂流船ではないかと推測します」
「ふむ、地球人は孤立しているモノと定義する。作戦プランは変更無し、周辺宙域への影響を考慮し、企業艦船の破壊及び惑星上の知的生命体の根絶を目標とする。では作戦開始だ」
「ハッ」
彼らの目標は、あくまで母星情報の隠蔽であったが、星一つを消そうとは思ってはいなかった。
重力兵器を使えばそれは簡単に行えるのだろうが、それをすれば惑星系のバランスが崩れ、後々銀河全体に影響を及ぼす事態を引き起こすかもしれない。
それは全宇宙の警察を自認している種族を引き寄せるだろう。
その種族は自分達の正義が絶対であると信じ、他種族の理屈をくみ取ろうとはしない。
そんな者達との対立は元老たちも望んではいなかった。
艦隊が目標に向かって前進を続け、惑星系の一番外を回る星の公転軌道に差し掛かった時、それは起こった。
「前衛が何者かに攻撃を受けています」
「待ち伏せしていたか。数は?」
「約二万、小型の人型機動兵器郡です」
「問題にならんな。構わん押し潰せ」
「了解、第一艦隊は敵を排除して前進を続けよ」
『了解』
旗艦のブリッジの正面モニターに、リンクした艦隊の動きが表示されている。
前衛は一万隻だがそれは戦闘艦の数であり、搭載機等は入れられていない。
小型の機動兵器二万でどうにかできる物ではない。
それに前衛を任せた提督は製造されて二百年程、様々な経験を積んだベテランだ。
特に指示を出さなくても問題は無いだろう。
将軍はそう考え、モニターを眺めていた。
「前進が止まっている様に見えるが何か問題が?」
「第一艦隊、前進を続けよ」
『こちら第一艦隊、味方艦が次々に離反、現在は味方艦と交戦中です』
「なんだと?副長、第一艦隊のリンク状態を」
「ハッ、これは……半数以上がリンクから外れています。その数は現在も増加しています」
「原因は?」
「わかりません。離反した船はこちらの接触を受け付けません」
「……ウィルス兵器か?各艦隊に連絡、リンクを切りそれぞれが独立状態で行動せよ。合わせて離反した船に偵察ボットを送れ、状況が知りたい」
「了解」
副官は即座に将軍の命令を実行した。
しかしその間にも第一艦隊の艦艇は離反を続け、戦闘開始から三十分経たないうちに全ての船が敵艦となった。
戦闘が始まった公転軌道の第一艦隊宙域。
機動兵器が周囲を舞う中、黒い航宙艦が艦隊の真ん中を突っ切って進んでいく。
「先鋒の艦隊は掌握できました。次はどうします?」
「チマチマやってんのは面倒だ。ボスを狙おうぜ、それで全部頂けるだろ」
「分かりました。敵の旗艦は正面。それまでに三つ壁がありますが、正面突破でいいですか?」
「おう」
「了解、ではこのまま進みましょう」
モーリアンを先頭に、機動兵器と敵の船だった第一艦隊は前進を続ける。
白銀の機体がモーリアンに近づき通信を送ってきた。
『トール殿、真っすぐ進むのか?』
「ハシェか?ああ、俺は回り道は嫌いなんだ」
『好き嫌いの問題では無いと思うが……まぁいい、総大将は貴公だ。我々は緒戦と同じくジャンプを使って敵艦を攻撃すればよいのだな?』
「おう、よろしく頼むぜ」
『任せろ』
「やられるなよ」
『大丈夫だ。どういう訳か、敵の動きが止まって見えるのでな』
トールがコンソールに表示されたリームに目をやると、彼女は得意げに笑っていた。
「ハシェ達、なんか妙に強いと思ってたけど、あの機体アクセレーター積んでんのか?」
「ええ、ダイブ装置の特性を考えていたら思いついたんです。あれって意識を別の体に移すじゃないですか、その体の頭脳が高速思考に対応していれば、ハシェさん達の体を弄る必要は無いって。アクセレーターは状況に応じて自動的に発動するよう設定してあります。操作してる人は急に敵の動きが遅くなった様に感じるでしょうね。別の体だから本体への負担も無いです」
「なるほどな。……なぁ、そういう事できるんなら、俺の頭も片頭痛が起きない様に出来るんじゃないか?」
「あれは別の体で機動兵器の大きさがあるから出来るんです。トールのサイズでやると頭と体の大きさが一緒になりますけど……やります?」
「そんな事言われて、ハイやりますっていう奴がいるか!!」
そんな事を話しながら、トール達は敵の中を真っすぐに進んでいく。
ハシェ達の操る機動兵器の武器には、自己増殖するナノマシンが組み込んであった。
彼らの斬撃や射撃を一発でも受ければ、ナノマシンが船に侵入し船をコントロールしている電子頭脳を侵食、モーリアンの管理下に組み込まれる。
これは単機で絶望的な戦況を覆す為、考案された事だった。
地球の持つ艦艇を遥かに上回る数の敵が押し寄せたらどうするか。
研究者たちは、だったら敵の戦力を奪えばいいと考えたのだ。
知的生命体なら宇宙を渡る為に船を持つ筈で、その船を制御する為には必ずコンピューターが必要な筈だ。
であるなら、そのコンピューターを支配すれば船を奪う事が出来る。
この方法なら、敵がどんなに大兵力でも関係無く戦える。
更にその膨大な船を操る為の処理は、奪った船に肩代わりさせればいい。
理論上は敵の数が億を超えても破綻する事は無いとされていた。
その為、あらゆるシステムに侵入できる、魔法のカギとも呼べるプログラムが開発された。
このプログラムは触れた事の無いシステムも身の内に取り込み、自身を改良していく様に設計されていた。
地球政府が取り戻したかったのは、実はこの魔法のカギだった。
基本設計をしたプログラマーは既に亡く、様々なシステムに触れさせた魔法のカギには製作に膨大な時間が掛かっていた。
またトール達が逃亡の祭、研究所のデータ類を全て破壊した為、再現はほぼ不可能という意見が研究者達から上げられていた。
地球のみならず異星人の作ったシステムに触れた魔法のカギは、研究者の思惑を超えて進化していた。
トール達が逃亡出来たのも、研究所のセキュリティをこじ開けた魔法のカギの力に他ならない。
グードの軍の旗艦、そのブリッジでは将軍が無表情にモニターを眺めていた。
モニターに映し出された船は交戦したモノから離反し、敵の力となっていく。
「偵察ボットは?」
「解析結果が届きました。敵の機動兵器は亜空間ジャンプを使い、防御フィールド内に侵入。斬撃及び射撃を加えると再びジャンプするという戦法を取っている様です。攻撃を受けた船の離反率は百パーセントである事から、敵の攻撃を受ける事が離反の原因と考えられます」
「近接戦闘でウィルスを直接送り込んでいるのか……では話は簡単だ。長距離射撃で潰す。並列射撃陣形を組み敵の逃げ場を無くせ」
「了解」
将軍の命令に副官は離反した船に味方がまだ乗っているというのに躊躇なく指示を実行した。
ブリッジにいる誰も将軍の行動に何も感じていない様子だった。
艦隊が移動を始め、トール達の前に一枚の壁の様に並んだ。
旗艦の船体が分裂し中心に巨大な砲身を覗かせる。
トールがかつてディムに自慢していた、荷電粒子砲のスケールを大きくしたモノが黒く鈍い光を放っていた。
他の戦闘艦も同様な動きを見せている。
「各艦、粒子砲の準備完了しました」
「発射後、再チャージ。三度の射撃を行った後、残りを各個撃破する。粒子砲発射」
「粒子砲発射」
味方に対する攻撃。
それに何も感じていないのは、奪われた船に乗っていた提督や兵も同様で、自分達に迫ってくる光を何の感情も無く見ているだけだった。




