偉い人の長話は眠くなる
虚空を行く船の群れが次々とゲートを展開し消えていく。
転移先は惑星系の外、障害の無い空白地だ。
以前も書いたようにゲートを使ってのジャンプでも、いきなり惑星系の内部へ飛ぶのは危険が大きい。
事前に調査すれば星の座標は避けられるが、それでも小惑星や漂流物の多さは比較にならない。
事故防止の為、惑星系の外に飛ぶのはセオリーとなっていた。
「全艦、ジャンプアウトを確認しました」
「周囲を索敵」
「索敵開始します」
将軍の命令を受け、副官が艦隊に指示を送る。
偵察艦が周囲に無人の小型探索器をばら撒き始める。
その様子を二センチほどの小さな機械が漂いながら観測していた。
グードの軍隊の目標となっている星。
その星の小国ドートン。
そのまた中心、王都近くの訓練場では二万程の騎士、兵士が整列していた。
彼らの前には演台が置かれ、国王であるレブルが側近と共に控えている。
その傍にはトール達の姿もあった。
「トール、大体予想通りでしたね」
「あの課長の記憶じゃ、軍隊は戦闘マシーンって話だったからな。機械は予測が簡単で助かるぜ」
トールとリームはブランの記憶、旗艦で得た情報、侵略船にいた提供者達からの証言等を統合して、軍が来る日時を大まかに予測していた。
それまでの時間で、兵士達には宇宙での戦闘に慣れてもらう為の訓練と、それに関する情報のインストールを行っていた。
ちなみに侵略船に乗っていた提供者達は拘束し、自由意志を持ったグーガ達にはドートンの国民として暮らしてもらう事になった。
「艦艇の数はおおよそ十万。場所は惑星系の外の空白地です」
「おっしゃ、んじゃ行くか。じゃあ、レブル、何か一言」
「うむ」
トールの言葉でレブルは演台に上がった。
騎士と兵士を見回し、据えられたマイクに向かって口を近づける。
『えー』
第一声と共に強烈なハウリング音が周囲に響き渡った。
「陛下近いです、もう少し離れて下さい」
演台の下からヒースがレブルに指示を送る。
決まりが悪そうにレブルは心持ちマイクから口を遠ざけた。
懐から出した原稿を見つつ、話し始める。
『ゴホンッ、えー、本日はお日柄も良く、絶好の決戦日和となりまして、私も嬉しく思っております。このドートンが建国したのはおおよそ三百年前、高祖であるルシャ様が虐げれた者を受け入れ彼らを守るべく、興した国だと王家には伝わっております。興した当初は本当に小さな集まり、百にも満たない数でしたが、その後も助けを求める者を拒む事無く受け入れ続け、現在の様な国家の体なすまでになる事が出来ました。この事は……』
レブルの話は延々と続き、聴衆の顔には長いよという言葉がアリアリと浮かんでいた。
「なぁ、何でこういう場の偉い人の話って眠くなるんだろうな?」
「そりゃ退屈だからに決まってますよ」
「そうだよな、どうせ話すんなら面白い事の一つでも言えばいいのに……飽きて来たな……リーム、お前レブルぶん殴って話を止めて来いよ」
「えー、私ですか?トールが殴ればいいじゃないですか。ほら予備のマイクもあるし、昔見た動画みたいにやって下さいよ」
「あれはマイクじゃ無くて、右フックから始まった奴だろ?」
演台の上では興が乗ってきたレブルが原稿を握り熱弁を振るっていた。
『……でありまして、ルシャ様から数えて二十五代目となる私の代でこのような危機を迎えた事も、何か意味ある事と受け止め精進していきたいと思う所存であります。……思えば……』
終わりかとホッとした一同の気持ちに気付かず、レブルは更に言葉を紡ごうとしていた。
すると、脇に控えていたハシェがツカツカと演台の上に上がった。
『なんだハシェ、まだ儂の話が……あっ!?何をする!?』
ハシェはマイクスタンドからマイクを外し、レブルを片手で押さえ込みながら叫んだ。
『皆に言いたい事は一つだ!!民を!!世界を守る為、精一杯戦って欲しい!!以上だ!!』
「うおおおおお!!!ハシェ様最高!!!」
「姫様!!!一生ついて行きます!!!」
長い話に辟易していた人々は、ハシェに声援を送った。
ハシェは彼らの声援に手を上げ応えながら演台から降り、機体をコントロールする為用意された建物に向かう。
騎士、兵士達も彼女の後を追って移動を始めた。
演台の上ではレブルがその様子に膝をついて項垂れていた。
「ううッ、徹夜して原稿を作ったのに……」
そんなレブルの肩にヒースは手を置いて、グッと親指を立てた。
「フフッ陛下、いい仕事でしたよ。殿下の人気はうなぎのぼりです。これでいつでも引退出来ますな」
「ヒース、貴様……謀ったな!?これを狙って儂にスピーチは長い方が良いと進言したのか!?」
「謀ったとは人聞きの悪い……私はこの国の為を思って、貴方を王座から引きずり降ろそうとしただけですよ」
「それを謀ったというのだ!!……ググッ、儂では器不足とでも言うのか!?」
「ええ、陛下より殿下の方が器は大きいでしょう。それに急速に発展した民の暮らし、更にグーガという新たな民達、それらに対応するには若く柔軟なハシェ様の方が向いています。これは陛下のご子息も含めた王族の方達も認める所です。陛下は隠居して世直しの旅でもされたらいかがですかな?不肖ながら私もお供いたしますよ。ほら王家の紋章の入った小物入れも用意してありますし」
ヒースはそう言って、懐から紋章の入った手のひらサイズの黒い小物入れを取り出した。
「お前の共などいらんわい!!このオタンコナス!!」
レブルの突き出した拳を絡めとり、ヒースはレブルに卍固めに似た技を決めた。
「ぐおおお!!痛い痛い!!」
「いいじゃありませんか陛下、ヒースさん、やっておしまいなさい。とか楽しそうでしょう?」
「グググッ……仮にそうなっても、お前だけは絶対に連れて行かん!!」
演台の上でレブルにヒースが技を掛け、その周囲では側近達が二人に声援を送っていた。
「俺達も大概だが、この国の奴らもかなり変わってんな」
「国を興したルシャって人の影響じゃないですかね。さっきの話、トールは聞いてなかったみたいですけど、結構無茶苦茶な人だったみたいですよ」
「そうなの?……途中から意識が飛びかけてたからな。後でかいつまんで教えてくれよ。面白そうだ」
「了解です。トールでも理解できるようにアニメにでもしておきますね」
「サンキュー、んじゃ行こうか?……俺でも理解できるように……どういう意味だリーム?」
「そんな事より、さっさと行きますよ」
「待てよ!俺は詳しい説明を断固として要求するぞ!ちょ、待てよ!」
楽しそうなレブル達を置いて、リームとトールはモーリアンに乗り込んだ。
兵士達の操る機動兵器は既に星の側、衛星軌道に整列している。
後はモーリアンを先頭に、グードの軍隊に攻撃を仕掛けるだけだ。
「全力出すのは久しぶりですね」
「サラッと話題変えてんじゃねぇよ」
「だってトール、朗読だと五分ぐらいで寝ちゃうじゃないですか。子供みたいに」
「……クッ、否定できねぇ」
「ねぇ?さあさあ、納得したなら座って下さい」
「んー、何かモヤモヤするけど、まっいっか。んじゃ行くぜ!」
コックピットに座ったトールは手を打ち合わせると、モーリアンを宇宙に向けて駆け上らせた。




