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科学と魔法  作者: 田中
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ガリュウの恋

その夜、部屋を抜けだしたガリュウは食堂へ向かった。

厨房には給仕係の娘たちがまだいる筈だ。

女性は基本、どの種族も噂とお喋りが好きな筈、それにこのアバターなら警戒も緩むだろう。


ガリュウが思ったとおり厨房では、娘たちがお喋りをしながら後片付けに勤しんでいた。


「すまない。水を貰えないだろうか?」


ガリュウが声を掛けると、厨房は黄色い歓声に包まれた。


「キャー!!何!?お水!?だったら私が汲んできてあげる!!」

「何抜け駆けしてんのよ!?あんたは皿でも洗ってなさいよ!!」

「ねぇねぇ、お水なんかより、私の部屋でお酒でもどう?」

「あんた何でお酒なんて持ってるのよ!?」

「いいでしょ!?私のお給金で買ったんだから!!」


ガリュウは余りの騒がしさに顔を顰めた。

何処の世界でも女性のこのノリには馴染めそうにない。


「はいはい、お客さんが困ってるだろ?仕事に戻んな」

「はーい」


三十代ぐらいの女性が場を治めてくれた。

栗毛の髪を後ろでまとめた、少し背の高いキリッとした女性だった。


ガリュウがホッとしていると、女性がコップに入れた水を差しだしてくれる。


「はいよ」

「あ、ありがとう」

「すまないね。この砦にゃ、武骨な兵隊ばかりでアンタみたいなタイプは珍しいのさ」

「いや、助かった。……少し話を聞いてもいいかい?」

「何だい?」


女性は柔らかい笑みを浮かべ、ガリュウを見る。

ガリュウは娘たちから助けて貰えた事も作用して、この女性を気になり始めていた。


「……その、あなたは特別な相手はいるのだろうか?」

「へっ!?」

「いや、すまない。急に変な事を聞いてしまった。忘れて欲しい」

「ヤダよぉ。こんなおばさんを揶揄うもんじゃないよ」

「ハハッ」


彼は年若い見た目の人々しか存在しないグードにおいて、恋愛感情を持った事は無かった。

自分はおかしいのではと悩んだ事もあったが、それは彼が実は年上好きという性癖の持ち主だったからである。


彼自身はその事に気付いてはいなかったが、彼のアバターが女性を見る目は傍から見ればすぐに分かる物だった。

彼女の方も少し頬を赤らめチラッとガリュウを見る。

そのしぐさをとても可愛いとは感じたが、そんな事に現を抜かしている訳にもいかない。

ここへは情報を探りに来たのだ。


ガリュウは気持ちを切り替え口を開いた。


「ところで、この砦にハーグの女性は来ていないかい?一緒に脱出したんだけどはぐれてしまってね……」


女性はローガの事を尋ねると、急に目つきを変えた。


「アンタ、あの女の知り合いなのかい?」

「……いや、脱出の時、一緒になっただけだ。名前も知らない」


それを聞いて彼女はホッとしたように笑みを見せた。


「そうかい、良かったよ……。あの女はグード人が乗り移っていたんだ。あいつ等はそんな風に魔物や人を操り人形にしてるのさ」

「……それをどこで?」


「姫様が話してくれたよ。妖精さんが力を使って説明してくれたから、とても分かりやすかったよ」

「妖精……本当にそんな物が?」

「ああ、あたしも初めて見た時は驚いたけど、気の良い子だよ」


やはりこの砦には異星人がいるようだ。

この星の生態系については30年でほぼ調べが付いている。

妖精に似た小人の存在は確認出来ていない。


妖精……、ラルド人の変わり者だろうか……それとも自分たちの知らない新たな種族か……。

どちらにしてもその妖精とやらは、自分達の正体を見抜く力があるようだ。

自由に動けているという事は、直接接触しない限りバレないという事だろう。


「それでその女は?捕まってるのかい?」


「皆の前で首を落とされたよ。……正直スカッとしたね。あたしも戦争で知り合いを何人も亡くしてるからさ……ちょっとは皆の気持ちも慰められたんじゃないかねぇ……」


「戦争で……」


彼女の友人達を殺したのは恐らく自分だろう。

その事はガリュウの心に冷静さを取り戻させた。


ローガについては諦める他なさそうだ。

アバターといえど生体兵器だ。

首を落とされれば、機能不全を起こし脳内のデータも破損する。


彼女とは十年程の付き合いだが、お別れする事になりそうだな。


「俺は騙されていたんだな……仲間だと思っていたのに……」

「早く分かってよかったよ。そうじゃなきゃアンタも利用されてたかもしれない」

「そうだね……。それでその妖精さんってのはまだ砦にいるのかい?俺は見た事ないんだ」

「いや、説明してくれた子は最近出て行ったんだ。今いるのはあの子の妹って言ってたね」


妹……複数体、この星に異星人が侵入しているのか?

不味い、もし集団で行動しているなら、現地人に自分たちの技術や武器を渡す者も現れるかもしれない。

そうなればコンテンツは終わりだ。


「へぇ、妖精の姉妹か?そりゃ珍しいね。他にもいるのかい?」

「いや、あたしが見たのは二人だけだよ」


……どうする。

出来れば消しておきたいが、事を起こせばこの体は捨てる事になる。

それにここの連中も警戒を強めるだろう。

出て行ったというもう一匹も気になる。


一旦引くか……。


「ふう、色々話してくれてありがとう。……俺はもう寝る事にするよ。正直ショックが大きすぎて眠れるか分からないけど……」


「何だって時間が解決してくれるさ。あたしが保証する」

「そうか……、君、名前は?」


「ライザ、あんたは?」

「俺はガリュウだ」


「ガリュウだね。まぁゆっくりお休み。どうしても眠れないっていうなら、私が添い寝してあげるよ」


添い寝と聞いてガリュウの心臓が弾んだ。


「……それ本当かい?」

「えっ……」

「……冗談だよ、冗談」


ガリュウは笑ってその場誤魔化し食堂を後にした。

何故あんな事を言ってしまったのか……自分はどうしてしまったのだろう。

それが一目ぼれという事にも気付かないまま、彼は用意されたベッドで悶々とした夜を過ごした。


同じ頃、母船に潜り込んだトールとリームは、そんなガリュウの様子をニヤ付きながらモニターしていた。


リームの作ったカウンタープログラムをハシェが仕込んでくれたおかげで、トール達は怪しまれる事無く母船に入る事が出来た。

あれが無ければ、ステルスゲーム並みの慎重さで動かなければならなかった所だ。


母船と聞いてコンテンツ会社の人間が多くいるのかと思っていたが、この船にはグード人はガリュウとローガの二人だけだったようだ。

他は生体兵器で管理を行っているらしい。


現状でグード人の部下である生体兵器と船の監視システムには、二人の姿はメンテナンス係に映っている筈だ。

つまり二人は現在、透明人間という訳だ。


ちなみに潜入には、金〇のバイク飛行モード(原作にそんなモードは存在しない)を使用した。

その時見たハーグの王都には、暗い顔をした人々が暮らしていた。

彼らは生体兵器に監視されており、反抗する様子も見られなかった。


ローガの記憶では術士が生まれると本星に送り、コロシアムで戦わせているらしい。

感覚的にはカードゲームの様な感じで、強力な術士は高値で取引されているそうだ。

つまりこの街は巨大な人間牧場という訳だ。


トールは人間をゲームの駒に使う感覚に、やっぱ潰すしかねぇなと思いを強くした。


ローガという情報源があったので、まだ情報の精査は完了していないが船内の様子は大体分かっていた。

彼らが管理に使っているデスクに向かった所、ダイブ装置に入っているドートンのエリア担当ガリュウを見つけた。


カウンタープログラムを仕込んだ事はデュオから連絡を受けていたが、ガリュウの目的や状況は分かっていない。

リームは情報を得る為、現在ガリュウのアバターがつながっているモーリアンのメインコンピューターを経由して、ガリュウの視線や感情をモニターしたのだ。


現在二人はトイレに隠れてリームが映し出した映像を見ている。


「キャストが微妙だが、青春恋愛映画っぽいな」

「ライザさん、やりますね。このガリュウってグード人メロメロじゃないですか。心拍数上がってましたよ」

「食堂のおばちゃんと異星人の恋か……敵とはいえ胸キュンだな」


「敵……」


映像を消しリームはトールを見つめた。

もう笑みは浮かべていない。


「……トール提案があります」

「何だよ?えらく真剣な顔だな?」


「このガリュウって人、データバンクに取り込みませんか?母船を飲み込めばモーリアンをこの母船に偽装するぐらいは恐らく出来ます。彼のダミーに窓口になってもらって母星の情報を入手しましょう」


「あいつ等の仲間のふりして母星の情報をか……あいつ等の母星を叩くのか?」


「そうです。今いるグード人を駆逐しても、我々が去れば同じ事が起きる可能性があります。であるならいっその事……」


リームは珍しく真剣な表情で話した。

トールはニヤリと笑みを返す。


「乗った。だがよぉ、星ごと吹き飛ばすのはやっぱ夢見が悪いぜ」

「ではなにか考えが?」

「あいつ等、暇だからこんな事してんだろ?だったら暇じゃ無くしてやるんだよ」


「暇じゃ無く……具体的には何を?」

「グード人はこの船でも生体兵器に色々労働やらせてるじゃん。きっと母星でもそうなんだろ?奴ら解放してやろうぜ」


「……成程、良いですね、やりましょう。計画を進めるにはグード人の星のネットワーク情報が必要ですね。どちらにしても彼らの星に乗り込む必要がありそうです」


リームは深く頷いた。


「さて、それじゃあ取り敢えずは、グード人本体の身柄を確保して船を飲み込んじまうか」


「そういえば、確かローガがハンサムさんを誘拐していた筈です。なんかいい服着てたしきっと偉い人ですよ」


「んじゃ、そいつも確保だな。……他にも捕まってる奴とか助けとくとするか」


二人はトイレを出て、母船のブリッジへ向かう。

必要なのはグード人の星の座標。


まぁその前にこの星を掃除して、モーリアンを復活させる事が目標だ。

久しぶりのデカい仕事になりそうだ。


やる事への道筋が見えたトールは、悪意100パーセントの笑みを浮かべた。

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