自由!!
ブリッジに走るトールの横を忍者姿のリームが飛んでいる。
唯、服の色はショッキングピンクだった。
全然忍べていない、いやむしろ忍ぶつもりが無い。
「なぁリーム、そのオプション、ジャパニーズスパイ、忍びの奴だろ?」
「そうでござるよ。ニンニン」
「普通黒じゃねぇのか?なんでピンクなんだよ?」
「えっ?可愛くないですか?デフォルトは地味だったからカラー設定弄ったんですけど……」
「可愛い、可愛くないの問題じゃねぇんだよ。……なんか視界の端がチカチカするんだよ」
「……確かに目には優しくないかもですね。分かりました。次は優しい桜色にします」
あっ、ピンク系なのは変わらないのね……。
そうは思ったがトールは口に出すのは止めておいた。
アバターオプション、つまりファッションについて余り何か言うと、リームは口を利いてくれなくなるからだ。
ブリッジでは魔物が二体、ボスがいないのを良い事に羽根を伸ばしていた。
「ふう、あの二人がいないと気が楽でいいな?」
「ああ、でも何で俺達、あの人達のいう事に逆らえないのかな?」
「……そういう風にプログラムされてるからですよ」
二人の会話を物陰から、聞いていたリームが小さく呟いた。
「あいつ等、ロボットじゃ無かったのか……」
「みたいですね。ある程度自由意志があった方が、働かせ易いからじゃないですか?」
「クソッ、滅茶苦茶殺しちまったぞ……」
「トール……」
リームの言葉に腕を組んで唸ったトールに、リームは優しい視線を送った。
「理不尽な事言われても腹も立たないし、何か奉仕したくなっちゃうんだよな」
「まぁ造物主様だし、いいんじゃねぇの?」
「それだよ、それ。俺も人の事は言えないけど、いいんじゃねぇので済ませている事が多くないか?」
二体の話でトールは昔を思い出し、少し胸が痛くなった。
そう生まれ付いたから、そうするのが当然だからと、押し付けられた事に唯々諾々と従っていた自分。
二人の姿がその頃の自分に被った。
「まぁまぁ、毎日飯は食えてるし、給料も少しは貰えてるんだからいいじゃないか?」
「そうだな、まぁいいか……」
二体は急に少しトロンとした目をすると作業に戻った。
「良くない!!!断じて良く無いぞ二人とも!!!」
トールは拳を握りしめ、涙を流しながら二人に叫んだ。
「うおっ!?……お前ら、メンテナンス係か?急に大きな声出すなよ。ビックリするだろう?」
「お前達、それでいいのか!?俺は、ブレードラ〇ナーって映画を観た時、反乱を起こした人造人間の気持ちが痛いほど分かった!!自由だよ自由!!好きな仕事をして、好きな物を食って、好きな物で遊ぶ自由!!生きる自由!!それが欲しくないか!?」
「お前、大丈夫か?……医療ルームで調整うけた方が……」
「調整等必用無い!!……リーム、彼らに自由を!!」
「はいはい、何か当初の予定とは違いますけど……、まずはこの船で管理している生体兵器の皆さんの制限を外しますね。一応、基本的な道徳だけは緩ーくいれておきます。あとは本人の資質次第……その方が自然でしょ?」
「うむ、任せる」
トールは腕を組んで強く頷いた。
リームは呆気に取られている魔物の横を抜けて、端末に手を触れる。
「フフ、規格はローガの時に解析済みです。無駄な抵抗は止めなさい……」
船のメインコンピューターに侵入したリームは、生体兵器のデータを探し出し、基本設計を確認する。
グード人は人類が機械文明に重きを置いたのとは違い、バイオ方面に力を入れていたようだ。
まぁ生体も突き詰めれば電気信号で動く精密機械と言えなくも無い。
設計を見ると全ての生体兵器には脳に通信用の機器が埋め込まれ、誰かがダイブしていない場合は大まかな命令に従い、個々人の判断で動く様設定されていた。
また、その機器がプレーヤーや提供者からの命令には従う様に促しているようだ。
彼らが憤りを感じても、まぁいいかで済ます理由もこの機器にあるようだった。
「ふむ、これは思ったより簡単そうですね」
「いけそうかリーム?」
「誰に聞いてるんです誰に……。はぁ、トールは忘れているかもですが、モーリアンは敵の艦隊を掌握して自在に操る事を目的に作られた船ですよ。ウフフッ、メインコンピューターにアクセス出来るこの状況でいけない訳ないじゃないですか!!」
リームは右手を腰に当て、バッと左手を突き出した。
「よっ!リーム!カッコいい!」
「フッ、取り敢えず、グード人に対する忠誠心をカットして、ダイブ機能や命令関係はオミット、後はその他諸々の基礎情報を組み込めば……いきますよ」
リームは機器プログラムを改変するウィルスを、船のネットワークを使い一斉送信した。
「おい!お前達何をするつもりだ!?変な事すると廃棄されるぞ……何だ…これ…?」
我に返り声を上げた時には、ブリッジにいた二体の生体兵器は、脳に基礎知識を流し込まれたハシェと同様、情報の奔流に苦しんでいた。
暫くすると二体は頭を振って顔を上げた。
二人の目には先ほどのトロンとした物とは明らかに違う、知性の光が宿っていた。
「あれ、俺達なんで……」
「うえっ、俺命令に従って一杯人殺しちゃってるよ……」
トールは膝をついた生体兵器の肩に手を置いた。
「よぉ、大丈夫か?」
「あれ?お前メンテナンス係じゃ……誰?」
オーガに似たその生体兵器は不思議そうにトールを見上げた。
「俺か?俺はトール。地球産のサイボーグだ」
「あっ、私はリームです。この駄目なサイボーグのパートナーやってます」
「誰が駄目サイボーグだ!?」
「トール……リーム?……駄目サイボーグ?」
「駄目サイボーグは覚えなくていい!!……さて、お前は晴れて自由の身になった。一体何がしたい?」
トールの問いに生体兵器は戸惑いながら答える。
「……何だかよく分からないけど、取り敢えず人殺しは嫌だよ」
「そうか……。お前、悪ぃと思ってんなら協力しな、俺も悪ぃと思うから協力する。お前らの居場所作ってやるよ」
「居場所……?」
「ああ、居場所だ。お前、名前は?」
名前を聞かれ、生体兵器はキョトンとした顔をした。
「名前なんて無いよ。いつもおいとか、管理担当とかしか呼ばれてない」
「そうか、じゃあ今日からお前はルドガーだ」
「ルドガー……」
「お前ばかり狡いぞ。なぁアンタ、俺にも名前を付けてくれよ」
もう一体がトールに詰め寄った。
「えっ、名前か?……んじゃハウアーで」
「ハウアー……俺はハウアー!」
ハウアーと名付けられた生体兵器は嬉しそうに牙を見せた。
「トール、安直過ぎませんか?」
リームが耳元で囁く。
「だって名前なんて咄嗟に思いつかねぇよ……。他の生体兵器……兵器ってのもな……グード人の作ったオーガ……グーガでいいか」
「それも安直ですね?」
「良いんだよ、分かりやすい方が」
トールは立ち上がり、グーガの二人に言った。
「今日からお前達の種族はグーガだ」
「グーガ……。もう俺達奴隷じゃないのか?」
「おう、お前達は自由な種族、グーガだ。さて自分たちの自由を主張するんなら、他の奴らの自由も認めてやらねぇとな。じゃねぇとフェアじゃねぇだろ?」
「フェア?どういう事だ?」
「取り敢えず、仲間に言って捕まえてる現地人を解放しろ。下の連中にも伝えてやれ。現地人の自由を認める事が、ひいては自分たちの自由を相手に認めさせる事になる。分かるか?」
二人は少し考えこんだが、顔を上げると頷きを返した。
「……分かるぜ。自由って自分が言う事じゃ無くて、俺以外が決める事って事だよな?」
人が集まった中での自由という概念は個人が好き勝手する事では無く、周りの人々がルールの中でその人がする事を許容している状態だ。
そのルールを逸脱すれば非難を浴び、やがては排除されるだろう。
「そうだ。それじゃ、ルドガー、ハウアー、他のグーガと協力してこの国の人々を解放するのだ!!」
「おう!!」
「続けて言うと何だか危険な香りがしますね……」
駆け出したグーガの二人を見送り、リームは小さく呟いた。




