第24話《違和感》
───涙とは?
それは一粒の水滴。
───涙とは?
それは一欠片の感情。
───涙とは?
それは儚く淡い一生の宝物。
そんな涙がもし、この世界を滅ぼすとしたら?
こんな涙がもし、全てを破壊するとしたら?
───涙とは?
それは避けることの出来ない瞳の欠片。
───涙とは?
それは知ることすら叶わない哀れな欠片。
───そして……女々の涙とは?
それは………………………………………。
───
──
─
「さすがにしぶといですね。殺人凶が二人相手では少々荷が重いですよ」
リリー・ブラッドはサーベルを構えながら右、左と目を動かす。周囲には最速により誕生した複数の分身が待ち構えていた。
「キル・メーラ。さすがは最速の殺人凶ですね。分身の数は30ですか。化物級の速さですね。どれが本物かはさすがの私も分からないですよ」
「あら?余所見をする暇なんてないわよ。頭上もちゃんと確認しなさい」
「む!?」
リリー・ブラッドの頭上には鉄の槍を振り下ろしている南の殺人凶の姿があった。
「喰らえ!メロディーレクイエム!!」
「ち!?」
とっさに両腕を使い防御姿勢にはいる。しかし、相手は南の殺人凶。破壊力は殺人凶の中で最強クラスだ。無傷とはいかず複数の銃弾のような突きを全身に浴びる。そして、それを合図にキル・メーラも分身30人による手刀が炸裂した。
「手鋭刀!30連!」
「まだだ、2連!メロディーレクイエム」
「………………………」
二人による猛烈な攻撃を喰らっていながら終始無言で受け止めるリリー・ブラッド。しかし殺人凶二人による容赦のない攻撃により、リリー・ブラッドは全身から血飛沫を撒き散らしながら数十メートル先まで吹き飛ばされた。
「殺ったか?北の殺人凶」
「さあ、分からないわ。南の殺人凶」
二人は息を切らしながら横たわるリリー・ブラッドを見つめている。しかしその異変に最初に気づいたのはキル・メーラだった。
「うーん。何かおかしいわね」
「ん?どうかしたか?」
南の殺人凶、中原侑也はその言葉の意味がよく分からないでいた。
「あなた……本当にリリー・ブラッド?」
「は?いきなり何を言っているんだ西の殺人凶」
そのキル・メーラの言葉に倒れていたリリー・ブラッドは血を拭いながらゆっくりと起き上がる。
「……ふふふ、南の殺人凶が言う通り本当に何を言っているんですか?ですよ。私は正真正銘、リリー・ブラッドで間違いないですよ。頭でもおかしくなりましたか?西の殺人凶」
「ええ、その通りね。少しおかしくなったのかしら?でもあなた、さっき闘ったリリー・ブラッドとは殺気の種類が違うのよ。私が闘いに負けた時のリリー・ブラッドにはもっと深い狂喜を感じたわ」
「……………………ふふふ、ふははははは!よく気がついたな。さすがだよ」
笑い声をあげながらリリー・ブラッドは周りに黒いオーラーを出しながら徐々に姿を変えていった。
「あなたは!?てっきり死んだのかと!?」
二人の前に現れたのは黒い影の支配者。最凶の称号を手に入れている漆黒の暗殺者だった。
「シャドー!?」
「シャドーだと?確か最凶の暗殺者と聞いた事があるが……」
侑也は槍を構えながらシャドーに問いつめる。
「貴様、リリー・ブラッドの仲間か!」
シャドーは茂みに倒れていた麻衣を抱えあげ二人の元へ差し出した。
「槍をしまってくれ、南の殺人凶。俺は味方だ。少々実力を確かめたかった」
「実力だと?何のためにだ?」
「君たちなら麻衣ちゃんを守れると確信したよ。この子はパンドラのカギだ。絶対にあの場所へは行ってはいけない。すぐにここから立ち去りなさい。奴が来る前に……」
シャドーはそう言うとキル・メーラにゆっくりと歩み寄った。
「メーラ、久しぶりだな」
「リリー・ブラッドに殺されたと聞いていたわ。あなたの親友、シン・ハザードも頭を抱えていたわよ。なぜ姿を現さなかったの?」
「そっちのほうが都合がいいからだ。だが実際に俺は闘いで奴に僅差で敗れた。しかし確実に死んだと確認しなかった奴のミスで俺は今ここにいる。そう、俺は生きていた。幽霊じゃないぞ、メーラ」
笑みを浮かべながら話すシャドーに侑也は未だに警戒を解いていなかった。
「本当に敵ではないんだな、西の殺人凶」
「ええ、私の仲間よ。シャドーは変装の達人でもあるんだから」
「そうか。お前を信じるよ。だが確かに……あの変装は僕には見破れなかったよ。そういえば僕が西の殺人凶を助ける時に吹っ飛ばした奴は本物だったのか?」
「さっきも私が言ったでしょ。あいつは本物よ。殺気が狂喜の塊だったから。近くにいるのは間違いないわね」
そんな二人の言葉を聞いていたシャドーは少し笑みを浮かべていた。
「お前達なら大丈夫だな……………よし早く行け!二人とも、死島に向かうといい。そこではすでに闘いが始まっている。メーラ!絶対に麻衣ちゃんを死なせるなよ!」
そう言うとシャドーは草むらの中へ走り去っていった。
「今、死島って言ったか?」
「ええ、もう一人の悲劇な少女がそこにいる」
「ふん。よく分からないがその場所に行けばいいんだな」
「そうね、私達も早く行きましょう。シャドーはリリー・ブラッドと決着をつけるみたいだし」
侑也は麻衣を抱き抱え、キル・メーラと一緒に死島へと向かった。
一人目の少女は希望を持った。
そこに信頼出来るあなたがいたから。
二人目の少女は最強を望んだ。
それは自分を否定したかったから。
一人目の少女と二人目の少女。光と闇である個々の存在は、とてもとても似ている。
少女達の涙は一緒であり、少女達の知性も一緒であり、少女達の心も一緒である。
しかし運命は、そんな二人に試練を与えた。
ああ、これはきっと神のイタズラなのだろうか?




