表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇の暗殺者と幼き少女。  作者: 博多っ子
54/76

第20話《知らされる真実》

「痛い!もっと優しく治療してよ」


「お前を助けただけでもありがたいと思え」


 キル・メーラは南の殺人凶、中原侑也に連れられ怪我の治療をしている。


「しっかしボロい隠れ家ね。もう少しマシな場所はなかったの?」


「今、お前をこの場で殺してもいいんだぞ。全く包帯ぐらい自分で巻いたらどうだ」


 リリー・ブラッドに予想外の攻撃を受けキル・メーラの背中には痛々しい傷が残っていた。


「えーと麻衣ちゃんだっけ?ちょっと包帯を巻くの手伝ってくれる?この男が下手くそだから替わってちょうだい」


「え!麻衣ですか!」


「そう、あなたよ。目が見えないのは知ってるわ。少し手伝ってくれるだけでいいから。それと南の殺人凶!服を脱ぐから出てってくれるかしら」


「お前の裸に興味はない。それに僕は片手がないんだ。包帯をうまく巻けないのは当たり前だ」


 不機嫌そうな顔でブツブツ文句を言いながら侑也は小屋から出ていった。


「ふー、全く今の男ってデリカシーがないわね。じゃあ麻衣ちゃんお願い」


「は、はい!」


―――


――




「お姉さん、凄い筋肉だね。手で触った感覚で分かるよ。やっぱり殺人凶だから日々鍛えてるの?」


「当たり前よ。ほかの奴らに舐められたら終わりでしょ。それと…お姉さんじゃなくてメーラって呼んでいいわよ」


「はい、メーラさん」


 キル・メーラは服を全部脱ぎ捨て体の傷を全て異常がないか確認する。


「うーん。特別深い傷はなさそうね。すぐに復帰してあの場所へ行かないと」


「あのー…」


 麻衣はキル・メーラに包帯を巻きながら今まで気になっていた事を聞いてみた。


「メーラさんは……私達の敵なんですか?」


 その言葉を聞いたキル・メーラは少し笑みを浮かべながら麻衣の頭を撫でおろす。


「……私達は止めに来てるだけ……あの場所へ行き、全てを終わらせることを望んでるのよ」


「私達?」


「私の父、キル・キラーと私、キル・メーラは全ての元凶であるあの場所へ行かないといけないのよ」


 包帯を巻き終えキル・メーラは服を着て麻衣に『ありがとう』とお礼の言葉を伝えた。


「あと、南の殺人凶!扉の前で盗み聞きしているのがバレバレよ。あなたには感謝している。知っている事は全て話すから警戒はしないでちょうだい」


 侑也はその言葉を聞きゆっくりと扉を開け入ってくる。


「僕は何が起きているか知りたいだけだ」


「いいわ、教えてあげる。でも……その前に麻衣ちゃんは聞かないほうがいいわ。ちょっと外に行っててくれる?」


「はい……分かりました。そうですよね!麻衣がいたら色々お話が出来ませんもんね。麻衣は外の空気でも吸ってきます」


 麻衣は瞬時にその場の空気を悟った。両手で白いワンピースを握りしめ笑顔でこの場を立ち去った。


「あの子……しっかりした子ね」


 キル・メーラはなぜか切ない表情で出ていく麻衣を見つめていた。


「そうだな。だが……その心はとても弱いし、とても悲しいように僕は見えてくる」


「ふふふ、お互い殺人凶なのに変な感情ね。さてと……どこから話をする?」


「聞きたい事は山ほどある。お前はなぜあんな場所にいた?あの先にあるのは古い神社しかないのに」


「ま、そう聞くと思っていたわ。ねえ、南の殺人凶、少し昔話を聞いてもらえるかしら」


 そう言うとキル・メーラは近くのベッドに座り込み静かに喋り始める。







 その昔、山々に囲まれた集落に一人の少女が産まれました。


 少女は人々に支えられスクスクと育ちながらやがて十歳を迎えました。


 しかし、少女はその直後に人々により監禁されてしまうのです。


 数ヶ月監禁され少女は衰弱し弱りきっていました。


 そんな時、自分の親が娘を取り返しにきたらしいのです。


 だけど……人々によって邪魔者と判断され殺されてしまいました。


 そして、少女はこの集落に伝わる神への生け贄である事を人々から聞かされました。


 少女は絶望と憤怒が重なって全てを憎みました。


 そして、遂に生け贄の時が来てしまいました。


 そこは、神社の横にある大きな大木。


 深い穴を掘られ少女はその中に落とされてしまいます。


 土をかけられ息が出来なくなり少女はこう思ったのです。


 そう、死にたくないと。まだ生きたいと。


 息が出来なくなっても、命が消えかかっていても、それでも生きたいと。


 そして、少女は憎しみを抱きながらこの世を去ってしまった。


―――


――



「……悲しい話でしょ。そして、その生け贄の場所こそ私が行きたい場所よ」


「なるほどな。それがあの神社なんだな。だが一体何をするためにそこへ向かう?そしてリリー・ブラッドはなぜあの場所にいたんだ?」


「それは……」


 その問いにキル・メーラの表情が曇る。


「真実を話せキル・メーラ。闇の噂ではあの死島で近々、争いが起きると聞いたぞ。この件も何か繋がりがあるのか!」


 キル・メーラはゆっくりと立ち上がり窓を開けて外を見渡す。そして、口を開く。


「ねえ、南の殺人凶。殺人凶ってなんで存在していると思う?」


「……考えたこともない」


「私も同じよ。だって存在する意味をいちいち考える人なんて実際ほとんどいないと思うわ。いるとすればそれはきっと……きっともう人ではなくなっている。あのね、南の殺人凶。さっき話をした少女は……実はまだ生きているのよ」


「は?」


「そう……生きてる。魂だけが生きてるのよ」


 侑也にはその言葉の意味が分からなかった。魂だけ生きていると言われても普通は誰でも疑問を持つだろう。


「冗談で言ってるんだよな。なんだ?その少女は幽霊にでもなっているのか?」


「私の顔が冗談に見える?」


 キル・メーラは真剣な表情で侑也を見つめる。その顔には一切嘘偽りない。


「……そうか。だがまだ僕は半信半疑だよ。それにその少女の魂とこの件は一体何の結びつきがあるんだ?」


「今から約百年前の話よ。突然、その集落の人々が全員惨殺されてるの。犯人はその集落に産まれた少女らしいわ。十歳になった夏の日に急に性格が変わったらしいのよ。手には大きな鎌を持っていたとか……」


「おいおい。なんだ?話が良く分からなくなってきたぞ」


「憑依と言ったほうがいいのかしら。要するに彼女の頭の中に入りこんで支配していたんでしょうね。親の復習と自分の復習の両方を成し遂げたんだけど暴走は止まらなかったらしいわ。でも、その暴走を止めた人物が二人いたのよ。そう、あなたもよく知る人物。ミル・サターナとリリー・ブラッドよ。少女は彼らと闘いそして敗れた。だけど死んだのは体だけだった。魂は次の宿主を捜す為、この世をさ迷っていたの。だけど最終的に少女の魂はミル・サターナにより元の墓場である神社に封印されたのよ」


「話が現実を通り超してまるでファンタジーだな。それにミル・サターナにリリー・ブラッド!!おいおい百年前の話をしているんだよな?」


「彼らは寿命を延長する為、独自の方法で今まで生きているのよ。そして、ファンタジーじゃなくて現実の出来事よ南の殺人凶。そして話を戻すわね。少女の魂は無事に神社に封印されたんだけどその封印を破壊した人物がいたのよ。それがリリー・ブラッドよ。彼はその魂の怨念に心を開いてしまったの。人間という生物は黒に染まろうとすればあっという間に黒になるのね」


「だいたい理解は出来たよ。それで封印が壊され、少女の魂はどこに行ったんだ?」


「魂にはね。善と悪の二つがあるの。それがうまく混じりあい一つの魂になっているのよ。リリー・ブラッドはその少女の魂を二つに分けて、『悪』の魂をその当時に君臨していた東の殺人凶に渡したの。善の方の魂はミル・サターナに奪い返されたわ。そして、善の魂だけまた神社に封印されたのよ」


 それは生け贄にされた少女から始まる物語。

 それは人間に絶望した少女から始まる物語。

 とても……悲しく、理不尽な物語。


 キル・メーラは侑也に歩み寄る。

 とても悲しい顔で……とても哀しい目で。


「少女の魂の復活。それがリリー・ブラッドの狙い。それには善の魂も必要なの。だけど、ミル・サターナの封印によってある条件がないとその封印は破れないのよ。その善の魂と一緒の心を持ち合わせている少女が必要なの」


「まさかその少女って!」


「そう……内田麻衣よ。麻衣ちゃんがその封印されている場所に行けば少女の魂と共鳴して封印が解かれる。内田麻衣を殺し、殺した器、つまり体に少女の魂を入れるだけ。あとは、悪の魂が入った同じ犠牲者の少女と会わせるだけ。そこからはどうなるのか私にも分からない。だから私達はその封印を少女の魂ごと消し去る為にここに来たのよ」


「だからお前はあの場所に……しかし、リリー・ブラッドは何の目的でそんな事を」


「さあ、異常者の考える事はよく分からないわ。ま、私達も普通ではないけどね」


「その情報量。お前らは一体……」


「私、キル・メーラと父、キル・キラーはさっき話をした集落の子孫よ。たまたまその時、集落を離れていたらしいの。全ては父から聞いたわ」


 キル・メーラが話終えた瞬間、それは突然来た。


「侑ちゃん!メーラさん!」


 ドアを破り、入ってきたのは麻衣を拘束しているリリー・ブラッドの姿だった。


「ふふふ、西の殺人凶、キル・メーラ。あなたはペラペラと喋りすぎですよ。私の邪魔をもうしないでいただけたいね。この内田麻衣は私にとって最大の宝なんですから」


 侑也は鉄の槍を抜き、リリー・ブラッドに問いかける。


「そんな事の為に麻衣を苦しめたのか!!この外道が!!」


「南の殺人凶、中原侑也。殺人凶がそれを言いますか。外道はあなたも一緒でしょ。私はただ、人間の憎しみがどれほど巨大になるのか見てみたいだけですよ」


 そのリリー・ブラッドの顔は歪んでいる。

 人間の憎しみを餌にして生きているように。

 人間の絶望を餌にして生きているように。


「侑ちゃああああああん!!」


 麻衣は叫ぶ。ただ、叫ぶ。それしかこの恐さを直視出来ないから。あの、過去のトラウマが脳裏をよぎる。


 思い出したくない悲劇。

 思い出したくない惨劇。


 頭がおかしくなりそうだった。


「西の殺人凶!」


「分かったわ、南の殺人凶!」


 中原侑也とキル・メーラは目でお互いを確かめ合い武器を構える。


「麻衣、ちょっと待ってろ!」


 南は鉄の槍を構え。


「麻衣ちゃん、少し辛抱してね!」


 西は自らの体である手刀を構える。


「おやおや、この私とやる気ですか?後悔しますよ殺人凶」


 リリーブラッドは麻衣の首をトンッと叩いて気絶させ、草むらに放り投げた。


「貴様!リリー・ブラッド!!」


 侑也はリリー・ブラッドに向けて突進する。

 キル・メーラは死歩を使いリリー・ブラッドの後ろに回り込んだ。


「さあー、戦争を開始しよう。殺人凶達!」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ