第19話《最速の女》
ダークミラー。その暗殺者は裏の世界では有名である。まだ若くして暗殺者の中では上位に位置する実力。
殺しは優雅に……
殺しは淡々に……
殺しは洗礼に……
実に暗殺者の『鏡』とも云えよう。
その評判は瞬く間に広がり誰も彼に挑む愚か者は出てくる事はなかった。
故に闇、故に鏡。
それがダーク・ミラーである。
しかし彼は思うのだった。この仕事をしているのはある人物を見つけそいつをこの手で抹殺する事こそが自分自身のけじめであると。
過去を振り返るほど心が痛くなってくる。
過去を振り返るほど自分が嫌になってくる。
たった一人の血の繋がった家族があいつに連れ去られた日から。
返せ!返せ!返せ!
叫ぶ声を振り払い俺の大事な妹を連れ去った憎きあいつを俺は忘れた事はない。
サーベルを俺の喉元へつけ奴は言った。
「私はリリー・ブラッド。あなたの妹はそのうち死ぬ運命。私が彼女を天へ贈りましょう」
何を言っているのか分からなかった。いきなり家に入って来て妹は連れ去られた。
それからだった。妹を捜して捜して捜して捜して捜しまくった。
だが情報どころか足取りひとつ見つからない。
そんな事がもう嫌になっていたのか?全てが嫌になっていたのか?
そして、数年が経ち俺はあいつにあったんだ。
びっくりしたよ!
だってあいつは妹にそっくりだったんだ。
ある家に暗殺の依頼があった。その家の父を殺しその横にいたのが父から包丁で腹を刺された幼い少女だった。
しかし、すぐに分かった。こいつは妹ではない。冷静を取り戻し俺はそいつを殺そうとしたんだ。
だが……無理だった。
俺はこいつを自分の家に連れていった。
最初は治療だけして出ていかせるつもりだったがこれまた言う事を聞かない。しかも頑固で『ここに残る』とまで言い出しやがった。
だがどうしてだろう。
ここにいてほしい!と言う気持ちが頭の中にあったのは事実だった。
少女の名は古川千夏。俺の妹にそっくりな少女。
一緒にいた時間は本当に少なかったが俺は徐々に心が安心感に包まれていったんだ。
なにげない話、なにげない笑顔、なにげない行動、ああ、俺はこの『なにげない』がほしかったのか。
千夏が学校に行きたいと言った時も、俺はその『なにげない』と言う言葉が頭を駆け巡った事を覚えている。まぁ、すぐ学校が夏休みに入りその願いは少し後になる事になったんだが。
そんな夏休みに千夏は突然いなくなった。
俺が仕事に行っている最中に突然と姿を消した。
また……俺は孤独か……。だが、それで俺の心が痛くなるのは俺のただのわがままだ。
しかし全てを知った時、俺は目を疑ったよ。
千夏は東の殺人凶の娘であり、闇の人間側だという真実を聞いた時は驚いた。
取り乱したよ。あいつが、千夏が殺人凶の娘だなんて。
こうなったら情報を提供してくれたシン・ハザードの言葉を信じこの目で確かめてやる。
東の殺人凶と北の殺人凶が組んでいると聞いたが理由が分からない。そういえば美沙も捕まっていると聞いたな。目的はシン・ハザードなのか?いや、考えても仕方無い。
全ては行けば分かるだろう。
―――
――
―
「さて、行くか」
ダークミラーは64式小銃を背中に背負い、複数のナイフを服の中にしまう。
「MINIMIは邪魔だな。全然使ってないなこの武器」
ダークミラーはMINIMIに向けて少し笑みを向けながら小屋の外へ出ていく。
《場所は変わってとある山の中》
周りには何もない。どこを見回しても山、山、山である。
そんな場所で真昼の時間から彼女、キル・メーラはある人物と戦闘態勢に入っていた。
「やっぱり来たわね。リリー・ブラッド」
「私の勘が外れましたね。この場所にはキラーが来ると思っていましたよ」
紳士服の姿はいつもと変わりはない。だが、顔に頭の上から下にかけ複数の切り傷があり、左腕はなくなっており、足は引きずっていた。
「少し早く父より先に来ただけよ。それよりどうしたのかしら。その壊れた体や傷は?」
「少し仲間内で揉めましてねー。さすが最凶の暗殺者にして最高の暗殺者でしたよ」
キル・メーラはサングラスを取り外しリリー・ブラッドを睨みつける。
「まぁいいわ。あなたがそこを退いてくれるのなら話が早いんだけど」
「残念ですが答えはNOです。あたなの目的は知っていますからね」
リリー・ブラッドがそう答えた瞬間、キル・メーラはすでに彼の横にいた。
『ガキーン!!』
サーベルと手刀がぶつかり合う音。
「いや、さすがに早いですね。しかし西の殺人凶は速力に優れているとは知っていますが、何ですかねー?その手刀は?まるで鉄を相手にしてるみたいでしたよ」
「私の凶器はこの体。武器を一切使わず相手を仕留めるのが本当の西の姿よ。だけどさすがだわ、今のは完璧に殺れるタイミングだったんだけど。じゃあこれはどうかしら?」
そう言った瞬間彼女は消えた。
そう、本当に消えたのだ。
しかも足音すらない。
これが彼女の最速、これが最速の頂点。
キル・キラーも同等の速さであるのは変わりないが、彼の場合どうしても足音が響いてしまう。だが、キル・メーラは全てを消してしまう。姿は勿論、足音すらも。
「さすが西の殺人凶。この私でも目が追い付かないですね」
もともとそこに誰もいなかったかのように静けさだけが過ぎていく。
「返答もしてくれませんか。さて、どうしましょうか?私に致命的な一撃を与えるなら頭ですよ」
その瞬間、リリー・ブラッドの握っていたサーベルが弾かれた。
「アドバイスをどうも」
突然目の前に現れたかと思ったらリリー・ブラッドの胸を手刀で貫いた。
「頭なんか潰したり、貫いたりしたら私のお気に入りの黒のタンクトップがあんたの脳で汚れちゃうでしょ。まだ血のほうがマシよね」
「ぐふ!!………うーん、さすが西の殺人凶。だがこの程度ですか。シャドーのほうが何倍も強いですよ」
口から血を流しながら、リリー・ブラッドは自身の胸を貫いたキル・メーラの腕をがっしりと掴み上げ勢いよく体ごと回転しはじめた。
「ちょっ!何を!」
「さあー、さあー、さあー、さあああああ!!いきますよおおおお!!」
その回転の風により周りの木々が揺れ始める。
キル・メーラの体は腕を持たれているせいで宙に浮きグルグル回されていた。
「きやあああああああ!目が回るよ――――!」
「フィニッシュです」
リリー・ブラッドは体を貫かれている手を引き抜きその回転の遠心力を使いキル・メーラの体を近くの木へ吹っ飛ばした。
「がは!」
勢いよくぶつかり木は折れ、キル・メーラは地面へぐったりと倒れこんだ。
「ナイスゴール……といったところですかね」
リリー・ブラッドはそう言いながらキル・メーラへ歩み寄る。
「残念ですが、あの場所へは誰も行かせませんよ。せっかくの少女の覚醒を邪魔されたら計画がパアですからね。ですからあの大木へは絶対に行かせません」
そして、サーベルを拾い上げキル・メーラに向かい一言。
「君は知りすぎたのです」
そう言うとサーベルを振り上げキル・メーラにとどめをさそうとする……が!!
「メロディーレクイエム」
いきなり出てきた男の鉄の槍がリリー・ブラッドの体に無数の穴をあける。
「ぐぅ!」
大量の血と叫び声をあげながらリリー・ブラッドは草むらの中へ吹き飛んだ。
「おい!西の殺人凶」
「ごほ!ごほ!ふふ、げほ!もしかして助けに来てくれたの?南の殺人凶」
「ふん!誤解するな。お前の知っている事を全部喋ってもらう」
侑也は西の殺人凶を肩にのせ草むらに向かって大声で叫ぶ。
「麻衣!!早く来い!!いったんここから離れるぞ」
その声を聞き麻衣は草むらからゆっくりと出てくる。
「あの人って……もしかしてリリー・ブラッド!私をさらった……ちょっと侑ちゃん!待ってよおおお!見えないから場所が分からないよおおお!」
あたふたするその姿に侑也はダッシュで麻衣をもう片方の肩にヒョイとのせこの場を後にする。
―――
――
―
リリー・ブラッドは草むらに横たわったまま何やら呟きはじめる。
「ふふふふふふふ。本当に次から次へと邪魔が入りますね。まぁいいでしょう。計画が順調に進んでいる事に変わりはないのですから。しかしさっきの声、あれは内田麻衣。まさかこんな所で会えるとは私も運が出てきましたね」
そう言い終えるとリリー・ブラッドはゆっくりと立ち上がった。
―――それはとっても孤独な少女。
―――それは全ての人生が嫌になった少女。
―――それは涙の意味が分からなくなった少女。
ただ息をし人を殺す。
ただ何も感じず人を殺す。
ただ死を理解せず人を殺す。
ああ、それは……とても悲しく……とても哀しい事。
私を知りたいです。私を見たいです。私を捜したいです。
私がすでに私ではないのだから。
全てを変えたいです。全てを消したいです。全てを無にしたいです。
私はとても理不尽なのだから。
あなたは誰ですか?
あなたは自分ですか?
あなたは……私ですか?
この心は……どこに逝けば良いですか?
《千夏》




