第9話《ハンバーガー》
麻衣と侑也が立ち去った後、ミルサターナは小屋の中でコーヒーを飲んでいた。
「あやつら、良きパートナーになれそうじゃの。お前もそう思わんか?」
その言葉を聞き屋根裏からクスリと笑い声が聞こえてくる。
「クスクス、えー、そうですね」
「ワシらもそろそろ動く時期じゃのー」
ミルサターナの目からは衰えを感じさせない闇の何かが見てとれる。
《場所は変わり、とある街》
「おい麻衣。お前…よく食べるな」
「もぐもぐ…だってハンバーガーなんか…もぐもぐ…久しぶりなんだもん」
今、侑也と麻衣は腹ごしらえ中。警戒されないように鉄の槍には黒い布を巻いている。
麻衣の服装は白いワンピースなのでケチャップなどが付着したら一発で分かるだろう。
「えっと、ポテトポテト」
手探りでポテトを捜すがどこにもある気配がない。
「僕が食っちまったよ」
ガーーーン!!!
「麻衣のポテト……ぐすん……ポテトのポテトがなくなってポテト」
ポテトを食べられたのが余程ショックだったのか意味不明な言葉を侑也にぶつけた。
「……分かったよ」
《五分後》
カリカリ♪カリカリ♪
ポテトを美味しそうに頬張る麻衣。
「はぁー、僕は一体何をやっているんだ」
溜め息を深く吐いた侑也であった。
「カリカリ……ねぇ侑ちゃん。目が見えなくて侑ちゃんの身体がよく分からないんだけど一つ分かる事があるの。左腕がないのは生まれつきなの?」
「単刀直入に言うなお前…」
「麻衣は視力を失った状況を侑ちゃんに話をしたじゃん。麻衣達はパートナーなんだから隠し事はなしだよ」
そっと、存在しない左腕を右手で触れながら侑也は麻衣のポテトを少しつまむ。
「同じ男の暗殺者に二度も負けた代償だよ」
「カリカリ……カリカリ……そうなんだ」
麻衣はゆっくり立ち上がり反対側の侑也の席へフラフラと移動する。
「侑ちゃん…哀しい顔はしちゃだめだよ」
そっと頭を侑也の肩にのせ呟いた。
「目が見えないのになぜ僕の表情が分かるんだ?」
「だってなんか侑ちゃん……麻衣のお兄ちゃんみたいだから」
少し瞳が濡れてくる。とてもとても可愛そうな侑也。あなたの今の気持ちは少しだけど分かるよ。
「お前…ふん!早くポテトを食べないと僕がまた食っちまうぞ」
「あーー、駄目!」
―ー孤独を巡る少女、あなたは少し幸福
―ー愛哀を巡る少女 、あなたは少し至福
―ー盲目の少女は兄を望み、南の男は姉を捜す
―ーそんな二人の物語はまだオープニングなのです
会いたくて
会いたくて
私の
心が壊れてしまいそうです
抱きたくて
抱きたくて
私の
身体が震えてしまいます
愛哀と
あなたを愛します
愛哀と
あなたを哀します
―ー孤独が招いた悲劇を私は悔います
―ー孤独が産んだ偽りを私は漏らします
※ 孤独が嫌で
※一人が嫌で
※ それでも私は
―ーあなたが好きなのです