第7話《生死》
―ー哀しく
―ー寂しく
―ーそれ故に虚しく
―ー孤独が嫌で
―ー嫌で嫌でしょうがなくて
―ー泣きたくて、泣きたくて
―ーでも必死に感情を抑えて
―ーそして全てを捨てた。
中原侑也という名前も捨て、南の殺人凶 と呼ばれた。
―ー痛くて痛くて
―ー辛くて辛くて
―ー僕は僕自身を棄てた。
唯一の姉、その生存も分からないまま僕は死ぬのだろう。
どうせ死ぬのなら地獄に。
どうせ堕ちるのなら焼けた荒野に。
脳裏にそのような意識を持ちながら僕は目を覚ました。
え!目を覚ました?なぜ??
僕は死んだはずでは!
体を起こし声を出そうとするが首筋に激痛が走りそれ以上出せなかった。
首筋、そして既になくなっている左腕の斬り口には包帯で治療した後がある。辺りを見回すと古びた部屋のベッドの中に僕はいた。
「相変わらず無茶をするのー」
その声の主は老人。ベッドの後ろの椅子に腰をかけていた。
「き…さま…ヒューヒュー……痛!」
必死に声を出そうとするが激痛が走る。
「やれやれ。困った奴じゃ」
老人は立ち上がり南の殺人凶の頭に近づき首の後ろをトン!と叩いた。
一回咳き込んだと思ったら先程までの激痛が少し和らぎ声が出せるようになった。
「ゴホゴホ!お前は……ミル・サターナ。なぜここに貴様がいる」
「なぜって瀕死の弟子がホテルで倒れていたからのー。まぁ見つけたのはワシじゃなくて。ワシの側近じゃけど。色々話はあるが、今はこう言おう。お前は敗北したんじゃよ」
「五月蝿い!ゴホゴホ!貴様なんか師と思った事なんかないぞ。途中で行方を眩ませやがって。おかげで独断で殺しの技術を覚えたわ!…ってそんな事はどうどもいい。なぜ僕を助けた!殺人凶に情は皆無だ」
南の殺人凶はゆっくりと立ち上がりベッドの横に置いてあった鉄の槍を掴みミル・サターナに向ける。
「ふーむ、中原侑也よ。お前が助かったのはダークミラーの情のおかげじゃよ」
「何だと?」
「側近の報告によるとお前が倒され意識が途切れた時、ダークミラーが死蘇という血止めの処置をしてくれたお陰で今お前はここにいるのじゃ」
「ダークミラー、そのような屈辱的な行為を…ゴホ!おいミルサターナ、僕はどのくらい眠っていた」
「三日じゃよ。今はもう朝じゃ」
その答えに南の殺人凶……いや、もう中原侑也と呼ぶべきであろうか。彼は今を持って想った。
「僕は一度ダークミラーに殺されてそして助けられたんだ」
屈辱的な行為と先程口から出てしまったが何か違う想いが脳裏をよぎった。
ふらふらと歩き入口のドアノブに手をかざす。
「どこに行くんじゃ。身体はまだ完全に回復しとらんぞ」
「黙れクソジジイ。僕は一度死んだ。助けられても嬉しいという喜びは感じないんだよ。屈辱的と言う言葉では言い表せない」
中原侑也はドアを開け朝日を浴びる。
「敗北とあれば南の殺人凶の称号も……もう終わりか」
とぼとぼと歩いた少し先に小さい小川にたどり着いた。水はとても澄んでおり蜻蛉、蛙などが元気に遊んでいる。
「昆虫は羨ましい。何も考えず、問わずに生死をさ迷っているのだから」
ぼそりとそう呟いた瞬間、見知らぬ少女が後ろに立っていた。
「誰だ貴様…」
「あなたはとてもとても可哀想な人間」
その少女に光が見えないというのは瞬時に見て悟った。だが、その哀しみに満ち溢れている姿に中原侑也はただただ見ているしかなかった。
―ーこのあなたは光が見えません。それは孤独が招いた悲劇だから
―ーあのあなたは生死が見えません。それはまだ産まれてきてもないのだから
―ー今のあなたは触れるでしょう。その自分自身の償いに
―ー原色の華を視て蛙は想う。あの一厘に触りたいと
―ー原色の華を視て蛙は動く。その一厘に近づきたいと
―ー原色の華を視て蛙は泣く。私は今、深い井戸の中にいたのだと