第5話《決着》
血の霧が照明灯の光に反射し綺麗に輝いていた。しかし見た目の美しさとは裏腹にその光景は生々しい地獄絵図だった。南の殺人凶は片膝をつき何かを小言で呟き始める。
「まさか…この僕が…負ける?あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない…そうだ…あり得ないんだ!僕は死ねない!姉に会うまでは」
血液が腕から滴り落ち廊下には小さい血のプールが出来ている。
そして、フラフラと立ち上がりさきほどのキル・キラーから受けた時と同じように傷口を治そうとする……が。
「ちくしょう!止血は無理か!」
「いくら貴様でも片腕がなくなったんだ。もしその傷を今治したら本当の化け物だぜ貴様は」
ダークミラーは小太刀をしまい、さきほど捨てた日本刀を再び手に取った。
「さよならだ南の殺人凶。これが暗殺者と殺人凶の宿命だ。俺はもう躊躇しない。安心しろ、一瞬で終わる」
「ふふふふふふふふ」
「どうした?頭でも狂ったか」
その問いに南の殺人凶からは何も反応はなく、そのかわり小さな声でダークミラーに言葉を呟いた。
―ー敗北、己の恥。
―ー敗北、南の恥。
―ー敗北、宿命の恥。
―ー敗北、全ての恥。
その言葉を言い終えた後、鉄の槍を残りの腕で持ち上げ戦闘モードに入る。
「そうか。さすが殺人凶と言うべきか。なら俺も全力で貴様を殺そう。行くぞ、南の殺人凶」
それからは時が止まったような感覚。全ての空間がゆっくりと動いているようだった。
それほど速い決着だったのだ。
ダークミラーの日本刀が折れ空中をクルクルと回り落ちていく。
空気中から殺気が止みダークミラーの口から大量の血が溢れ、流れ出る。
崩れ落ちるように横に倒れ全身がかすかに痙攣している。
ダークミラーの腹には槍が突き刺さったまま。
そこにヨロヨロと歩み寄り、ダークミラーを上から見上げている南の殺人凶の姿があった。
「殺した…僕の勝ちだ…ふふふ…勝った…勝ったぞ…勝ったぞぉぉぉぉぉぉ」
大声で叫び勝利の雄叫びをあげる。しかし…
「まだ死んでねーよ」
最後の力を振り絞り小太刀を抜き南の殺人凶の首を斬りつけた。
血飛沫は今まで以上に凄く廊下に広く散布された。
「ガハァァァ!ヂグジョウ!」
手で首傷をおさえるが血の勢いは止まらなく南の殺人凶はダークミラーの横へ勢いよく倒れた。
ダークミラーはフラフラと立ち上がり腹に刺さっている槍をゆっくりと抜いていく。
「はぁはぁ…さすがの俺も死ぬかと思った。急所を避けといて正解だった。あの判断がなかったら間違いなく俺は今、ここで死んでいた」
「グゾ!殺ジデヤル !殺ジデヤル…ガハ!…ゼッタイニボクハ……マゲハシナイ」
南の殺人凶は三日月型のナイフを取り出し最後の抵抗をしようと立ち上がろうとしたが、その抵抗も虚しく首からの血液、そして片腕を切断された時の血液の流出が異常に凄くすぐにまた倒れ込んだ。
「チク…ショウ」
ーー僕の姉は何処にいるのかな。
―ー僕の唯一の家族は何処にいるのかな。
―ー姉の生存を最近知り僕は少し嬉しかった。故に憎しみもあった。
―ー家族を殺され、警察は相手にしてくれなく事件は迷宮入り。
―ー狂った僕は気付けば殺人凶になっていたんだ。
一度でよかった。姉に会いたかったよ。表の顔を出すのが凄くつらい。だって裏の僕は、頭のどこかで平和に暮らしていきたいと思ったから。
「あ……ね……き」
南の殺人凶……いや、中原侑也の目から涙が流れる。
命が消えていくのが分かる。死ぬという事をやっと理解出来た。
ああ……もう眠い。
少し休もう。そしてもう一度夢の中で家族そろって。
そうだ。今までの出来事は全部悪い夢。
そして、そっと中原侑也は目を閉じた。