第三十一話《生きてる》
「ふーむ」
一つの写真を手に取りながら喫茶店で紅茶をすする美男子。
この季節には似合わない黒のスーツを身に纏っている。
「調べた結果が……まさかあの女とはねー」
紅茶を飲み干し静かにテーブルに置く。
「暗殺者、中原美砂。あの南の殺人凶の姉だったか。くくく、面白くなりそうだ」
北の殺人凶は世を楽しむ為に存在する。
殺人こそが自分の中の欲望を駆り立てる。
特に子供の悲痛の叫び。これはやめられない。
しかし今の興味はこちらに向いていた。
「もっと詳しくこの姉弟を調べる必要があるな」
北の殺人凶はウェイターに向かい手で合図する。
「紅茶をもう一杯お願いしたい。それと砂糖たっぷりで」
場所は変わり山の奥地。
「…ここは?確か麻衣…あの後意識が朦朧として」
木造で出来た古小屋に麻衣はベッドに寝かされていた。
「大丈夫かい?」
その声にビクリと反応をしつつ後ろを振り返る。
60〜70代の年齢であろうか。髪は白髪で長く白いヒゲが印象的である。
「もう丸一日気を失っていたんだよ。昨日の夜にお嬢ちゃんが森の中で倒れていたのをワシが発見したんじゃ」
「あ、ありがとうございます」
麻衣は立ち上がろうとするが足の感覚、いや、体全体の感覚がおかしく再びベッドにお尻をつけてしまった。
麻衣が着ている服は下着と大きいコートが巻かれており服は洗濯されて外に干されている。
「すまんの。子供用の服がなかったのでな。どれ?一日干したんじゃもう乾いているじゃろ」
老人は外に出て麻衣の服をとりにいく。
「優しい人。もう他人なんか信頼出来ないようになっていたのに」
老人が再び部屋に戻り麻衣に服を手渡す。
「君の体は故障で一杯だ。太股の筋肉が切れており腕の骨が複数もヒビが入っている。何かしらの虐待を受けたのかのー。目の方は……見えてはいないんじゃな。落ち着くまでこのボロ小屋でよかったらいても構わんよ」
老人はそう言い部屋を後にした。
麻衣は洗濯された衣服に着替えるがその途中で涙がポロポロと流れてきた。
「麻衣……え゛ぐ……生きてるんだね。もう死んじゃうのを覚悟でいたのに……え゛ぐ……生きてるんだね……お兄ちゃん……い゛ま゛……どこにいるの」
その泣き声をドアの外から静かに聞き入る老人。
「ふー、何やら嫌な胸騒ぎがするのー」
そう言うと老人はその場を静かに後にした。
老人は椅子に腰掛け机から日記帳を取り出した。そしてペンを持ち執筆していく。
《2008年、08月15日。森の中で眠っていた少女が目を覚ました。名は直接は聞いてはいないが小言で麻衣と名乗っていた。不幸にも心身に深い傷を負っている。まだ小学生くらいの幼い少女なのに。そしてまだこのような事が起きるとは……ワシは心が痛い》
そう日記帳に書きしるしページをゆっくりと閉じる。表の表紙には老人の名前が書かれていた。
そう…《ミル・サターナ》と。
千夏
「最近話が暗いねー」
ダーク
「そういう小説だからな」
千夏
「こんな時は明るい話題を!」
ダーク
「は?」
千夏
「私…実は…」
ダーク
「実は?」
千夏
「今恋をしてるの」
ダーク
「誰を?」
千夏
「教えなーい」
ダーク
「あっそ」