第三十二話《圧倒的》
麻衣は瞳の光を持たない。なのでさきほど目が覚めた時も全て想像にまかせていた。さっき優しく接してくれた老人の顔も声だけしかイメージをわかせる物がないのだ。
「リリー・ブラッド」
そして麻衣は静かにそう口にする。
「くそ!強いな貴様」
ライはその格段に違う実力の差に圧倒されていた。
「言っただろ。貴様に勝ち目はない」
ダークは64式小銃を床に置きライに向かい指をさす。
「もう一度言う。そこをどけ」
これが暗殺者としての最後の警告。
しかしライはその言葉に耳を貸す事はなかった。
「無理と言ったはずだ。しかしここまで実力の差がはっきりしていると結構落ち込む」
ライは再び徒手格闘の構えをしダークの間合いへと入ろうとする。
「やはり何を言っても無駄か」
ダークは右手の指の間に小型のナイフを四本挟み 深く溜め息をつく。
「いくぞ」
その言葉と同時にダークはライの懐にすばやく入り横腹にナイフを突き刺そうとした。しかし4本のナイフがライを貫く事はなく逆にライがダークの後ろに回り込み背中に向けて重い拳をおみまいした。
「が!」
背中に衝撃が走ると同時になんとかバランスを整え一瞬の隙をつきライの膝にナイフを突き刺す。
「くそ!」
ライはダークからすばやく離れゆっくりと膝にめり込んだナイフを抜いていく。
「うわぁぁぁぁぁ」
血液が膝から滴る。
刃の部分が全て肉に食い込んでいたためその激痛は尋常ではなかったであろう。
しかしダークも腰を抑えしゃがみ込んでいた。
「痛!腰が少しいかれたかもな」
片手で腰をさすりながらゆっくりと立ち上がる。
「もう勝負はついた。その片足はもう使い物にならないだろう。その敬意を表して命はとらない事にする。去れ…」
ライは震えていた。ダークに対しての恐ろしさではない。
自分のプライドが震えていたのだ。
ここまで侮辱され、心が煮えたぎるようになるのは初めてだった。
「ふふふ、舐められたものだな俺も」
「何だと?」
「去れだと?そんな屈辱的な行為をするくらいなら」
膝に刺さっていたナイフを再び手に持ちそして言う。
「死んだほうがマシだ」
ためらいがないその表情にダークはただ黙って見ているしかなかった。
喉を貫き、そして脊髄を貫通し血のしぶきと共にライは絶命した。
「バカが…」
ダークは静かに呟きながらライのもとへ歩み寄った。
どす黒い血溜まりが周囲の空気を鉄の臭いへと変える。
麻衣
「ねぇおにいちゃん」
ダーク
「どうした?」
麻衣
「麻衣の事…好き?」
ダーク
「どうしたんだ突然」
麻衣
「いいの。ただ…」
ダーク
「あぁ、そうだな…」
麻衣
「ずっと…一緒だからね」
ダーク
「そう願いたいな」
麻衣
「そうだ!写真を撮ろうよ」
ダーク
「どこで?」
麻衣
「えへへ、家の前で…ほら!」
ダーク
「二人で撮るのか?」
麻衣
「うん」
ダーク
「え〜とカメラをセットしてっと」
麻衣
「お兄ちゃん!早く早く」
3、2、1……カシャ!
いつまでも…この幸せが続いてね…ね!お兄ちゃん。




