第二十七話《会いたい》
夏の夜。
蝉の鳴き声は静まり空気はほんの少しヒンヤリとしている。
山の静かな睡眠時間となり辺りは蛍の光と小川の流れる音で自然の音楽を聞いてるかのようだ。
「お兄ちゃん」
女の人であろうか?
山の木々で月の光は遮られ顔はよく見えない。
しかし外見からしてまだ幼い少女のようである。
声、体格から判断して小学生の高学年くらいだろうか。
そして木々の隙間の光にその少女は重なった。
ボロボロな服、破れかけたスカートに足には靴もはいていない。全身傷だらけのその姿は虐待のような印象を目に植え付ける。
「お兄ちゃん……帰って……きた……よ」
歩くたび木に触れながら前進していく少女。
目は開いておらず細い腕で周りを何度も確認する。
そう、この少女は見えていない。
月の光も、蛍の光も、木々の形さえも。
手の爪はいくつかはげており、痛々しいその姿は悲しみに満ち溢れていた。
「お兄ちゃん……どこ……麻衣泣いてないからね……約束……したもんね」
フラフラと歩く足はもはや限界に達していた。痩せ細った体には生気を全く感じてはいなかった。ご飯もろくに食べてはいなかったのであろうか。
そして落ち葉の土にとうとう倒れ込む麻衣という少女。
「麻衣……頑張った……よね……もう……歩け……ないよ……え゛ぐ…お兄ちゃん……な゛がないって約束ぢだのにね……な゛ん゛か涙が……グスン……もう……いいよね」
何も見えない暗闇でどれだけこの少女は頑張ったのだろう。どれだけ涙をガマンしたのだろう。
もう開かないその目からは大粒の大量の涙が地面へと落ちる。落ち葉に涙が少しずつ溜まっていく。
幼い皮膚には大量の切り傷があり、そしてどこかでぶつけたのであろうか、太ももには大きな傷が出来ている。
少女のその泣き声はただ山の中に少し響くだけであった。
悲しみに巻き込まれ私は問う。
運命って残酷だね。
大好きなお兄ちゃんと……
大好きな温もりが……
一瞬で無くなっちゃうんだから……
ねぇ神様……
もし最後の願いを聞いてくれるなら……
たった一度でいい、会いたいよ……
お兄ちゃん……
会いたいよ……
また水色のワンピースを着て……
また肩車をされて……
お願い……
まだ……死にたくないよ……
また……あの家で……写真を撮りたいよ……




