第一話《依頼人》
「これがターゲットの住所だ」
古く朽ちた家。周りは雑草で埋め尽くされており、横には小川が流れていた。水の流れる音楽は心が落ち着く。
しかし昼にもなるとセミの鳴き声で全ての音が遮断されてしまうかのようになる。
「理由は聞くな。ただ殺してくれればいい。約束の金だ。しっかり頼むぞ」
黒いスーツに身を包んだ大男は大金が入ったケースを床に置く。
「この住所の住人を全員殺せばいいのか?」
ミーンミーンミン
ミーンミーンミン
「そうだ。お前なら証拠を残さず殺せるはずさ。そうだろ、闇の暗殺者」
男はダークに近寄ると腕の袖からナイフを取り出す。刃渡り20センチほどの人を殺傷するためだけに造られた物だ。
それをダークの喉元に突きつけ、ニヤリと微笑む。
「なんのつもりだ」
表情を一つも変えないその姿を見て男はゆっくりとナイフをしまう。
「いや、試しただけだ。本当に信用できるかってな。なにせ貴様の年齢で人殺しが可能なのかも疑問だったしな」
「ふん。くだらん」
ダークの服は黒いマントに黒いズボン。マントの中には人を殺める道具が仕込んであるのだろう。
「年齢か、俺の年が不満か?」
マントから取り出す一つのナイフ。
カカカカカカカカカカカ
男が反応する間もなく複数のナイフが男の後ろの壁に突き刺さった。
「…なんだと…ナイフは一つだけのはず…しかも…見えなかった…ふふふ、本当に19歳か貴様」
「あー、一応な」
ミーンミーンミン
ミーンミーンミン
「今日もうるさいセミの鳴き声だ」
「確かに。残り少ない命でよく頑張るものだ」
男はそう言うと車に乗り込み草と草との間の小道を走り去っていった。
「違うな、人間もセミと一緒さ」
ソウ、ミンナイッショダ