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神々の泉  作者: tamap
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過去2

 手に持っているのは釣り竿のような細くて長い棒。

釣竿と違うのは細く尖った先端が細い三日月のように、仔猫の爪のように湾曲していること。

つるりとした銀の色の(ロッド)は幼児の小さな手でも容易に握れ、軽い。


 大人の体の時でさえ身長よりも長かったそれは、今は身長のほぼ3倍はあった。

スイッとロッドの弧を描いた先端の丸い背の方で前方の何かを切るように振り、次に鋭く尖った先でその何かを突き刺すように突き出す。


 純白の石造りの神殿の前庭、我が物顔に生い茂った叢の浸食を拒む石畳の中ほどに立っていた裸の幼女姿の私がやっているのは雑草の駆除。

一番簡単な方法で雑草を根こそぎにするには・・・。


 ふわりと灰色の風船のような塊が密生した草の間から浮かび、次にパンっと弾けた。

霧のようになったそれは広範囲に広がり降り注ぐ。

もちろん、私の周りには欠片も降って来ないように。


 一瞬の内にあれほど茂っていた叢がきれいさっぱり消え失せて、白砂の地面が露わになった。

今居る所から草の陰で見えなかった幾つも幾つもの泉。

さまざまな色をした泉が点在し美しい。


 まだ仕事は終わらない。

もう一度ロッドを振れば、白砂の間からキラキラと光る何かが浮かび上がり、ザァッと寄せ集まって私の足元に飛来してパラパラ軽い音を立てて降り積もった。

それは無数の雑草の種。

(若返りの泉)の水で種の状態にまで若返った叢のなれの果てだった。


 次に種の選り分け。

あまり高く伸びる事の無い芝草の種がロッドの指揮の元、再びまき散らされる。

ロッドを振るたびにあちこちの泉からほんの一塊の水の塊が現れては弾けて降り注ぐ。

数刻後には青々とした芝草に覆われた美しい嘗ての(神々の泉の地)が再現していた。


 つ、疲れた・・・・。

魔法とは無縁の生活を60年も続けて来た私が再び魔法が使えるなんて思ってもみなかったのに、魔法は魂に刻まれているらしい。

確かに難なく魔法を使い、ここまでの事が出来た。

力が枯渇した様子も無い。

私の魂に刻まれた魔法と魔力の量は底知れぬ物があるのだそうだ。

けれど、精神はかなりすり減らされた気がする。

いくら制御のためのロッドがあったにしても。


 「さすがね」

創世の女神の声がする。

「あの愚かな娘とは大違い」

それが誰なのかすぐに分かった。

私を殺したあの娘だ。

大きな潜在力を秘め、上手く育てば私の後継者にとも思っていた娘。

私を殺しておきながら後継者には成れなかったのか。この有様を見てみれば。


 不思議なほどに憎しみは湧いてこない。

ただ、哀れで悲しかった。


 私は巫女の長としてこの地で3000年の時を過ごした。

(命の泉)(若返りの泉)等のあるこの地ならば万年の時でさえ何ら変わる事無く若い姿のままに生きて行ける。

けしてその地位に固執したわけではなく、後継者が育たなかったのだ。

この、神々の地では時は特殊な形で流れる。

この地の奇跡を求めてやってくる人々が溢れる事無く一人一人に対応できるよう神々が調整してくださるのだ。


 巫女は忙しい。

神に仕え、人々を救い、自らも鍛えねばならない。

その上殆ど自由は無い。

当たり前の娘としての喜びや楽しみも犠牲にしなくてはならない。

ましてや巫女長に自由などほぼ無い。

籠の鳥と形容されるほど不自由な身になぜそんなに早くなりたかったのだろうか?

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