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神々の泉  作者: tamap
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過去1

 ペタリ、ペタリと足を進める。押しのけ、かき分けた草が裸の私の体に細かい傷を無数に刻む。

それが端から癒えて行く。

私の全身を濡らす水のおかげだ。


 命の泉。

どんな傷も病気もたちどころに癒す奇跡の水。

私の折れた手首も完全に繋がって、その痕跡すら無い。

私の体に刻まれた60年分の傷や火傷の跡も今は何も無い。


 一糸も纏わぬ体だけど仕方が無い。

あんな汚染された服なんて着ていられない。

それに今の体には着られない。


 最初に飛び込んだ水の正体は(若返りの泉)。

ほんの数滴で10年も若返る水の中で溺れ、泳いでしまったのだ。

あのままだと私は生まれる前、受精卵の状態にまで若返ってしまっただろう。


 受精卵の状態になればそれ以上若返る事無く魂に包まれて水底に沈み、助けが無ければやがて魂が離れて受精卵は消える。

それは嘗てこの地の巫女となった時教えられた事だった。


 私が次に行った黒い泉は通称(死の泉)。

私たちは(時の泉)と呼んでいたけれど。

この泉の水はやはり数滴で命あるものを10年成長させる。

私はこの水で(若返りの泉)の水を中和したのだ。


 だけど、ここまで若返ってしまって・・・。

小さくて短い手足。

ポッコリとしたお腹。

べったんこの胸に無毛の下腹部。

酷く情けない気持ちで私は自分の体を見下ろした。

ここまで小さくなってしまってはもう元には戻れない。


 (若返りの泉)で若返る時、その年齢と減る分の質量は神に捧げるという形でスムーズに進むのだけど、その反対は無理なのだ。

一旦捧げられた物は取り戻せない。

その年齢以外は。

私が(時の泉)の水を元の年齢の分まで飲んでもただ老いた幼児が出来るあがるだけ。

受精卵の状態で運良く(若返りの泉)から引き揚げられた時は(命の泉)に沈めておく。

そうすれば溺れる事無く母の胎内で育てられるかのように新生児の状態までは育つのだ。

ただ、そこまでになるともう元の人間の記憶も人生も消し飛んでしまってただの赤子からやり直す以外無いのだけれど。


 たしかにピッチピチの若い肌は嬉しい。

目立ち始めた小皺も無ければシミもない。

関節も痛くないし、老眼の目も若い頃の調整力を取戻して遠くも近くも良く見える。

だけど、若返りすぎた子供と言うより幼児と言っても良い体は扱いにくい事極まりない。

私が60歳でなかったらきっと今頃は受精卵にまで退行した挙句水の底ではなくそこらの叢に転がって干からび、さっさと死を迎えていた事だろう。

それを考えれば文句は言えないのだけれど。


 いつの間にか足元が伸びすぎた草を踏みしだいた物から石に変わった。

なぜか埃一つない磨かれた白い石の床。

そこを私の素足が踏んで行く。


 太い柱に支えられた重厚な石造りの屋根と何も置かれていない床。

古代ギリシャの神殿のような建物の今居る場所には壁も無い。

巨大な建物のずうっと奥に扉が見える。


 やっとたどり着いた扉は巨大な物だった。

黒い重そうな扉に手を触れた時、思いもかけぬ軽さでそれは内側に開いた。


 「おかえり娘や。また何とも可愛らしい姿で」

優しい慈しみあふれた声が響いた。

「ただいま戻りました。創世の女神様」

私はその場に跪くと嘗てのように頭を下げた。

世界を創り、神々と人とすべての生き物を創った創世の女神。

愛と慈しみの女神こそ前世の私の仕えるべきお方だった。 

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