35.家出?
カチャリ。
(さて問題です、今の音何の音でしょうか――正解はフィオ―レさんが自室に鍵おかけた音です!)
先ほどとは違った意味で汗が流れる。
「さ、準備しましょうね」
ニッコリとした微笑みの裏に黒い何かが見えた。
(きっと気のせい、フィオ―レさんは心が真っ白な妖精だもの)
現実から目を逸らす。
☆★☆★☆★
五分経過。
慌ただしくフィオ―レは未だに部屋の中を動き回っている。
(この部屋のどこにこんなロープ置いてたんだろう)
持って来られたものはベッドの上に無造作に置かれている。
(ロープ、バッグ。皮手袋に、ズボンは乗馬とかに使うやつに似てるけど……てか、コレって外出る気満々じゃね?)
ニコニコと笑いながら準備するその姿からは悪意は感じられないが――する気なのだろう。
これも、見なかったことにする。
一通り準備し終えたのか満足そうに頷き、ロープ以外をその中に詰めていく。
『え、ここはお着替えじゃないの? 動きやすい格好で逃げるんじゃないの?』
「あら、ソラさん何かしら? 私忘れ物でもしたかしら?」
首を振って一言鳴く。
(一度、会話が通じただけに複雑……)
自称神さまとは言え、人型をしたプロクスと言葉が通じたために他の人でも通じるのではないか。通じれば良いのにと思わずにはいられなかった。
(ま、向こう化物だし)
「さ、準備もできたしやりましょうか? 絶対、騒いじゃ駄目よ」
鼻を白い手が小突く。
『何する気なのー?』
奇行はまだまだ続く。彼女はバッグをベッドの下に隠したかと思えば、ベッドの脚に紐を括りつけ窓の下へとそれを投げる。
「あとは待つだけよ」
『なるほどね、隠れるわけね』
エクラが探しに来て、これを見て外へ探しに出た隙に行く計画なのだろう。
(こんなのに引っかかるかねぇー)
「し、静かに」
そう、言われて猫は無言のまま頷く。
暫くして、エクラが扉を壊して入り、この陳腐な仕掛けを見て慌てて出て行ったのをにっこりとまた笑うフィオ―レの姿に必死に想良は「優しい妖精さん」と自己暗示を掛けた。