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第一章 戦争が世界を疲弊させる

「ロシアの戦争やハイブリッド活動が、人々の生活を圧迫し、社会の分断を深める要因になっていることを伝える一方、暴力や破壊ではなく、事実に基づく発信と平和的な行動によって社会を守ろう」

という思いです。


戦争が世界を疲弊させる

ロシアの戦略と世界の貧困、そして私たちが選ぶべき行動

提言書――暴力ではなく、事実と平和的な行動で社会を守るために

はじめに:なぜ、遠い国の戦争が私たちの生活を苦しめるのか


食料品の値上がり、電気代やガソリン代の負担、生活水準の低下、将来への不安。


こうした問題の原因は一つではない。各国の経済政策、気候変動、感染症の影響、国際的な供給網の混乱など、さまざまな要因が重なっている。


しかし、そのなかで見過ごしてはならない要因の一つが、ロシアによるウクライナ侵攻と、それを継続させる国際的な資金・物資・技術の流れである。


戦争の被害を直接受けるのは、ウクライナの人々だ。しかし、影響は国境を越える。エネルギーや食料の価格、政府の財政支出、安全保障上の緊張を通じて、世界各地の市民や企業にも負担が及ぶ。


国連は2022年、ウクライナ戦争が食料・エネルギー・金融の三つの分野で世界的な危機を悪化させ、特に貧困層や脆弱な国々を苦しめていると指摘した。


これは、戦争が戦場の外にいる人々の暮らしにも深刻な影響を及ぼすことを示している。


【参考】国連「ウクライナ戦争が食料・エネルギー・金融システムに及ぼす世界的影響」

https://www.un.org/sustainabledevelopment/blog/2022/04/press-conference-remarks-of-the-secretary-general-launch-of-report-global-impact-of-war-in-ukraine-on-food-energy-finance-systems/



1.ロシアが目指しているものは、ウクライナの領土だけなのか


ロシアのウクライナ侵攻を、単なる領土争いとして捉えるだけでは、問題の全体像を見失うおそれがある。


プーチン政権の戦略については、ウクライナをロシアの影響下に置くだけでなく、欧米諸国の結束を弱め、欧州の安全保障体制をロシアに有利な方向へ変えようとしている、という分析がある。


もし相手国の軍事力だけでなく、政治的な意思や社会の結束まで弱めることができれば、戦場での勝敗とは別の形で外交上の利益を得ることができる。


この視点から考えると、ウクライナ戦争の行方は、ウクライナ国内の戦況だけで決まるものではない。


各国の市民が戦争に疲れ、政府への不信が高まり、支援を続けることへの反発が広がれば、ロシアに対抗する国際的な協力が弱まる可能性がある。


重要なのは、ロシアがどの領土を獲得しようとしているかだけでなく、他国の社会をどのように疲弊させ、相手の意思決定を変えようとしているのか、という視点である。



2.軍事侵攻だけではない「ハイブリッド戦」


現代の国際紛争では、軍隊による攻撃だけが相手国への圧力手段ではない。


サイバー攻撃、情報操作、偽情報の拡散、破壊工作、外国の政治や社会への干渉などを組み合わせ、相手国の安全や社会の結束を揺さぶる手法が「ハイブリッド戦」と呼ばれている。


EUは2025年7月、ロシアに帰属すると判断した一連のハイブリッド活動について、EU加盟国などの安全、社会の強靱性、民主主義の基盤を脅かすものだと非難した。


また、英国政府も2026年7月、偽のウェブサイトやSNS上のアカウント、偽造文書などを利用した情報操作について、民主主義や重要インフラを不安定化させる活動として警戒を表明している。


【参考】

EU理事会「ロシアによる継続的なハイブリッド活動への非難」

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2025/07/18/hybrid-threats-russia-statement-by-the-high-representative-on-behalf-of-the-eu-condemning-russia-s-persistent-hybrid-campaigns-against-the-eu-its-member-states-and-partners/

英国政府「ロシアの外国向け情報工作への対応」

https://www.gov.uk/government/publications/uk-action-against-russian-foreign-information-warfare/new-uk-action-against-foreign-information-warfare


こうした活動が問題なのは、攻撃を受けた国の人々に、何が事実なのか分からなくさせ、政府や報道機関、社会のなかの他者への不信を広げる可能性があるからだ。


社会が分断されれば、危機に対して協力して対応することが難しくなる。


ただし、あらゆる社会不安や政治的な対立がロシアによって引き起こされたと考えるべきではない。国内の経済政策、雇用、移民、格差など、それぞれの国が抱える固有の問題もある。


だからこそ、確認された事実と推測を区別しながら、外国による干渉の実態を検証する必要がある。



3.戦争を支える資金と物資の流れを見逃してはならない


戦争を続けるためには、兵器だけでなく、資金、燃料、部品、電子機器、輸送手段、生産設備が必要となる。


ロシアはエネルギー輸出などから収入を得ており、国際的な貿易や金融取引も、戦争を継続する能力に関係する。


また、軍事協力や二重用途技術の取引などを通じ、ロシアの軍事能力を間接的に支える経路が存在する可能性もある。こうした流れを把握するには、取引の実態や各国の制裁回避対策を継続的に検証することが欠かせない。


ここで重要なのは、戦争による利益を得ていることと、その戦争を意図的に引き起こしたことを混同しないことである。


ある国や企業が原油価格の上昇によって利益を得たとしても、それだけで、その国や企業が紛争を計画した証拠にはならない。


一方、戦争によって利益を得る仕組みが、結果として戦争を続けるための資金を支えているならば、その仕組みを検証し、必要に応じて対策を講じることには大きな意味がある。


問うべきなのは、誰が戦争の負担を負い、誰が利益を得ているのか。そして、戦争を継続する能力を支えている資金や物資の流れを、国際社会がどこまで抑制できるのか、ということである。



4.世界の貧困と政治的分断は、戦争と無関係ではない


戦争による経済的な負担は、すべての人に等しく降りかかるわけではない。


所得に余裕がある人は、食料や光熱費が値上がりしても生活水準を維持できるかもしれない。しかし、収入の大部分を食費や住居費に充てている人にとって、わずかな値上がりも深刻な問題になる。


政府もまた、エネルギー対策、難民支援、防衛費などの支出を迫られる。こうした負担は、国内の福祉、教育、医療、生活支援をめぐる議論にも影響する。


生活が苦しくなれば、人々の不満が強まる。政府への不信が広がり、既存の政治勢力への反発や、国際協力に否定的な動きが強まることもある。


このような変化は、ロシアの戦争継続に有利な環境を生む可能性がある。


ただし、フランスの社会不安やドイツの右派政党の台頭などを、ロシアだけの責任とすることは適切ではない。それぞれの国の政治的・経済的な背景を調べる必要がある。


それでも、戦争が国際経済を圧迫し、その負担が社会の分断を深め、国際協力を難しくする可能性は、無視できない問題である。


戦争の被害は、爆撃を受けた地域だけで終わらない。生活費の上昇に苦しむ家庭や、将来への不安を抱える人々にも広がっていく。


この現実を、私たちはもっと真剣に考えるべきではないだろうか。



5.イランをめぐる紛争と世界経済についても、冷静な検証が必要だ


中東の紛争や海上輸送の混乱も、世界の生活費や企業活動に影響を及ぼす。


特に、原油や天然ガスの輸送が妨げられれば、エネルギー価格や輸送費が上昇し、製造業、農業、物流、家庭の光熱費にまで影響が波及する。


こうした危機のなかで、ロシアが原油価格の上昇によって収入を増やし、戦費の調達を助けられる可能性は検討に値する。


また、ロシアとイランの軍事・技術面での協力についても、公開情報に基づく検証が必要である。


しかし、ロシアが中東のすべての紛争を指揮していると断定することはできない。紛争ごとに当事者、目的、協力関係、確認された証拠を分けて考えなければならない。


私たちが求めるべきなのは、憶測を拡散することではなく、各国政府や国際機関に対し、紛争への関与、資金・物資の供給、経済的利益の実態を透明性をもって説明するよう求めることである。



6.だからこそ、暴力や破壊ではなく、平和的な行動を選ぼう


生活が苦しくなり、政治に不満を抱くことは、決して不思議なことではない。


政府の政策に抗議することも、社会の仕組みを変えるよう求めることも、民主社会における重要な行動である。


しかし、暴力、放火、略奪、公共施設の破壊などによって社会が混乱すれば、被害を受けるのは、もともと生活に苦しんでいる一般市民であることも多い。


店舗が破壊されれば、働く人の収入や地域の雇用が失われる。交通や公共サービスが大きく損なわれれば、通勤、通院、介護、日常生活にも支障が出る。


社会の混乱が深まれば、経済的な損失はさらに増え、生活の再建が難しくなる。


そして、社会が互いに対立し、事実を確認する力や協力する力を失えば、外部からの情報操作や分断工作に対しても脆弱になる。


だからこそ、私たちは訴えたい。


怒りを暴力に変えないでほしい。社会を壊すのではなく、社会を変えるための行動を選んでほしい。


抗議や批判をやめる必要はない。平和的なデモ、公開質問、署名、報道機関への情報提供、選挙での意思表示、議員への意見提出など、声を届ける方法はある。


大切なのは、他人の安全や生活を犠牲にせず、事実と根拠に基づいて問題を訴えることである。



7.私たちが各国政府と国際社会に求めること


本提言は、次の取り組みを求める。


第一に、戦争を継続させる資金・物資・技術の流れを透明化すること


ロシアの軍事力を支える取引や、制裁回避に利用される経路を調査し、確認された事実を公表すること。違法な軍事支援や制裁逃れには、国際法と適正な手続きに基づいて対処すること。


第二に、サイバー攻撃や情報操作から市民を守ること


政府機関、重要インフラ、企業、報道機関への攻撃に対する防御を強化すること。偽情報や偽造コンテンツについては、根拠を示して検証し、市民が情報の真偽を判断できる環境を整えること。


第三に、戦争の経済的負担を弱い立場の人々に集中させないこと


食料、エネルギー、住居などの負担が大きくなった家庭に対して、必要な生活支援を行うこと。物価上昇の原因を分析し、戦争による影響と各国の国内政策による影響を分けて説明すること。


第四に、国際的な協力を維持すること


戦争が長期化するほど、支援国の負担や国内の意見対立は大きくなる。各国政府は費用、目的、成果、支援の必要性を説明し、市民の理解を得る努力を続けるべきである。


第五に、平和的な政治参加を守ること


政府への批判や抗議を一律に封じるのではなく、平和的な表現や集会の権利を守ること。同時に、暴力や破壊を避け、対立する意見の間でも事実に基づく議論を続けられる環境を整えること。



8.市民一人ひとりにできること


国際情勢を変えることは、一人の市民には難しく思えるかもしれない。しかし、私たちにもできることがある。


ニュースの見出しだけで判断せず、複数の信頼できる情報源を確認する。

事実として確認された情報と、推測や意見を区別する。

出所の分からない画像、動画、投稿を安易に拡散しない。

政府や議員に、戦争の費用、国際協力の目的、制裁の効果について説明を求める。

生活に困っている人への支援を広げ、貧困や孤立が深刻化しないよう地域で助け合う。

不満や怒りがあっても、暴力、放火、略奪、脅迫などに加担せず、平和的な方法で意見を表明する。


こうした行動は、戦争を直ちに終わらせるものではない。しかし、社会の分断や情報操作に利用されにくい社会をつくり、一般市民の生活と安全を守ることにつながる。




結び:戦争の犠牲を、これ以上広げないために


ロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナの人々に甚大な被害を与えてきた。そして、戦争が長期化することは、世界の経済や安全保障にも負担をもたらす。


ロシアの戦略を考える際には、領土の獲得だけでなく、他国の社会を疲弊させ、国際的な結束を弱め、相手の意思決定を変えようとする活動にも目を向ける必要がある。


ただし、世界のあらゆる危機を一つの国の陰謀に帰するのではなく、確認された事実を積み重ね、責任の所在を正確に見極めることが重要である。


私たちが目指すべきなのは、誰かへの憎しみを広げることではない。戦争を継続させる仕組みを検証し、一般市民の生活を守り、国際社会が暴力と威圧によって動かされないようにすることである。


生活が苦しいときこそ、社会を壊す行動ではなく、社会を変える行動を選びたい。


戦争による犠牲を、戦場の外にいる人々にまで広げないために。怒りを破壊ではなく、事実を求める声と平和的な行動へ。


この提言が、世界の戦争と貧困について考え、社会の分断を防ぎ、平和的な解決を求める議論の一助となることを願う。


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