第20話:絶望の発電機の完成
アリステアの絶叫は、ゼパルが指先をわずかに動かしただけで、真空に吸い込まれたかのように消え去った。
声だけではない。
彼の手足は目に見えない鎖で縛られたように大理石の床に固定され、指一本動かすことさえ許されない。
「お前の望み通り、リリアーナのそばに一生置いてやろう。ただし、観客としてな」
ゼパルの琥珀色の瞳が、獲物を仕留めた愉悦で燃え上がる。
ゼパルが玉座の間の壁に向かって手をかざすと、豪奢な石壁が音もなく変質を始めた。
それは巨大な、そして歪みのない魔法の鏡へと作り替えられていく。
だが、その鏡は自分たちを映し出すためのものではない。
「ここは、この世で最も贅沢な牢獄だ」
ゼパルはアリステアの体を魔法で浮かせると、鏡の内側、実体と虚像の狭間にある「断絶の空間」へと彼を押し込めた。
アリステアは鏡の裏側から、必死に壁を叩こうとした。
しかし、その手は虚空を掴むだけで、音一つ立てられない。
鏡の向こう側──つまり玉座の間からは、アリステアの姿は一切見えず、ただ美しい装飾鏡があるようにしか見えない。
だがアリステアからは、玉座の間にいるリリアーナの吐息さえ聞こえるほどの至近距離で、すべてが克明に見えていた。
「ゼパル様、あの不快な生き物はどこへ? 急に消えてしまいましたわ」
リリアーナは、アリステアが幽閉された鏡のすぐ前で、不思議そうに小首を傾げた。
アリステアは狂ったように叫んだ。
僕だ! ここにいる! 僕を見てくれ、リリアーナ!
だが、リリアーナの瞳には、鏡に映る自分自身の神々しいまでの美貌しか映っていない。
彼女はアリステアの存在を完全に消去したまま、自らの髪を整えるために鏡へ顔を近づけた。
アリステアの目の前に、かつて自分が愛し、そして部品として壊した女性の顔がある。
手を伸ばせば触れられる距離。
けれど、その指先は永遠に彼女の肌に届くことはない。
彼女は鏡の向こうに、自分を裏切った男が絶望の涙を流して閉じ込められていることなど、微塵も想像していないのだ。
「あぁ、リリアーナ。あのようなゴミは、私の魔力で塵に帰したよ。もうお前の視界を汚すことはない」
ゼパルは鏡の前に立ち、リリアーナを後ろから抱き寄せた。
鏡越しに、ゼパルとアリステアの視線が交差する。
ゼパルの口元が、勝ち誇ったように歪んだ。
「見ていろ。お前が手放したものが、どれほど価値あるものだったか。お前が与えられなかった愛を、私がこれから一生かけて彼女に注ぎ込む様を、その特等席で眺め続けるがいい」
ゼパルがリリアーナの首筋に甘い接吻を落とすたびに、アリステアの心臓は嫉妬と悔恨で焼け焦げた。
その瞬間、アリステアから溢れ出した際限のない絶望のオーラが、鏡の回路を通じて紫色の光へと変換されていく。
その光は、リリアーナの足元に咲く魔界の花々をより鮮やかに彩り、彼女の肌をさらに瑞々しく輝かせた。
「まあ、急にお部屋が明るくなりましたわ。とても幸せな気分ですわ、ゼパル様」
リリアーナの幸福そうな笑顔。
それが、鏡の向こうで腐りゆく男の絶望によって維持されているなど、彼女は一生知ることはない。
アリステアは、自分を忘れた愛しい女が、自分を破滅させた男の腕の中でとろける光景を、一秒も欠かさず二十四時間見せられ続ける。
それは死よりも遥かに長く、永遠に終わることのない、最幸の地獄の完成だった。










