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忘却の対価は最果ての愛 ──絶望を悪魔に売却したので、元婚約者の名前すら思い出せません  作者: あとりえむ


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第12話:天才の終焉と民衆の掌返し

イザベラは、もはや腐敗臭の染み付いた王子の寝室には寄り付かなかった。


彼女にとってアリステアは、権力と美貌という輝きを放つ宝石だった。

その輝きを失い、泥水に浸かったような男に用はない。


彼女は早々に王宮を抜け出すと、かつてアリステアのライバルであった別の高位貴族に接触し、新たな寄生先を確保するための甘い罠を仕掛け始めていた。


一方で、アリステアは自らの破滅を認められずにいた。

鏡に映る醜い姿を厚い化粧で塗りつぶし、香水を浴びるように浴びて異臭をごまかす。


今日は国民の前で魔法を披露する、重要な国事行為の演説の日だ。


私は天才なのだ。

リリアーナという無能な女がいなくなったところで、私の太陽としての価値は変わらない。


彼は自らにそう言い聞かせ、震える足で演壇へと向かった。



広場には、太陽の王子の輝きを一目見ようと、大勢の国民が詰めかけていた。


だが、演壇に現れたアリステアからは、厚い化粧を突き破って死臭のような異臭が漂い始めていた。

国民の間に、さざなみのような困惑が広がる。


アリステアはそれを払拭しようと、自慢の聖属性魔法、黄金の光を放とうと魔力を練った。


かつてなら、一瞬で辺りを浄化するような清浄な光が溢れたはずだった。

だが、彼が魔力を引き出そうとした瞬間、胃の底からせり上がるような、猛烈な拒絶感に襲われた。


「う、ぐあ……っ」


光が灯るはずの指先から溢れたのは、黄金の輝きではなく、どす黒い粘液のような霧だった。

アリステアは耐えきれず、演壇の上で膝をつき、激しく嘔吐した。


彼が吐き出したのは、食べたものではなく、浄化されずに蓄積された真っ黒な毒素の塊だった。

その瞬間に溢れ出した魔力は、もはや制御を離れ、禍々しい黒霧となって周囲を飲み込んでいく。


美しい庭園の草木は一瞬で枯れ果て、清らかな噴水の水は墨のように濁った。


「な、なんだこれは!? 王子が毒を撒いているぞ!」


「化け物だ! 太陽の王子どころか、呪いの根源じゃないか!」


逃げ惑う群衆の最前列で、その様子を嘲笑っていたのはイザベラだった。

彼女は新しく取り入った侯爵に寄り添い、アリステアの醜態を不潔なものとして指差して笑おうとしていた。


だが、暴走した黒霧は、最も近くにいた彼女を容赦なく襲った。


「きゃあああああああああっ!!」


黒霧が触れた瞬間、イザベラの自慢の滑らかな肌はみるみるうちに焼け爛れ、膿が噴き出した。

美貌を武器に男たちを翻弄してきた彼女にとって、それは死よりも残酷な一撃だった。


彼女は顔を押さえ、無様に地面を転がって絶叫する。


アリステアは地面を這い、自らの魔法が他者を傷つける様を呆然と見つめるしかなかった。


リリアーナがいれば。

彼女が私の魔力を、背後で緻密に、完璧に編み直してくれてさえいれば。


彼はそこでようやく、自分が天才だったのではなく、彼女という天才に生かされていた空っぽの器であったことを突きつけられた。



国民からの失望と恐怖の罵声が、雨のように降り注ぐ。

地に伏したまま、アリステアは自らの手のひらを見つめた。


そこには、自分一人の力では灯すことさえできない、冷え切った闇だけが残されていた。



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あとりえむ 作品紹介

死に戻り妻は、推しの確定ファンサをお断りしたい。 死に戻り令嬢は復讐より『推し活』に忙しい! 冷徹な天才陰陽師様に撫でられたらケモミミが生えて詰みました。
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─ 自分の娘に転生したので息子を当主にするべく暗躍します。 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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