第1話:太陽の王子の冷酷な決別
きらびやかなシャンデリアの光が、大夜会会場の床を鏡のように照らし出していた。
今夜は建国以来の英雄、アリステア王子の立太子を祝う宴だ。
会場には芳醇なワインの香りと、着飾った貴族たちの嬌声が満ちている。
その華やかな輪のちょうど中心で、アリステアは眩いばかりの光を放っていた。
かつては魔力の暴走に苦しみ、呪われた王子とまで呼ばれた彼が、今では太陽の王子と称えられている。
その隣には、薔薇の花びらのように瑞々しい美貌を持つ愛人、イザベラが勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っていた。
それとは対照的に、会場の隅、柱の影にひっそりと立つ一人の女がいた。
アリステアの婚約者、リリアーナ・フォン・アドラーである。
彼女の姿は、とても二十三歳の令嬢には見えなかった。
肌は土気色に濁り、頬は痩せこけ、かつて金色の糸と謳われた髪は輝きを失い、枯れ草のようにパサついている。
五年間、彼女はアリステアの体内に溜まる猛毒を、自身の体へと移し替え続けてきた。
彼が光り輝くための代償を、彼女はその身を削ることで支払い続けてきたのだ。
リリアーナの視界は、蓄積された毒のせいで白く霞んでいる。
それでも彼女は、愛するアリステアのために、精一杯の笑みを浮かべて彼に歩み寄ろうとした。
「アリステア様、立太子おめでとうござい……」
「近寄るな、醜い女」
リリアーナの祝福を遮ったのは、氷のように冷たい拒絶の声だった。
会場の楽隊が演奏を止め、静寂が波のように広がっていく。
アリステアは、隣にいるイザベラの肩を抱き寄せ、汚物でも見るような目でリリアーナを見下した。
「リリアーナ、今この時をもって、貴様との婚約を破棄する」
心臓が凍りつくような感覚に、リリアーナは息を呑んだ。
「……え? アリステア様、それはどういう……」
「言葉通りだ。今の私には、この国を導く王太子としての責任がある。隣に立つ者は、私に相応しい光を持つ者でなければならない。貴様のような、死神のような醜さは、私の運命を汚すのだよ」
周囲から、くすくすと忍び笑いが漏れ始めた。
「本当だわ、あんなに老け込んで」
「王太子の隣にあれでは、呪いがかかりそうだ」
貴族たちの毒を含んだ囁きが、リリアーナの耳に突き刺さる。
リリアーナは震える声で訴えようとした。
「お待ちください……私が、どうしてこんな姿に……先月の貴方の高熱も、昨夜の吐血も、これまでずっとアリステア様の毒のすべて私が引き受けてきたのに!それはすべて、貴方のために……」
「黙れ! 言い訳など聞きたくない。貴様の存在そのものが不快なのだ」
アリステアは冷酷に言い放ち、衛兵に合図を送った。
「この女を今すぐここから連れ出せ。二度と私の視界に入るな。アドラー家には、役立たずの娘を送り届けると伝えておけ」
衛兵たちがリリアーナの両腕を乱暴に掴み、引きずり始める。
「アリステア様! お願いです、話を聞いて……!」
叫びも虚しく、リリアーナは豪華な絨毯の上を引きずられ、会場の外へと放り出された。
夜の王宮の外は、激しい雨が打ちつけていた。
最低限の荷物さえ持たされず、薄いドレス一枚で放り出されたリリアーナは、冷たい石畳の上に崩れ落ちた。
雨水が彼女の濁った肌を叩き、体温を奪っていく。
城の窓から漏れる楽しげな音楽と笑い声が、雨音に混じって聞こえてくる。
アリステアのために捧げた五年間の日々。
美貌も、健康も、未来も、すべてを彼に与えた結果が、この暗闇と雨の中だった。
「どうして……どうしてなの……」
泥水にまみれた指先を握りしめ、リリアーナは慟哭した。
だが、その叫びに応える者は誰もいなかった。










