芹那と深月①「芹那、3人目の客」
アンジェラスに入る前のパパ活時代ってどんな生活だったのか、を書いてみました。
代表としてセリナとミツキ。
この二人は仲良くつるんでいる時代が割と長いですからね。
まずはセリナ、初めてで散々な目に遭っているのはすでに『セリナ』で書いたとおりですが、その後はどうなの?という話。
23:39 マクドナルド横浜西口5番街店2F。
「お待たせー」
「お疲れー。先頂いちゃってます」
「構わないよー。どう? それ。季節限定のヤツ」
「うーん、美味しいとは思うけど、ちょっとしょっぱいというか味が濃すぎる、というか」
「おお、芹那先生の辛口評価って感じ?」
「それほどでもないよぉ。やっぱり塩分の取りすぎは身体に良くないからね」
「なんか医者みたいな事言ってる感じ」
「いやいやいや、そこは大事なのですよ。塩分は。血圧とか血管とか、いろいろ」
「そのシェイクの糖分は良いワケ?」
「これは…その、ほら、糖分は脳の働きに必要ですから!」
「アハハ。そうだよね」
◆
「今日は人通りからして全然って感じだったね」
「うん。まぁしなくて済んだって思うとホッとするけど」
「芹那はお金、まだ大丈夫って感じ?」
「こないだのお客さんが多くくれたんで、まだちょっと大丈夫、かな」
「いいなー」
「深月もお客さん選ばなければもう少し良くなるんじゃない?」
「いやいや、そこは選びましょうよ芹那さんよぉ。女のカラダなんか高く売ってナンボのモンって感じでしょうが」
「そうかなぁ?」
「彼氏とかダンナとかだって、せっかくなら金持ちのイケメンとかじゃいいじゃない? それと同じって感じよ」
「そうかなぁ? 深月はお金持ちのイケメンだったら良いの?」
「その辺はそこそこでも良いって感じ。私は自分より頭悪いのはお断りって感じだし」
「ああ、言ってたね、それ」
「だからお金貰うにしても頭悪い相手だとヤダね、って感じ。一緒にいてイライラするから。芹那も嫌だと思った客は断れば良いのに」
「うーん、そうなんだけどね、なんかこう、申し訳なくって」
「金で女を買うような男たち相手に要らん気遣いだって感じなんだけど」
「それ以前に、その、する事自体嫌だから相手が誰でも同じかな、って気がする」
「逆に誰でも良いってならヤリマンビッチって事じゃね?」
「え、私、ヤリマン、なんだ…」
「あー、ゴメンゴメン言い過ぎた」
「ううん、大丈夫。そもそもお金のためだもん。嫌でもしないと生きてけないよぉ」
「まぁね。 …ねぇ、今までで一番嫌だった客ってどんな感じ?」
「一番嫌だったお客さん、かぁ…」
◆
二人目の「パパ」も羽振りよくお金をくれたのでしばらくは大丈夫、と思っていたのだが、寝るのにホテルを使ってばかりもいられない。マンガ喫茶で夜を明かすこともある。見つかりたくないと個室を選ばなければならないから料金はかかる。だからすぐに蓄えは底をつく。食事も必要だし、何より洋服が足りない。家を出る時持って来た分では全然足りないのだ。長袖のパーカーやトレーナーばかりで半袖を持ってこなかったのは不覚だった。何より下着が問題だ。ブラはともかくパンツはすぐ汚れてしまうから。コインランドリーで洗ってしまうと替えがないから買わなければどうしようもない。結局、1週間も保たずに次の「パパ」を探さなくてはならなくなった。
例によってビブ横に立つ。何人かそれらしい女の子が私と同じように立っている。あまりジロジロ見ても悪いかなと思うけど、やっぱり…みんな女性らしい服装やメイク。暗がりになりがちなビブ横では彼女たちの方が圧倒的に目立つ。だから、次から次へと声を掛けられ、どこかへ去っていく。どうにも目立たない私はポツネンと残される。まるでバツで廊下に立たされている気分だ。イタズラな男の子たちはこんな気分で立っていたのだろうか?
「ちょっといいかな?」
気が滅入って俯いているところへ声を掛けられたものだから
「はい!」
と元気に返事をしてしまう。顔を上げ声の主を見る。大きなカバンを持った、40歳ほどのおじさ…ん⁈
…見覚えがある…ッ! この人、高校の数学の先生⁉︎ 数える程しか授業を受けていなかったけど、間違いない、山内先生だ。もしかして…私を捕まえに? いや、慌てて逃げれば逆に疑われるかもしれない。相手は私を憶えていないかもしれないのに。
「これでどうかな?」
と、指を3本立てる。 …もしかして…私を「買う」つもり? 私を憶えていないのか? それはそれで好都合、なのか? でも…教師ともあろう人が、お金で私みたいな女の子を買うのか…奥さんはいないのだろうか? 子ども…娘さんとかも。幻滅もするが、相手も人なのだ、と納得しようとする。
とにかく下手に逃げない方が良いかと思い、「指3本」で買われることにした。この人も他のお客と同じことを私にするつもりなんだ、と多少の不快感を伴いつつ。
◆
食事に誘われたが、体よく断った。下手に話などしてボロを出したら困るから。
「早く遊びたいんだね?」
とニヤニヤしながら言われたが、そんなんじゃない。
だから即ホテルへ。羽振りが良いのか高い部屋だった。部屋に入るなり抱きしめられ、唇を奪われた。抵抗したいけど…お金のためだ。ヌメっとして生温かいものを我慢して受け入れた。
お金は前金で貰えた。約束通りの3万円。それをパーカーのポケットに入れ
「シャワーを浴びてきます」
と、これからの行為の準備をする。
「ああ。私も準備ができたら浴びるとするよ」
準備? 何の? コンドームとか、そういう避妊具のこと? 考えても仕方ない、浴室へ。
シャワーを浴びながら身体中あちこちを丹念に洗う。あの人のためじゃない。こういう時にしっかり洗っておかないと。次、いつお風呂に入れるか分からないから。
ガシャ…
浴室の扉が開く音。
「一緒に入ろうよ。私が洗ってあげるから」
驚いて振り返ると、そこには山内先生が立っていた。もちろん全裸だ。前を隠すこともなく。
悲鳴を上げる寸前だった。でもここで逃げてはどうなるか…甘んじて言う通りにした方がいいのか?
先生はシャワーソープを手に着け、私の身体を撫で回し始めた。肩。胸。腰回り。洗うなどというのは口実で、要は私の身体を触りたいだけなのだろう。その証拠に…私の大事なトコロを丹念に撫でるのだから。割れ目に沈んだ指が、様子を伺うように入り口を何度も出入りする。不快感に声が出そうになる。でも勘違いされたくない。気持ちいい訳ではない。声を出せば気持ちよくなっているものだと思われてなおさら責め立てられることをすでに学んだのだ。
先生は私に前から抱きつく。背中からお尻にかけて、やはり丹念に撫で回す。ワザとやっているのだろう、性器を私のお腹に押し付けている。生半可に硬くなったブヨっとしたそれがおへその辺りに当たって気持ち悪い。これからコレを身体の中に入れられるのかと思うと気が滅入る。
「⁈」
不意に先生の指がお尻の穴に入った。驚きに身体がビクンと反応する。
「ここもキレイにしないといけないからねぇ」
そう言って何度もツプツプと指を出し入れする。まるで便秘でなかなか出てこないウンチがいつまでもそこにあるような不快感。
「んクッ…」
「おや? この反応、アナルは使ったことがないのかな?」
アナルって何? 使ったことってどういうこと?
「初々しいねぇ。開発のし甲斐があるなぁ」
開発ってどういうこと? この人、何をするつもり?
「あの、私、もう上がります…」
気味が悪い。できればさっさと済ませて終わりにしたいと思った。とりあえず下着だけ着け脱衣所を出てベッドへ向かうと追いかけるように先生も出てきた。
…ベッドの上に何かある。一つは肩凝りに使うマッサージ機だというのは分かる。他のもの…イボイボの付いたおちんちんの形をしたもの。親指ほどのカプセル状のものに線が付いたもの。大きなビーズが連なったようなもの。もう一つは…なんとも形容し難い。取っ手の付いたドングリとでもいうか。
「…何ですか、これ…」
聞かずにはいられなかった。
「これで君のアナルを開発するんだよ」
「…どういう意味、ですか?」
「分からないかい? これをお尻に入れるんだよ」
ダンッ
「ウオゥァッ⁈」
堪らず先生を突き倒した。急いで服を掴み、パーカーのポケットからお金を取り出し
「こんなもの、要りませんッ!」
投げ付けると一目散にドアへ。
カチャッ ガタガタンッ
私はそのまま、つまり下着姿のまま服だけ持って廊下へ飛び出した。
何言ってるの? あの人。あんな物をお尻に? 冗談じゃない。お尻が壊れたらどうするんだ。普通にそういうことをするのだって嫌なのに、何でそんな…買われる女はそんなことも甘受しなければいけないのか? そこまで自尊心を捨てることは私にはできない。いくらお金のため、生きるためとはいえ、私は人でありたい。性欲発散のための道具になんか成り下りたくない。
下着姿のまま外へ出るわけにはいかず、トイレへ駆け込み服を着る。出る時、外の様子を伺った。いない。追いかけてはこないようだ。それなら今のうちに…そしてホテルから走って出た。走って、走って…いつものマンガ喫茶まで辿り着いた。こんなに走ったのは体育でマラソンをした時以来だ。いや、全力疾走だったから体育以上だ。人は危機に瀕すると、私ですらこれほどまで走れるのか、と、後で冷静になってから思った…
◆
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハ」
バンッバンッ
「もぉー。笑い事じゃないよぉ」
深月は腹を抱えてテーブル叩きながら大笑い。
「いやいや、アナルくらいやらせてあげなよって感じ」
「何言ってんの⁈ お尻の穴って出すところだよっ? 挿れるところじゃないよっ⁈」
「まぁそうなんだけどさー、そっちの方がイイって人もいるくらいだから」
「エエェ…」
「何事も経験じゃない?」
「そんな経験要らないよぉ。深月はしたことあるの? その、お尻で」
「あるよ」
「え…」
「あるけど、あんま気持ち良くはなかったなぁ。ウンコが出たり入ったりしてる感じで」
「汚いなぁ…」
「まぁそういう出入り口じゃない?」
「入り口じゃありません!」
「ああ、そっか。でもさ、相手が教師だって気付いたんなら吹っかけてやればよかったんじゃね?」
「えー、そんなことしたら私が生徒だったってバレちゃうじゃない」
「まぁそうだけどさ。相手の世間体を逆手に取れば結構毟れるんじゃないかなって感じ」
「それは深月ならできるかもしれないけど、私はそんなバレるようなリスク、負えないなぁ」
「まぁそっか。いやー、笑った笑った」
「だから笑い事じゃなかったんだって」
「だからさ、お客は選ばないといけないって感じよ」
「うわ。そう返されるとは思わなかった。でもそういうことよね。それは深月が正しいわ」
「でしょでしょ? お、こんな時間。 …あーあのさ、今晩、割り勘でいいかな?」
「ホテル? いいよ。あんまり贅沢できないけど」
「贅沢なんか言わないって感じ? 寝るとこあればそれで。あ、でもついでに芹那のかわいいアナルでも拝見させてもらおうかな」
「あー! そういうこという子は一緒に寝てあげませんッ!」
「あー、もー、ウソウソ。冗談です冗談」
「んもー」
「ほんじゃ行こっか」
「お尻触ったら部屋から蹴り出すからね!」
「あー、もう、冗談なのにぃ…」
というわけで未遂に終わるわけですが。
よかった、開発されちゃったセリナはいなかったんだね!
とはいえ傍から見ればミツキ同様笑い話になってしまうんですけど、セリナ本人からすると冗談じゃないという話で。
それから、そんな状況で初めてを失いそのまま流されているのかと思いきや、案外(?)芯はしっかりしているというか、性欲に溺れてしまったわけではないということを書きたかった。
それは後々出会うカズサとの関係から逆算するとそういう感じなんだろうな、ということで。




