勝負の行方
空は漆黒の闇だった。
再びどかーんと大きな衝撃音が轟いて、闇属性寮の方にいた魔物がこちらに向かって動き出しているのが伺えた。ヴィオレッタはいよいよフローレンス達にとどめを刺そうと襲って来たようだった。
フローレンスは、ニグレスの背に乗って空へと舞い上がった。上空からヴィオレッタのいた方を見下ろすと、そこにはドス黒い瘴気を纏った巨大な大蛇のような魔物が這っていた。それらはおそらく、他の生徒達から吸収した魔力の塊なのだろう。先頭に立っているヴィオレッタおそらく、まだ吸魂の鏡を持っているはずだった。
(あの鏡を壊すことができれば、魔物は消え、そして魔力を奪われた生徒たちも元通りになるはず。)
ヴィオレッタは上空へ飛び立ったフローレンス達を見つけると、再び大蛇の脇腹から細い触手を何本も伸ばして来てニグレスを捉えようとする。ニグレスはフローレンスを背に乗せたまま、華麗に旋回してそれらを掻い潜った。
二グレスの背に乗ったフローレンスは、地上で蠢く魔物に狙いを定める。
「フィフィ、気を付けて。君のその魔法石の魔力では、繰り出せる魔法は一発が精一杯だろう。
慎重に狙いを定めるんだ。」
「わかったわ」
そう言って、フローレンスは声高らかに呪文を唱えた。
「ヴィオレッタ、これで終わりよ。
我が僕である黒竜ニグレスへ命じる。
"神の炎よ、諸悪の根源である大蛇を焼き尽くせ"」
フローレンスは、闇魔宝石を身につけた左手を掲げて呪文を唱えると、魔法石が光を帯びて輝いた。
それに応えるように、ニグレスが大きな咆哮を上げると、その口先から大きな紫色の炎を吹き付けた。
どかーんと大きな衝撃走って、火柱が大蛇に直撃する。大蛇は火だるまになった。身を捩って唸りながら横腹をばたつかせてその場から逃れようとするが、炎はその身に絡みつきそのまま焼き尽くしてしまった。
先頭にいたヴィオレッタは衝撃で大蛇に振り落とされてしまい、突き飛ばされてその場で気絶していた。
ニグレスはフローレンスの呼びかけに応じて、ヴィオレッタが振り落とされたあたりに降りてきた。
「やったのか。」
二グレスも人の姿に転じて駆け寄った。
ヴィオレッタは振り落とされた衝撃で伸びていたが、幸い命に別状はない様子だった。フローレンスが彼女の身辺を探ると、懐から二種類の鏡が出てきた。
「背中合わせに両面が鏡面になっている方が、反魂の鏡よね。
ということはこの黒い方が吸魂の鏡のはずだわ。」
鏡は二種類あった。一つはフローレンスとヴィオレッタの姿を入れ替えるときに使用した反魂の鏡。そしてもう一つ見覚えのない黒い手鏡があった。古いものだが、鏡面はまるで深淵を映し出すように黒炭に輝いて怪しく光っている。
フローレンスは、ためらいなく吸魂の鏡を地面に投げ下ろした。鏡は粉々に砕け散ったかと思うと、中から無数の光の帯が出てきて、あたりに散っていく。おそらく、吸い込まれた生徒たちの魔力と魂が持ち主のもとへ戻っていったのだろう。
フローレンスは、残った反魂の鏡を手にして二グレスに言った。
「さあ、彼女が目を覚ます前にヴィオレッタの体を運んで、カエルの魔女のところに行きましょう。」
フローレンス達が校門の方へ戻ってくると、ちょうどそこにカエルの魔女が後続の衛兵を伴ってやって来たところだった。
「フローレンス、やったのね。」
カエルはフローレンスの元にやってくると、目に涙を浮かべながら、ゲコゲコと喉を鳴らした。
「今元の姿に戻してあげるわね。」
フローレンスはそう言って、鏡を気絶しているヴィオレッタと、カエルの魔女の間に持っていくと、呪文を唱えた。
「鏡よ鏡、反魂の鏡よ。
裏表に映し出された、かの者の魂を入れ替えよ。」
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