光と闇の戦い
「破壊!」
「光の鎧!」
ヴィオレッタの魔法に対し、フローレンスも即座に防御呪文を唱えた。凄まじい衝撃波が屋上に轟き、あたりは土煙に包まれる。
群衆が息を呑んで様子を窺う中、煙の向こうに立っていたのは、見事に攻撃を防ぎきったフローレンスの姿だった。
「ヴィオレッタ、もう許さないわ。大人しく投降しなさい!」
毅然とした声が響くが、ヴィオレッタは鼻で笑った。
「あなたみたいな小娘に何ができるというの? この私に立ち塞がるなんて、百年早いのよ。――破壊!」
次の攻撃が放たれる。しかし、再びフローレンスの魔法障壁がそれを防いだ。
「フィフィ、大丈夫か? 一旦ここは逃げよう!」
心配そうに駆け寄ったニグレスが、彼女を庇うように身を寄せる。しかし、フローレンスは首を横に振った。
「いいえ、ここで逃げては彼女の思う壺だわ。任せて。私、これでも一端の光魔法見習いなのよ」
フローレンスは胸元に手をあて、自信を込めて前を向いた。その指には、大きな光の魔法石がはめ込まれている。かつてヴィオレッタに魔力を奪われた時に使われたものだが、元の姿に戻った今もその力はフローレンスの手の中にあった。
「ヴィオレッタ、覚悟しなさい。あなたでは私に勝てないわ」
ヴィオレッタは怒りで顔を歪め、さらに強力な破壊魔法を次々と放つ。しかし、フローレンスの防御壁はいずれもびくともしなかった。
魔法の五属性にはそれぞれに有利不利がある。火は木に強く、木は水に、水は火に強い。そして、闇と光は互いに対立する属性であり、唯一闇が不利とするのが光である。どんなに恐ろしい破壊魔法を繰り出そうとも、真に強い光魔法の前では、その力が及ぶことは叶わない。フローレンスは、光属性だけでなく闇属性の授業に参加したことを経て、それらを十二分に理解していた。
「今度は私の番よ。――光の精霊たちよ、悪しきかの者を捕らえなさい!」
フローレンスの手から放たれた二本の光の鎖が、勢いよくヴィオレッタへ向かって走る。予想外の反撃に戸惑ったヴィオレッタは、足を取られて転倒した。
「くっ……この私が、あなたごときに……!」
身を起こそうとするヴィオレッタが、鋭く声を張り上げた。
「ニグレス、命令よ! 私を助け出しなさい! そして誰の手も届かない場所まで連れて行って!」
しかしニグレスはその場に立ったまま、冷ややかな目で彼女を見下ろした。
「その命令には従えない。」二グレスは冷たく言い放った。
そして、フローレンスの前に出て彼女をかばうように見を寄せると、ヴィオレッタにこう告げた。
「ヴィオレッタ、僕は君との契約は解除させてもらう。フローレンスを危険に晒そうとする君は信用できない。ついでに君のその魔力程度では、僕を従えるに値しないよ。」
「なっ……なによ、それ……!?」
ヴィオレッタの指にはめられていた指輪が、鈍く光を放ったかと思うと、みるみるうちに魔力を失い、ただの金属片のように縮んでいった。
「この私から、力を奪うなんて……この小娘が!」
怒りに我を忘れたヴィオレッタが、今度はフローレンスを睨みつける。
「フィフィ、危険だ。一緒に逃げよう!」
ニグレスはフローレンスの手を取り、その場から離れようとする。
だが――
「逃がさないわよ! 私をコケにして、タダで済むと思わないで!」
ヴィオレッタは懐から黒い縁の手鏡を取り出し、高らかに叫んだ。
「鏡よ、鏡……吸魂の鏡! ここにいる全ての者の魂を吸い取ってしまえ!」
次の瞬間、鏡から眩い閃光が放たれた。
その光に包まれた生徒たちは、目を塞いでかがみ込む。やがて閃光は黒い影のような光へと変わり、その触れた者から次々と魔力を吸い取っていった。
「フローレンス、危ない!」
ニグレスは即座にドラゴンの姿へと変じると、フローレンスをその爪の中に抱え、屋上を蹴って一気に空へと舞い上がった。
その下では、悲鳴と混乱が、なおも寮舎を包んでいた――。




