偽フローレンスの嫉妬
フローレンスの皮をかぶり、光属性寮に潜伏しているヴィオレッタは、取り巻きの友人達に別れを告げて光属性寮にある自室へと下がっていた。
(全く、あの子も懲りないわね。)
ヴィオレッタは鏡の前に立ち、自分の顔を覗き込んだ。
そこには昔のフローレンスの顔が映っていたが、昔の彼女からは想像もできないほどメイクを完璧に施し、髪も丁寧に巻き上げて盛りヘアーにして、服装も露出気味でキラキラした魔法学生の姿が映っていた。
その必要がなければ、ヴィオレッタはわざわざ地味なフローレンスと姿を入れ替えようとはしなかった。彼女はヴィオレッタの前にタイミングよく現れたカモに過ぎなかった。
(地味でさえない子だと思ってたけど、案外磨けば光るものよね。)
ヴィオレッタは、自分でめかし込んだこのフローレンスの容姿をそれなりに気に入っていた。
ヴィオレッタが得意のテクニックを駆使してラファエル大魔導士に接近したところ、彼は簡単に落ちた。ラファエル大魔導士は、ヴィオレッタがわざとらしく彼に甘えてすり寄れば、たちまち彼女にぞっこんだった。今では彼はヴィオレッタの言うことをなんでも聞いてくれる都合のいい存在に成り下がっている。
学園はもはやヴィオレッタの手中に収めたと思われた。しかし、突然フローレンスことヴィオレッタが帰ってきたのだ。
理由は、災厄の元凶となる疫病を見事鎮めたためだった。
(一体、どうやってそんなことを。)
ヴィオレッタは考え込んだ。フローレンスとヴィオレッタが元々持っていた魔法石は、今は全てこのヴィオレッタが持っている。フローレンスは魔力のない雑魚のはずだった。
聞いたところによれば、フローレンスはドラゴンの力を使ったと言う。それは、大法廷の最中に突如現れたドラゴンのことだろうか?だとすれば、ヴィオレッタにとっては大きな脅威となる。
「こんなことなら、ラファエル大魔導士にもっと強く言っておけば良かったわ。」
ヴィオレッタは気だるげにつぶやいた。
フローレンスとして暮らすヴィオレッタにとって、真実を知る本物のフローレンスの存在は非常に目障りであった。
ただ、今のところ彼女は騒ぎ立てず沈黙を続けている。たとえフローレンスが再び無実を主張して訴えたところで、ヴィオレッタは再びラファエルや持てる手段を駆使して、彼女を追い出すだけのことだ。ヴィオレッタにとってそこまでの脅威ではないように思っていた。
(それにしても、あの子が連れていた見知らぬ青年は何者なのかしら?)
ヴィオレッタは、フローレンスが連れていた青年のことを考えていた。
彼女は、フローレンスがドラゴンを使役したらしいことは耳に入っていたが、それとあの青年の正体については知らなかった。
彼は一目見ただけで周りを圧倒する存在感を秘めていた。ラファエル大魔導士でさえ霞んでしまいそうなほど、凛々しい整った顔立ち。落ち着いた佇まいはどこか不思議な雰囲気を纏っていた。
(私がいない間に、あんな美しい青年をモノにするなんて。)
ヴィオレッタは、いつの間にかフローレンスがあんな美男子を侍らせていたことに、嫉妬の感情を抑えきれないでいた。
「まあ、いいわ。都合が悪くなったら、またいつだって元の姿に戻ればいいのだもの。そうすれば私のもの。全て私のものになるわ。」
ヴィオレッタは再び鏡に向かって笑みを浮かべると、そのまま部屋を後にした。




