第4話 熱と教導
ボクの名前はクリアクレイド。
家名は忘れた。
ディストピア的な国のイーリスで、国民を搾取する悪いサイボーグをこらしめる正義の魔法少女だよ。
最近ボクが焦げカスにしちゃった悪の幹部的な奴がいなくなったせいで、イーリスは今てんてこまい!
七大企業の一つだったイエローコートは他の大企業に四方八方から食いつかれて、肢体爆散!
人間でたとえるなら脊椎が折れて骨も粉々、臓物が弾け飛んで、ほとんど死に体の状態だよ。笑けるね!
「ふむ。今日も今日とて街は浮足立っている」
アイアンガーデンで人間大のでかい揚げ物を作ったあの日から一週間が経った。
クリアのところに襲撃者は現れていない。
魔法少女活動は特に変わりなく行っているので、居場所が分からないからという理由ではないはずだ。
多分、対応を決めかねているか、様子見か、そんなところだろう。
さすがにあれだけの脅迫材料を提示されて、七大企業――今や六大企業でも、安易に武力による排除という選択肢は取れなかったようだ。
ちなみにどさくさに紛れて、クリアはアイアンガーデンに囚われていた全囚人を解放したりもしたのだが、企業側の反撃はないに等しかった。
せいぜい自動機械の類いが邪魔くさかったぐらいだ。
その後もイエローコートや他の企業からの横やりはなく、今やアイアンガーデンは完全に治外法権区と化している。
向こうも囚人の収容区などに手を回す余裕はないということなのだろう。
それによって、アイアンガーデンにいるクリアの弟子の数は爆発的に増え、約千人ほどとなった。
もはやちょっとした軍隊だが、統率自体は取れている。
彼らは犯罪者ではなく、体制に対する反乱分子の類いなので、正義感は一般人よりも強い。
なので、下手な揉め事を起こすこともなく、むしろ秩序立って行動し、無人の野に生活スペースを広げ始めている。
畑を耕し、家を建て、今は大忙しのはずだ。
そのうち六大企業がちょっかいをかけてくるかもしれないが、そのときのために魔法を教えている。
アイアンガーデンに送られるぐらいの気骨溢れる者たちなので、魔法という武器さえあればそれなりに抵抗できるだろう。
何ならクリアが出張っていってもいい。
「さて、みんなまだ続ける気はあるかな」
今日は本土側の三人の弟子を呼び出し、まだ魔法を学ぶ意思があるかを確認するつもりだった。
サイボーグに襲撃され、さらわれるなんていう事態に巻き込まれれば、普通は魔法塾を続ける気がなくなってもおかしくないという推測に基づく、クリアなりの配慮のつもりだ。
事態が解決した後は、彼らにけががないことを確認してすぐに家に帰したので、ほとんど話をしなかった。
だから、これがあの事件後最初の集まりでもある。
そして、これが最後にならないことを願いたいところだった。
「おー、みんな早いねー」
集合場所の駅前に到着すると、三人とも既に着いていてクリアが最後だった。
てっきりみんな意識消沈しているものだと思っていたが、なぜか全員やる気に満ちた表情をしていた。
「待ってましたよ! 早く始めましょう! 俺、魔法覚えたくてうずうずしてるんすよ」
顔を合わせた途端、トメイトが挨拶をするよりも前に意気込んでそう言ってくる。
その勢いにクリアは軽く面食らった。
完全に続ける気満々の態度だが、それでも一応、聞いておく。
「あ、そうなんだ。ていうことはトマト君は特にやめる気とかないってこと?」
「なんでやめるんすか! まだ始めたばっかっすよ。やめる理由がないと思うんすけど!」
「……なるほど。マミさんもメリアもそれは同じ?」
「当然だわ」
「絶対にやめたくないです」
「そ、そう」
思ったよりも食い気味に答えが返ってきて、逆にクリアが困惑した。
「えーっと、じゃあ、とりあえず移動するね」
シャープフォンのアプリで車をレンタルし、しばらくしてやってきた自動運転車に四人で乗り込む。
運転席に座ったクリアが目的地を入力すると、すぐに車が走り出した。
助手席に座ったメリアと後部座席に座ったトメイトとマミを振り返ると、確認のためにもう一度聞いておく。
「先週、君たちは七大企業にさらわれて、ボクをおびき出すための囮にされてたわけなんだけど、それでも続けちゃって本当にいいの? ボクも企業側に脅しをかけてはおいたけど、また同じことが起きないとも限らないよ」
「だから、何ですか?」
「えっと……」
メリアから思ったより強めに聞き返されて、クリアはたじろぐ。
「一番危険なのはカレンさんですよね。いつも矢面に立って、悪と戦って、正義を成して。それを危険だからっていうたったそれだけの理由でやめるなんて、どうしてそんなことができるっていうんですか。せっかく弟子にしてもらって直接教えてもらう機会にも恵まれたのに、我が身かわいさで悪から逃げるだなんて、そんな卑怯なことはわたしにはできません」
「そ、そっか」
普段から正義の魔法少女とうそぶいてはいるものの、いざ面と向かって正義などと言われると、クリアとしても反応に困る。
クリアとしては、別に正義を成したくてしているというよりは、したくてしているというだけの気持ちなのだから。
だが、少なくともメリアにはそれだけ熱い気持ちがあるということだけは分かった。
続いて後ろのトメイトに目を向ける。
「俺は単純に今回無事だったからいっかなって。七大企業もそんな何度も同じ手使わないと思いますし。それにまじで魔法覚えたいんすよ、俺」
「あー、トマト君はそういう感じね。ちょっとネジ飛んじゃってるんだ。マミさんは?」
「私は一瞬、考えたのよね。このまま魔法教えてもらうのって危険かもって」
「なのに、やめようとは思わなかったんだ?」
「だって、勝ったんでしょ?」
鋭いまなざしでそう問われ、思わずクリアは居住まいを正した。
「まあ、負けたか勝ったかでいったら、間違いなく勝ったね」
「だったら、まあ、大丈夫かなって。七大企業のサイボーグ相手に一人で勝利できる魔法少女に魔法を教えてもらうなんてとんでもない幸運だしね」
「……みんなポジティブだねー」
三者で言っていることは違うが、リスクよりも得る利益の方を優先しているという点では大体共通している。
そして、彼らなりに考えた上でもなお、クリアの教えを乞いたいというのであれば、クリアとしてはもう何も言うことはないと思った。
「それじゃあ、覚悟の決まった三人みたいだから、ボクもそれに応じて、大事なことを教えておくね。ボクはいつも人前じゃ魔法少女カレンって名乗ってるけど、本名は違うの。本当の名前はクリアクレイドっていうんだ」
「クリアクレイド……」
三人それぞれの顔を見つめて、少しだけ砕けた笑顔をクリアは見せた。
「クリアって呼んでね」
※
やってきたるはアイアンガーデン。
クリア・リライトで全員の姿を隠したり、地下道でアイアンガーデンとつながっている港からは離れた位置で車を降りたりして、一応、監視等には気を付けている。
魔力探知でサイボーグの反応は分かるが、無人機の反応は分からないので、念のための措置。
そして、アイアンガーデンまで連れてきたのは、当然ながら、今一番そこが自由に暴れられるからだ。
誰かが制御をミスって、過剰な威力の魔法を放ったところで安心安全。
先日の戦闘の余波で更地になっている場所まで彼らを連れてくると、クリアはおもむろに口を開いた。
「ところでボクから一つ提案があるんだけど、いいかな?」
「何すか、提案って」
「手っ取り早く魔法を覚えられるけど、やれることは狭まって先鋭化しちゃうのと、多少時間はかかるかもしれないけど、割と多種多様な対応力を得られるのと、君たちはどっちがいい?」
「言ってることがいまいち想像つかないんすけど、具体的にどういう感じのことすか?」
「あー、えっとねー」
実際に見せた方が早いかと思い、クリアは魔力を練る。
「じゃあ、実演するけど、こっちが先鋭化の方」
クリアは近くの山に向かって手をかざし、その前に氷の槍を生成する。
魔力を込め続け、形を研ぎ、貫通力を高め、そして、発射する。
風を切る音とともに射出された氷槍は深々と山の中腹に突き刺さり、そこに大穴を開けた。
「うえええ!?」
「……すご」
「かっこいい」
三者三様の彼らの反応を聞き流しながら、今度は異なる魔法を複数同時に練り始める。
「じゃあ、今度は多種多様な方ね」
火球、風球、雷球、水球、氷球をそれぞれ三個ずつ大中小の大きさに分けて生成し、四方八方にばら撒く。
それぞれの魔法は着弾地点でそれぞれの効力を発揮したが、氷槍ほどの威力はない。
「色とりどりっすね!」
「バリエーション豊富ね」
「きれい」
山火事なんかを引き起こしていないかを確認すると、クリアは彼らに向き直った。
「大体イメージこんな感じ。一つの魔法を極めるか、いっぱい覚えるかみたいな。ただ、実を言うと、一つの魔法の方は魔法っていうよりもっと違う技術になるかもだけど」
「もっと違う技術って何すか?」
トメイトが聞き返してきて、クリアはそれににやっと笑って答えた。
「うん。君たちの因果をいじくって、無理やり魔法をねじ込んじゃおうみたいな?」
「……どゆこと?」
困惑顔の三人を見て、クリアはさらに笑みを深めた。




