表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/66

第1話 事後処理と脅迫と

 黒腐塗れになったアイアンガーデン。

 ただ、幸いそのおかげで、残っていた兵士は我先にと島外へ脱出していった。

 クリアが回収した人質たちはポイント・リライトを使って、本土側の港へと送った。

 クリアボックスの備蓄魔力をほぼ使い果たす形となったが、緊急事態だから仕方がない。

 残されるのはクリアの弟子たちとトーマスのみ。厳密には、収容区に捕らわれている囚人や警備員もいるだろうが、今はとりあえず無視。

 弟子たちの安否は分からないが、彼らは障壁で空中移動が可能なはずなので、黒腐にやられるということはないはずだ。

 そう高をくくって、先にトーマスとの合流を目指した。

 彼の生存にも自信はなかったが、ドローンの腕を用いて空中に漂っているトーマスを発見する。


「よかったー! トーマスさん無事?」

「……少なくとも、生きてはいるね。満身創痍ではあるが」


 言葉通り彼の体は所々欠損していた。

 左足と右腕がなく、腹部に大穴が開いている。

 全身傷だらけだが、それでも、生きている。

 残っている手足でどうにかドローンにしがみついている状態だった。


「四方を囲まれてもうだめかと思ったところを黒腐に救われたよ。空に逃れる際に私も左足を黒腐に持っていかれたが、全身を侵食される前に自切して何とかこらえた。危機一髪だったよ」

「大変だったねー!」


 そのまま自由に動けないトーマスを支え、今度は弟子たちを空から捜索する。

 今のアイアンガーデンは安全とは言えないが、もはやお尋ね者となっているであろうトーマスを本土に送るわけにもいかない。

 安全を確保するならクリアの弟子たちと一緒にいてもらうのが一番いい。

 島中を闇雲に探すので、時間がかかるかと思ったが、黒腐には魔力に吸い寄せられる性質がある。

 ということはつまり、黒腐の多い方に魔力――人間が多く集まっているということでもあるので、黒腐を辿ることで、逆に弟子たちを発見するのも容易だった。


「みんなー、元気ー?」


 小高い山の頂上に集まっている弟子たちを見つけ、上空から声をかける。

 その山のふもとの方には黒腐がうじゃうじゃと集まってきている。

 その進路を妨害するように岩石がバリケードのように置かれていて、辛うじて小康状態を保っているようだった。


「すぐに何とかするからこの人お願いー!」


 満身創痍のトーマスをその場で負傷者の看病をしている何人かに任せ、クリアは飛び立つ。

 少し試してみたいことがあった。

 ふもとの黒腐の群れのすぐ上まで降下し、リュックからウォードのブラックボックスを取り出す。

 それからワイヤーにブラックボックスを括り付けると、黒腐に向かってそれを垂らす。

 まるで釣りでもしているみたいに。

 魔力に釣られた黒腐がブラックボックスに手を伸ばすと、その一体の黒腐は箱内の魔力を吸収して消えた。


「ふむ……」


 黒腐は魔力を吸収するために発生するので、逆に言えば魔力を吸収しさえすれば消滅する。

 それはブラックボックスの中の魔力を吸収させても別に構わないということらしい。

 そして、この一等級ブラックボックスの中には七十万人分の魔力が残っているので、クリアがセーフティを起動させた二等級五人三等級一人の計二十五万千人分の魔力を吸収させたとしても、お釣りがくる計算ではある。

 ただし、どうやら黒腐一体に付き吸収する魔力は一人分のようなので、クリアがこうやってぺちぺちブラックボックスを黒腐にたたきつけて吸収させるやり方はかなり非効率的と言える。

 何せこの作業をあと二十五万九百九十九回やらないといけない計算になるのだから。


「この中の魔力でカルマ・ディバイドを使えたらそれが一番手っ取り早いんだけど……」


 最初はそうするつもりで計算していたところもあったが、よくよく中の魔力を感知してみて、それは不可能だと感じた。

 クリアボックスの魔力と違って、ブラックボックスの中の魔力は非常に純度が低い。

 いろんな人間の魔力がごちゃ混ぜになって混沌としている状態だ。

 取り出して使おうにもぐちゃぐちゃ過ぎて、クリアでもまともに使える自信がない。

 要は、石油みたいものだった。

 蒸留して、灯油や軽油や重油など、性質ごとに分離しない限りまともに使用できるものではない。

 むしろこれだけむちゃくちゃにいろんな人間の魔力が詰まっていながらカルマ・リライトだけは使えることの方が異常と言えた。


「いや、待てよ。取り出すだけならできる、か……?」


 魔法やカルマ・クラフトを使うために精製するのではなく、単なる無形の魔力としてのみ放出する。

 そうすれば、黒腐一人一人にたたきつける手間が省ける。


「ほうら餌だよー! さっさと消えなねー!」


 方針が定まると、あとは容易い。

 クリアはブラックボックスから取り出した魔力を上空から黒腐にばら撒き始めた。

 埃でも払うかのように、面白いように黒腐が消えていく。


「ふぅ……これで一件落着だ」


 それからしばらく島中を飛び回って、クリアは事後処理に追われた。


 ※


 アイアンガーデンの安全が確保されると、クリアの手元には合計七つのブラックボックスが残った。

 一等級一つ、二等級五つ、三等級一つ。

 七大企業からすれば、喉から手が出るほどに欲しい代物かもしれないが、クリアには無用の長物だ。

 単純に魔力の感触が気持ち悪いし、クリアの戦い方にも合わない。

 『肉体』の上書きを用いたところで、クリアの貧弱な体ではいい的になるだけだし、機動力が削がれる。

 その他のブラックボックスの力はよく知らないが、大抵のものならクリア自身の魔力でどうとでもカバーできる範疇だ。

 わざわざ多くの人間の命を犠牲にしてできた兵器を用いる必要性もない。

 それでも、戦いには用いることができなくとも、他にも使い道はある。


『はぁーい! 正義の魔法少女カレンちゃんだよー! みんなー、元気ー? ボクも元気だけど、実はさっきむくつけきサイボーグ兵士の集団に襲われたところだったんだー! あとドローンの大群にもね。まあ、ものの見事に撃退しちゃったんだけどねー! やっぱ正義は勝っちゃうよね! ちなみにこれ戦利品』


 そう言ってクリアはシャープフォンのカメラに黒い七つの箱を映し出す。


『これってどういう代物なのか、視聴者のみんなは知ってるかなー? ま、知らないよねー。知ってたら多分生きてないもんねー。でも、ボクこれがどういうものなのか暴いちゃったんだー。七大企業のサイボーグとぉー、密接な関係があるものだよぉー。証拠映像もちゃんと撮ってあるからねー』


 仮面の奥からカメラを見つめ、クリアは画面の向こうで見ているはずの七大企業の外道共を見据える。


『だから、七大企業の賢いみんなー、余計なことを言ってほしくなかったら、これ以上ボクにちょっかいかけるのはやめてねー。ボクが何を言ってるか分かるよね? 今度、人質取るとかしょうもない真似したらどうなるか。全部ばらして、みんな暴れ出して、君たちもどかーんだよ?』


 黒腐が国民の命をサイボーグの燃料として供給するためのものだという真実が露見すれば、七大企業もただでは済まない。

 暴動は確実に起こるだろう。

 その結果、内乱にまで至るか、支配体制が崩壊するか。

 何が起きるかは分からないが、何が起きるにしても、その全てが企業側にとって望ましくないものになるのは間違いない。

 クリアは仮面の奥で心底楽しくて仕方がないという笑みを浮かべた。

 自分が賢くて、力を持っていて、全てを支配していると勘違いしている人間を煽ることほど楽しいこともない。


『人質取って脅してさ、それはそれはいい気分だったろうね。でも、今度はボクが脅すよ。黒腐の秘密をばらされたくなかったら、二度とふざけた真似すんな。ばいばーい!』


 できうる限るかわいく手を振って、クリアは録画を終えた。

 そして、その動画をネット上にアップロードする。

 数分もすると、その動画はどういうわけか削除された。

 恐らく企業側の検閲だろう。

 それでも、めげずにいくつかのサイトに何度かアップロードし続け、確実に七大企業側に届いたと確信したところでやめる。

 それから、クリアはシャープフォンを魔力で砕いて海に捨てた。

 必要があるかは分からないが、動画を撮った痕跡は一応、消しておく。

 戦闘中に撮影したサイボーグから黒腐が噴き出してくる動画のデータだけは別の場所に保存しておいた。


「これでもまだ襲ってきたら大したもんだけど、多分ないんじゃないかな」


 ドローンや二等級以下を引き連れた一等級サイボーグが真正面から打倒されて、さらにこれだけの脅しをかけられて、それでも、クリアを襲うことを諦めない者がいるとすれば、そいつはただの馬鹿だ。

 そんな者が曲がりなりにも国を牛耳る大企業の上層部にいるとは思えない。

 まあ、たとえいたとしても、返り討ちにするだけではあるのだが。


「……そういえば、カレンから何も連絡ないな」


 いろんなことが片付いて、ふと思い浮かぶのは従者のこと。

 クリアが最初に助けを求めてからこっち、かなりの時間が経過しているが、カレンからの連絡は何もない。

 メッセージの返信も電話も何も音沙汰がない。


「もしかしてあっちはあっちでなんかあった?」


 だとしても、クリアがカレンを心配することはない。

 自分が負けることは想像できたとしても、カレンが負けることは想像できない。

 クリアにとってカレンとはそういう人間だ。


「まあ、大丈夫でしょ。そのための武器はちゃんと用意してあげたしね」


 クリアは微笑むと、一抹の不安すらなく、自宅に向かって飛び立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ