第11話 友人と相談
ブラックボックスの保管庫を襲えば、確実にミミ・ストミミスがやってくる。
逆に言えば、それはミミ・ストミミスと戦いたければその保管庫を襲えばいいということだ。
特にしばらく前の敗北のリベンジの機会を虎視眈々と狙っていたクリアにとってみれば、渡りに船。
そこを襲えば戦えるのだから、襲う以外に選択肢はない。
ただ厄介なのはカレンの監視だ。
ミミが保管庫を守っているというヨークの報告を聞いてから、クリアの様子はどこか浮ついているらしく、カレンの目が鋭い。
カレンにその話はしていないから、具体的にクリアが何を企んでいるかは分からないはずだが、それでも、何かを察知しているらしいのがカレンの驚異的なところだ。
夜中に起き出してクリアが出て行こうとするたびに、どこへ行くのかと目的地を問いただしてきた。
ダイエット中だからランニングに行くんだとか、急にアイスが食べたくなったとか、適当な理屈でごまかした結果、深夜のカレンとのお出かけに変わってしまった。
これでは戦いに行けない。
有能な敵より無能な味方の方が厄介とはこのことだ。
「ということがあったんだけど、どうすればいいと思う?」
「えーっと……!? それをわたしに聞かれてもわたしの方がどうすればいいの!?」
幾度目かの脱出に失敗した次の日の昼、クリアはユリアに解決策を求めた。
「どうすればカレンを出し抜けるか教えてほしい」
「どう考えても無理だよね!? わたしに片棒を担がせないでほしい! ていうか、危ないから絶対駄目だよ、そんなことしちゃ!」
「えー、いいじゃん。固いこと言わずにさ~」
「だーめーでーす!」
頑なにクリアを引き留めようとするユリアに、相談する相手を間違えたかとクリアは気付いた。
しかし、言ってしまった以上はカレンを出し抜く前にユリアを説得しないと、確実にカレンに情報を流されるだろう。
「実は今回は本当に安全なんだって。ちゃんと保険も用意してあるから」
「保険!? どんな!?」
「実は……」
ユリアに耳を寄せ、内容を告げると、疑うよりも心底心配するような表情で彼女は見返してきた。
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。絶対」
「絶対の絶対?」
「絶対の絶対」
「絶対の絶対の絶対?」
「絶対な絶対に絶対ぬ絶対ね絶対の大丈夫」
「……そっか! でもダメ!」
「えー」
一瞬ほだされてくれるかという気配を感じたのだが、一転してやはりそこに戻ってきた。
「カレンさんに何も話さず出かけるのはダメ! あの人が本当にクリアちゃんのことを想ってるのは分かってるでしょ! だったら、何も言わずに抜け出すのは絶対にダメ!」
「……それは、まあ、そうなんだけど」
そんな理屈を持ってこられるとクリアとしても反論しにくい。
危ないからとか、無茶だとか言われるよりも、そうした気持ちの問題を持ち出される方が対処に困る。
「クリアちゃんが言わないんならわたしが言うからね! 絶対にあの人に相談して判断を仰ぐこと! いい?」
「……百二十パーセント反対されると思うんだけど」
「反対されるなら、ちゃんと説明して納得させないとダメ! クリアちゃんも自分がしようとしてることが無茶って分かってるんでしょ! だから、夜中に抜け出そうとなんてするんだし! だったら、その無茶を何が何でも納得させるぐらいの気持ちを伝えないと、無茶する資格なんてないんだから!」
「そういうのがめんどくさいから、一人で抜け出そうとしてたんだけど……」
「分かった?」
「……善処します」
「善処じゃダメ! カレンさんに言うよ! 分かった?」
「……分かりました」
最終的にクリアが押し負ける形になると、ユリアは安心したように微笑んだ。
「あの人に相談したならきっと悪いようにはしないよ! きっと!」
「ユリアはカレンと会ってそんなに経ってないと思うけど」
「それでも、二人の関係を外側から見てるわたしには分かるんだよ!」
「そんなものかな」
「そんなものだよ!」
ということで、説得するつもりが逆に説得されてしまったクリアは早速その日の夜にカレンに打ち明けることにした。
※
玄関のフローリングに正座して待機していたクリアは、カレンが扉を開けて入ってきたところで声をかけた。
「お話があります」
「……どうしてそんなところに座っているんですか」
「話があるからに決まってるじゃないですか、カレンさん」
「あー、はい。そうですね、はいはい」
投げやりに言ったカレンが靴を脱いでフローリングに上がると、その肩を押してリビングに連れていく。
テーブルに付かせると、対面にクリアも腰を下ろした。
「あの、着替えるくらいはさせてもらえませんか?」
「お話があります」
「いや、はい、それは分かりましたので、着替えをですね……」
「お話があります」
「……あらかじめ決めたアルゴリズムでしか動けないロボットか何かですか、あなたは」
諦めたカレンが着ていたシャツの胸元のボタンだけを外した。
「それで、話というのはどういったものでしょうか」
「お話があります」
「それは分かりましたから。早く本題に入らないとご飯を一品減らしますよ」
「すぐに話します!」
元気よく返事をしたクリアは事情を説明した。
「というわけでですね、例の施設を襲撃する許可をいただければ、こちらも幸いというかでございましてですね……」
「……」
話を一通り聞いたカレンは黙ってしばらく考え込む。
その反応に恐怖を覚えたクリアは、ギロチンが振り下ろされるのを待つ死刑囚のような気持ちで彼女の返答を待った。
「珍しいですね」
「え?」
「姫様がそのようなことをわたしに話すのは」
「えーっと、それはユリアに諭されたからというか」
「なるほど。やはりご友人の影響というのは少なくないということですか」
「……カレン怒ってないの?」
「怒る? 何をですか?」
「ほら、カレンに黙って施設襲撃しようとしてたわけだし」
クリアがそう言うと、何でもないというようにカレンは首を振った。
「別にその程度で怒りませんよ。何かあるとは思っていましたしね。それにこうして姫様が内情を吐露してくれたのなら、わたしとしても取る対応が分かりやすくて助かりますし」
「取る対応?」
「はい。もちろんわたしも付いていきますから」
「……」
そうなる可能性も頭にはあったが、自分からカレンに相談するという流れになった以上それをばっさりと切り捨てるのも何だかやりにくい。
「姫様がリベンジを望んでいるというのならその邪魔をするつもりはありませんが、相手はそのミミというサイボーグだけではないでしょう? フラットな条件で再戦を果たしたいというのなら露払いは必要では?」
「周りのサイボーグはカレンが片付けてくれるってこと?」
「ええ。あなたからもらったクリアボックスもありますし、何とかなるかと。何ならカイモスさんも巻き込んではどうですか。もともと彼が初めに襲撃をかけたのでしょう?」
「でも、あの人今クリアボックスに慣れるので必死だよ」
「それでも、動けるサイボーグが一人いるだけでも助かりますよ。何ならフォローはわたしがしますから」
「うーん……じゃあ、本人に聞いてみるよ」
ただちょっとリベンジを果たしたかっただけなのに、こうして人も増えて、結局、大事にならざるを得ないのはクリアとしては忸怩たる思いだが、確かに露払いは必要ではある。
保険は用意してあるが、それでも、カレンが一緒なら、いざというときの安心感は全く違う。
「分かっているかと思いますが、ご自身の命を最優先してください」
「分かってるよ」
「カイモスさんの命よりも、わたしの命よりも、ですよ」
「……ボクのわがままで巻き込んでおいてその上見捨てろって?」
「でなければリベンジなど諦めて大人しくしていてください」
「……そこまでするなら、最初からボク一人で行くよ」
「許しませんよ。絶対に付いていきます。わたしは喜んで巻き込まれているんですから。わたしの命など気にする必要はありません」
「……」
覚悟の決まったカレンの言葉にクリアもさすがに言葉を失う。
クリアは確かに負けず嫌いだが、人の命を犠牲にしてまで勝利にこだわりたいとは思えない。
「危なくなったらすぐに撤退する。それでいいでしょ。誰かの命と勝利を天秤にかけることもしない」
「いいでしょう。わたしも取り立てて死にたいわけではありませんから」
平然と答えるカレンに苦い顔をしつつも、クリアは、彼女がいるからこそ勝利を求めるだけの狂人にならずに済んでいるのかもしれないと思った。




