第33話 昔話
最近死面徒を見かけても、メイちゃんが来ない。ここは彼女のホームタウンであるにもかかわらず、だ。これは不自然極まりない。
その謎を解明すべく、俺はメイちゃんが住むお屋敷の敷居を跨いだ。
いきなり乗り込んできたミロアさんとサヴァちゃんだったが、お屋敷の人には俺の連れだと説明したら客人として迎え入れてくれた。今は客間で寛いでいる。ミロアさんは防護服を着たままで、だが。
さてどうしよう。直接本人から話を聞くか、関係者に聞き込みを行うか。
と思っていたらメイちゃん本人を発見。早速突撃取材に映ります。
「メイちゃんメイちゃん! 死面徒出てたから倒しといたよ!」
「……はぁ」
「それにしても不思議だよね。メイちゃんってばあんなに『死面徒退治は私の責務だー』って張り切ってたのに、全然来ないんだもん」
長く話しても仕方がないと思い、ぶっこんでみたらメイちゃんの顔が強張る。もしかして地雷ふんだかしら、と思ったのも束の間。メイちゃんはいつも通りのポーカーフェイスになるとこう言った。
「私はね、『たまには実家に顔出しなさい』って言われたからここに来ただけなのよ」
なるほどぉ。確かに家ではのんびりしたくなるもんね。取材は以上です、お疲れ様でした。
「え、もう終わり?」
「? うん」
じゃあね!
メイちゃんと別れ長い廊下を歩いていると、コウジさんを見つけた。早速お話を伺ってみましょう。
「コウジさん、少しお時間よろしいでしょうか」
「ん? 何かな」
「娘さん、荒れてるんじゃないかなって思いまして。何かお話でも聞かせて頂けたらな~と」
「……ついて来い」
俺の返事も待たず歩き出すコウジさん。振り向きざまにちらりと見えた顔は、今までの温厚な性格とは打って変わって冷たい表情だった。
コウジさんが足を止めると、近くのふすまを開く。部屋の中には誰も居ない。
「入れ」
ヤバイ指数が上がりだす。密室殺人事件に繋がらなければいいな。
失礼を働かないよう細心の注意を払って敷居を踏まないように跨ぐ。
「ここに居るのはお前と、相方の彫刻だけで間違いないな?」
「え、あ、はい」
ちゃんとふすまを体の前で閉めたら、いきなりこんなことを聞かれた。
「この家は、先代の闇魔法使いの系譜でな。あの烏みたいな彫刻も代々伝わる物なんだ」
「先代、かぁ……。ファル、たまにこの単語出てくるけど、先代に何があったの?」
「確かに、メイの事情も含めて話すには丁度よい。頼めるか」
[……命を懸けて、護りたいものを護り抜いた6人の女の子のお話だよ]
長い話になりそうだと感じたが、結果としては予想よりも結構長い話になった。
語ってくれた内容の要点をまとめると、こんな感じ。
* * *
むかしむかし。世界が大きな災いに飲み込まれた時代がありました。災いはひとりの手によって引き起こされ、何人もの人が命を落としました。
やがて理不尽な扱いを強いる存在にいきり立ち、精霊に選ばれた6人の少女が戦いに身を投じました。
「天焦がす炎! ルビ・カーディナル!」
「天流す水! サフィ・キュアノデス!」
「天渡る風! エメラード・ヴェール!」
「天貫く土! トパズ・ブロンディ!」
「天走る光! ダイヤ・ブランシュ!」
「天包む闇! ホタル・フカミ!」
出身地がバラバラな少女たちは、それ故に何度も衝突しながら、互いを高め合い、厄災と戦ってきました。
しかし、相手は理不尽そのもの。
少女たちは石臼ですり潰されるかのように消耗してゆき、とうとう限界が訪れる運命にありました。けれど少女たちの背中には、人々の平和が懸かっています。だから、死ぬことになると分かっていても後に引けなかったのです。
力を振り絞る少女たちに耐えかねた理不尽な存在は、この戦いをいち早く終わらせようと、まさに『そこ』を突いてきました。
時に人質を取り抵抗を止めるように呼びかけ、時に圧倒的なまでの数の差で少女をおし潰し、時に強大な力で不意打ちをしかけ、またある時には理不尽な存在自らが出向く事もありました。
理不尽な存在の手により、精霊も、精霊に選ばれた少女たちもひとり、またひとりと息絶えてゆき、とうとう残ったのは光の精霊と闇の精霊。それと彼らに選ばれた少女ふたりだけになってしまいました。
襲撃の末がれきの山と化した市街地の真ん中で、ふたりは仰向けに寝そべっていました。息も絶え絶えで、満身創痍といった出で立ちです。
奮闘したふたりを鼻で笑うかのように、理不尽な存在のしもべたちがふたりを取り囲んでいました。こんな絶体絶命の状況でも、光の精霊に選ばれた少女は、にいっ、と笑います。この行動を不思議に思った闇の精霊に選ばれた少女が、その意図を尋ねようとしました。
「ダイヤちゃん、今って笑ってられる状況?」
「今だからこそ笑うんだよ」
彼女が言うには、どうやら空元気のようです。
「なにそれ。こっちまで可笑しくて笑いそうだよ」
「大丈夫、笑ってればいいんだよ。打てる手はもう打ちつくしたんだしさ。ファルとカーくんが残ってさえいれば、まだ希望は持てるから」
「……うん。そうだね」
しもべたちに襲われるさいごの瞬間まで、ふたりは笑っていました。
これが、厄災に立ち向かった6人の少女と精霊の物語、その内容です。
* * *
碑文の内容と同じな所がいくつか存在する。コートクランとエルツォーンの碑文は、前後の関係にあるとみていいだろう。
その前にひとつ疑問があるので、ファルに尋ねてみる。
「カーくんって誰?」
[ヤタの事だね。先代の闇の魔法少女は、カレの事をそう呼んでいたんだよ]
「なるほど。ていうか俺の姿って、先代の光の魔法使いと同じなんだよね?」
主に俺が初期設定をし忘れたせいで。
[その通りだ]
「じゃあさ、なんでファルとヤタは今も残ってんの? 他の精霊は残ってないんでしょ?」
[それは、ワタシたちの力には概念的な意味合いも含まれているからだね。だから、シモベの追跡から逃れる事ができたんだ]
光と闇か。確かにそれらは、なんか火水風土と比べて超常的なパワーを感じる。
ファルへの質問タイムは終わりだ。お次はコウジさんへ、俺が気になった事を質問してみよう。
「それでコウジさん。先代の話がどうしてメイちゃんに繋がるんですか?」
コウジさんは渋い顔をして「それを今から話そう」と決意たっぷりに宣言する。
「6人の少女が倒れた後、闇の精霊はホタルの兄を通じてフカミ家に渡り、闇の精霊はフカミ家で代々守り継いでいくことになった。いつかこの力が必要になるその時まで、な。
そんなある時、精霊が活発になった。この現象を厄災復活の前触れだと確信した父様……メイにとってはおじいちゃんだな。ともかく、父様はこの世で闇の精霊との同調率が限りなく高い人を探し出した。それがメイだったという訳だ。ここまでいいかい?」
あ、はい。6人の少女が戦った厄災が復活しようとして、闇の力がメイちゃんとの相性がいちばん良かったという点までは聞きました。
「それで、父様はメイを厄災と渡り合えるようにするべく、自らメイを鍛えだした。そりゃもう、みっちりと、徹底的に。見ているこっちが心配になるくらいね。
その甲斐あってか、メイは厄災の使徒と十分に渡り合い、そして勝利した。けど、父様はメイの事を全く褒めることは無かった。それどころか、さらに厳しい態度でメイが至らなかった点を指摘したんだ」
[努力し、やり遂げても賞賛は無かったのか。そうだとしたら、お気楽なハルの態度が気に食わなかったのも頷ける]
「何となく理解はできるけど……それを俺に会うたびぶつけられても困るっていうか……」
結局俺の気持ちとしては、これに尽きるのだ。メイちゃんの問題に俺が土足で首突っ込むのもどうかと思うし。
これが、メイちゃんにとって俺が友だちや仲間の関係だと分かっていれば、俺の対応はまた違ってくるのだが。
「じゃあ、メイちゃんが全然戦いに来ない理由って――」
[恐らく、厳しい指導をされると思い込んでいるんだろうね。だから彼の膝元であるこの地では、戦いを見せるわけにはいかない、と]
イリュージョン面徒との戦いの時のように、メイちゃんが協力してくれれば百人力だ。
どうにか解決して、俺との間に突っかかりが無い状態で接してほしい。けど、その為に、俺ができることって何だろう。
「……あの、そのお爺さんって今どこにいますか?」
「まさか、会いに行く気かい!?」
驚くコウジさんに、俺は首を縦に動かした。
考えても仕方がない。そんな場合は実行あるのみだ。
「――分かったよ。父様……ケンゾウの居場所は、この家のいちばん奥だ」
俺はコウジさんの言葉を頼りに、ケンゾウ爺さんとの話に向かう。
もしメイちゃんに見られてしまったら、俺への警戒心をより強めてしまうかもしれないから、廊下に誰も居ないか確認しながら足を進める。
そして辿り着いた、いちばん奥のふすま。
「失礼します」
「……誰だ貴様は。何用だ」
「っ!? は、はい! 先日よりお世話になっている天宮晴……じゃなくてこっち風だとハル・アマミヤと申します! あなたにお話を伺いたくやってまいりました!」
「…………入れ」
「失礼しますっ!!」
威厳たっぷりの激渋ボイスに、ふすまにかけた手を引っ込めそうになるも、勇気を出してふすまを開ける。
部屋では、声のイメージ通りのお爺さんが正座をしていた。
さっきの先代の話を聞く前より、空気が引き締まっているのを感じる。これが緊張感のインフレか。まるでバトル漫画だな。
下らない考えを振り払い、お爺さんの正面に正座する。
「伺いたい話とは何だ」
「あっ、えと、メイちゃんについて、です。その、子供の頃から厳しく指導してきたって、本当ですか?」
そう俺が質問したら、ケンゾウさんの顔のしわが深くなったように感じた。もしかしたら、答えてくれないかも知れない。
しかし、そんな懸念とは裏腹に、ケンゾウさんは俺に話してくれた。
「すまないとは思っている。だが、メイに避けられては謝る機会さえ設ける事ができん。これが罰だと割り切れられれば良かったのだが……皮肉なものだな。いずれ肩に重圧が圧し掛かる日がやって来る。その前に良かれと思って、メイの為になると信じて指導してきたというのに」
……そっか。
誰も悪い人なんていないのに、こんな状況になったんだ。
「あの、厚かましいですけど、お願いがあるんです」
「何だ?」
「次にメイちゃんが戦った時は、向き合って、メイちゃんの頭をなでて欲しいんです」
俺のお願いにケンゾウさんは何も言わず、ただ俯いてしまった。




