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第32話 ウマ面徒ワールドツアー


 腹ごしらえを終え屋敷へ戻ってきた俺が見たのは、門をガンガンと叩くサヴァちゃんと、その隣にいる全身防護服の不審者だった。


「早く開けるッス! 自分たちの仲間は返してもらうッスよ!」

『種はバッチリ割れているわ! 大人しく開けなさい!』


 全身防護服の声はくぐもっている。


「サヴァちゃんサヴァちゃん、どうして不審者といっしょにいるの?」


 声をかけると、ふたりともこちらに振り向いた。しばらく硬直した後、サヴァちゃんが俺に突撃。この威力は、死面徒との戦いで鍛えられていなければ押し倒されていた……!


「ハルさん! 良かった無事だったッスね!!」


 俺の腹に頭をぐりぐりと擦りつけてくるサヴァちゃん。別にこうしてくるのは構わないけど、俺もそろそろ痛くなってきたからやめてもらえると助かるね。

 しかし、どうして俺がこのお屋敷にいるって分かったんだい?


「吹っ飛んでくハルさんが見えて、追いかけたらちょうど知らない男の人がハルさんを担いで連れ去るのを見て、それで追いかけ続けてここに来たッス」


 なるほどね。つまりハンドスピナー面徒に負けた様を見られてた、と。慕ってくれている手前、何だか恥ずかしいな。


「あんな見事に吹っ飛ばされて……がっかり、したか……?」

「そッスね。けど、それだけ死面徒も強くなってるって事ッス。だからこれから、今まで以上の力で負けないよう頑張って行けばいいッスよ!」


 サヴァちゃんからの言葉は、俺を奮い立たせるものだった。結果論としては、ハンドスピナー面徒へのリベンジは達成できたが、これからもそんな調子じゃダメだという事だろう。


 して、さっきから隣にいる防護服の不審者はどちら様でしょうか? ちょっと怖いんですけど。


『あら、私の事を忘れたのかしら?』

「忘れたも何も、知らないんだってば」

『……この姿じゃ分からないのも無理はないわね。でも、あなたは確かに私と会っているのよ』


 そうは言われても、この不審者と同じくらいの背丈で、俺と会った事がある人といえば……あんまり覚えてないや。それにこの姿になってから、背丈の感覚が狂っている。だから、あまり信用は出来ない。

 ならば声だ。くぐもってはいるが、聞き覚えがある声である事は間違いない。


「ハルさんひどいッスよ。今まですっといっしょに旅してきたじゃないッスか」

「いや俺、こんな不審者と旅した記憶ないし……マジでどちら様?」

『私よ』

「答えになってないってば」

『仕方ないじゃない。いきなりこんなの着せられて、国を出るまでは脱いではいけないって言われて、私だって戸惑ってるのよ?』


 グチグチといい合っていると、横からサヴァちゃんが何か言いたげに俺の腋腹をつついてきた。


「ハルさんハルさん、これ、ミロアさんッス」

「嘘でしょ!? 全然面影が無いけど!」


 だって全身が白い防護服だよ!?

 でも、サヴァちゃんは真剣で、嘘をついているようには思えない。ちょっと信じてみる体で話を進める。


「仮にこれがミロアさんだとして、どうしてそれを?」

「簡単ッス。食べ物の味と色を答えさせれば、ミロアさんだって分かるッス」


 あっ、そっかぁ……。ミロアさんは味が分からないけど、色は分かるって事、すっかり忘れてた。


「じゃあ質問。俺が感動して泣いた料理は?」

『茶色いハンバーグね! あの焦げ目の付いた楕円型から染み出す肉汁は今でも記憶に焼き付いているわ!』


 即答。


「それだけだとまだ弱いから、ふたつめ。俺がコートクランで食べた揚げ魚は何色でしょうか」

『白身魚よ。あ、赤身魚を揚げたのと食べ比べしてみましょう!? 丁度味が分かる人がふたりいるんですもの!』


 これまた即答。


「……みっつめ。温泉地で『薄茶色のふかし芋よ』せ、正解です」


 食い気味に答えてきた。


 何てことだ。

 味についてはノータッチなのに色は当ててくる。これはミロアさんだと認めざるを得ない。


『ね? 私だって言ったでしょ?』

「おみそれしました……」


 それと疑ってすみませんでした。腰を直角に折り曲げ、俺はミロアさんに謝る。


『いいのよ別に。それにこの装備、ちゃんと中に光が届くのよ!』

「光と空気は通すけどチリや花粉は通さないってこと!? そいつは確かにすげぇや!」

『どんな素材で出来ているのかとても気になるわね!』

「後でこれをくれたお役人さんに問い詰めてみればいいッス!」

「しかしサヴァちゃん、それってこの国を出る時まで覚えてなきゃいけないんじゃない? 結構大変だと思うな」

「そうだったッス! 大変ッス!」


 合流したのでしばし浮かれていると、黒板を爪でひっかいたような嫌な音が俺たちの耳に届いた。そして音が止むと、今度は急な立ち眩みに見舞われる。立ち眩みは俺だけじゃなく、ミロアさんもサヴァちゃんにも起こったようだった。


[邪悪な力を感じる……これは間違いなく死面徒の仕業だ!]

「また死面徒!? いつもより間隔短くない?」

[彼らもそれだけ本気なのだろう。ともかく現場へ急行だ!]

「そうかもな! やれる事やってやりましょうか!」

「ハルさんある所に自分ありッス。それに、見てる事すらできないなんて悔しすぎるッスから、自分も行くッス!」

『なら私も! とはいえ私、こんな格好だから戦えないけど、ついて行ってもいいのかしら』

「OK!!」


 爽快に答えると、ミロアさんの顔が明るくなった。

 俺の基本は来るもの拒まず。ついて行きたいならば勝手にすればいい……って言っちゃうと、ちょっとドライすぎるかな。


 ファルの案内に従い現場へ近づくと、耳をつんざくような音が聞こえてくる。鼓膜割れそうだ。


 久しぶりに見たビリーが逃げようとする人を捕まえては、所々錆びているパイプ椅子に無理やり座らせて縄で縛っている。聞くに堪えない演奏を選択の余地なしに効かせるなんて、ひどいことを……!

 早く縄を解いて逃げさせなきゃ!


[ハル! 演奏で苦しんでいた人から気力が奪われている!]

「何だって!?」


 本人にその意思が無いなら解放させてもても意味が無いじゃないか! 避難させるにはどうすればいいんだ!


「それなら実力行使ッス!」


 サヴァちゃんが周囲の水を操る。10センチ程度の波でも、人は押し流されていった。助かったけど、自然って怖いねぇ。


「避難終わったッス!」


 ミロアさんはその不審者全開な格好がトラブルの種にならないよう、路地裏に身を潜めて俺を見守っている。


 さて今回やって来た死面徒の外見は、二胡という楽器の上に馬の頭が付いた楽器。あれは馬頭琴というものだ。国語の授業で習ったから知っている。

 へたくそが引くバイオリンのような音は、こいつが原因か。ハッキリ言ってクソ迷惑だ。


「き、奇想……転身……!」


 ファルを持たなきゃいけないから、片耳が塞げなくなってしまう。騒音に苦しみながらの変身。

 そういえば剣持つと片手塞がって耳塞げないじゃん。まさかの難敵登場か?

 剣を持たずに体当たり。戦略も読みも何もないのであっけなく避けられてしまう。が、相手の注意を俺へ向ける事ができた。


「おやおや、誰かと思えば光の魔法使いではありませんかぁ。『バトウキン面徒』と申す者。今後とも宜しくお願い致します」

「できればこれっきりにしときたいね」


 やはり馬頭琴だったか。


「これ以上人々の気力は奪わせない!」

「腹を立てているのは此方も同じ事」


 何……?


「優雅な演奏に水を差す愚か者め! コテンパンに叩きのめされ罪を贖うのです!」


 バトウキン面徒がこれまでの比じゃない騒音を鳴らしてきた。耳を塞いでも脳に直接響く……! 頭が爆発しそうだ! こんな演奏のどこに優雅さの欠片があるんだよ!


 それにしても、メイちゃんが来ない。この騒音は屋敷まで届いている筈なのに。だって、俺たちは屋敷の前でこの音を聞いて駆けつけたのだから。

 そうなると今回も、俺だけで死面徒の相手をしなければいけない。


「ファル! 音って反射できるかな?!」

[特定方向からの音は跳ね返せるが、残った音から伝わってくるだけだ! 効果は無い!]

「どうすりゃいいんだよ!」

[しかし闇の魔法なら有利に立ち回れるぞ!]

「メイちゃんが来る見込みはあるのかよ……!」

[それが、ヤタにも連絡をしているが一向に着信が来ないんだ。どこかワタシの思念が届かない場所にいるようだ]

「じゃあやっぱり、今この場にある物だけでアイツと戦わなきゃいけないって事か!」


 決意を固めた瞬間、さらに強烈な音波が俺に襲い掛かった。


「おやおや、随分地面に這いつくばるのがお好きな様子で」

「そりゃどーも!」


 考えろ……考えるんだ……!

 何か、何か手はないのか! 突破口は必ずどこかにあるはず……!


 まず音ってのは空気の振動だ。これは理科の授業で習う事。つまり空気が無ければ音も耳に届かない。しかしそれでは俺も動けなくなってしまう。

 

 俺は顔を少しでも上げて、周囲にある使えそうなものに目星をつけようとした。


 この界隈にあるお店。その中でも俺は、かんざしとか整髪油とかが売られているお店に目を付けた。ここなら、あれがあるかもしれない! 突破口は開けた!


 俺は頭を押さえながら店に入ると、早速目当ての品を探す。棚から手に取り、代金を支払ってから包装を破る。なるべく数字が小さい方を選んだ。

 

 俺が購入したのは、スプレーで泡が出てくるタイプの洗顔フォーム。いったん手のひらに出し、泡立ち具合を確認する。これくらいのモコモコならいけそうだ!


 両耳が隠れるくらいの泡を噴射。これで耳を塞いで音をある程度シャットアウトするのだ。

 その効果は期待通り。この程度の音量なら、我慢が出来そうだ。


「至高の演奏を前に耳を塞ぐとは、何と罪深き事か! その愚かさを骨身に染み込ませてあげましょう!」

「なんだって!? よく聞こえないなあ!」


 俺は剣を振るいバトウキン面徒を空中に打ち上げ、俺も跳び上がり回避不可能の必殺技を食らわせる。


───────{9}───────


 バトウキン面徒は突風に乗り地面へ叩きつけられた。すかさず俺はジェイルアンカーを発動。バトウキン面徒の動きを封じる。


───────{1}───────


 金ダライを食らい俺は墜落。立ち上がってもくらくらする頭を、何とか持ち直す。経験則から2回くらい必殺技を打ち込めるので、もう1回。


───────{2}───────


 あぁん。出目がひどい。


「ぐっ、この……!」


 バトウキン面徒は脱出にもたついて時間が掛かっている。これならもう1回必殺技をぶち込めそうだ。


───────{12}───────


「名演こそフィナーレはあっけないものおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」


 よし、何とか倒せたな。

 でもどうしてメイちゃんが来なかったのかな。屋敷に戻ったら、コウジさんにそれとなく聞いてみよう。


 やる事を記憶した俺は、耳に付けた泡を洗い流してから、ダウンしているサヴァちゃんの回収に向かった。


「大丈夫?」

「まだ頭がくらくらするッス……」

『同感ね。音程もめちゃくちゃだったもの』


 頭を押さえるミロアさんの方だが、まだ気力があるように見えた。どうやら、防護服を着ていたおかげらしい。

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