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7話 一歩進む者

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想定されていない動作が行われています。今後の戦闘行動に影響を及ぼす可能性があります。


 旧時代ならいざ知らず、キャンピングカーでさえ太陽光によって稼働するため、エネルギー事情はさして困らないのはいいことだ。

 食糧庫や武器庫の荷物を詰め込めるだけ詰め込み、村人も一人、また一人と乗り込んでいく。

 私に村の全員を乗せることはかなわないがいつぞやの襲撃者のおかげで何とか全員乗れる

そこでおとぎ話に出てくる商隊のように、キャンプカーを使ってキャンプをしながら落ち着ける場所を探すことになっていた。私は用心棒といったところか。彼女の趣味に改造された躯体を調整する。赤い色は思ったよりもセンスがいい。

「ねぇ。これでよかったのかな?」

 指示を終えて私に乗り込んだ少女の声はいつになく自信がないようだった。

「このカラーリングは君にしてはセンスを感じるが?急ごしらえだが、ウィングパーツも悪くない。」

「馬鹿。ちがうわよ。村を離れるのが、よかったのかなって。」

村の人間は全員納得して決めたことだった。それに彼らは彼女の奮闘を誰よりも知っている。

 機械である私よりもずっと。だが、彼女は私の回答を求めている。

「最良であったかは今の私には判断できない。」

 燃料の問題はともかく消耗品や食料という観点では、長期的に見れば、食料を育成できる畑があった方がよいのも事実。

 だが、私達はすでに新人類に何らかの形で目を付けられている。ならば、少しでも移動した方が安全ともいえる。どちらを取るかというだけの話でしかない。それにどちらをとっても最終的には彼らと戦うことは避けられないだろう。

「けれど、君が決めたことなら、私はどこまでも付き合おう。」

「なによそれ。機械ならもっとこうした方がいいとかあるんじゃないの?」

「君が言ったことだ。私は道具であり、君はマスターだ。一人で逃げようとも皆で逃げようとも、あるいはあの場所に残ろうとしても。私は君についていく。どのような道であっても。私は君に味方する。」

 一瞬見開いた目はとても美しい色に思えた。

「・・・そうよね。でも、道具に頼るだけのようじゃおしまいだわ。ちゃんと使いこなさなくっちゃ。」

 顔をはたき気合を入れる。打ち合わせの時間になると、私達とキャンピングカーはゆっくりと、だが、確かにその地を離れていった。



「よぉ。」

 男の声に応えるように、風が吹き抜ける。先日襲った村だ。既に人は皆無。地獄になりかけた故郷から、彼女たちは踏み出していったのだろう。上の狙い通りというわけだ。

 邪魔さえなければすぐに終わる。そんな任務。

「ああ。心配すんな。盗聴も監視もねぇよ。聞く相手もいねえしな。」

 近場の瓦礫に腰掛け、やや迷ってから結局はっきり口に出すことにした。

「だから言ったじゃねーか。逆らうなって。」

 小さな村のその外れに更にちっぽけな墓地。物言わぬ墓石に語り掛ける。当然に、あるいは生前と変わらず。男の苦言に彼は何も返しはしない。

 侮蔑とも後悔ともつかない感情が男にあふれる。唯一名前の刻まれない墓石はだからこそなによりもそれが彼の墓なのだと男に確信を持たせた。

「アイビーの再現機は既に作り出された。後はお前の経験と遺伝子だけだ。」

 煙草に火をつける。やりきれない物を煙と共に吐き出した。

「俺は、お前を相棒だと思ってた。お前がそう思っていないこともわかっていたがよ。」

 少年と駆けた記憶が男をかき乱す。

「危なっかしい性格だが、お前は誰よりも強かった。誰にもなびかず、誰にも媚びず、ただただ強かった。」

 初めて、少年がプライベートの話をした時を思い出す。彼に悩みがあることも、彼がそれについて自分を頼ったことも。

「厄ネタのガキを抱えたなんて話されたときは驚いたぜ。兵器よりも兵器のように動いてたお前が、そんなもんを後生大事にするなんて思わなかった。さっさと捨てるのがおちと思ったのにな。」

 しかしそれを、喜んだ。彼もまた同じ人間の仲間なのだと。冷徹な兵器の男ではないのだと。そして、自分が彼に頼られて、やっと相棒としてやっていけるのだと。

 もう一息。紫煙は空気へ溶けていく。

「極稀に、高度な人工知能はナノマシンのリンクを通して自己進化、自我を得ることがある……眉唾だと思っていたが、アイビーがそうなるとはな。お前は俺の知らんところでどれだけ戦ったんだ。」

 そして、それを駆る彼女。

「信じられるか?プラズマキャノンを近接で撃って、そのまま殴ってきたんだぜ?正気とは思えねーだろ。いや、お前ならやりそうだわ。」

 男は相棒になれなかった彼とその機体を思う。彼の機体が自我を持ち、それに相棒として乗り込む名も知らない少女。拳とともに送り込まれた声と見てきたものを想う。

「あいつはお前の―――。いや。」

 きっとそうなのだろう。自分とは違い、真剣に生きて、ばかみたいに真面目にそれを守り抜いて死んだのだ。

「依頼だ。報酬もいい。お前の遺体を奪取してこいとさ。」

 依頼の内容を見たときは吐き気すらしたものだ。だが、同じく許せない命令に逆らい、自分を信じた結果命を落とした相棒。

 その相棒にもう一度、会えるかもしれない。

「最強の兵器をつくる。それともお前も知っていたのか?笑っちまうよな。新人類と戦いになる相手なんざ、もうどこにもいないのによ。」

 墓石は応えない。

「いや、すまん。お前に会えるってよ。初めて、俺と対等になれそうだった奴にもう一度会えるって言われて、俺、断り切れなかった。今は馬鹿げてることしてるのは判ってる。一通り終わったら、俺もそっちに行くわ。さすがに少し疲れちまったよ。」

 彼が聞いたらなんと答えるだろう。「ばかばかしい」とでもいうのだろうか。「やめろ」と止めるだろうか。あんがい「そうか」と言って捨て置くかもしれない。

彼の相棒になれなかった自分にはそれを測ることすらできない。

「まあ、なんだ。向こうにいったら、また殴られてやるから、それで勘弁してくれ。」

 煙草の火を消し、墓を暴く。眠る遺体は体内のナノマシンのおかげか驚くほどきれいで、あの日のままの少年の姿だった。

 あまりにも変わったのに変わらないままの少年の姿を見て、何も変わらないまま心が老けるだけの自分を呪う。

「そういや寝顔は……初めて見るな。」

 新人類になってなお、人間は不平等だった。



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