10話 悩む物
間違いだったのかもしれない。しかし、他に方法はない。彼女が望むもの、踏みにじられない世界。
それはナノマシンによって共感力の高まった世界なら理論的には簡単にできるはずなのだ。
思いを届けること。声をあげることをやめないこと。しかし、叫ぶ度に彼女は傷つく。距離まで踏み込むまでの銃弾の嵐、強引なナノマシンリンクに必要な距離はゼロ。懐の奥まで、走り抜け、届けるたびに思い出す自分の心の傷。
そして、彼らがなまじ「善い人」になりうるから、憎みきることもできない。
私は彼女を積極的に傷つけている。最低なのは、私なのだ。だが、止まってはいけない。
彼女自身がすでに決意して、踏み出しているのだから。私は彼女の望む未来を創るために。彼女の心を傷つけても、最後に彼女の心を守るための最適解を常に演算する。
「政治家は意図的に倫理機構を抑制して傭兵を生み出してきた。軍隊を持つのは批判が大きいから、民間企業でカモフラージュしてね。けどまあ、実態としてはほぼ直属。で、その実態は日本の新人類のほとんどは知らない。こっちのごたごたはあまり流れてこないし、弾に流れても内紛か、そうでなきゃ過激派の旧人類愛護団体の仕業で片付くのさ。」
傭兵の男は語る。概ねゼラニウムの言ったことと相違がない。
「だから、やるなら言い訳しようのない状況が必要だ。隠ぺいできないくらいに。それこそ、日本で一度ドンパチやってみたりね。ようは、新人類の一般人が君たちの声を認知できればこの戦いは終わる。」
「元凶は政治家じゃないの?」
「状況を積極的に作ってるのはね。けど、なんだかんだ言って彼らも新人類だ。今の社会が新人類にとって幸福だと考えてるからそうなる。だから、現実を見て、それを変えなければ新人類が幸福になれないことを認識すれば嫌でもそっちに向く。そこらへんは旧人類時代の腐敗政治とは少し違うのさ。」
自分のナノマシンの力をほんの少し誇らしげに語る男。
「踏みにじられる方には腐敗具合なんて意味がないわ。」
嫌みくらいは許されるだろう。
「けど、やってやろうじゃない。」
日本領空へ向かう輸送機。しかし、国境ギリギリのところに強い反応を感知した。




