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私の婚約者

 私の婚約者はとてもとても可愛い男性(ひと)である。

 一言で表すとしたら『小動物』。

 彼は大企業の御曹司で鷹之森静流(たかのもりしずる)

 私は彼の婚約者で咲山唯子(さきやまゆいこ)

 私は彼をしーちゃんと呼んでいる。




 しーちゃんは私立望月学園(しりつもちづきがくえん)、高等部で俺様生徒会長として君臨している。

 現在の状況を説明しよう。

 今はお昼休み時間。

 場所は生徒会室の隣の部屋になるのだけど、その部屋は生徒会長個人が専用で使用できるもので、そこに私としーちゃんは二人きりでいる。

 生徒会長専用室は元は何かの教科の準備室だったらしい。そこへ何代前かの生徒会長が癒しが欲しいから空き部屋をくれと学園側に希望して使用を許可されたそうだ。

 財閥や大企業の子息子女等が多く通っているお金持ち御用達学園なので、その申し出にきっと学園側も断れなかったのだろう。

 そうして、使用許可をもぎ取った歴代の生徒会長達はひたすら己の欲望を叶えるべく、自宅で使わない家具家電を持ち込んだのだった。中古品と侮ってはいけない。お金持ちが使っていた物と言えば、その一つ一つがブランド物で超高級品。ポーンと寄贈してしまうなんて本当にもったいない。

 とにかく生徒会長達が色々と改良した結果、非常に使い勝手の良い空間へと仕上がったのだった。

 もったいないわと思いつつ、大変有効活用させていただいているけど。

 しーちゃんが生徒会長になってからはずっとこの部屋でお昼をとることにしている。学園内でしーちゃんは常に『俺様』モードなのでストレスを溜めないように息抜きが必要なのだ。

 お昼を二人で食べて、食後は私の膝枕。これが息抜きの定番になっている。

 しーちゃんが忙しくてお昼を一緒にとれない時以外は大抵一緒にいると思う。

 甘やかしすぎ?イヤ、これは仕方のないことなのです。

 しーちゃんは鷹之森家の跡取りとして、母親である馨様から幼少時よりスパルタ教育を受けている。大企業の御曹司たるもの、人の上に立つものとして威厳を持てーーーと。しかも、しーちゃんの最大の魅力である、ほんわか、ふんわり、ふにゃふにゃな性格は男としてはナヨナヨしていると否定的。

 もちろん、馨様はしーちゃんを愛しているけども、対外的にはまずいと感じているのだ。古い言い回しかもしれないけど、世間の荒波に揉まれて負けてしまうのではないかと心配している。

 要するにしーちゃんは可愛すぎる←ここ大事。からナメられんなよというわけ。

 そうしてナメられないように『俺様』キャラは作られた。

 しーちゃんもそれは分かっていて、外での振る舞いには徹底的に気を使う。しかも、鷹之森家の中であっても使用人さん達がいるので自室でしか安心できない。しーちゃんの素は両親以外には内緒にしているのだ。

 これではストレスが溜まるに決まっている。

 私は、そんな苦労も分かっているし、『俺様』モードからしーちゃんへと変わる?いや戻る?瞬間をこよなく愛しているので、でろっでろに甘やかす。

 もうね、こう、きりっとして美人で格好良い人が、自分と二人きりになった瞬間にそれまでの表情を一変させてふんにゃり微笑んでくれるのってすごくいい。

 この人は自分だけにこの笑顔を見せてくれて、気を許してくれているんだと実感してーーーいやあ、本当に私は幸せです。

 毎回鼻血との戦いは激しさを増すばかりだけど、この苦しみもしーちゃんと一緒にいられる代償と考えれば頑張って耐えるしかない!

 だから、私はこう言うのだ。

「しーちゃん、大好き」

「僕もーーー大好きだよ。ゆいちゃん」

 いちゃいちゃしすぎ?ーーーふっ、外野は黙っていなさい。



 

「ーーー静流様、唯子様。そろそろお時間です」

 コンコンと生徒会長専用部屋のドアがノックされた。

 もう、昼休み時間も終わりか……。

「………ゆいちゃん、離れたくない」

 体を起こしたしーちゃんは私を抱きしめる。

 名残惜しいらしく、いつもこの瞬間は離れるのを嫌がる。

「私もだけど、くるみちゃんに迷惑かかるよ?」

「笠井が憎い……」

「しーちゃんってば……もう……」 

 しーちゃんが笠井と呼んで、私がくるみちゃんと呼ぶ女性(ひと)は生徒会副会長の笠井くるみのことだ。

 笠井くるみとの付き合いも小さい頃からなので長い。彼女は将来しーちゃんの秘書となるべく、公私共にサポートしてくれる存在だ。

 当然、しーちゃんと結婚する私のことも気にかけてくれる。

 主にしーちゃんにべったりな私にとっては数少ない友達とも言えるだろう。

 こうやって、お昼休みが終わりに近づくと声をかけてくれるし、何かとフォローしてくれる彼女にはいつもお世話になっている。

 初めて会ったのは八歳の頃。当時はしーちゃんの婚約者候補だったので私はライバル心が燃え上がっていたのだけど、彼女は全くこれっぽちも婚約者候補とは思っていなかった。

「ーーーわたくし、静流様の隣に並び立つことに興味はありません。仕事がバリバリできるキャリアウーマンが夢ですので、静流様は将来の雇用主と考えております」

 これ、八歳児の言う台詞じゃないよね!?

 夢が超現実的すぎるよ!?

 くるみちゃんは小さい頃からクールでした。

 余談。私、本当はくるみちゃんをくーちゃんと呼びたかったのだけれど、しーちゃんチェックが入りまして。「僕と呼び方が似ているからイヤ」と却下されました。

 

 


「ーーーほら、しーちゃん行こう?」

「……ん」

 ようやく動いたしーちゃんと共に生徒会長専用室から出る。廊下を

通り生徒会室へと入ると、副会長席に座っていたくるみちゃんがまた声をかけてきた。

「静流様、柴崎さんに確認しましたら、今週末は特に予定はないとのことでしたので、お休みいただいて結構です」

 柴崎さんとは社長秘書さんのこと。たまに鷹之森で会食とかあるので、くるみちゃんが柴崎さんに確認している。

「ーーーそうか。唯子、日曜日会ってくれるか」

「はい」

 くるみちゃんがいるのでふんにゃり笑えないしーちゃんは、笑顔になりそうなのを抑えたので口元がちょっとひきつっていた。頑張ったのね、しーちゃん。




 さてさて。おまちかねの日曜日。

 朝九時。咲山家の目の前に鷹之森家の自家用車が到着する。

 ちなみにうちの父と母にしーちゃんは自分の素のことを説明済み。将来は義理とはいえ、家族になるのだから隠してはおけないということらしい。咲山家には使用人さんなんていないので、気を使う必要もなく、快適に過ごせるっていうのもあるのかもしれない。

 母は私と同じくしーちゃんのふんにゃり笑顔に心臓を鷲掴みにされてしまい、自分の娘より優先で何かと可愛がっている。

 父の方は知り合った当初は面白くなかったらしいけど、今はそれもなくなった。しーちゃんってば、わりと頻繁に咲山家を訪れていたので、どうやらうちの子認定したらしい。

 もし今後鷹之森家を勘当になったりしたら、婿入りすれば良いと言っていた。しーちゃんは苦笑いしていたっけ。

「ーーーおはようございます。ゆいちゃん迎えに来ました」

「おはよう。いらっしゃい、静流ちゃん」

「おはよう。静流くん」

 娘より先にしーちゃんを出迎える父と母。ーーー遅れてしまった。

「ゆいちゃん、何やってんの?静流ちゃんを待たせちゃダメでしょ」

 母よ。私を押しのけたのは貴女です。

「ごめんなさい。しーちゃん。行こう」

「うん。じゃあ、ゆいちゃんをお預かりします」

「二人とも気をつけてね」

 玄関先で挨拶を交わし終わったら、お迎えの車に乗り込む。

「今日、どこ行くの?」

「映画を観に行こうと思う。唯子が気に入るといいが」

 車には運転手さんがいるので、しーちゃんは『俺様』モードに切り替える。

 ーーー映画かぁ。しーちゃんの好みは意外や意外、恋愛モノだったりする。あんまりイメージがなくて本当に驚いた。しかも、ハッピーエンドじゃないと納得しないのか、鑑賞後の感想や批評が超辛口になる。『俺様』モードで恋愛映画を熱く語るしーちゃん。

 私も好みは恋愛モノではなく、アクションだったりホラーだったりするので、映画の趣味はちょっと合わない。ただ単にホラー映画を観て、恐怖で涙ぐむしーちゃんを愛でたいという下心があると言っておこう。

 車の中ではたわいもない話をして過ごし、しばらくしてショッピングモールに着いた。

「高橋、映画を観てから買い物もするからまた連絡をする」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ。静流様、唯子様」

 駐車場で運転手さんと別れ、映画館の方に向かう。

「まだ上映時間に余裕があるな。気になった店でもあったら寄ってみるか?」

「はい。静流様」

 外出先では誰の目があるか分からないので、基本的に学園内と同じ様な態度になる。

 『俺様』しーちゃんはきりっとした美人さんなので、人が多いところでは衆目を集めてしまう。その他大勢の中にしーちゃんを知っている人がいるかもしれないからうっかり隙なんて見せられないのだ。

 うーん、羨望の眼差しを寄越すお姉様方がちらほらいらっしゃるようだ。

 しーちゃんを見つめる人達を見るとふと思うことがある。

 あの新年会に参加しなければ。ただの平社員の娘が時期社長と出会うなんてなかっただろう。

 もしかすると、こうしてしーちゃんの隣に立っている人は私じゃなくて。他の誰かだったかもしれないって。

 今がすごく幸せ過ぎて不安になるなんて。ちょっと恥ずかしい。

 少しうつむいていると。

「唯子?」

 しーちゃんは心配してくれるから。

 『もしも』なんて考えはすぐに消すけど。

「映画、どんな内容か考えちゃって」

「俺も今回は忙しくてあらすじチェック出来なかった」

「ーーー転入生騒動とか?」

「それもあるし、色々とな。外では話せないから後で」

「分かりました」




 その後は普通に映画を観て、感想を言いながら帰途に着き。

 結局、しーちゃんの『話したい』ことは聞けずじまいだった。

 お互いが忘れていただけというオチがついた。





◆おまけ◆


「しーちゃん、ちょっと聞いて!」

「ゆいちゃん、そんなに興奮してどうしたの?」

「流行りの乙女ゲームっぽいこと考えたの!」

「え?」

「まず、攻略対象としてーーー」


 俺様(ツンデレ)生徒会長 鷹之森静流

 クーデレ副会長 笠井くるみ

 腹黒会計 藤沢要(ふじさわかなめ)

 チャラ男書記 舞原雅史(まいはらまさふみ)

 生徒会補佐 ーーー多分イケメン

 生徒会顧問教師 小暮智(こぐれさとし)

 隠しキャラ ーーー先輩あたり


「ーーーちょっと!乙女ゲームって攻略するのは男性だよね?笠井が対象になってるよ!?しかも、舞原がチャラ男って!あと、生徒会顧問の小暮先生って、確か四十代だよね?年の差あるよ」

「百合っぽいのもいいかなって。チャラ男は前回騒動があったからだし、小暮先生はおじさま大好きな層に需要があるでしょ?」

「ゆいちゃん……」

「くるみちゃんは個人的に私が攻略したい」

「ゆいちゃん!?」

「補佐は一年生のイケメン枠を考えてる」

「……」

「隠しキャラも外せないなあ」

「……」

「あと私はしーちゃんルートのライバルキャラね。いわゆる悪役令嬢かな」

「ラスボス感スゴいよ!?」
















読んでくださってありがとうござます。正直、短編のみで完結しており、連載する気は全くありませんでした。しかし、続編希望をいただいたからには連載にしてしまえと調子に乗りました。ネタが出来次第投稿します。更新遅くて本当に申し訳ないです。


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