SS キアンのプロポーズ 祝福の花が咲く日
書きたくて温めていたSSです。
私は、いつも通り薬草園で水をやっていた。
日差しが眩しい。
もう新緑が鮮やかな季節になった。
この時期に収穫できる薬草は――そんなことを考えていると、いきなりセラに腕を引かれた。
――え?今日は随分と早起きだ。
「ルミア!ちょっとちょっと!今から私に付き合ってくれない?」
「へ?セラ、珍しいね。こんな時間に外に出てくるなんて」
思わず、素直な感想が口をついて出た。
セラが一瞬、バツの悪そうな顔をして視線を逸らす。
「……もう。そんなに引きこもってばかりじゃないはずだもの!」
「ふふふ。セラは夜中まで頑張ってるんだもん。ただ珍しくて驚いただけだよ」
セラは私の顔を見て、少しだけ口角を上げた。
そのまま、頭の先からつま先まで観察される。
「うん。あいつら、本当に突然無茶を言うけど……。ルミアならいけるわ!うんと驚かせて、黙らせてやるんだから」
「えええ?さっきから何の話!?」
彼女に腕を掴まれ、家の中へ連れ込まれる。
そこで私を待ち受けていたメンバーに、驚きの声をあげてしまう。
「あれ、エレナ母さん?それに、リナちゃんとエミさんまで……!いや、本当にどうしたの?」
私の疑問に、エレナ母さんはにやりと口元を歪ませた。
リナちゃんは真剣そのものだ。
何故か瞳がキラキラしている気がする。
エミさんは……あれ?一番オーラが凄い。
「さて、みんな!時間がないよ!ルミアを絶世の美女に仕立て上げて、度肝を抜かせてやろう!」
エレナ母さんが手を打ち付けて合図をすると、女性陣が一斉に動き出した。
いや、待って!?
まずは私に説明を――!
そして数時間後。
純白のドレスにベールまで被せられ、薄く化粧をした私が完成した。
銀髪も、いつもと違い、エミさんが丁寧に編み込んでくれている。
ここまで来ると、さすがの私も気づく。
これはまさか。
いや、でも私に相談なく進めちゃう!?
「ルミアお姉ちゃん!これ、わたしが作ったブーケなんだ!カーマイン・ベールで作ったの!」
リナちゃんが元気よく渡してくれた花束を受け取る。
カーマイン・ベールを中心に、所々に散らされたかすみ草で柔らかい印象になっている。
「ありがとう。綺麗だね」
「あはは!ルミアお姉ちゃんの方がよっぽど綺麗だよ!天使さまみたい」
リナちゃんの大袈裟な褒め言葉に、思わず顔が赤くなる。
純粋すぎて、こちらが参っちゃうよリナちゃん。
「よし、準備万端だ!男どもの驚く顔が楽しみだね!」
「「ええ!」」
私以外の女性陣が拳を握っている。
いや、でも……。
こんなドレス、本当にどうしたの?
全部、みんなが用意してくれたんだろうか。
少しだけ目頭が熱くなる。
泣いちゃ駄目だ、エミさんがお化粧してくれたんだから。
そして私は、無理やり正装させられて教会に連れ出された。
あの日から、村の人たちの視線が優しい。
村にある小さな教会の前に、白いタキシードで正装したキアンが立っていた。
数人の村人も並んで立っている。
そこには、トーマスさんも、アルの姿もあった。
教会に新しく赴任してきた新人の神父様が、私に笑いかけてくれる。
「これはこれは、美しい花嫁さんですね」
神父様の言葉に思わず赤くなる。
褒められるのには慣れていない……。
キアンは?キアンから見たらどうなんだろう……。
「ルミア……」
キアンが、熱っぽい瞳で私を見つめてくる。
目を合わせるのが恥ずかしくて、思わず視線を下に向けてしまう。
キアンが、そっと私の手に触れた。
手に持ったブーケごと、彼の大きな手に包まれる。
「やっぱりルミアは、俺の光だよ。……綺麗だ」
そして、片膝をついて私の手にキスを落とした。
「俺はあの日、あの街で初めて会ったときから――」
一度言葉を切った彼の喉仏が上下するのが見えた。
キアンも緊張しているのかもしれない。
「あの日に見た、力強い女の子にずっと惚れていた。その後、何が起きても逃げないで戦っている、この手に寄り添いたいと思った」
私の胸が、キュッと締め付けられるような痛みに襲われる。
それは、私がキアン――お日様に出会った日の話だ。
キアンの琥珀の瞳が、蕩けるように甘くなった。
「一生、側にいさせて。ルミアが立ち上がるときは支えたい。ルミアが逃げたいときは一緒に逃げる。……ルミアが覚悟を決めて先に進んだら、絶対に追いつくから」
真剣な琥珀色の瞳が、私を射抜いて離さない。
「俺を選んで」
もう。気障なんだから。
こんなサプライズなんて計画して……毎回私に、今まで知らなかった感情を教えてくれる。
私は、キアンの額に自分の額を合わせて笑った。
上手く笑えているだろうか。
ちょっと目元から涙が滲んでいないかな。
「ふふふ!私は最初からキアンを選んでるよ……大好き!」
そのままキアンの首に抱きついた。
力強く受け止めてくれる腕が愛しい。
そして。
持っていた花に『癒しの力』を込める。
――ばっ!
そのブーケを、リナちゃんの頭上に投げてあげる。
リナちゃんは、それを笑顔で受け止めようと手を伸ばしている。
その瞬間。
彼女の頭の上で、様々な種類の花が舞った。
なぜかブーケにも入ってない花びらが空を覆う。
蕾だった花は、満開に。
萎れかけの花は瑞々しく、鮮やかに。
村中にある花が、色とりどりに咲いたのだった。
一瞬、キアンが息を呑む気配がした。
彼の目が潤んだように見える。
でも、ぐっと堪えるように、それでも我慢できないように私を強く抱き締めた。
そして彼は小さく笑う。
「……参った」
「えへへ。ちょっとやり過ぎちゃったね」
キアンは一度、私の唇に軽くキスを落とした。
――その後、観客に見えないようにくるりと背中を向けて、二度目のキスをしたのだった。
「キアン……みんなの前で恥ずかしいよ……」
照れて文句を言う私を抱き上げて、彼はその場から走って逃げ出した。
「せっかくだから、邪魔者がいない所へ行こうか」
「あはは!後でみんなに叱られちゃうよ」
背後では笑い声や、呆れた声が聞こえてくる。
それでも、みんなが祝福してくれているのがわかった。
その日、村には祝福の花が咲いた。
石畳の道にも、白い壁の家々にも、鮮やかな光が降り注いでいた。
幼い子どもは、突然舞い上がった花びらに手を伸ばし、いきなり花壇の蕾が咲いた女性は驚きの声を上げた。
理由なんて知らなくても、人々の顔に笑顔が浮かぶ。
そう。
ただ、綺麗な光景に誰もが見惚れた――。
それだけだったのだから。
この作品は、本当に勉強になりました。
時間の無駄なんじゃないだろうか。
ほかの作品を書いたほうがいいのでは?
何度もそう考えながら、完結まで持っていった作品です。
まだSSネタが残っているので、もう少し頑張ります。




