第13話 神様は存在するんです! ホントなんですから!
「あれ、驚かないんですか?」
「いや、今さらだし……」
「うん、だよね」
「ああ、いたんだって感じかな」
「そんな……」
ルーが神の存在をほのめかしたところで誰も驚いた様子を見せないことに対し少し不安になるが、ソルト、レイ、ブランカは「いると思っていたから」とほぼ無反応だ。
「で、その人がどうしたの?」
「その人って……仮にも私達の上位の存在なんですよ」
「いや、でも見たことも会ったこともない人の話をされても……なあ、レイ」
「うん。もちろん、ルーを疑っている訳じゃないのよ。でもねぇ~ソルトが言うように会ったことないし」
「それでも神様はいるんです!」
「うん、で?」
「で?」
ルーは神様とやらの存在になんらかの形で介在していることを仄めかすが、それでもソルト達の反応は相変わらず薄く半ば呆れた様子のルーはそれでも神様はいるんですと語気を強めて言ってみるがソルトからは「で?」と言われ思わず聞き返すルーに対しソルトがどう思っているのかを話す。
「だからね。その人がいるとして、どうなるの?」
「え? いえ、だって神様ですよ?」
「ルー、だからね。何度も言うけど会ったことがない人の話題を振られても困るんだ」
「……でも、ホントのことですし」
「あ、ちょ、ちょっと泣くなよ。頼むから泣かないでよ。ね、お願いだから」
ソルト達とてルーの言うことを疑っている訳ではないと何度も言うが、ソルト達の反応の薄さからルーも意固地になってしまい目尻に涙を浮かべながら、「それでも神様はいるんです! ホントなんですから!」と言えば、今にも泣き出しそうなルーに慌ててしまう。
「落ち着いた?」
「はい、すみませんでした」
「ううん、私達の態度も悪かったから謝らないで」
「ありがとうございます」
「それで、神様がいるとしてどうなの?」
「……まだ、疑っているんですか?」
「ち、違うから! だから、泣くなよ」
ルーが落ち着いたところで互いに悪かったと謝り、神様がいる前提で話を進めようとすればルーはまだ疑っているのかと泣きそうになり、ソルトが慌てる。
「神様はいます! ほら、皆さんも一緒に……さん、はい!」
「「「神様はいます!」」」
「ふふふ、分かってもらえたようで安心しました」
「「「……」」」
どこぞのブラック企業の様に数回言わされたことでルーの機嫌も上向きになりなんとか話が出来るようになる。
「では、気を取り直しまして……ん、コホン。あのですね……」
ルーは王国の召喚魔法を上位の存在である神様が介在したことで、別次元の地球にいたソルト達をピックアップし、こっちの世界に連れてきたと言う。
「ですから、召喚魔法とは異なる送還魔法を実行出来たとしても神様次第でどこに跳ばされるか分からない為、現状では返すのは不可能だと申しました」
「……」
「どうされましたか?」
「あのさ……現状ではって言ったよね?」
「はい、言いましたけど?」
「あ!」
ルーの説明では召喚魔法に対し神様が術者の頼みを聞き入れ、別次元の地球からソルト達を選別し連れてきたと言うが、ソルトはルーの『現状では』と言った言葉に引っ掛かりを覚える。
そして、ルーがそれを追認するとレイもソルトが何を言いたいかを感じ取り感嘆の声が漏れる。
「現状では無理ってことはさ、何かしらの手はあるってことなのか?」
「ええ、そうです」
「でも、さっき無理って言ったでしょ」
「え? 言いましたか?」
「言ったわよ」
「レイ、それはちょっと違うぞ」
「え?」
「ルーはほぼ不可能だと言ったんだ」
「あ……」
ルーに言葉の真意を確かめれば、ルーがそれをあっさりと認めたのでレイはさっきのはなんだったんだと噛みつくが、ソルトから言われて思い違いに気付く。
「現状で無理なら、どうすれば可能になるんだ?」
「……」
「ルー、言い難いことがあるのは分かるが、藁にも縋る思いなんだ。頼む、教えてくれ」
ルーにどうすればレイ達を日本へ返せるのかを聞けば、ルーは言い淀み口を噤んでしまったのでソルトが貧乏くじを引いてしまうことでもあるのかと思いながらもルーに対し後生だからと頼み込めば、それを見たレイが憤慨する。
「ソルト……そんなに私を追い返したいの?」
「いや、そうじゃなくて……ああ、もうややこしくなるから今はちょっと待て」
「レイさん、ちゃんと送り返しますから。後のことは心配しなくてもいいですよ」
「リリス、あんた……」
「なんなら、表に出ましょうか?」
「へぇ~言うようになったじゃない。いいわ「止めろ!」……ソルトォ~リリスが虐めるのぉ~」
「えぇ~それはちょっとズルいんじゃないですか? ねえ、ソルトさん」
ソルトにレイが絡み出すとリリスがそれに便乗し後顧の憂いは気にするなと言い一触即発の雰囲気になりソルトが止めろと間に入れば、レイがソルトの右腕を取りリリスも負けじとソルトの左腕を取ればソルトは呆れながらブランカに助けを求める。
「リリスもいいから……ハァ……ブランカ、悪いが頼む」
「いいけど、高いわよ」
「いいよ。それでいいから頼むよ」
「ふふふ、分かったわよ。はい、お嬢さん達はちょっと静かにしましょうか」
「「オバさんは黙ってて!」」
「お、オバさん……」
「「あ……」」
ブランカに対し言ってはならない単語を発してしまったとレイとリリスは「やっちまった」と思うが既に二人の頭はブランカに鷲掴みにされ「私のどこがオバさんなのか向こうでゆっくり聞かせてね」と二人の頭を掴んで持ち上げたまま、部屋から出て行く。
『相変わらずオバカですねぇ』とシーナがソルトの頭の中で呆れるが、大事なのはそれじゃないとルーの両手……正確にはシーナの身体を借りているルーの両手を握りながら「頼む、教えてくれ」と懇願する。
「……分かりました。お話しますが、この方法も確実性がある訳ではなくあくまでも単なる可能性の一つとして聞いて下さい」
「うん、分かった」
「では、その方法ですが……」
「うんうん」
「それはソルトさんが高位の存在になることです」
「そうかそうか、俺が高位の存在になればいいんだ。意外と簡単そうじゃないか。そうかそうか、高位の存在にねぇ~……え? どゆこと?」
「そのままの意味です」
「へ?」
ルーが提案してきた内容はソルトが高位の存在になればいいというものだったが、言われたソルト自身訳が分からずにキョトンとしてしまう。
「なるほどね、その手があったんだ」とサクラが得心がいったという風にパンと手を打つ。
「何がなるほどなんだ?」と影が薄かったシルヴァが問えば、サクラもルーと同じ様に「そのままの意味よ」と答えるが、その意味をこの場で分かっているのはルーとサクラだけだろう。
ソルトもその意味が分からないまま、ルーに対し「それって俺が神様になるってことなの?」と質問すれば「はい」とだけ答える。
「「「えぇ~!!!」」」




