異世界労働
ギルドを出てから大猪狩に出かける。
クエスト内容としては出てくる敵モンスターも雑魚で、報酬も安い。正直な所旨味の無い依頼であったが、金貨が1枚も無いので一応の財源確保として依頼を受けたのだった。
狩は直ぐに終わる。レベル差以外にも攻撃力特化の月光騎士なのでそれこそ一撃である。ギルドに討伐の戦利品を持って行き金貨を受け取った。途中から受付嬢ではなく、三次職の冒険者に対応されたのだ。恐らくギルドカードを2枚発行してしまったので、受付嬢の通常業務から逸脱してしまったのだと思う。
食べなくとも寝なくとも体力の低下は感じられず、アイテムにしか金貨を使う機会はないと考えられるが、例えば冒険者ギルドには緊急クエストとして『戦場』という物があり、大人数が同時に受注し敵を早い者勝ちでどれだけ倒すことが出来るのかを競うものがあった。
早い者勝ちと言う特性上、少しでも早く敵を倒す事が求められるのでステータスを上昇させる食事系のアイテムの服用が必要だった。稼いだ金貨はアイテムに全て使われる事になるだろう。
回復アイテムを探して帝国内を散策したが、低級の回復アイテムしか販売しておらず、私の常用している最上級回復アイテムの存在は無かった。そして、帝国内を散策して感じた事がある。
「めっちゃ避けられてる」
フルフェイスの騎士である以上、黒髪に黒目の異国民的な見た目である私の姿は見えない筈なのだが。
それとも白騎士と言う見た目は歓迎されないものなのだろうか。
「・・・不気味な見た目だとか?」
言葉は通じない事を確認している以上、相手が私の印象を決めるのは外見からだろう。嫌われている人間に必要以上に近付く気はないが、露店に行った時に店員が固まってアイテムの売買が出来なかった。せめて買い物位はさせて欲しい。
「適当な土地にでも自分の家でも建てるか・・・。」
アデュート帝国民は目立つ見た目が嫌いなのだろう。私自身、学生の頃はカッコいいと思っていた姿ではあるが、おっさんになってからだとコスプレの様で如何にも馴染まない。歩く度に、足跡の代わりに白く発光するのは流石に恥ずかしいし、スキルを使うたびに月をモチーフにした紋章が浮かぶのは中二病と言われても仕方ない事だろう。
大人になってもヒーローに憧れ続けるのは難しいのだった。
ゲームの記憶を思い出す様に思案する。大陸を回って世界中のクエストを熟して来た。この状況が続くのであれば・・・人が居らず緑豊かで住みやすい場所にでも行こうか。
今日宿泊する宿屋を探して中に入ったが他の店の店員と同じように固まって動かない。NPCだから朝昼晩とその場に立ち続けている訳では無いとは解っている。私が近づくまでは普通に活動していたのだから理由は恐らく、奇抜な恰好をした人間を見て固まっているのだと考えられる。
とあるテレビ番組で全身にタトゥーを入れた人間の特集をして居るのを見たことが有る。私は其れを見て、人間の感性とはこうも違う物なのかと驚いたのだった。
食べる必要さえ無い状況では幾ら金貨を集めても意味はない。つまり、クエストをする必要も無い。武器も防具もスキルもこれ以上が無いので、目標がないのが現状だった。
折角、異世界に来たのに余りにも悲しい。
遠目で待ちゆく人間を観察する。
すると1人。目に付いた人類種が居た。
「成程、ああいった服装でも目立たないのか」
頭にシルクハット、顔にはマスク。高身長を覆い隠すのは黒いマント。
私は一考を案じる。あれに似た格好をすれば多少なりともこの町の住人とのコミュニケーションが取れるかもしれない。
私は装備欄の装備を黒金糸装備に変更する事にしたのだった。
これで、変に固まられる事も無いだろう。




